第6話
最終話です。
理琥は傷ついたアポリスをどうにかするために残った魔力を使って時空再生の魔法を使用した。
時空再生、対象の時間を任意の時間の状態に戻す時魔法である。分かりやすく言うのであれば、今現在傷ついているアポリスに対して時空再生魔法を使って戦闘が始まる以前の状態へと戻せばアポリスは傷1つ存在しない元の状態へと戻るというわけである。
『ど、どういうことじゃ!?』
時空再生によって自らの次元ごと消えていた傷が治ったことに驚くアポリス。例え長い間いきて来たドラゴンであっても自らが瀕死の傷を得ていた状態から一気に戦闘前の良好な状態へと戻ったら誰もがビックリするであろう。
そしてアポリスを治癒させた理琥はさらに魔法を発動させる。発動させる魔法は無属性魔法の契約と言う魔法である。
契約。条件を設定してその条件を両者が同意することによって使用できる魔法である。この魔法を使われた2人はたとえ何があってもこの契約を守らなくてはいけない状態へとなる。例えを挙げるのであれば、とある市民のAが商人からBと言う物を買おうとする。しかしながら商人は運悪くBという品を切らしていた。そんな時に使うのが契約の魔法である。市民は代金を先に渡す。そして商人は見つけた際には確実にBを手に入れ尚且つ、そのBを市民Aの元に配達する。この条件で契約の魔法を使用した場合、AはBの代金を先渡しで商人に渡して後は家で商人が配達に来るのを待っていればいいだけで、商人がAにBを届けた時に契約の魔法の効力が終えてお互いを縛る枷がなくなるというわけである。
今回アポリスと理琥は以下の契約を交わした。
・理琥はアポリスを召喚獣として何度も召喚することが出来る。
・アポリスは理琥の召喚にその都度応じる。
上記の内容で契約を済ませた理琥はステータスを確認することにした。
名前:夜杜 理琥
年齢:16歳 男
属性:闇・無・時・次元・召喚
レベル:Ⅹ
HP:1265000
MP:1500000
(よし、しっかりとレベルⅩになったな。そして召喚魔法は契約の副産物か何かかな?)
とりあえず疑問が残る状態ではあったが理琥は迷宮を後にすることにした。
『理琥よ、少し待ってもらおう』
「ん?アポリスどうしたんだ?」
『お主にこれを渡そう』
そう言ってアポリスはどこから取り出したのか不明ではあるが真っ黒なローブを理琥に渡した。そして理琥は何気なくこのローブを鑑定して驚くことになる。
名前:エンシェントドラゴンローブ
効果:物理ダメージ超軽減・魔法ダメージ超軽減・HP自動回復大・MP自動回復大・自己修復(装備)
説明:エンシェントドラゴンの素材とその他最上級の品質の素材を謎の技術によって作成された至高の一品。
「なんだこれ!?俺の魔剣以上の性質じゃねぇか!?」
『ふはは、驚いたであろう?それは我のコレクションの中でも至高の一品だ』
「悪いな。大事に使わさせて貰うよ」
そう言って理琥はエンシェントドラゴンローブを身に纏った。その瞬間、戦闘で失ったであろうHPとMPが回復していくのがなんとなくわかった。
「こりゃ、スゲーな」
『喜んでもらえて何よりだ。そして今からお主を迷宮の入り口まで送る。しばしの別れじゃな』
「あぁ、後で呼び出すからその時は頼む」
『うむ、それではな』
アポリスのその言葉と共に理琥はまばゆい光に包まれる。そして気が付けば理琥の目の前にはこの迷宮に入って来た時に通った迷宮の入り口が存在した。
それから理琥はいつものように姿を消す魔法と気配を消す魔法を使用して自らの家まで戻り夢の世界へと旅立った。
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「ふぁー、良く寝た」
「おはようございます、理琥様」
「うん、おはようエミリア。今日って旅立つ日だよね?」
「はい、そうなります。本日の今から約1時間後に王城の門へと集合です」
「わかった、今までありがとう」
「いえ、気になさらないで下さい」
その会話と共に理琥はエミリアが用意した朝食を食べて集合場所へと向かった。
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集合場所へと着いた理琥の前には勇者が3人いた。光、凛、将の3人であった。
「今日から魔王退治の旅だな。なんとかなるかな?」
「私達なら何とかなるでしょう」
そんな楽観的な会話を将と凛は行っていた。そしてそれから楽観的な内容の雑談をしていると気が付けば6人全員が集まった。
「それではこれから魔王退治の旅に向かう」
そう高々と宣言したのはミスティア王女であった。どうも彼女もついてくる許可が下りたみたいだ。
「ちょっといいですか?」
どこか遠慮がちな声で理琥が言う。
「理琥様、どうなされましたか?」
「俺は魔王退治の旅には同行しない」
理琥はそう言い切った。そしてそれを見るミスティア王女とその他旅の同行の騎士団、そして勇者の残り5人。
「もし宜しければ理由を教えてもらえないでしょうか?」
「それに関してはミスティア王女の方がお詳しいのでは?色々とメイドさんから知ろうとしたみたいですしね?」
理琥がそう言った途端ミスティア王女は表情を一瞬ピクリとさせた。理琥以外の人は気付かなかったであろうが、理琥はその変化を見逃さなかった。
「理琥様、何をおっしゃられているのですか?」
「まー、そんな簡単にネタばらしなんてしないよね?ま、良いか。んじゃー強制的にネタばらしをさせるまでだね」
そう言って理琥はパチンと右手の指を鳴らした。その音と共に理琥が付けていたステータスの腕輪が粉々に砕けた。
「いやー、流石の俺でもこれは盲点だったわ。まさかステータスの腕輪にこっそりと隷属化の魔法が掛けてあったなんてね。まぁ俺のは壊す前から解除しているから問題ないけどね」
理琥のその言葉を聞いて驚く勇者5人。しかしながらその言葉と共に諦めたのか、ミスティア王女の顔が黒い笑みへと変わった。
「あはははははは、良く気付きましたね、褒めて差し上げますわ。でも理琥様、貴方この人数を相手に勝てるとでも思っておられますの?」
「逆にいつから俺が1人だと思ってたんだ?」
理琥はそう言ってミスティア王女や勇者たちと間を開けた。そして地面に手を当てて叫ぶ。
「来い、アポリス」
その言葉と共に理琥の足元に巨大な魔方陣が現れてそこから一匹の黒いドラゴンが姿を現す。そう、アポリスである。
『ふはは、久方ぶりの地上じゃな』
「アポリス、王城の方は任せる。俺はここをどうにかするとするよ」
『うむ。久々に暴れるとするぞ』
その言葉と共にアポリスは大きく羽を広げて空へと向かう。
「さてと皆さん、覚悟はいいですか?」
「ふ、ふざけないで下さい!せっかくの国を破滅させる気ですか?」
「ふざけてるのはどっちだよ、平和で素晴らしい世界をここまで滅茶苦茶にしやがって・・・」
「知ってしまわれたのですね?」
「あぁ、この世界の歴史はアポリスを通じて知ったよ。人間がこの大陸を我が物顔で侵略してること、そしてここからは俺の予想だけどこの大陸を征服したあかつきには他の種族を奴隷と同じように扱い人間だけが平和に暮らす。そうじゃないか?」
「えぇ、そうですわ。知ってしまわれたのなら生きて返せませんわね。これだけは行いたくなかったのですが仕方ありませんわ。隷属化起動」
ミスティア王女のその言葉と共に将、凛、雷介、光、香織のステータスの腕輪が黒く光る。そしてその光が収まる頃には自我は持つが、王女の命令を無視できない存在、俗にいう人形のような状態へとなった。
「勇者の皆様、そこの裏切り者をやっておしまいなさい」
ミスティア王女のその言葉と共に体が動き出す5人。その間にも色々と言っているが理琥にはどうでも良かった。
「う、う・・・うわあああああぁぁぁ」
奇声と共に持っているハルバートを理琥に振り下ろす将。それを見た理琥は亜空間の中から自らの武器、ディリティウスを取り出す。それを見ていたその場の全ての人が驚愕に満ちた表情をしているが、驚きは1度で済まなかった。将が振っているハルバートは王宮にある一級品である。しかしそんなハルバートを理琥のディリティウスは難なく切断して破壊する。それを見ていたミスティア王女はその場にいた誰よりも驚いていた。騎士団の報告、メイドからの報告において理琥は勇者6人の中で最下位の評価をしていた。その最下位の理琥が勇者の中で3番目の将の攻撃を難なく無効化させたのだ。勇者達、特に将は目の前の状況を理解するのが困難であるが、実際の所、理琥からすると勇者5人程度ぐらい何とでもなる。5人同時に襲われようが瞬時に相手全員を無効化する自信を理琥は持っていた。
「勇者の皆様、魔法で攻撃です」
ミスティア王女のその言葉と共に勇者達は魔法を放つ。普通の人であれば詠唱から魔法を行使するのであるが、勇者たちは魔法に技の名前を付ける事によって技の名前だけで魔法を行使することが出来るようになっていた。
「ウォーターバースト」
「サンダークラッシュ」
「ウィンドカリバー」
「ライトニングバースト」
香織、雷介、凛、光の順番で魔法を放つ。ウォーターバーストは手から圧縮した水の塊を飛ばす魔法で、サンダークラッシュは手から数多の雷を対象に向けて放つ魔法で、ウィンドカリバーは風の刃を複数飛ばす魔法で、ライトニングバーストは対象の周囲の光を収束させて大爆発を起こす魔法である。
ミスティア王女はこの時勝利を確信した。いくら理琥であろうとも勇者4人の魔法の攻撃に耐えられるはずはない、しかもその勇者のうち2人は魔法の成績が1位と2位である。これならいける、そう感じていたが、その期待は難なく裏切られることになった。
「ブラックホール」
理琥はアポリス戦で使ったブラックホールを使用する。それにより4人の勇者が放った魔法は理琥にダメージを与えることなく消滅する。その光景にはその場にいた全員の開いた口が塞がらなかった。
「おいおい、ミスティア王女はこの程度の戦力で魔王を殺しに行こうとしてたんですか?」
「質でダメなら量ですわ。皆の者、魔法を放ちなさい」
その言葉と共に周りにいた騎士団と魔術師達は一斉に魔法を放つ。その属性は火や水、風、雷、光等の様々な属性であった。一つ一つは勇者の魔法の足元にも及ばない威力ではあるが数が凄まじかった。しかしながらそんな状況であっても理琥は同じように魔法を無力化することにした。
「ブラックホール」
案の定勇者たちと同じように放たれた全ての魔法が消滅する。
「学習能力無いねー、そろそろ終わらせるけどいいのかな?」
「ふっ・・・理琥様、貴方は忘れています。私が死ぬと貴方達は故郷へと帰るすべを無くすのですよ?それでも良いんですか?」
ミスティア王女の言葉に懇願するような視線を理琥に向ける勇者の5人。彼らは魔王を倒した後自らの世界へと変える事を目標としている。そのため変える手段がなくなるというのはどうしても避けたい事であった。
「ん?この世界の名前がわかった時点で俺は自力で地球に戻ることは出来るぞ?無論、勇者の5人も地球に送り返すことが出来る。しかも一瞬でだ。お前らみたいにちまちまと召喚陣を書いて魔力を流して何ヵ月もかけて行う必要が無いからな」
黒い笑みを浮かべながらミスティア王女に絶望を与える理琥。理琥の持つ次元魔法によってこの世界の名前、特に今いる場所と行きたい場所さえ分かれば空間をつなぐことが出来るからである。
ちなみに理琥が自力で帰る事が、しかも一瞬で転移が可能と知るとミスティア王女はようやく理琥と自分たちの格の違いと言う物を実感した。
「さて、選択肢を与えよう。全ての種族に頭を下げて皆で平和な世界を築き上げるか、もしくは俺とアポリスの手によって人類の全てを破滅へと送り込むかどちらかを選んでもらおう?」
理琥はそう言いながらこっそりと契約魔法を発動させる。
「そんなの決まってますわ。私達人類が頭を下げて全ての種族に許しを請い平和な世界を築きますわ。だからこの場は見逃してくれませんか?」
「よし、契約成立だな」
理琥のその言葉と共にミスティア王女と理琥の体の周りが淡い光に包まれた。
「な、なにをされたのですか?」
「ん?契約の魔法を使ったんだよ。条件は俺がミスティア王女達の行いを見逃す代わりにミスティア王女達は全ての種族に頭を下げて許しを請い平和な世界を築き上げると言う絶対遵守の契約をね。まぁ契約内容を守りさえすれば特に害はないよ。逆に守らなかった場合は・・・どうなるかなー」
そう言いつつ理琥は黒い笑みを再び浮かべる。ちなみに理琥の中ではミスティア王女が契約違反を行った場合はアポリスの手によって人類の滅亡を考えていた。
ちなみに当の契約を受けた本人は口をパクパクさせて状況が呑み込めていないようだ。
「それとミスティア王女、追い打ちをかけるようで悪いんだが・・・今回の契約はミスティア王女にとってはとんでもなく不利な契約になりました。結果から言うとミスティア王女が尽力して平和な世界を築かないと問答無用で契約違反になりますからねー。それにミスティア王女は「私達人類」と言いました。つまりは人類の誰かがこの契約を違反した時点で、ミスティア王女の交わした契約が違反となります。精々頑張って下さいね?さてと・・・将さん、凛さん、雷介さん、光さん、香織さん、此方に来てくれませんか?」
そう言って理琥は勇者5人を手招きする。
「ディスペルマジック」
理琥は無属性魔法のディスペルマジックを発動させた。ディスペルマジックは簡単に言えば魔法の能力を無くす魔法である。これによって腕輪にかかっていた隷属の魔法の効果が消えた。
「やった、俺たち自由になったんだ!」
将のその言葉と共に凛、光、雷介は涙を流す。香織はと言うと口をポカーンと開けている。
「呆気ない幕引きになったがさっさと帰りますかね・・・何かやり残した事とかない?」
理琥がそう言うと5人は相談を初めて、終わったかと思うと皆で首を横に振った。
「んじゃ、帰りますかね。ディメンションゲート」
理琥がそう言うと円形状の次元の歪みが出来る。そして次元のゆがみの先にはビルと車が見えた。久しぶりの地球の光景に5人は何とも言えない顔になっていた。そして勇者の6人は騎士団に囲まれている中次元の歪みに入って行った。
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後日談を書こうと思う。勇者の6人は皆で連絡先を交換してそこそこ仲良くしていた。ちなみに将と凛は遠距離恋愛を、雷介と光は地元が同じゆえかくっつくことになった。香織と理琥はと言うと、勇者の時と同じような感じのやり取りではあったが、勇者の時ほど冷たい感じではなく、どちらかと言うと知人と話す程度な感じである。
そしてミスティア王女達であるが、アポリスが迷宮から出てきて暴れていたが、理琥が最後に契約の魔法の事について話すと納得したのか、アポリスは人族を監視する立ち位置に落ち着いた。ミスティア王女はと言うと、自らが交わした契約の事を大々的に発表して、契約違反を起こせばアポリスが人類を全滅させると告げると皆従順になって、四苦八苦しながらも約2年で大陸全土の平和が達成させられた。
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理琥が3度目の勇者召喚から帰還してから約1年が経った頃の英語の授業中、いつものように窓の外の景色を見て黄昏ていると、地面に魔方陣が現れた。
「おいおい、またかよ・・・」
その呟きと共に理琥は再び教室から姿を消した。理琥は今現在もなおどこかの世界で勇者として事を成しているのかもしれない。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
一応この6話を持ってこの話は完結となります。気分転換で書いた作品でしたが地味に完結まで時間がかかりました(笑)
片手間に書いた作品なので色々とおかしな部分がありますが、それでも楽しんで頂けると書いている側としては有難いです。
それでは短い作品ではありましたが最後まで読んで頂きありがとうございました!
2014年5月14日完結。