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地球侵略を目的とする彼女たちがポンコツ過ぎる件について

作者: 明智


 これは、とあるUFOにさらわれ(キャトられ)た少年が、三人の宇宙人(美少女)と一緒に地球を侵略するために会議を行う物語である。


――――


「さて、ただいまより作戦会議を始める。テーマは――」


 そう言ってポニーテイルの少女――パルトは一呼吸入れた。


「――宗教だ」


 そう宣言した後、彼女はバァン! とホワイトボートを手で叩いて見せた。勢いよく叩いた所為かホワイトボートは二、三回ほど回転し、停止する。果たしてその演出は必要だったのだろうか。

 というか、ホワイトボードなんだな。UFOの中なのに。


「その中でも比較的、先進国に多く見られる。ニートと呼ばれる宗教について知りたいと思う。ここまでで意見がある奴、手を挙げろ」

「……こいつ、マジか」


 俺は思わず呆然と呟いてしまっていた。さすが地球侵略を目的とするだけの事はある。まさか、こんな斬新な発想が出てくるとは。あまりの衝撃に鼻水が出ちまったじゃねぇか。


「うむ。どうやら、無いようだな」


 いや、めっちゃ言いたいことがあるけどね。

 しかし、それを指摘したところで、多分無駄なので放っておく事にした。あまりにも馬鹿馬鹿し過ぎるから……という気持ちもあるが、本音は少し面白そうだなと思ってしまったからだったりする。

 だってニート教だぜ。一体、何を崇めるんだよ。パジャマか? それとも電脳神? どちらにしろ碌な宗教じゃないのは確信できる。

 まあ、とりあえず続きを聞くとしよう。


「まず彼らは『働いたら負け』という教義に従って行動するらしい」

「ぶはっ」


 俺は留まる事を知らない彼女の自由な解釈に思わず吹き出してしまった。それを責めるような目でパルトが睨む。


「わ、わるい。続けてくれ」


 俺は必死に笑いを噛み殺し、続きを促した。ツボの浅い俺にとって、この会議は色々と危険な気がしてならなかった。具体的には,笑い殺される覚悟を決めた方が良いかもしれない。耐えろ俺の腹筋。


「その考えは病的で、昼夜問わず部屋から一歩も出ずに過ごす事も多々あるようだ。しかし、何のためかは些か不明なのだが、彼らはみな一様に『今の俺は本当の俺じゃないんだ』とか『俺はまだ本気じゃないだけなんだ』と同じ事を呟いているらしい。ここのところはどうなんだ? 地球人?」


 現地人の意見を取り入れたかったのだろう。ここぞとばかりにパルトが俺に意見を求めて来た。正直、ここで振られても困るのだが……ふむ。


「さあな。俺にあいつらの気持ちは分からねえよ。ただ間違ってはいないんじゃないか?」


 俺は間違いを指摘せずに、この場を切り抜ける事にした。


 いや、ほら、なんつうか、さっきも思ったように、このままの方が面白そうだから。


「そうか。では隊長と、珍しくリーカも参加しているようだし、意見を聞いてみるか――どう思う隊長?」

「そうですねぇ。ではまず一つ、彼らが信仰する神様は、なぜここまで堕落的な神様なのでしょうか? ここまで堕落的では、日常生活に支障が出るのでは?」


 なんとも、まあ、真面目に意見してくれました。俺はニートの実態を多少知っている分、笑いを堪えるのに必死になった。


「そこのところは、予備軍と呼ばれる人間たちがサポートするらしい」

「へぇ~」


 いやいや、予備軍って多分そういうのじゃないから。


「…………」


 な、なんだこの会議……。地球人を笑わすためにやっているのか? こんなんじゃ、地球侵略なんて、夢のまた夢だぞ。


「どうしたの、ハチ?」

「…………」

「ハチ?」

「え? あぁ! 俺の事か?」


 俺は慌ててリーカの方へ向く。するとリーカはこくりと頷き、 こちらに人差し指を向けてきた。


「そう。君」

「そうか。わるい。つうか、人を指差すな」

「でも、気付いてくれなかったから」


 リーカは淡々とした口調でそう応える。


「いや、それは本当にわるい。というより、よく俺のあだ名を知ってるな。まさかここで呼ばれるとは思っていなかったから、繰り返されるまで分からなかったぞ」

「名前を聞けば誰だって同じ事を思う」


 そうゆうものなのだろうか? 確かにエイト=8=ハチだが……。


「でも、あいつらは気付いていないみたいだぞ?」

「仕方が無い。あの子達は、頭が悪いから」

「あー」


 それを言われる納得するしかなかった。確かにニートを宗教だなんて言っている時点で頭が悪いのは間違いない。


「ん? もしかして、お前はニートの本当の意味に気付いてたりする?」

「お前じゃない。リーカ」

「そうか。じゃあ、リーカは気付いてたりするのか?」

「…………(こくり)」


 俺の問いかけにリーカは黙って首肯した。それを見た俺は、二人でどんどん話し合いを進めていくハクネとパルトが、可哀相に見えてきて仕方なかった。がんばれ、侵略者。


「つうか、気付いてるんだったら、言ってやれよ」


 半眼になってそう促すと、彼女は首を縦にではなく、今度は左右に振るった。おいおい。


「それは出来ない相談」

「どうして?」

「面白くなくなるから」

「あー」


 またもや納得してしまう俺を許してほしい。


「こらっ。そこの二人! 無駄話をしてないで、しっかり参加してくれ!」


 どうやら二人でこそこそと私語をしていたのがバレたらしい。平謝りするように姿勢を正す。


「あぁ、わるい」

「まったく。真面目な会議をなんだと心得てるのだ貴様等は」


 その真面目な会議とやらが本当の意味でいつ始まるのか楽しみで仕方ないと思った。だが同時に笑い死ぬ前に終わってくれる事を神に願ってしまう。


「ところで、話はどこまで行ったんだ?」

「今、ちょうど中盤に差し掛かったところなのです」

「そ、そうか。……で、どんな感じなんだ?」


 俺はどこまでもあらぬ方向へ突き進むこの会議が少しは落ち着きを取り戻している事を微かに祈りつつ、そう訊ねた。ぶっちゃけ、これ以上突き進むような事があれば本当に笑い死にかねない。


「あ、はい。今はちょうど、ニートは神ではなく、実は悪魔なんじゃないかという意見が飛び出してきたところです」


 HAHAHA、どうやら俺の祈りも虚しく、会議はあらぬ方向に向けてアクセルを踏み込んでいたらしい。しかし、アメコミ笑いで俺は耐えてみせた。くそ、まだ死ぬ気はねえぞ。頼むから耐えてくれ、俺の表情筋!


「へ、へえ……」

「はい。こんなに堕落した存在が神のはずが無い! という強い疑問が出てきてしまった結果です」

「そうか……。疑問か……」


 他に抱くべき疑問がある事になぜ気付かないのか、逆に気になった。


「で、だ。元地球人である貴様は、この事についてもっと詳しく知らんのか?」


 誰が元だ。現だっつうの! そんな俺の心の声もむなしいだけで、パルトにだけは言うつもりはなかった。だって、こいつ怖いし。


「う~ん? 俺はよく分かんねえけど、そもそも宗教なのかすら怪しいよな」

「「なんっ……だと(です)……!」」


 俺の発言がよっぽど衝撃的だったのか、パルトとハクネの二人が驚愕の表情で戦慄き出した。その反応があまりにも予想通り過ぎて、苦笑してしまう。


「ま、まさか、そこを突いてくるとはな。盲点だった」

「はい……! エイト君の意見はこれまでの中で、一番可能性の高い論点です!」


 テーマはどこに行ったのだろうか? いつの間にか、宗教ではなくニートがテーマのメインを張っていた。いや、割と最初からニートがこの会議のテーマにすり替わっていたような気もするが……気にするのはやめて置く事にした。


「いや、可能性どこか、ほとんど真実なんだが……」


 俺がそんな風に小声で呟くと、一人耳に入ったらしいリーカだけが黙って頷いていた。


「……(こくり)」

「そうだ! 宗教じゃないと仮定で考えれば、色々と納得が出来る!」

「そうですね! なんだか教義の『働いたら負け』ですら、怪しく感じてきました!」

「そりゃ、そうだろうよ」


 それ、教義じゃねえし。ある意味、名言ではあるけど。

 一体、何に対してここまで興奮しているか理解できない俺は、心の中でさえだんだんツッコミが面倒臭くなってきていた。


 てか、何でツッコミを入れてんの俺? 宇宙人の会議でツッコミを入れる男子高校生って、絵面的におどうなの? おかしくないか? しかもテーマにそった会議になってないしコレ。


「考えられる可能性はもっと別の………………そう、それはまるで――」

「今度は、どんな可能性が出てくるんだ」


 最早、呆れ半分というか何というか――とりあえず、リアクションが取りづらくなってきた俺は、呟くようにツッコミ続けようと決意した。いや、何でそんな決意を固めたんだ俺……。

 俺がそう思っているのも束の間、


「――集団催眠に近いのかもしれません!」

「想像力豊かですね、アンタら!」


 ありえないほど斬新な彼女――ハクネの発想に、俺が先程立てたばかりの決意はすぐに揺らいでしまった。決意して、まだ数行だぞ……。


「そうか……集団催眠でなら、さっきの『働いたら負け』という考えも頷ける。隊長! やはり君は可愛いだけでなく、賢いんだな!」


 そんな俺のツッコミはこの二人には何の意味も為していないらしく、二人はどこまでも進み続けた。

 うん、お馬鹿キャラが二人もいるインベーダーって、どうなの。


「ふっふ~ん。もっと褒めて下さい!」


なぜか嬉しそうに胸を張るハクネ。いや、全然褒められたもんじゃねえんだけど。むしろ、馬鹿の極みなんだけど。


「なんか二人で盛り上がってるところ悪いけど、一言だけ良いか?」

「む、なんだ? くだらぬ事だったら、」

「いや、大丈夫だって」


 くだらないどころか、きっとこいつらの為になると確信できた。


「そうか。じゃあ、さっさと言え」

「じゃあ言うけど――ニートって別に集団催眠じゃないからな」

「なんっ……」

「……だと!」


 見事な連係リアクションである。

 そもそも、この二人は何でこうもテンションが高いのだろうか。


「じゃあ、何だと言うのだ!?」


 なぜか物凄い剣幕で怒鳴られてしまった。それも物凄く近距離で怒鳴りやがったので、耳がキンキンして痛い。あと、つば飛んでるよ汚いな。


「いや、もっとシンプルに考えられないのかよ?」


 俺はそう訊ねる。


「シンプルに? シンプルにだと……」


 首を軽く斜めに傾げ、思考するパルト。


「う~む。このニートが何なのかをシンプルに考えるには、少しばかり謎が多すぎる………………この謎が解ければ…………ん? 謎?」


 尚もパルトの思考は終わらないようだ。さっきから、小声でぶつぶつと囁いている所為で、俺に何を発しているのかが一切分からない。


「ちょっと待てよ、謎といえば見逃しているものがあるじゃないか! 分かったぞ! ニート達の正体が!」


 どうやら、ようやく思考がまとまったらしい。


「そうか。で? なんだと思ったんだ?」


 俺はあまり期待していないような口調で、何気なく訊くと、


「ニートは地球人が誇る秘密結社の一つに違いない!」


 パルトからは、そんな答えが当たり前のように返ってきた。

ホント……。彼女達には驚かされてばかりだ。

 フリーメイソンかよ。


「どうして、そう思ったんだ?」


 一応、とくに意味も無いが、念のため訊ねてみた。


「それはニートというのが、滅多に人前に現れない、現代の闇に忍んだ存在だというのを、昔どこかで聞いた覚えがあるからだ」


 マジで意味がなかった!

 いや、ある意味では合っているけども! だけど、凄まじい解釈だなオイ!

 というか、どこでそんな事聞いたんだよ!?


「それなら、わたしも聞いた事があるです! どうして、そんな根本的な事を見逃していたのでしょうか?」

「うむ。恐らく、シンプルゆえの見落としだろう。あの星の一部地域に言わせるなら、それは『灯台下暗し』ということだ」


 『灯台下暗し』か。へぇ、ことわざなんてよく使えたな。馬鹿なのに。


「……もうそれで良いや。――で? そのニートをどうする気なんだよ?」

「うむ? もちろん滅ぼすに決まっているだろう」

「滅ぼすって……」


 最早、苦笑いしか浮かばず、馬鹿馬鹿しくなってきてしまった。

 俺と同感だったのか、リーカも小さく「……はぁ」と溜息を吐いていた。


「なるべく、穏便に頼む。例えば、ミサイルだとか物理的な攻撃とかは勘弁してくれよ……」

「え? どうしてですか?」

「何で、不思議そうな顔で訊くんだよっ!?」


 ニート以外も一気に殲滅する気か! いや、ニートだろうが、殲滅されたくないけど!


「ふぅ、わがまま奴だ。これだから地球人は」


 パルトはやれやれとあからさまに呆れていた。うん、なんだろう。女の子相手でも殺意は湧くもんなんだな。


「それは、まあ、置いておくとして――リーカ、何か良い案はないのか? 正直言って、君の知識なら、もう既に案は出ているじゃないのかと思ってな」


 そう言って、パルトはさっきからずっと所々で頷いたり首を横に振ったりするだけのリーカに意見を伺った。リーカはそれに静かな声で応じる。


「ニートとは、元々『何かに雇われているでも、職業訓練中でも、ましてや教育過程でもない』という言葉を別の言葉に直して略したもの。だから、決してあなた達が思う組織なんかじゃない」

「え? という事は、ただの無職って事ですか?」

「うん」


 その後、本当の意味を知った二人は顔を真っ赤にしながら俺を責め続けた。納得いかねえ……。


 読みづらいかもしれませんが、感想とかもらえたら嬉しいです。

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