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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第三章
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約束

「悟、あんまり龍宮先輩をいじめるなよ」

「いじめてません。俺の彼女にちょっかいを出していたので、お喋りしたいのかな? と思いまして」

「龍宮先輩、この子は俺のクラスメイトで、悟の彼女なんです。部活の邪魔にはなりませんから」

「……ふん、平凡同士お似合いね」


 麗華様は鼻を鳴らして私と悟を一瞥した後、裕也君の腕を引っ張って遠くに行ってしまった。

 確かに麗華様に比べたら見た目は平凡かもしれないけど、麗華様だって人に見せない部分は庶民的じゃないですか!


「ねえ裕也ぁ、今日部活帰りクレープ食べに行きましょう? 二人きりで……」

「えっと……」


 麗華様が行ってくれたのは嬉しいけど、代わりに裕也君が犠牲となり連行されてしまった。

 相手は三年の先輩だし、裕也君もそう簡単に拒絶できないのだろう。


 本当なら私もここで「何あの人、裕也君を独り占めして! ずるい!」と怒るところなのだろうが、隣から漂うどす黒いオーラに当てられてそれどころではなかった。


 悟である。


 裕也君の腕にべったりとくっついて猫撫で声を出す麗華様を見送る悟は、氷のような冷たい目を殺気で黒く染めていた。

 一人や二人は既に殺していそうな目だ、見ただけで警察を呼びそうになる。世間では女の嫉妬が怖いと言われているけれど、ここまでくると男の嫉妬も相当なものだ。


「さ、悟、顔怖いんだけど……」

「俺はもともとこんな顔ですよ」

「そんな顔の奴、話し掛けられた時点で通報するよ」


 何かしたわけじゃないのにじろりと睨まれて、思わず足が竦む。

 私も裕也君と付き合い始めたりしたら、悟からこんな目で見られるのだろうか。怖いなあ。


「ごめんなさいね、優里ちゃん。麗華ちゃん、本当はいい子なのよ。ちょっとわがままなだけで」

「都子先輩、麗華様とは友達なんですか?」

「ええ。幼馴染みでね、親友と言ってもいいと思うわ」

「その割には都子先輩にも冷たかったですね……」

「素直じゃないのよ」


 あれが素だとは思いますけどね。


「あれでも丸くなった方なのよ。私と叶君が親戚同士だって話はしたでしょう? 昔からよく一緒にいたから、私の親友の麗華ちゃんも、叶君とよく一緒にいたの」


 それってつまり、あの二人も幼馴染みということになるけど……。

 え、やだ、なに幼馴染みって。幼馴染みって響きだけで負けそう。


 話を聞く限り、都子先輩と裕也君と麗華様と悟は、同じ中学校出身だということだ。

 あの二人の間に挟まれて生活してきた裕也君の強靭なメンタルには、心底惚れ惚れする。むしろ尊敬するレベル。


「でも麗華ちゃんたら恥ずかしがりやでね……叶君のこと好きなはずなのに、いつもツンツンして叶君を遠ざけて……。嫌われてると思った裕也君が距離を取り始めた頃に、ようやくああなったのよ」


 ああなってよかったんでしょうか。

 周りの目も気にせず裕也君にべったり。わがまま。見方を変えれば愛らしいが、みんなのアイドルである裕也君を独り占めするのはマナー違反ですよね。

 全く以て私が言えたことじゃないけど!



     ※  ※  ※



 結局その日の部活は、終始麗華様に睨まれて終了した。

 昨日は悟の危ういドジっ子アピールに騙されたし、今日は麗華様に睨まれて気が気ではなかったし。

 折角裕也君の部活が見れるのに、一切裕也君に集中できない。

 私ここに来ている意味ある?


 悟も思い出したようにちょくちょくと下手な演技はするものの、裕也君と居残り練習をすることなく早々に部活を切り上げている。


 先程の麗華様に対する苛立ちはどこかへ行ったらしく、これから裕也君と一緒に帰るのが楽しみなのか、朝と同じように上機嫌で、足取りも軽やかに帰り支度を済ませて来た。


「悟、なんでそんな上機嫌なの……?」


 朝だけなら私の勘違いをバカにするのが楽しみだったのだと納得できるけど、さすがにこんな放課後になってまで昨日のことを引きずってくるとは思えない。

 思えないというより、思いたくない。そうであって欲しい。


 私が聞くと、悟は周りを見回して誰にも聞かれていないことを確認しつつ、「優里先輩にだけには教えますけど」と前置きをして私の耳元で言った。


「――今日はこれから、裕也先輩とデートの約束なんです」

「はあ!? デートぉ!?」

「声でかいです、しばき倒しますよ!」

「ぐっ……!」


 見た目より重い一撃を腹に食らった。

 確かに大声を出した私も悪いけど、攻撃されるとは思っていなかった。

 こいつどうでもいい人間相手だとこんな狂暴なのか。


 それにしても裕也君とデートなんて、冷静に考えたらこいつ何言ってんだって話だ。

 付き合ってもいないくせにデートとか言うなよ、男同士でどっか行くなら普通に「遊びに行く」でいいじゃん何デートとか願望交ぜちゃってるのこの子。


 朝から機嫌がよかったのは、私をからかう材料を見付けたせいだけではなかったらしい。


 約束、ということは、以前から遊びに行く予定を入れていたのだろう。

 裕也君と遊びに行く約束をしていたら、そりゃ朝からテンションも上がりますわ。女の子の腹に重い一撃入れたくなりますわ。


「あら二人とも、これから放課後デートかしら」


 私の大袈裟な声を聞いた都子先輩が、壮大な勘違いをして私達の会話に耳を傾けてくる。

 こうして悲劇は生まれるんだなぁ。


「ち、違います! 今のは……!」

「ふふ、真っ赤になっちゃって可愛い」

「赤く見えるのは夕日のせいです!」


 あと腹を殴られた痛みのせいです!


「あれ、二人とも今からデートなの?」


 裕也君まで。勘違いが勘違いを呼び、私と悟がこれからデートをするような流れができてしまいつつある。


 だが悟はその流れを容赦なく切った。


「違いますよ、からかわないでください。ほら裕也先輩、早く行きましょう」

「いいのか?」

「いいんです」


 私はといえば、『このまま悟と裕也君の放課後デートを阻止できるなら、この身を犠牲に悟とデートってことでもいいんじゃね?』という、私にキスをした悟と同じ思考回路が脳内を過ぎっていたので、反応が遅れてしまった。


 一瞬の遅れは重大な問題に繋がる。

 行動を起こすなら今しかない!


 私が邪な計画を実行に移してやろうと考えていた時、当然と言えば当然のその人が、悟と裕也君の間に割って入って来た。


 麗華様だ。


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