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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第四章
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決闘

 剣道部員達と、叶裕也ファンクラブの女子達、そして孤高の一匹狼こと滝富圭介の実力をこの目で見ようと集まった野次馬達に囲まれて、剣道着姿の悟と圭介が向かい合う。

 道場を乗っ取られた和樹部長が、しょぼんとした顔で道場の隅っこに正座していた。ごめんね和樹部長……。


 ちなみに私は、朋子が作った「優勝賞品」と書かれたたすきを肩から下げている。

 思わず親友の意味を辞書で引きたくなった。


「えーこれより、名取悟と滝富圭介による彼女争奪戦を行います! 景品はこちら! 亘理優里さんです!」


 これ人権侵害で訴えたら勝てるよね?

 名も知らぬ剣道部の先輩が率先して審判役を買って出たけど、実にノリノリで進行役までやっている。

 そのマイク、中にラムネが入ってる駄菓子の容器だよね? 高校になんて幼稚な物を持ってきてるんだこの人は。


「ワクワクするね、優里ちゃん!」

「自分への待遇に私の心は終始モヤモヤしてるけど」

「見ていてくれ優里ちゃん! 俺はこのチビから優里ちゃんを解放させて見せる!」


 私が一番解放してほしいのはあなたからですけどね。


「いいかチビ。『待って』と言っても待たない、それがルールだ、わかったな?」

「わかりました。武器から手を離したら負けなんですよね」

「ああ。だが先に言っておくぞ、俺は絶対この手を離さない!」

「あ、はい」


 圭介は気合いも十分で、相棒の木刀を素振りしている。

 悟は竹刀を手に、やる気ゼロの様子で圭介の素振りをぼけっと見ていた。


 運動音痴なのは演技とはいえ、喧嘩最強運動神経抜群の圭介に悟が勝てるのだろうか。

 第一、あの様子では勝つ気があるのかさえ怪しい。

 これを期に私を圭介に差し出し邪魔者を排除する作戦かもしれないし。


 裕也君は心配いらないと言ってくれたけど、一年生である悟と二年生である圭介には相応の体格差がある。

 冷静に考えれば圧倒的に悟が不利だし、悟が負けたところで誰も不審には思わない。

 むしろ野次馬全員、悟が負けるだろうことは予想済みだろう。


 どうして悟が運動音痴だと勘違いしているはずの裕也君が、心配いらないとまで言えたのか。

 私の隣にいた裕也君は、私の不安そうな顔を見て、私を元気付けるように笑いかけてくれた。まるで心でも読んだみたいに。


「大丈夫だよ、亘理さん」

「でも……」

「ここだけの話なんだけど」


 そう言って、裕也君は私の耳元に自分の口を近付けて……あああああ裕也君の匂いがする! シャンプーかなボディーソープかなとにかく肺一杯に吸い込んで肺を満たして裕也君の匂いを血肉に――なんて変態みたいなことをしていた私だが、次の裕也君の一言で呼吸が止まった。


「――悟の運動音痴、演技なんだよ」

「……え」


 私が「どうしてそれを裕也君が知っているのか」という意味で驚いている中、裕也君は私が驚いている理由を誤解したまま続けた。


「下手だと先輩達に可愛がって貰えるから、普段は運動音痴の振りをしてるみたいなんだけど……本当はあいつ、ちゃんと運動できるから」


 裕也君がそう言った瞬間、審判先輩の掛け声と共に決闘が始まった。

 そして始まった瞬間、圭介が悟の鳩尾付近を木刀の先端で突く――それを悟はギリギリで躱した。

 あ、あっぶな! あんなの当たったら怪我じゃ済まないんじゃ……!?


「ふっ、今の一撃を避けるとは大した運だな。だが運だけで実力差は埋まらん!」

「滝富先輩あんまり喋ってると舌噛みますよ」

「余裕なのも今のうち、だッ!」


 すごい、あの圭介の攻撃を躱してる……小さい頃から一緒にいたのだ、圭介の運動神経のよさはよく知っているし、喧嘩で培った動体視力やら判断力のすさまじさを考えると、悟はよく渡り合えているように見える。


 だけど避けるのに精一杯で、反撃できていない。反撃の隙を与えられない。

 これは最初に集中力を切らした方か、体力が尽きた方が負ける……!


「へぇ、滝富先輩左利きなんですね」

「ふっ、格好いいだろう!」

「左利きの人って右利きの人より平均で九年寿命が短いそうですよ」

「なん、だと……」


 ――優里ちゃんは右利き……つまり俺の方が早死にしてしまう可能性が高い……つまり優里ちゃんに悲しい想いをさせてしまう……!

 なんていう圭介のアホ思考を予想してしまう自分が嫌いだ。


 作戦なのだろう、その後も悟は圭介を挑発するようなことを何度か口に出し、挑発に乗って来た圭介の攻撃を単調な物にさせ、自分が避けやすくしている。

 相手の攻撃パターンをコントロール、と言えばなんだか頭脳戦みたいでかっこいいのだが……。


 なにこの地味な戦い! いや、男の子はこういうのが好きなのかな……私は見ていて段々眠くなるけど、男子共の様子を見ると固唾を飲んで二人の戦いを見守っている。えー、これ面白い?


「なんか地味だね、優里ちゃん」

「ね」

「もっとビームとか出してくれるのかと思ってたのにね」

「私はそこまで高望みしてないけど……」


 朋子は何を期待していたのだろうか……。


 私が再び二人の戦いに視線をやった時、悟が圭介に何か囁いている様子が目に入った。

 また何か圭介を挑発でもしたのかと思ったが、悟から何かを聞いた圭介の動きが、目に見えて鈍くなる。


 滝富の奴どうしたんだとざわつく野次馬達。躊躇したような動きへ変わった圭介。変わらず無表情の悟。

 ……まさか悟の奴、私にしたように何か脅しを!? きったなッ! 勝ってはほしいけど……きったなッ!


 隙を突き、悟の竹刀が圭介の脇腹にヒットした。


「ぐ!」

「すげぇ、名取が滝富を押してる!」

「竹刀もろくに握れないくせに!」

「転ばない悟なんて初めて見たぜ!」

「がはっ!」


 悟の攻撃は止まることなく、クリーンヒットを続ける。

 それはもう容赦なく、無表情のまま、ただの単純作業のように……って、審判止めろよ!


「わ、亘理さん?」


 ボロボロになっていく圭介を見ていられなかった私は、審判が止めないのならと一歩前に出て悟に叫んだ。

 応援ではない、勿論悟を止める為である。


「ちょ、ちょっと悟! 待って!」

「待ってと言っても待たないルールです」

「そのルール私も守らなきゃダメ!?」


 このままじゃ圭介が!


「……あれ……」


 あれ、なんか、こんなことがずっと前にもあったような……。

 そうだ、あれは小学生の頃。多数相手に喧嘩をしてボコボコにされていた圭介を守ろうとして、その場に乱入し、気が付いたら病院のベッドの上だった――という出来事がある。


 すっかり忘れていたけれど、私の体はあの頃と同じく勝手に動いた。

 私は地面を蹴り、朋子の制止の声も聞かずに駆け出す。


「――待って!」


 悟と圭介の間に立つ。圭介を庇うように、両手を広げて。


 生まれる沈黙の中、悟の竹刀を受ける覚悟で目を瞑っていた私は、痛みがないのを確認してから恐る恐る目を開ける。


 少し驚いたような悟の表情と、止まっている腕を確認。ほっと一息。


 確かに圭介は空気読まないで私に恥ばかりかかせるくそ野郎だけど、でも、腐っても幼馴染みだ。昔はよく一緒に遊んだりしていたのだ。

 ボロボロに傷付く姿は見たくない。

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