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そろそろタイトル詐欺とか言われるんじゃないかとハラハラしております( ̄▽ ̄;)
水を紐のように使って地面から釣り上げたのはモグラだった。自分の居場所から無理やり引きずり出されたせいかとても不機嫌そうだ。
「おいジェシー、俺はペットは飼ってないと言ったんだ。モグラなんてどこにでもいるぞ?」
クラークの疑問に答えたのはモグラの一本釣りに言葉を遮られたジーンだった。
「いや、こいつ、精霊獣だ。」
普通の動物は、獣。
精霊獣とは、魔法が使え、とても稀少だ。上位のものだと言葉も話せ、そのほとんどが長寿。頭が良く、昔からとても神聖な生き物だと言われている。
そして、獣が堕ちたのが魔獣。魔獣は理性をなくし、人間を襲う。魔獣を狩って生計を立てているものもいる。
「せ、精霊獣!!?なんでそんな神聖なもんがこんな俺の畑に!?」
みんなの悩ましい雰囲気の中、
「あなたね!?私のりんごを枯らそうとしたのは!」
ぶち壊すのはもちろんジャネットだ。
それに反論するように声があがった。
「お主はあほか!植物が元気になるのに必要なのは水じゃ!だからわざわざこのワシが、この木の下の土が乾くことのないようにしてやったのじゃ!!それを枯れるだと!!?大体この木はお主のものではない!わしのじゃ!!!!」
モグラだ。喋るということはかなり上位の精霊獣らしい。だが、口が悪すぎる。それになにより、あの木は
「な!何言ってるの!!?あのりんごの木はあなたの物なんかじゃないわ!私のよ!」
「やめろ、お前ら。あの木は俺のだ。
で、モグラ。精霊獣だがなんだかしらんが、お前が土を乾かないように?」
クラークのものだ。クラークが2人を止めつつ、モグラに聞く。
「そうじゃ!あの木のりんごが落ちていたのをたまたま見つけてな、ちょいと食べたら堪らなく美味かったのじゃ!だからもっと実を付けるようにと、手伝ってやったのじゃ!!」
クラークはそれを聞いて、一つため息を零してから言った。
「俺のりんごを気に入ってくれたのも、その心意気も、ありがたい。だが、多過ぎる水は植物を駄目にする。この木はあのままだったら死んでいた。」
「!!?....そうか、それはすまんことをした。申し訳ない。」
モグラが立ち上がり、頭を下げた。
後ろ足が短い為、立つとお尻もついて座っているように見える。茶色のふさふさと柔らかそうな毛に覆われ、小さいけれどクリクリとしたつぶらな瞳。例えどれだけ口が悪かろうが、見た目は愛らしい。
「ま、まぁ、知らなかったなら仕方ねぇか。ほら、気にかけてくれた礼だ。食え。」
クラークが絆され、件のリンゴの木から一つもぎ取って渡す。
もらったリンゴを大切そうに抱えてもしゃもしゃ食べ始めた。
「クラークと言ったかの。感謝するぞ!お主のリンゴはとても美味い。」
本来、普通のモグラはミミズなどを食べるが精霊獣が糧とするのは魔力だ。食べ物を食べることも味も分かるため、好んで人間が食べるものを食べる精霊獣もいる。
「むぅうううう。なんでモグラにはリンゴあげるの!根腐れの原因を解決したのは私なのに!」
ガルルルル、と今にも噛み付かんばかりのジャネット。
「2人ともリンゴが好きだったからの行動でしょうが、精霊獣さんはこの木、ジェシーはこの畑全てを、死なすところだったんですよ?度合いとしてはジェシー、あなたの方が酷いですよ?」
カルロが冷静にツッコミをいれた。
「でも結果的に解決したわ!」
「はい、精霊獣さんも結果的に解決しましたよね。」
「はいはい、ジェシー、ありがとうな。」
カルロに言い負かされた泣きそうなジャネットも、クラークにお礼を言われ、リンゴを渡されればすぐに元気だ。
元々リンゴが食べれなくての抗議なのだから、何を言われようとリンゴを貰えれば満足だ。
もしゃもしゃ食べるモグラの隣で、ジャネットもリンゴをスカート持ち上げリンゴを磨いて口にする。
「ジェシー、女の子なんですから....。少しは周りの目を気にしなさい。」
カルロがその行動を見て呆れた様に口をだした。
「男でも女でも、腹はへるのよ?美味しいものを食べるのに、性別なんて関係ないわ。」
そういうことが言いたいんじゃなくて...、とカルロはため息をついた。
「その通りじゃ!美味いものにに種族の違いなぞないのじゃ!」
話がずれた上に大分壮大になった。
モグラとジャネットの目が合い、しばらくそのまま停止した。
「誤解してたわ。あなた、よく分かってるわね!」
「ワシもまだまだ未熟のようじゃな。お主とは仲良くなれそうじゃ。」
(ツッコマない。絶対にツッコマない。)
胃が痛み始めたカルロのよこで、ジーンは爆笑している。
クラークがジャネットの側まで来て頭を撫でる。
「良かったな、新しい友達だな。」
その言葉で、モグラとジャネットはもう一度目を合わせて、笑いあった。
「私、ジェシーよ。あなたは?」
「ワシに名前はない。好きなように呼べばよい。」
ジーンとカルロが、あ、と声を出す前に、
「モグラだから、モリリンって呼ぶわ!」
モグラことモリリンは、顔を引きつらせ、言葉をなくした。
ジーンがまた爆笑し、カルロが眉を寄せ苦笑いをする。
「じゃー、俺はモリーって呼ぶな。」
クラークが言ったところで、
「ワシの名前はモリーにする!」
と即決した。
モリーに、モリーが出てきた穴を魔法で埋めてもうともうお昼時だ。
「クラークさん、そろそろお暇します。リンゴ、こんなにたくさんありがとうございます。」
礼だ、とりんごをたくさんもらって、ジャネットはご満悦だ。
「クラークさん、ありがとう!また遊びに来るわ!」
「ああ、いつでも来いよ。」
クラークが答えたところで、ジャネットがモリーに目線を向ける。
「ねー、モリリン。クラークさんの畑にはりんごだけじゃなくて他にも美味しいものがいっぱいあるよ?
クラークさんがもし、いいって言うなら、モリリンが土の管理をしたら?
土を耕すのも、魔力を込めて栄養も作れるし、地中の虫を取り除くのも、地中の水の管理だってできるし。
その料金としてクラークさんに畑ものもを食べさせてもらったら?」
ジャネットはモリリン呼びをやめる気は無いようだ。
ぱぁぁっと目を光らせたモリーが声を出す前に、
「ホントか!そんなことできんのか!!モリー、俺の畑にいろよ!」
クラークが興奮したように声をあげた。
モリーは嬉しそうに、いる、と笑った。
クラークのところを出て、露天やお店を周り、帰ったのは夕方だった。
3人ともなんだかんだと楽しんだが、家の前に立つアリーナを見て正気づく、やべぇ。
鬼のような形相のアリーナに怒られた。
私には、
私のするとこに笑ってくれるお兄ちゃんみたいな人がいて、
私が危ないことをする時、注意してくれるお兄ちゃんみたいな人がいて、
私の帰りが遅くなると怒ってくれるお母さんみたいな人がいて、
私が会いに行くと、よく来たと笑って迎えてくれるお父さんみたいな人がいて、
私の好きなものを共感できる友達がいて、
私に居場所をくれた人たちがいる。
もう、これ以上に欲しいものなんてない。
私は今に満足だ。
「お嬢様?怒られてるのにニヤニヤして、どうしたですか?あ、お嬢様、口元に何か付いてますよ?」
3人ともギョッとして、
「ジャネット!ちゃんとふけと!」
「お嬢様!アレだけ言ったのに!」
「やばいっ!」
ジャネットが口元を手で隠す。
「その様子ですとほんとうに何か食べた様ですね。では、お夕食はいりませんね。お三方とも、お休みなさい。」
「「「え!!?」」」