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きままに読み流し短編集

たなばたに歌うは

作者: 菊華 伴

 北海道の地域によっては、七夕の際『ろうそくもらい』という風習があるらしい。

 その話を聞いた僕は、知人を頼って北海道のとある町へやってきた。


「『ろうそくもらい』かぁ。私が子供の頃は行ったもんだよ」

 友達は懐かしそうに瞳を細めた。

「歌に関してはバリエーションもあったっけ。ただ不思議だったのはろうそくじゃなくてお菓子をもらったことだっけな。所によってはお小遣いをくれる家もあったけど」

「うーん、でもご近所さんによっては子供が苦手だからって居留守をつかったとこもあるみたいだよ」

 そう言ったのは友人の奥さんだった。

「私が子供の頃もやっていたけど、笹飾りかちょうちんのあるところだけって決まりがあったよ。そのどちらかが無い家には行かないの」

「しかし、なんでお菓子なんだろね。ろうそくじゃなくて」

 僕の問いに友人夫婦は「さぁ?」と首をかしげていた。すると、奥から友人のお母さんがからから笑いながらやってきた。

「私が子供の頃は、ろうそくも配っていたんですよぉ。手作りのカンテラにそれを灯して。本当にきれいだったわぁ」

「それは素敵ですねぇ」

 脳裏に浮かんだ素朴な作りのカンテラと、それを持って夕暮れの街を巡る子供たちの姿。私はいいなぁ、と思いながら過去の七夕に思いを寄せていると、

「今ではやっぱりおかしだけなのかしらね」

 と寂しげに呟くお母さんの声が聞こえた。


「ところで、この家ではお菓子を配るのかい?」

「うん。我が家の場合は黒砂糖だけどな」

 そう言って、友達は黒砂糖の入った小さな袋を見せた。

「なんで黒砂糖」

「嫁の実家は奄美大島で、黒砂糖をつくってるんだ」

「なるほど」

 僕は納得した。


 * * * * * *


 夕暮れになった。

 いよいよ子供たちが『ろうそくもらい』に来る頃だ。

「おっ、来た来た」

 友人が楽しげな声をあげる。この地域ではおかしがもらえる家は玄関を開け、目印に笹飾りを付けていた。目印をみつけた子供たちが、家にやってくる。そして『ろうそくもらいの歌』を歌い始めた。


 その内容を簡単に言えば「ろうそくを出さないと悪戯するぞ」となる。

 そして、ろうそくではなくお菓子をあげるとお礼なのか繁盛するように、と歌ってくる。


 子供たちの歌を微笑ましく聞き、友人夫妻が黒砂糖の小袋を渡していく。お礼を言って帰っていく背中を見送っていると、なんだかほのぼのとした気持ちになっていた。


 いよいよ夜になるだろうという頃。『ろうそくもらい』の歌がか細く聞こえた。ちょうど夫妻から「こどもがきたら黒砂糖をあげておいて」と頼まれたころで、僕1人だった。

「きみで最後かな?」

 僕が問いかけると、その子供は不思議そうにみていた。トンボ模様の浴衣を着た、5,6歳ぐらいだろう男の子は、わからないとでもいうように首を傾げたが、その手に和紙と竹で作ったカンテラっぽい物を下げていた。

 この辺りの子供たちはだれもカンテラを貰っていなかったが、誰かがあげたのか、そのカンテラっぽいモノには明かりが灯っている。

(あぁ、粋な事をする人もいるんだな)

 そんなことを思いながら、黒砂糖を渡すと男の子はありがとう、と頭を下げ、繁盛せぇ、と歌った。ぺこっ、と頭を下げて遠ざかる男の子。だけど、その時……、その子のお尻から、ふわふわとした尻尾が出ているのが見えた。

(キツネ……?)

 僕が首をかしげていると、友人が戻ってきた。そして、さっきのことを話すと、友人がわらうのだった。

「たまにあるんだよね。キツネの子供が人間に化けてやってくるんだよ」

「あるの?」

「うん。大昔、このあたりは化けキツネと人間が仲良く暮らしていてさ。でも、時代の流れと言うか、段々縁が……ね。でも、時々こうして『ろうそくもらい』にくるんだよ」

 友人はそう言って寂しげに言う。

「キツネの子、会いたかったな」

「また、来年来るかもしれないよ」

「だといいけどな」

 友人はそういうと飾りを外して玄関を閉めた。


(終)


読んでくださり、ありがとうございます。

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