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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第四章
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決闘の結末

「も、もう決着付いたでしょ? これ以上やったって、無駄に怪我するだけだって」


 圭介が。


「……」


 悟が静かに腕を下ろし、これ以上の攻撃の意思がないことを示してくる。

 悟のことだから「選手交替ですか?」とかなんとか言ってかまわず私に攻撃してくるかと思ってたけど、さすがに被害妄想が激しすぎたようだ。こんな大勢が見ている前で、本性は見せてこないだろう。


「ね、もういいじゃん。圭介も、悟が優勝でいいでしょ?」


 後ろを振り向き、遠回しに降参するよう圭介を促す。

 理由はわからないが本調子ではないようだし、これ以上続けたところで容赦のない悟のサンドバックになるだけだ。


 正直「まだまだ!」と言って再び立ち上がるのかと心配していたのだが、圭介は私の背をどこか懐かしむように見詰めるだけで、立ち上がる様子はない。


「……優里ちゃん、覚えているか」


 なかなか立ち上がらないと思ったら何か語り出した。

 私は何のことだかわからず「え?」と聞き返す。

 聞き返してから、もしかして私がさっき思い出したあの日のことかと思い至った。


「小学生の頃、俺の喧嘩に巻き込まれ、優里ちゃんが大怪我した時があっただろう」

「……う、うん、覚えてるよ?」


 私が勝手に乱入して入院したやつ。たったさっきまで忘れてたよ。


「あの時も優里ちゃんは、そうやって俺を庇って、自転車に突っ込まれて大怪我をした」

「自転車!?」


 それ私、別の事故に巻き込まれてない?

 その時に頭でも打ったのか、どうしてあの時体中に怪我をしていたのか詳しいことは思い出せない。

 自転車に突っ込まれるとかどういう状況だったのか気になるけれど、ここはひとまず圭介の話を聞くことにする。

 なんだかこの話は、圭介のストーカー行為に関係している気がするのだ。


「あの時俺は誓ったんだ。もう優里ちゃんに怪我なんてさせないと。一生俺が優里ちゃんを守る……そう決めたんだ」


 その結果があのストーカー行為とかだったら質が悪いんですけど……。


 だが圭介を見たところ、どうやらその時のことが相当トラウマになっているようだ。

 私に怪我をさせてしまったという罪悪感は、まだ小学生だった圭介の心に深い傷跡を残してしまったのだろう。

 同じく小学生だったはずの私の中ではすっかり無かったことになっていたけれど。


「別に、気にしなくてよかったのに。私だって忘れてたくらいの出来事だったし」


 あの頃はよく怪我をして帰っていたし、大怪我なんて大袈裟な気がする。


「小学生で全治三週間だぞ! 余程のバカでなければ忘れているはずがない!」

「誰がバカだって!?」


 確かに全治三週間は骨折レベルで大怪我だけど!

 嫌な思い出なんだから、圭介だって忘れてよかったのに。

 私だけ忘れててごめんね?


「俺のことを気遣って忘れていた振りなんてしなくていいんだ優里ちゃん! 俺はあの日のことを忘れたことはないし、これからもずっと忘れない! 今度こそ優里ちゃんは俺が守らないと――」


 圭介は何をそんなに必死になっているのだろうか。

 あの時、私を守れなかったことを、どれほど長い間後悔していたのだろう。私はすっかり忘れてたのに。


 思い返してみれば、圭介が私の傍から一歩も離れないようになったのは、私が退院した直後からだった。柔道を習い始めたのも、確かその頃で……。


 圭介なりの懺悔のつもりだったのだろうか。

 ここまで涙を浮かべながら真剣に言われると、あの事件を完全に記憶から消し去っていた私の方が申し訳なくなってくるんですけど。


「私は別に圭介のこと恨んでないし、あれが圭介のせいだったとは思ってないよ。だから謝られても困るし、守る守る言って周辺をうろつかれるのも迷惑。四六時中誰かの気配を感じるからストレスがヤバい」

「あの時のこと……許してくれるのか?」

「許すも何も、最初から私は圭介を責めてなんていなかったよ」

「優里ちゃんの後を着いて行くといつも邪険にされたから、てっきりあの時のことで怒っているのだと……」

「あの時のことでは怒ってないよ、あの時のことでは」


 問題はそこじゃないんだよ。

 今の自分を見詰めてみて。


「わかったらもうストーカーはやめてね」

「でも、もしまたあんなことがあったら!」


 何度も自転車に突っ込まれて堪るか。


「そしたら彼氏である悟に守って貰うから大丈夫。ねえ悟!」

「……あー……はい」


 やる気の全く感じられない悟の返事だったが、事の顛末を静かに見守っていた野次馬達からは拍手喝采!

「いいぞ悟、男前!」「お前は俺が守るってか?」「彼女のこと一生守ってやれよ!」「妬けるねえ」と好き勝手に盛り上がっている。


 よ、よかった、なんか丸く収まった。

 圭介も私から直接許しの言葉を貰えて、罪悪感からは解放されたように晴れ晴れとした表情をしている。


 よし、後は審判先輩に勝者は悟だと宣言して貰えば――

 と、私が審判先輩の元へ歩き出したその瞬間。


「――悪いが優里ちゃん、決着はまだ着いていないぜ」


 音もなく立ち上がった圭介。その手には木刀。目指す先は――かったるそうに私達の会話が終わるのを待っていた、隙だらけの悟。


「優里ちゃんの彼氏はこの俺だあああああ!」


 悟も悟だけどこいつも屑じゃねーか!


「うおおおおおお! 覚悟おおおお!」


 そんな不意打ちで勝って嬉しいの!? 幼馴染みとして恥ずかしいよ!


 雄叫びを上げながらあっという間に悟との距離を詰めた圭介が、木刀を振り上げる。

 そうだ、武器から手を離さないと敗北扱いにはならないルールだった!


 振り上げた木刀が悟に向かって振り下ろされる――と思ったが、悟は視線だけ動かして攻撃を見透かし、最低限の動きでその一撃を避ける。


 何その動き。悟って高校生活の裏で殺し屋でもやってんの?


「おおおおお――!」


 悟の動きを見た野次馬達から歓声が上がる。私も一瞬「おおっ」とか声を出してしまった。

 いや、この動きは素直にすごい。

 いつか殴り返してやろうと目論んでたけど、あの反射神経で避けられたらちょっと無理だ。


「あれを避けるなんて、あいついつの間にあんなに強く……」

「あの悟が……成長したな……」

「俺達の週一の決闘ごっこに付き合っていたお陰だな!」

「悟は俺達が育てた!」


 真面目に部活しろよ。


 剣道部の先輩達のテンションがなぜか高い。ノリノリで恥ずかしいこと言ってる。


 だが次の瞬間、彼らの表情から笑顔が消えた。


 悟の渾身の一撃。

 ビュンッ! という音が聞こえたと思ったら、悟の竹刀が圭介の急所にヒットしていた。

 ――そう、男の急所に。


「「「ひぃっ――!」」」


 先程まで楽しそうだった男子達が、真っ青になって一歩後退る。


 卒倒した圭介の手から木刀が離れたことにより、悟の勝ちが確定した。


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