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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第三章
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サプライズ

 そこにいた裕也君と都子先輩と和樹部長の姿を見て、悟は予想外の出来事に、呆然とその場に突っ立っていた。


 それもそのはず、さっさと麗華様とクレープを食べに行ってしまったと思っていた裕也君が、ここにいたのだ。驚いて足が地に根を張ってしまうのも無理はない。でも他のお客さんの迷惑になるから早く座って。


「悟、誕生日おめでとう」


 裕也君が天使のような微笑みでメッセージプレートが乗ったホールケーキを悟に見えるように移動させた。


 そう、今日は悟の誕生日だ。あの時裕也君からメールを貰うまで知りもしなかったことだが。


 裕也君からの「サプライズに協力してほしい」という内容のメールを見て納得した私は、メールでの指示通り、適当に時間を稼いで悟をここに連れて来たというわけだ。


「なんだよ、俺が本気ですっぽかしたと思ってたのか?」


 朝から悟の機嫌がよかったのは、今日が特別な日だったから。誕生日なのかってくらい機嫌がいいと思っていたら、まさかの本当に誕生日だった。

 あんなにショックを受けていたのは、自分の誕生日を蔑ろにされたと感じたからだろう。


「水臭いなぁ悟、私にも言ってくれたら全力で祝ってあげたのに」


 全力で邪魔したのに。

 ぶっちゃけ麗華様がいなかったら、今頃悟は裕也君と二人きりで誕生日の夜を過ごしていたということで。悟が裕也君をそういう目で見ている以上、間違いが起こらないとも言い切れなかったわけで。


 結果的に麗華様の介入は私にとって吉と出たわけである。


 悟は促されるがまま裕也君の隣の席に座って、信じられないくらい無言でケーキを見詰めていた。

 まだ状況が把握できていないのか、それとも把握した上で驚きが勝り声も出ないのか。


 このサプライズに関与した身である以上、後者であれば財布の中身を犠牲にした甲斐があるというものだ。


 ……いや、冗談だよ、まさか奢るって言葉、本気にしてないよね……?


 サプライズを受けた悟は照れ隠しなのか、ニヤニヤしている私の足を器用に踏んでくる。い、痛い……。


「優里ちゃん、協力ありがとう。予定は狂っちゃったけど、優里ちゃんも一緒に来られたから、結果的にはよかったわね」

「いえいえ、なんかお邪魔しちゃってすみません」


 ケーキ食べに来ただけです。


「裕也君、麗華様はどうしたの?」

「ああ……本当にクレープ食べただけですぐに帰して貰ったよ。その間先輩達に頼んで、部室から悟のプレゼント持ってきて貰ったり亘理さんにメールして悟を連れてきて貰ったりしたけどね」


 あの麗華様が裕也君をすぐに解放したなんてびっくりだけど……なるほど、だから二人も一緒だし私も誘って貰えたのか。

 でもメアドを教えて貰った時に放課後について聞かれたから、裕也君は最初から私だけは一緒に誘うつもりだったらしい。


「私達は部室でプレゼントを渡す予定だったのだけれど、あんな雰囲気の中渡し辛くて……」

「ああ……」


 私だってあんなギスギスした雰囲気の中で「誕生日おめでとう! ヒュー!」なんて言い出せない。それで結局プレゼントを渡し損ねたから、こうして二人ともここに来ているわけだ。

 都子先輩達も苦労してるんだな……。


 だが悟と裕也君の「二人きり」を邪魔できた私は、勝者と言ってもいい。


「悟、俺から誕生日プレゼント」


 そう言って裕也君が悟に渡したのは、ラッピングされた小包だった。悟は竹刀の握り方を教えて貰っている時のようにほんのり頬を赤らめて、いつもの飄々とした余裕がなくなっている。


 男のくせになにキュンキュンしてんの?

 とか言いたくなったけど、裕也君の笑顔を見れば誰だってキュンキュンしちゃいますもんね。キュンキュン!


「……これって……」


 裕也君が悟に手渡した小包の中から出てきたのは、カメラだった。しかも普通のカメラではなく、撮ったその場で現像ができるというインスタントカメラである。


「前に俺が、使い道ないガラクタとか言ってたやつ……」


 裕也君のセンス。


「ああ、だから買ってきた。ちょっと高かったんだから大事に使えよ」


 私は裕也君とのメールのやり取りで裕也君のプレゼントがカメラだと知らされていたので、特に驚きはない。

 けど、高校生にしては高価な物だ、きっと真剣に考えたのだろう。


「悟君、これ僕達から」

「誕生日おめでとう、名取君」


 和樹部長や都子先輩も、次々と悟にプレゼントを渡していく。

 悟は裕也君以外に誕生日を祝って貰うこと自体慣れていないのか、大人しくプレゼントを受け取って「ありがとうございます」なんて頭を下げている。

 なんで私以外の先輩に対してだけは礼儀正しいのか……。


「……優里先輩は何かないんですか?」


 都子先輩と和樹先輩から、のほほんとした温かい笑みを向けられていた悟は、その視線から逃げるように私に話を振って来た。

 照れるな照れるな、悟だってこと忘れてこっちまで微笑ましくなるでしょうが。


「何かって?」

「プレゼントですよ。まあ教えてなかったので期待はしていませんが」


 時間が経って緊張が解れたのか、いつも通り口が回るようになったらしい悟。

 今まで通り静かにしてればいいのに。


「はいはいどうぞ、私からのプレゼントです」


 私がラッピングされたプレゼントを差し出すと、悟は驚いた様子で固まり、数秒後にようやくそれを受け取った。


 ふふ、「いつの間に」って顔だね。さっき雑貨屋でさささっと買ってきた。誕生日を教えた覚えもない人間からプレゼントを貰えば、そりゃ少しは驚くだろう。


 案の定悟は私に対して怪訝な目を向けてくる。


「いつの間に……」


 悟が熱帯魚見てる間に。


「悟、カメラいっぱい使ってくれよ」


 裕也君はそう言ってニコッと笑う。その笑顔を直視した悟は、恥ずかしいのか顔を逸らしてそっぽを向く。

 そしてその様子を至近距離で私に見られていることにも気が付いて、テーブルの角を挟んで座る私の足を器用に踏み付けてくる。だから痛い……。


「俺、撮りたいものとかないです」

「遊びに行った時の記念とか、いろいろあるだろ」

「一緒に遊びに行くような友達とかいないので」


 そうだろうとは思ってたけど本人の口から聞くと心が……。


「せっかくだから今撮りましょうか」

「あ、いいですね! 私撮りますよ!」


 私は都子先輩の意見に賛同し、率先して悟からカメラを受け取った。


「あら、優里ちゃんいいの?」

「はい、まずは剣道部員のみなさんから!」


 まあ誕生日は特別な日だし、今日だけは悟にとっていい思い出が残るようにしてあげようではないか。

 やだ私優しい!


 私はカメラが動くことを確認してから、ケーキを囲む四人を写真に収めた。

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