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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第四章
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滝富圭介

「ゆ、裕也君なら事情話せばやってくれそうだし。悟とは違って優しいからなぁ……」

「……」


 悟の手に握られていたココアの缶がピキッと音を立て、直後、私の腹部に悟の拳がめり込んだ。思わずカエルが踏み潰された時のような声を出してしまう。


「なんで……殴った……」

「裕也先輩に手を出したら今の五倍の力で殴ります」

「貫通して死ぬよ……」


 この時代にそんな世紀末な死に方したくないよ……。


「死にたくなかったら下手なことはしないことですね。さあ昼休み終わりますよ、優里先輩の相談に乗っていたら、裕也先輩を見に行く時間がなくなりました」

「相談に乗って貰った覚えもないし解決して貰った覚えもないんだけど……」


 この調子ではあの誤解を誰かに解いて貰うのは無理そうだ。

 仕方ない、家族会議を開いて男好きだと最悪な宣言をするしかない……。


 私達は自動販売機から背を向けて、同じく教室に帰る途中の生徒達に混じって廊下を歩き始めた。

 丁度その時。


「――俺の優里ちゃんから離れろ」


 背後から聞き覚えのある声。小学生の頃から、毎日欠かさずこの耳に入ってきていた、男子の声。


 私はその声が誰のものか認識した瞬間、動けなくなってしまった。

 急に足が動かなくなり、氷付けにされてしまったようだ。


 その声は、私を長年苦しめてきた男――滝富圭介たきとみけいすけのものだった。

 左手に木刀を持ち、特徴的な三白眼でこちらを――正確には悟を睨み付けている。


「……圭……介……」


 他校の高校生達と喧嘩をしまくり、どのグループにも属さず「孤高の一匹狼」の異名を持つ高校二年生。「頭痛が痛い」的な異名を持つ彼こそ私の幼馴染み。

 そして――私のストーカーである。


 私がこの高校に必死こいて入学した最大の理由が、こいつから逃げるためだ。

 レベルの高い高校に入学すれば、さすがのこいつでも追っては来られないだろう、と。


 だがこいつは、私が血反吐を吐きながら死に物狂いで入学したこの高校に首席で入学。

 新入生代表の挨拶の際、全校生徒の前で名指し告白された事件は未だにトラウマ。


 あれやる人本当なんなの? 逃げ場塞いで強制的に恋人にして何が嬉しいの? 文化祭とかさ、告白された方は公開処刑だよ。周りも周りでヒューヒューやるから断れる雰囲気じゃないし。


 まあまだ入学式の段階で私を知る人間が少なかったので、その場ではバレなかったけれど。

 後々「新入生代表に告白されてた亘理優里ってお前じゃね?」「いや、知らない人だから多分同姓同名の子だと思うよ」という会話を十数回する羽目になった。


 廊下のど真ん中で木刀を持ち佇む男子高校生。

 目立たないはずもなく、教室に戻る途中だった生徒達が足を止めてこちらの様子を見てヒソヒソ話している。


「なあ、あいつ滝富じゃん。他の高校の奴等と喧嘩して停学くらってた奴」

「十日っつってたけど、もう十日経ったのか」


 そんな会話がちらほらと聞こえてくる。

 私も圭介が停学処分をくらったことは聞いていたけど、まさか十日がこんなに早いとは。


「優里ちゃん、俺が復活したからにはもう安心してくれ」


 全然安心できない。また私はこいつに見付かりそうになる毎に、指名手配犯のようにビクビクしながら隠れる学校生活を送らなければならないのか……。


 校内で圭介と出会ってしまえば「違うクラスだというのに、偶然……いや、運命だな優里ちゃん。俺に会いたかったのか? 俺は会いたかった」なんて電波みたいなことを言い出され周りから笑われるのだ。


 昔から私の後ろを引っ付いてくる奴だったけど、さすがにそれを許せたのは小学生の頃まで。

 中学生に上がってからも必要以上に優里ちゃん優里ちゃんと私を追い掛けてくる圭介には、少なからず疲労を感じていた。


 まさかこんな奴に育つとは思わなかったのだ。小学生の頃まではよく一緒に遊んでそこそこ仲もよかったはずなのに、人を変える時の流れとは残酷だ……。


 高校に入学してからも変わらず私を追い掛けてくる感じで、入学式の告白事件以来、圭介は私の彼氏面……というか、なんちゃってボディーガードをしている。無視してるけど。


「俺が優里ちゃんをこの害虫から守ってみせる!」

「いや、俺達付き合ってるんですよ、滝富先輩」

「っ――!」


 今まで危ない人を見る目で圭介を見ていた悟が、ようやっと口を開いた。

 よし、私を置いて行かなかったことは評価する。


 ていうか……え? 滝富先輩?


「悟、こいつのこと知ってるの?」

「滝富先輩、剣道部ですよ。幽霊部員ですけど、何かと問題を起こしているので、よく部活中に話題に上がるんです」


 圭介は制服も着崩しているし三白眼で目付きも悪いし口も悪い。

 授業態度はいいみたいだけど喧嘩早いので先生達からは不良と認識されている。

 実際他校の生徒と揉めて停学処分くらってるし……。


「――嘘だ!」

「嘘じゃありません」


 先程から悟は圭介の言葉をばっさばっさと切り捨てていく。

 圭介と悟の声の温度差が激しい……。


「だっておかしいだろ! もし恋人同士なら、男が女の腹を殴るなんて暴力行為ありえない!」

「はっ……!」


 じょ、常識的なこと言ってる! 悟の暴力行為を指摘した人自体初めて!


 周りのみんなも「え、殴ったの?」「女の子殴るなんてねー」「飼い主と犬……」「確かに恋人っぽくはないよね」と口々に好き勝手言い出しやがった。誰だ私のこと犬って言った奴!


「……それは、仲がいいほど喧嘩するあれです」


 周りの空気がよからぬ方向に向かっていることに、悟も珍しく焦りを見せていた。

 まさか暴力行為を見られていたとは思わなかったのだろう。

 今までちゃんと誰からも見られていないのを確認してから、私のこと殴ってたからね!

 まさかストーカーに見られてるとは思わなかったでしょうね! ざまあ!


 ……なんて、言ってる場合じゃない……!


「こいつに脅されて付き合っているだけなんだろ! そうだろ優里ちゃん!」


 す、すごい、ストーカーの妄想が正しい!


 でも、ここで私が「はい、脅されて無理矢理付き合っています」と言ったところでどうなる?

「やっぱりそうだったのか! 安心しろ優里ちゃん、俺が優里ちゃんを守ってやる! 優里ちゃんの彼氏に相応しいのはこの俺だ!」とか何とか言って、このストーカーと付き合うことになってしまうのでは? 圭介とはそういう奴だ。妄想が激しい子なのだ。


 悟と、圭介。選ぶとしたら……何この究極で最悪な選択!

 でも、もし選ばなきゃいけないとしたら……。



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