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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第三章
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麗華様vs悟

「ねぇ裕也ぁ、約束通りクレープ食べに行きましょう?」


 私や悟に対する声と同一人物とは思えないほどの可愛らしい猫撫で声。

 女慣れしていない男なら簡単に落とせるだろうが、我らが裕也君はそんなに安くない。


 裕也君は言葉を選びつつ、やんわりといった体でその申し出を断った。


「龍宮先輩、今日はもう遅いですし、また今度部活のみんなも誘って行きましょう」

「えー、部活始まる前に約束したじゃない、二人きりで行きましょうって」


 あれ約束やったん?


「でも今日はもう遅いですし、あっという間に暗くなっちゃいますよ?」

「かまわないわ、帰りは迎えの者を呼ぶから。ほら、早く」

「でも俺は……」


 これでは切りがない。

 完全に拒絶をすることはないがなんとか断りたい様子の裕也君と、引く気が皆無の麗華様の受け答えに、静かに聞いていた悟がとうとう動き出した。

 黒いオーラがゆらりと揺れた気がする。


 悟は麗華様の逆、裕也君の左腕を引っ張り、麗華様をきりっと睨み付けた。


「裕也先輩が嫌がってるじゃないですか、早くそのちゃらちゃらした手を離して下さい」

「は? なにあんた、いたの? あんたには関係ないわ、その手を離しなさい」

「龍宮先輩こそ、その色も形も悪魔みたいな爪をした邪悪な手を離して下さい」

「こ、これはネイルよ! 可愛いのよ!」

「髪型もなんですかそれ、ロールパン狙ってるんですか? クロワッサンですか? パンになりたいならパン屋に行って下さい」

「い、意味わかんないしっ!」


 麗華様! 麗華様頑張って! 泣かないで……!


「ふ、二人とも、痛い……」


 麗華様と悟、両方から腕を引っ張られて、裕也君は腕の痛みに耐えているようだった。


 あ、私これ知ってる! 相手のことを想って先に手を離した方が勝ちのやつだ!


 裕也君は腕の疲れよりも内心のストレスが溜まっていそうだ。裕也君、普段何してストレス発散してるんだろ……。


 私はどちらに付くこともできず、裕也君を助けることもできず、一緒に裕也君を取り合うわけでもなく、ただ都子先輩と完全な傍観者へなっていた。


 ごめん裕也君。私には、火傷すると分かっている火の中に飛び込む勇気はないよ……。


 ここでどちらかを止めても裕也君が解放されるとは思えないし、どちらに付いても酷い目に遭いそうだ。私が。


「裕也先輩はこれから俺と約束があるんです。そうですよね、裕也先輩」


 悟が同意を求めるように裕也君を見上げて笑う。勝利を確信している目だ……。


「ああ、そうなんですよ龍宮先輩、悟との約束は前からしていまして……」

「だからぁ、そんな奴関係ないでしょ? 私が、今、裕也とクレープを食べたいって言ってるのよ」

「えっと……」


『特殊スキル:我儘』を発動した麗華様を説得できる男は、果たしてこの世にいるだろうか。


 案の定裕也君も困り果て、どうすれば麗華様を説得できるのか、難しい顔で思案している。

 その間にも、ギスギスした二人は言葉による冷戦を続けていた。


「あなたの我が儘に付き合う義務なんて裕也先輩にはありません、我が儘もほどほどにしたらどうですか脳内お花畑が。幼稚園児は幼稚園に帰ってください」

「……」


 麗華様が完全にキレてる。

 眉をひそめて、ゆっくりと裕也君の腕から手を離した。


 諦めたわけではないことぐらい、麗華様の顔を見ればわかる。


「あんたこそ、中学一年生の頃に戻ったら? バケツの水被ってるのがお似合いよ」

「……」


 ピクッと眉根を寄せた悟の手に、力が入る。


 中学一年生の頃とは、どういう意味だろうか。

 なんだか触れてはいけないような気がするけど。


 裕也君は睨み合う二人を、すかさず止めに入った。

 覚悟を決めた目だ、かっこいい……。


「わかりました、今日だけですよ」

「っ……!?」


 裕也君がそう切り出して、悟は驚いたような絶望したような、複雑な表情を浮かべる。


 約束を破られたのが相当堪えたらしく、傷付いた様子の悟を見た私は、悟と裕也君とのデート(仮)を阻止できて嬉しいはずなのに、なぜだかチクリと胸が痛んだ。


 麗華様は裕也君の答えに大変満足したらしく、再び裕也君の腕に抱き付いて、はしゃぎながら剣道場を出て行こうとする。

 それを止めようとする者は、誰もいなかった。悟でさえ。


「ごめん悟、また今度な」

「……」


 悟は大好きな裕也君の言葉にさえ応える気力を失ったようで、その場に立ち尽くしたまま呆然としている。

 悟は毎日のように裕也君と登下校してるんだから、少しくらい我慢したらいいのに。


 ……と思ったけれど、なんだか立ち尽くす姿が可哀想だと思った私は、悟を慰めてやることにした。


「ドンマイ、悟」


 口が悪いから罰が当たったんだよ。

 ……とか言いたいけど我慢我慢。


「……」

「また明日にでも行けばいいじゃん、私邪魔しないから……」


 本当はさっき裕也君とデートと聞いた瞬間は全力で邪魔してやろうと思ったけど。

 悟のショックの大きさを見ると、励ましてあげたくなってしまう。


 悟は無言のまま歩き出す。

 帰るという意味だろうか、私は都子先輩が心配そうに悟を見送る中、すっかり静まり返った剣道場を後にした。


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