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双子の妹、ジャスミンの魔法適正審査の結果が良くなかっらしい。
ジャスミンの魔法属性は闇。魔力量もかなり少なかったのだ。
火、水、風、雷、土の5属性とは別の光と闇属性は、魔法を使えるものならばほとんどの人が使える属性である。
だが、ジャスミンは闇属性の魔法しか使えない。
ジャスミンの母は、ジャスミンの結果よりかなり良かったジャネットをよくは思わなかったのだ。
あの後直ぐに私は、数人の執事、侍女、兵士を連れて歩いて20分程の場所にある別館に移された。
元々、両親に疎まれて暮らしていた。同じ家に住んでいるのに、挨拶もしなければ、一緒に食事をとることもない。両親や妹と顔をあわせるのはすれ違う時くらいだった。
使用人たちが優しくしてくれなければ、私は今生きていないかもしれない。
だから、大丈夫。
「ジャネットお嬢様.....。別館に連れてこれなかった使用人たちも歩いて20分くらいいつでも会えますわ。私たちがついております。」
ジャネット付きの侍女アリーナが、震える声を必死に抑え明るく声をかけてきた。ジャネットは、下に向いていた視線をアリーナに合わせ、噛み締めていた唇をゆっくりと開いた。
「だいじょーぶでしゅ。ここにうちゅされたからって....おとーさま、おかーさま、じゃすみんといっちょにすめなくても、ここには、ありーなたちかぞくがいましゅ。
だから、だいじよーぶなんでしゅ。」
瞳に今にも溢れそうな程に涙を浮かべつつも、決して零すまいと洋服の裾をぎゅっと握って振り絞るようにそう言った。
それを見て堪え切れず、その場にいた使用人たちの目から涙が溢れ出す。アリーナとて例外ではない。
たった3歳の甘えたい盛りの子に言わせる言葉ではなかった。
部屋の隅で、執事長のアデルは唇を噛み締めた。
こんな、こんなはずではなかった。
旦那様も奥様も、こんなことをする人ではなかった。とてもお優しい方たちであった。貴族として役目を果たしながらも、使用人たちを慮ってくださっていた。旦那様に至っては子供の頃から知っている。だから、マーキュリー家に仕えることを何より誇りに思っていた。
2年ほど前から変わってしまった。
ジャネットお嬢様に構うのを嫌がるジャスミンお嬢様に笑いながらも、お二人を平等に愛していらしたのに。
お嬢様方が立てるようになり、言葉を喋り始めてから、ジャネットお嬢様を蔑ろにした。
何度も、何度も旦那様と奥様に苦言を呈した。時には怒鳴られクビにすると言われたこともあったけど、口を止めたことはなかった。
もっと、もっと、私に力があれば...っ。
アデルの唇と握り締めていた手から血が溢れ、ポタポタと絨毯を汚した。
「あでる、けがしてる!なおさないと!」
ジャネットがアデルの元へと駆け寄りアデルの手を握りしめ、先程とは違う意味で瞳に涙を浮かべた。
光属性のアリーナがアデルの唇と手を治している間、ジャネットはずっと心配そうにオロオロとしていた。
今1番苦しく辛い思いをしているのはジャネットだ。普通であれば最も大きな愛を与えてくれる存在からそれをもらえなかったのだ。でも、そんな中でさえ、彼女は思いやりを忘れることはない。
アデルが、そして使用人たちが、もう一度、強く硬い決意した。