第3話
理琥達勇者が武具と魔法の訓練を初めて一週間が経過した。最初の頃魔法が使えなかった将、凛、雷介はある程度扱えるようになってきた。例を挙げるならばTCGにおいてルールを覚えてデュエルが出来るようになった感じだ。
※TCG=トレーディングカードゲームの略。遊戯〇を考えて頂ければ問題ないです。
ちなみにある程度使えた香織と光は応用編をある程度扱えるようになってきたところである。これも例を挙げるならばTCGにおいてコンボを考えて扱えるようになった感じである。
ちなみに理琥は相変わらず目立たず普通な感じにをモットーに修行を流している。
さて、そんな状態になった理琥達にミスティアは次なる修行を言いつけた。
「皆さんある程度の魔法が扱えるようになりましたね!流石勇者様方です!と言うわけで修行は次の最終段階に進みます!明日からは迷宮に潜って貰い実戦形式の訓練を積んでもらおうと思います。今回の修業では50層までをクリアして貰おうと思っています」
迷宮。俗に言うダンジョンである。皆は知らないがレベルアップに必要不可欠な存在である。1~19層にはレベルⅠのモンスターが、20~29にはレベルⅡのモンスターが、30~39にはレベルⅢのモンスターがといった具合になっている。そして100層にいるレベルⅩのモンスターを倒すことによりレベルがⅩとなりさらに迷宮制覇者には特別な武具を手に入れる事が出来ると言われている。
家に帰る道中では迷宮に関する話で盛り上がっていた。
「明日が楽しみだなー」
「迷宮なんてファンタジーの世界みたい」
将の発言に凛が返す。
この1週間で多くのペアの親密度が格段に上がっていた。将と凛のペアは運命の出会いを果たしたカップルの如く熱々な関係へと発展していた。とにかく言えるのは2人の仲は非常に良いという事だ。
そして雷介と光のペアは元々同じ高校だったためか、最初からある程度仲が良く今では親友と言う言葉がぴったり当てはまるほどの仲の良さであった。
そんな中、香織と理琥のペアは相変わらずであった。1週間経った今でもペアの交流会の際にはお互い質問が1つあるかないか程度の関係で傍から見れば他人以上知人以下と言った印象を受ける関係であった。しかし香織は理琥の手抜きを観察し続けてきたわけであるが、それに関する事を何度探ろうとしても理琥が尻尾を見せる事は結局今までなかった。
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「勇者の皆様方、此方が迷宮となります」
そう言って案内されたのは城から歩いて3分程度の所にある大きな洞窟であった。辺りには騎士団の詰所、冒険者ギルド等の建物があり管理は万全なようだ。
「本日は1層にて肩慣らしを考えてもらおうかと思います。ちなみに1~9層には主にゴブリン、ミニゴブリン、ゴブリンメイジ等のゴブリン系のモンスターが生息しております。そして10層のボスの間にはゴブリンロードが控えております。ゴブリンロードに関してはゴブリンの親玉と考えて頂ければわかりやすいかと思います」
(なんと言うかラノベとかのファンタジーな世界だなー)
理琥の迷宮に抱いた感想がこれだ。しかしほとんどの勇者は理琥と同じような事を考えていた。剣、魔法、勇者、魔王ときたら今度は迷宮事ダンジョン。完全にファンタジー系の小説の世界である。
「それでは皆様、無理だと思ったらまず逃げてください。それでは御健闘を祈っています」
そう言われた理琥達勇者6人は迷宮へと入って行った。迷宮の入り口は洞窟のようになっていて入ってすぐに転移魔法陣の書かれた小部屋に繋がっている。この小部屋は、5が付く階層と1が付く階層に存在しておりたがいに繋がっている状態である。そして使った人の魔力の波長からその人が以前行っていた階層にある転移魔法陣の部屋まで移動することが出来るようになっている。しかしながらアリスティアではこの転移魔法陣に関しての仕組みは未だにほとんど解明されていない。そんな転移魔法陣であるが1つだけわかっていることがある。それはこの魔法陣を使用する際には莫大な魔力が必要な事である。過去にこの転移魔法陣を紙に移し書きして別の場所から使用しようと考えた魔術師がいて、いざ転移を実行しようとしたら起動も出来ずに気絶、つまりはMPが0になったのであった。その魔術師のMPは1000であったため、この魔法陣の起動には最低でも倍の2000以上の魔力が必要な事がわかっている。しかしながらこの世界における最高MPは理琥達勇者を除くとミスティア王女の2300。こんな危険な実験を王女様で行うわけにも行かず謎が謎なままである状態である。
少し話がそれたが将を先頭にして理琥達6人は迷宮へと入って行った。
迷宮の中は洞窟のようになっており道は迷路の如く入り組んだ階層もあればだだっ広い平坦な階層、起伏の激しい階層、海辺の様な階層、浅瀬になっている階層等様々な階層が存在している。また極稀に迷宮の中に洞窟が存在しており、その洞窟の中には部屋を守っている中ボスが存在することがある。そして中ボスを倒すと宝物が眠っている部屋に入ることが可能となっている。そしてこの部屋は1度攻略されると再び迷宮の同じ階層の別の場所に生成される。
「これが迷宮か~。洞窟みたいだな」
迷宮を見た感想を将が言う。
「そうね。でも1階層だからと言って気を抜けないわ。私たちは今回が初めての戦闘なんだから気を引き締めないと。いつものように陣形を組みましょう」
そう言ったのは凛であった。
「それには賛成だな。よし、いつものように陣形を組むぞ」
そう言って将たちは2・3・1に分かれて横に並んだ。
先頭の2人は将と雷介であった。彼らは所謂前衛である。将は訓練通りハルバートを構えている。最初の頃は初心者丸出しな感じであったが今では中堅騎士程度の実力を兼ね備えている。元々の世界でも運動神経は良かったようだ。そして雷介も訓練通りに両手剣を使っている。雷介自身も将と同程度で最初の頃は初心者丸出しであったが今では中堅騎士ほどまでは行かないけれど若手騎士には問題なく勝てる程度の実力を持っている。
そして真ん中の3人は女性3人の凛、香織、光である。凛は3人の中で左側にいて、訓練の頃から短剣を使ってはいる。しかし最近ではメインに魔法を使っていた。彼女の魔法のセンスは中々で、理琥を除く男性2人を相手に魔法だけの試合であれば圧倒出来る程の才能を持っている。しかし香織や光には未だに敵わない状態であった。そして真ん中が光であった。彼女は訓練の頃は槍を持っていたが今では杖を持っており完全に魔法特化型である。彼女の魔法は理琥を除く5人の中ではトップの腕前であり宮廷魔術師5人相手に何の苦も無く勝てるほどにまで成長していた。最後に右側に立っているのが香織であった。彼女は水属性の魔法しか使えないにもかかわらず光並みの魔法の腕前を持っていた。そしてさらに彼女の薙刀捌きはとても素晴らしく魔法と武具の双方を使う決闘、武具のみでの決闘であれば5人の中で最強である。
最後に後ろの一人は理琥であった。俗にいう殿であって、彼は主に後ろを警戒していた。彼は1週間の間、手を抜きまくっていた。しかしそれでも周りから目立つような事は全くなく香織を除く4人と王女様達王国側からも何の疑問も与えていない。いたって普通な存在と認識されている。しかし理琥が本気で戦うとなると理琥を除く勇者パーティー5人で辛うじて足止めが出来る程の実力を持っている。しかしそんな事を気付かれないようにしっかりとこの1週間隠し通してきた理琥であった。
そんな6人が陣形を組んで進んでいると目の前に緑色の小人が見えてきた。大きさは1m程度、手には錆びている短剣や棍棒を持ったのが3匹、これこそミニゴブリンである。彼らは悲惨ではあるが知能を有している点、そして武器を使うという点からやっかいな存在であり、普段は森の中や草原で見かける事がある最もオーソドックスな魔物である。そもそも魔物と動物には大きな違いがある。それは体内に魔力があるかないかである。魔力を持っている物が魔物、持っていないのが動物である。そのため、魔物には魔石と言う魔力の結晶の様なものが存在しており、魔石は様々な用途で使われる。多くの冒険者の主な収入源はこの魔石と魔物の素材である。
さてそんな魔物と遭遇した6人であるがミニゴブリンは知能を有している点や武器を使てくることから厄介な存在ではあるが、魔物の中で最弱と言っても過言ではない魔物である。ラノベやゲーム等で言い換えるならばチュートリアル的なモンスターである。そんなミニゴブリン達を相手に将と雷介は武器を構えて近づいて行った。それに気が付いたミニゴブリンは持っている錆びた短剣や棍棒でどうにかしようにもどうにかできるはずもなく呆気なくミニゴブリン達は命を失ってしまった。
「なんというか、日本ではなかったけどこういうのってあれだな」
「そうだね。なんか嫌な気分になるね」
ミニゴブリンを瞬殺した将と雷介が言う。理琥達勇者は元の世界は日本であった。それ故に殺害と言う行為に関してほぼ初体験と言っても過言ではない。つまり自らの手で殺すという行為をとったことに対して現在2人は何かしらの嫌悪感を抱いている状態である。
こんな状態で続けるわけにも行かず6人は渋々元々入って来た迷宮の出入り口から地上に戻る事となった。
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「なるほど。それに関しては予想外でしたわ。慣れてもらうしかないですが・・・どうしましょう」
将達勇者は元居た国の事、魔物を殺す際に感じる嫌悪感をミスティアに説明した。もちろん理琥からするともうすでに慣れた事である。
「とりあえずですが、本日はもう休んでも良いですか?」
「そ、そうですね。気付かず申し訳ないです。本日はゆっくりとお休みください」
ミスティア王女にそう言われた将達は各々の家へと向かった。
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時は将達が休みを貰った日の深夜、皆が夢の世界にいる中理琥は行動を開始した。まず闇魔法を使い自らのベッドに自分のドッペルゲンガーを作成した。それからさらに闇魔法を使い自らの気配、姿を消して家を抜けた理琥は昼間に行った迷宮へと足を運んだ。そして迷宮に入るや否や無属性魔法と闇魔法を合成して使った。
1回目の異世界で習得した無属性魔法は様々な用途が存在する便利な魔法であった。主な用途としては探索、身体強化、引力と斥力、爆発、が挙げられる。探索は自らを中心に領域を作りだして周囲の状況を調べることが出来る。身体強化は腕力、脚力等を一時的に魔力を流して強化することが出来、魔力を纏わせることによって破壊力を上げる事も可能である。引力と斥力は磁石を考えてもらえるとわかりやすい。対象を引き寄せたり弾き飛ばしたりすることが出来る能力である。爆発はそのまんまで対象を爆発させることが出来る能力である。
そして迷宮に入るや否や使った魔法は闇魔法により影を広げてその影の広がった範囲内の状況を無属性魔法の探索能力により知ることが出来る言わば迷宮の階層そのものを対象とした探索魔法である。この魔法のすごい所は影を広げるだけであるため魔力に非常に敏感な人物や魔物じゃないと感知できない事である。気が付いたら自らの位置がばれている、そんな恐ろしい魔法であった。そして理琥はこの魔法を使い下の階に降りる階段を探した。30秒もすれば迷宮の1階層全てを探索し終えるのでそれから下に降りる階段まで身体強化を用いて最短距離を最速で進む。こうして理琥は1階層を約1分程度で制覇した。道中でてくる魔物に関しては闇魔法で作り上げた槍で急所を一突きして一撃で仕留めていた。
そんな理琥も気が付けば10階層にいた。10階層はボスのゴブリンロードがいる階であった。ボス部屋に入ると今まで見て来たゴブリンに比べて一回り大きな緑の肌をした魔物がいた。ゴブリンロードはゴブリン達に比べてある程度の知能を有しており、尚且つある程度武器を使いこなすので厄介なモンスターである。しかしゴブリンと比べるとマシ程度の知能なので人族基準で考えるとゴブリンロードはアホな事には変わりはない。
『グギギギャ』
「・・・五月蠅い」
何かを言っているゴブリンロードであったが理琥の次元魔法による刃で真っ二つになり決着が付いた。
次元魔法。次元に干渉する魔法である。その次元を無くすことも出来れば固定する事も出来る魔法である。次元を無くすこととは言い換えるならば存在を無くすことである。逆に次元を固定する事は言い換えるならば存在をそこに留める事である。
わかりやすく例を挙げて説明をする。ある次元にリンゴが存在したとする。このリンゴはある次元に存在している状態、つまりは目に見えてそこにあることがわかる状態である。ここで理琥の次元魔法を用いてリンゴが存在していた次元その物を無くすと、リンゴが存在していた次元自体がなくなる、つまりはそこにリンゴと言う物は初めからなかったという事になる。逆に理琥の次元魔法を用いて次元を固定するといかなる物理的干渉があろうともそこにリンゴは何の変化もなく存在し続ける事になる。つまりリンゴを切ろうが潰そうが砕こうがどのような事をしてもリンゴはそこに何の変化もなくあり続ける事になる。
今回の戦闘においては理琥は次元魔法の刃を飛ばしてその刃で切れたものの次元を無くすと言った攻撃を用いた。そのため刃によって斬られたゴブリンロードは元からそこで真っ二つな状態であったことになる。つまりいかなる回復手段を用いようとも次元がそこに存在しないため真っ二つである事に変わりがなくなる、わかりやすく言うなら次元を無くされたことによってゴブリンロードは最初から真っ二つであったという状態になったと考えて頂ければわかりやすい。
「手応えも何もないな」
こうして理琥は10階層のボスを瞬殺して11階層へと足を進めた。
最後まで読んで頂きありがとうございます!