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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第三章
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メアド

 裕也君もいて素晴らしい時間になるはずだったのに、悟のせいで拷問のような時間になってしまった登校タイム。


 私達のやり取りを見ていた裕也君は、内緒話をするように私に「二人ともラブラブだね」なんて囁いていたけれど、正直どこをどう見ればラブラブに見えたのか、人生最大の疑問。


 だがその時の私にとって、囁かれた内容はどうでもよかった。ただ、裕也君が私の耳元で囁いた……それだけで心臓は爆発するところだった。


 時間稼ぎの犠牲となった恋人生活が始まり、今日で三日目。

 悟のお陰で裕也君と一緒にいられる時間は増えたけど、学校では叶裕也ファンクラブの人達の目があるから下手に話し掛けられないし、悟がいなきゃ何もできないというのは正直癪に障る。


「優里ちゃん、昨日何やらかしたの?」

「おはようの前にそんな物騒な話題吹っ掛けて来ないでよ」


 朋子が朝の挨拶もそこそこに私へ問い掛けてきた。

 昨日? 何かあったっけ?


 私の脳が昨日の出来事を記憶ごと消し去ろうとしていた。


「叶君のファンクラブの子達憤慨してたよ。私達は剣道場に入れて貰えないのに、なんであの女子だけって」


 ああ、そう言えば昨日は私の剣道場デビューの日だったか。

 あの後最悪な出来事があったから、剣道の印象は薄いけど。


「ほら、私が付き合い始めた子が剣道部だからさ、その子を待ってたんだよ」

「ああ、一年の子。名取悟君、だっけ」

「うん、そう」

「昨日一年の教室まで偵察に行ったけど、無愛想な子だったね。前の席の子に話し掛けられてもずっと無視してたし」

「まあ、特に理由もなく笑う子ではないかな……」


 人が苦しんでいる姿を見てる時はとびきりいい笑顔を見せてくれるよ!

 ……とは言えず、「前の席の子可哀想だし、今度注意してみるね」なんて適当なことを言って誤魔化した。


 何しろ私は、裕也君のことが好きだということ以外で、名取悟のことをよく知らないのだ。

 突っ込んだことを聞かれて、本当に付き合っているのか疑問を持たれても困る。無理矢理付き合わされていると説明したところで「ならなんで逃げないの?」という話になるし。


 好きでもない奴にキスを奪われてしまった可哀想な女子だと思われたくない、というのもあったけど、一番の問題は悟だ。


 私が無理矢理付き合わされていると公言しても、裕也君はきっと悟の言葉を信じ悟の味方をするだろう。

 絶対に越えられないような信頼関係というか、そういう長年の友人関係に敵うほど、私は裕也君と親しくはないのだ。

 悟が裕也君に私のことをどう説明するのかわからないし、裕也君が悟の味方をするということは全校生徒が悟の味方になるということで、私一人に勝ち目はない。


 それくらい裕也君の影響力は大きく、私のような一般生徒では手に負えないのである。


 うわ、なにこれ。私は裕也君のことが好きなのに、裕也君に私の高校生活が握られていると思うと複雑……。


 まあ一番の問題は、あのラブレターを全校生徒に配られることなんだけど。


「今日も剣道場行くんでしょ?」


 朋子の言葉に、私は大人しく頷くのだった。



     ※  ※  ※



 放課後、私は裕也君と一緒に剣道場へ足を踏み入れた。

 悟はどうやら日直当番らしく、今日は部活自体少し遅れる予定らしい。


 なんであいつ、私には何も言わないんでしょうね。恋人のフリ強制するなら彼女扱いくらいしろよ。


「亘理さん、ひょっとして悟のメアド知らないの?」


 私が悟の日直当番のことを知らなかったと言うと、裕也君は少し驚いたような顔をした。

 彼女が彼氏のメアドを知らないというのは、確かに不自然な話だ。


 でも悟とメアドの交換なんて考えたこと自体ないし、私のメアドを悟に知られるのも嫌である。

 私が何かやらかすごとに馬鹿にされるメールが届くなんて、堪えられない屈辱だ。


 私が「そう言えば知らないなぁ」と呟くと、なんと裕也君は携帯電話を取り出して、「ああ見えてあいつ、恥ずかしがりやだからなぁ」なんて言いながら悟のメアドと携帯番号を教えてくれた。私は別に知らなくていいけど。


「ついでって言うのもなんだけど、俺とも交換しておこうか」


 私が手に持っていた携帯電話に、裕也君のメアドと携帯番号が登録される。

 え、なにこの奇跡。


「ふぐっ……」

「わ、亘理さん大丈夫……?」


 喜びのあまり携帯電話を握り潰すところだったけれど、舌を噛むことでなんとか堪える。血の味がした。


 この瞬間だけは、さすがの私も悟に感謝する。好きな人に対しては奥手でピュアピュアな私のことだから、悟がいなかったら、きっと卒業するまで裕也君の連絡先を知らないままだっただろう。


「あ、悟の奴電話は出ないから、連絡するならメールの方がいいよ」


 そんなことまで熟知しているなんて、今まで二人はどれほどのメールのやり取りをしてきたのか。

 聞くと、毎日のように悟からメールが送られてくるらしく、裕也君も律儀に全てのメールに返信しているらしい。悟が羨ましい限りだ。毎日とかストーカーっぽくてキモイけど。


「そうだ、試しにメールしてみてもいいかな」

「う、うん! 喜んで受け入れるよ!」


 裕也君が自分の携帯電話をピコピコと操作して、私の為にメールを打ち込んでくれている。

 裕也君の綺麗で長い指先が私の為の文を優しく紡ぎ出して……おっと危ないよだれが。


「よし」


 裕也君がそう呟いてしばらく、私の携帯電話が震えた。

 ついでに心臓も震えた。


 ゆ、裕也君からの初メール! ファーストメール! ひゃあああ!



   こんにちは、叶裕也です(๑˃̵ᴗ˂̵)و

   亘理さん、今日の放課後予定はありますか?

   メールで返事お願いします(๑•̀ㅂ•́)و✧



「……」


 ど、どういうこと? お誘い? お誘いだよね!?

 私今裕也君からデートに誘われてる! てか顔文字女子力高っ!


 私は興奮で震える手で返事を打った。



   すっっっごく暇です!

   暇すぎてどこか遊びに行こうかなぁなんて考えてました!



 さすがに部屋に連れてってくれてもいいよなんてことは書けなかった。が、これは裕也君とどこかに遊びに行けるチャンスでは!?


 私は高鳴る心臓を胸にワクワクしながらすぐ横にいる裕也君からのメールを心待ちにしていた。


 携帯が再び震える。私は目を瞑ったまま受信したメールを開き、心の準備をして深呼吸を一つしてから、恐る恐る目を開けた。私と裕也君の放課後デートが目の前に……!



   そっか、今日も部活頑張ろうね(✿´ ꒳ ` )



「……」


 聞いただけかよ!


 そこからさ、「なら放課後一緒に遊びに行かない?」とかいう話が広がるんじゃないの!? 裕也君天然なの? 私の想いに気付いていてわざとそういうこと言っちゃう系のドS系小悪魔なの? まあ後者はないと思いますが。


 そのまま剣道着に着替えに行った裕也君を苦笑いで見送って、私は昨日と同じく道場の隅っこに腰を下ろした。

 そして溜め息を吐きつつ部活が始まるのを待つ。もう期待はしません。

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