表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Another Story

作者: REZ☆

最後まで読んでくれると嬉しいにゃん。

人間って不公平だ。


だって、そうでしょう?

必ず優れている人と劣っている人に分かれてしまう。

整った顔の人と不細工な人。

勉強が出来る人と出来ない人。

他にも、沢山。

この場合、大抵損をするのは劣っている人だ。

でも劣っているといっても、あくまでその分野で劣っているだけのことだ。

誰だって、自分は人より優れていると自慢出来る分野はあるものだ。

劣っているだけの人間はいない―。


あれ、そう考えると人間ってそれほど不公平ではないんじゃないか?

否。


しかしそれでも私は人間は不公平だと思ってしまう。

いいほうにも悪いほうにも。

不公平とは優劣だけの問題ではない。

例えば。

私が今いる教室。

複数でかたまり、談笑している女子。

あちらこちらでふざけている男子達。一人で静かに本を読んでいる人や、何かを真剣に語り合っている人たちもいる。

平凡な、教室の風景である。

しかし、あの談笑している女子たち。

私は知っている。

あのグループはかつて5人のグループだった。

しかし、今の人数は3人。

減っている。

原因は簡単だ。

内輪揉め。

よくある話。

1人の提案で4人が1人をハブる。

これで一人減る。

続いて、それに堪えられなくなった一人が抜ける。

もとは2人と3人のグループが合併したものだったから、もとに戻っただけだ。

女子の友好関係なんてそんなもの。

ハブるのなんて誰でもよかったんだ。

ハブられた人、運が悪かったね。

ハブる理由なんてたいしてないのに。

でもハブられたせいでその人の人生は大きく変わった。

友達に囲まれてた賑やかで華やかな世界から、たった独りの孤独な寂しい世界へ。

たった一人の価値観と行動だけで、幸か不幸かが分かれてしまう。

不公平だよね。

あの人だけなんて。

まあ、人間なんてそういうものだし、皆不公平なことが公平なんだ!なんて言ってしまえば元も子もないわけで。

あくまでもこれは私の理屈だ。

私の価値観。

価値観の違いだって人それぞれ。

だんだん話がずれてきた。

話を戻そう。

優劣で言えば劣の方が損だ、みたいな話はさっきした。

だが、必ずしもそうとは限らないときもある。

もうひとつ例を挙げてみよう。

私は知っている。

とても頭のいい人がいるとしよう。

勉強できるという意味ではない。

その人は、全てわかってしまうんだ。

一目みた瞬間。

相手の表情やしぐさ、声音など体の各器官を瞬時に観察し、心を読む。

これは能力といっていい。

明らかに人より“優”れている。

しかし、相手からしたら心を読まれる。

これほど不快なことはない。

ちょっとでも変なことを考えれば、すぐさま見抜かれる。

嫌だよね。

そして自分は相手の心は読めない。

不公平だよね。

そして、その人の周りには気づけば誰もいない。

周りより“優”れた能力をもっていても。

優れているが故に恐れられ、孤独になる。

誰だって心は読まれたくない。

しょうがないよ。

違うのは私。

他人とは、違うんだから。

一人だけ、違うんだから。

寂しいとは感じない。

辛いとも感じない。

そんなの、もう慣れた。



なんだか長々と私の価値観による理屈を並べてしまった。

ここからが本題だ。

劣っているだけの人間はいない。では、逆に完璧な人間はいるのだろうか。

完璧。

世の中の全ての分野において“優”れている人間。

一つの漏れもない、パーフェクトな人間。

人間は必ずどこかに欠陥がある。

でも、その欠陥すらない人間。

いるのだろうか?


ここで自己紹介を少ししておこう。

私は河合凛々かわいりりこという。

入学したての、ピッカピッカの中学1年生。

趣味は人間観察。

私は今までにいろいろな人を観察してきた。

人間のいろいろな心理、心の闇などを覗いてきた。

人の心を読めるようになってしまったのも、そのせいだ。

故に周りからは恐れられてしまった。

友達はいなくなってしまった。

でも人間観察はやめない。

人間は複雑だ。

様々な感情を持ち合わせ、少しの変化で大きく揺れ動く。

たいへん興味深い。

クラスの人間は一通り、性格や行動パターンを把握している。

これは私の一種の趣味だ。

知的好奇心。

しかし、最近は退屈をしている。

なぜなら、私の周りの人間はほとんど把握し終えてしまった。

まあ、人間は常に同じなわけではないのだが、どうにもつまらない。

なぜだろう。

退屈なのだ。

そう、平凡。

刺激がない。

コレ!といった人材が現れない。

退屈。

恋バナなどをしている周りの人間たちを観察するのも確かに興味深いが、同じような話の繰り返しで、飽き飽きするのだ。

最近の人間は皆、こうなのだろうか。

誰かいい人間が現れないものか。

ずっとそう思っていた。

そんなある日のこと、私は彼に出会った。



柴崎(しばさき) 檸檬(れもん)


彼を始めて見たとき、私は不思議な感覚に囚われた。

何かが、私の背中に走った。

ズキューンとした。

私はそのとき、直感したのだ。

コイツだ、と。

私が求めていた人間観察の人材はコイツなのだ、と。

なぜかはわからないが、そう思った。


彼は私とこの春、同じクラスになった。

彼は入学してから一週間は学校を休んでいた。

彼が初めて登校してきたとき、私は彼という存在の美しさに息を呑んだ。

纏っているオーラが違った。

優美で、近寄りがたい。そう、見られる者を選ぶような。

顔立ちは、どちらかといえば、女性的。

まつげが長い。

かわいいというよりはキレイや、美しいという形容詞があう。

他とは、ランクが違う。

今までに観察してきたどの人間ともタイプが違った。

気になる。

まだ観察していないのはコイツだけ。

果たして、どんな人間なのだろうか。私を退屈させない人間なのだろうか。

気になる。

初めて会った人間がこんなに気になったのは初めてだ。

コレは当分退屈しない。

私の第六感がそう告げた。


こうして、私は彼の観察を始めた。


柴崎檸檬の基本知識

・♂

・容姿端麗だが、いつも似合わない眼鏡をかけているということ。(ただし、初めて登校してきたときは何故かかけていなかった。)

感情はわからない。

何も伝わってこないのだ。

何故か?

彼はいつも、その整った顔を窓の外に向けている。

眉一つ動かさない。

無表情だ。

気が抜けている訳でもない。

真面目な顔をしているわけでもない。

ただ、ずっと人形のようにそこに座っている。

これでは何もわからない。

表情に変化が全くないのだから。

生きてるのを疑うほどだ。

行動も少ない。

彼が動く時間は主に3つ。

登校、下校、移動教室。

いつも一人。

気づいたらそこにいて、気づいたらそこにはいない。

不思議な人間である。

その顔立ちから女子に声を掛けられたりしてもおかしくないはずなのだが、何故か誰も彼の存在などないかのように過ごす。

煙たがられているのだ。

また、彼は時折学校を休む。

部活には入っていない。

体育は何故かいつも見学。

わからない。

まったくもって。

私は本来、教室にいる人間を観察する。

たいていは一ヶ月くらいで、教室全ての人間(教師も含め)の人格などを把握できてしまうのだが。

どうにも、この柴崎檸檬という男はわからない。

最初は慣れていないだけで、1,2ヶ月くらいでボロを出すだろうと思ったのだが。

甘かった。

同じクラスになってからはや2ヶ月が過ぎようとしている。

なのに、彼は未だに安定のポーカーフェイス。

これだけ観察してもわからないなんて、人間を知り尽くした女、ヒューマン・マスターとしての私の名が廃る。(誰もそんな名前で呼びません)

とにかく、私のプライドが許さない。

ということは。最終手段―ストーキングに出る必要があるということだ。


そう決意した日の放課後。

私は作戦を開始した。

彼はいつのまにか、ふっと消えている男である。

細心の注意を払う。

幸い、今日は当番などはない。

それは彼も同じなようだ。

部活に入っていないと、こういうときに便利。


は!

彼が動きだした。

早速尾行を開始する。

絶対に見逃さない。

この世に私の知らないことがあるのを許さないとまで言うつもりはないが、少なくとも身近な人間のことは把握しておきたい。

彼はずんずん進む。

私は気づかれないよう、後を追う。

やがて、細い路地に入る。

かなり人気のない、暗い道。

そこで彼は立ち止まる。

そして。


おもむろに服を脱ぎ始めた。


「ぶっ!?」


思わず、吹き出す。

びっくりした。

まさか、あの柴崎檸檬が、人気のない路地で脱ぐとは。

まさかコイツ、露出狂だったのか!?

吹き出した音でこちらの存在に気づかれやしないかとおもったが、彼は気づいていないようだ。

とりあえず、一安心。

彼はまず、制服のブレザーを脱ぐ。

それからYシャツ、ズボン、トランクス。


「っ!?」


いかんいかん。

見てはいけない。

さすがに私とて、そこまで知りたいわけではない。


しばらくして。


もうそろそろかなと思い、そうっと彼のいる方向を見る。


……………??????


そこにいたのは。


ふんどし一枚にマントを付け、白縁のサングラスをかけている不審極まりない男だった。


誰だあれは。誰だあれは!

本当に…柴崎檸檬なのか…!?

まさか!まさかまさか!

有り得ない。

あんな美しい男が。

ギャップありすぎだろう!

流石の私も動揺した。

サングラスをしているので目はよくわからないが、あの口元や髪型、ボディラインや肌の質は確かに彼のもので、え?え?えぇ?えあぅえぁえあ???

いかんいかん。頭がパニック状態になってきている。

落ち着け。静まりたまえ。平常心、平常心。

彼はそんな私の気持ちも知らず。


「変身…完了…。今日も街の平和を守るぞ…!」


と超絶決め顔で呟いた。

それは紛れもなく、授業で何回か聞いた柴崎檸檬の声だった。

初めて聞いた、彼の先生の問いかけに対する答え以外の声。

あの淡々とした声音ではなく、どこか気合が入った、何かを楽しみにしているような、力強い声。

彼はそれから音も無く、軽やかに近くの家の屋根に飛び乗った。

凄い身体能力である。

そのまま、屋根の上をこれまた凄まじい速さで駆けていった。

あっと言う間もなかった。

こうなってはもう私の力では何もできない。

仕方がない。

本日の尾行はここで終了するとしよう。

こんなことは初めてだ。

ストーキングするまでに至ったのに、これっぽっちの少ない情報で私が諦めるとは。

柴崎檸檬…。

謎が多い。

それはつまりなかなか面白い奴だということだ。

ますます興味が出てきた。

観察を続行することにしよう。


次の日、である。

柴崎檸檬は昨日のキメ顔や変態極まりない格好が嘘のように、いつも通りポーカーフェイス。

表情が変わることはない。

そういえば彼は、今日返されためちゃくちゃ難しい数学のテストで満点をとった。

なんでも、満点は全クラスで一人だけらしい。

頭がいいんだ。

しかし彼はそれを聞いても表情を変えず、席についていた。


そして放課後。

きっと今日も彼は“あの場所”へ行くだろう。

昨日みたいに屋根の上を移動されては厄介だ。

しかし私には彼みたいに屋根を歩くスキルを持っていない。

というわけで。

私は彼に発信器をしこんでおくことにした。

これで行動パターンは把握できる。

何、気づかれないようにつけるなんてお手のものだ。

服を脱ぐことはわかっているので、落とした物を拾うフリをして足首につけて置いた。

さあ、今日もLet'sストーキング!


お、彼が動き出した。

私は発信器の出す信号を受信する機会を片手に歩く。

どうやら公園に向かっているようだ。

よし、ここなら近い。

運動神経のない私でも十分に追いつく。

ああ…ワクワクしてきた。

とてつもなく気持ちが高揚する。

こんな感情になったのは久しぶりだ。

最近の人間はリアルが充実していて幸せも十分で、つまらない普通の人間なので退屈だった。

柴崎檸檬。

行動が予測不能でまだまだ謎が多いが。

お前ならきっと私を楽しませてくれる。

予想が確信に変わった。


公園にて。

………いた!

やはり、ふんどしにマント、サングラスである。

植え込みの陰になるようにかがみ、彼を観察。

彼が公園にいるため、遊んでいた小学生や小さい子はいない。

きっとお母さんが連れていったのだろう。

友達同士で遊んでいた子たちも身の危険を感じていなくなったに違いない。

それぐらいは想像できる。


さて、柴崎檸檬だが彼は先ほどからベンチの上で座禅を組み、何やら瞑想をしている。

数分後。


「はっ!」


不意に目をカッと見開いた。

そして。


「HA-HAHAHAHAHAHAHAHAHA-!!!」


いきなりアメコミ風に笑いながらすごい速さで何かを拾い始めた。

手にはどこから出したのか、大きなごみ袋。

何……………?????

芝生で彼の手元がよく見えないが、どうやらゴミを拾っているようだ。

ふむ・・・・・・。

私は背負っていたかばんから双眼鏡を取り出す。

彼の手元にピントを合わせる。

キラッ。

何かが光った。

あれは・・・・・ガラスの破片!?

結構大きい。

え、しかもたくさんある・・・・・!?

そういえば。

昨日の夜、独自の情報網で、ここで不良同士の喧嘩があったというニュースを聞いた。

けっこうひどい喧嘩だったらしい。

武器なども使われたらしい。

まさか、アイツ、そのときに不良の一人が割ったか何かしたガラス瓶か何かの破片を拾いあつめているの・・・・・・?

ここは児童公園。

裸足で遊ぶ子どももいるだろう。

裸足でなくとも、あんなガラスの破片がたくさん転がっていたら、転んだりしたり、サンダルを履いていたら怪我をしまう。

まさか、アイツそれを心配してわざわざ拾っているのか・・・・・・?

格好は不審者だが、すごくいいことしてる。

いいことをしているのに、何故あんな変態な格好をする?

ますます、柴崎檸檬という男がわからなくなってきた。

・・・・・・・・面白い。

全く持って理解不能だが、人間は理解が不能なほど、面白い。

やばい、動悸が速まる。

やばいやばいやばい。

だから人間観察は止められない。

たとえ“ストーカー”だとか“気持ち悪い”とか“犯罪だ”とか言われようとも。

私は絶対に止めない。

特に、今回は止められそうにもない。

こんな、こんなとてつもなくわからない男を放って置けるわけがない。

知りたい。

知りたい!

コイツの全てを知りたい!

知識欲が体中から溢れ出す。

ああ、私は幸せだ。

こんな観察甲斐のある人間を見つけられて。

くだらない話をしてキャッキャウフフしているつまらない人間たちの観察に別れを告げることができて。

本当に、幸せ十分だ。


ふと。

熱心にゴミ拾いをしていた柴崎檸檬が顔を上げた。

そして、青ざめた顔になる。

何事だろう。

トラブルだろうか。

思わず、身を乗り出す。

突然、彼の姿が消えた。


・・・・・・・・・・!?


数分後。

右腕に《パトロール中》という腕章をつけたおじさんが、私がいるのとは反対の通りに姿を現した。

・・・・・・・なるほど。

見つかったら厄介だとは思い、即座に姿を消したのか。

しかし、どこへ消えたんだ・・・・・・?

公園なので、周りに屋根はないから、屋根に上るのは不可能なはずだ。

ふと、公園の木を見上げてみる。

・・・・・・いた!

見事に枝葉の陰に隠れている。

こちらからは丸見えだが、向こうからはおそらく見えないだろうな。

ちなみにおじさんの方を向いているため、こちらからは尻が丸見えなんだが。

尻・・・・げふんげふん!

しかし、一瞬にして木に登ってしまうとはすごい奴だ。

どんな運動神経をしているのだろう。

トレーニングでもしているのだろうか?

などと考えていたら。


「・・・・・・・君、何しているの・・・・・・・?」


しまった!見つかったか!?

声のするほうを見ると、そこにはさっきまで反対にいたはずの《パトロール中》おじさん!(勝手に命名)

これはまずい。

MAZUI。

植え込みの陰に隠れて誰もいない(とおじさんは思っている)児童公園を覗く女子中学生。

これは明らかに異常だ。

見つかってしまったからにはしょうがない。

執るべき行動は一つ!


エスケープ!


私はすっくと立ち上がる。

それからスカートについた汚れを手でパンパンと掃い。


「と・・・・・」


何か言おうとしたおじさんをとりあえず睨んで、私の眼力で動けなくさせ、逃亡した。

猛ダッシュ。

普段は運動は決して得意ではない私だが、逃げ足だけは異常に速いのである(ドヤ)

火事場の馬鹿力。

目指すは我が家!

こうして、二日目の尾行は終わった。


三日目、四日目、五日目。

私の柴崎檸檬観察は続く。

彼のことを知るたび、私の中で何かの感情が弾けていく。

これは、何だろう。

喜び、満足感。

それに近い。

ただし、近いだけでそれという訳ではない。

一つ知ってしまうともっと知りたくなる。

そして、知ることにとてつもない興奮を覚える。

ある日は、カラスに荒らされてぐちゃぐちゃになってしまったゴミステーションのごみをきれいに掃除していた。

また、ある日は電柱に描かれた落書きを何だかすごい方法で擦って落としてた。

そんな風に彼は、地味でだれも気づかないようなことだけど、確実に良い環境になることをしていた。

学校の彼とは全く違う姿。

どうして。

どうしてこんなにギャップがあるのだろう。

何か、特別な理由でもあるのだろうか。

知りたい。

彼のことを知りたい。

彼の全てを知りたい。

性格、行動パターン、癖、スリーサイズ、家族構成。

それだけじゃ足りない。

私の彼を知りたいという気持ちは最早好奇心の領域を超越していた。


問題は六日目である。

観察を始めたのは月曜日。

つまり今日は土曜日。

学校がない。

さて。

私は彼の家を知らない。

何故ならいつも、尾行中に邪魔が入るからだ。

あるときは巡回中の警官。

またあるときは《パトロール中》おじさん(二号)。

またあるときは、犬の散歩中のお婆さん。

さすがに私もいきなり尾行中に「尾行かい?若いねー。青春だねー。私も若いときはよく好きな先輩の尾行をしたものだよー」とか言っていきなりコイバナをしてくるおばあさんには初めて会った。

少しだけ興味があったが、今は柴崎檸檬の方が先だ。

しかし、おばあさんの口は止まらない。

まあ、これくらいの年齢層はきっと話相手が欲しいだろうし、あまり観察をしたことがなかった、そもそも関わったことがあまりなかったので少し興味が出て、もう10分。もう5分と観察をしているうちにターゲットを見失ってしまったのだ。

とにかく。

今日の行動はどうしようかな。

特に予定があるわけでもない。

それにこれだけ毎日彼を観察していたので逆に観察しないと何か物足りない。

私はもう彼のことしか考えられない。

今、何をしているのかなーとか、どこにいるのかなーとかそんな妄想では生ぬるい。

私が知りたいのは事実。

妄想して楽しむなど言語道断。

自分の力で正しい情報を手に入れる。

それが私のポリシー。

あ、そうだ!

“あの場所”へ行こう。

彼はまずあそこで着替える。

ただし、それは学校帰りのことであり、休日はわからない。

しかし、彼の行動パターンが僅かでもわかってきたことに、私はちょっとした興奮を覚える。

よし、決めた。

今から行って彼が来るまで張り込むとしよう。

彼が来なかったとしても、それで彼は休日は来ないという情報を手に入れられる。

張り込みなら得意だ。

おっと、あんパンと牛乳買っていこう。


そして“あの場所”。

待つこと数時間。

日も高く登り、お腹も空いてきたのであんパンをもそもそと頬張る。

二口目で柴崎檸檬は現れた。

タイミング悪すぎだろ!

まだ食べ始めだ!

しかし、これで彼が休日もここを利用することがわかった。

私はこのことを、脇に置いておいた《柴崎檸檬観察ノート》に記入しようとした。(余談だが、たった一人のために観察ノートを作ったのは初めてだ。)

ところが。

記入することは出来なかった。

何故かって?


「ふうん…。柴崎檸檬観察ノートね……。いいもの持ってるじゃない………。アイツの情報がたくさん載ってるの?弱点も?性癖も?何もかも?・・・・・・これで、アイツを・・・・×××できるかな・・・・・?」


後ろから伸びてきた何者かの手により、ノートを取られてしまったからだ。

びっくりした。

気配をちっとも感じなかった。

その人は結構若い、私と同じ位の年の女性だった。

その人はなかなかの美人だった。

その人の髪はは金に近い茶髪をしていた。

その人はかなり背が高かった。

その人は私を動けないように羽交い絞めで拘束した。

そして、その人は私の口元にハンカチみたいなものをあてた。

私が得たその人に関する情報はこれだけ。

意識がぼんやりと薄らいでいく。

もう少し情報を仕入れさせて・・・・・・。

その人は―その人は・・・・・・?―。




「っは!?」


目が覚めた。

頭がボンヤリする。

おそらく、さきほど口にあてられたものは、催眠効果のあるものを含んだハンカチだったのだろう。

薄暗い。

体が重たく、だるい。

そして、両手両足を縛られているようだ。

だんだん目が暗闇に慣れてきて、辺りの様子がおぼろげながらうかがえるようになってきた。

倉庫のようである。

窓はない。

何が入っているのかよくわからないネットがぶらさがっていたり、長いものが立てかけてあったり、何かとても汚い。

猿轡をされていないところを見ると、大声を出しても気づかれないような場所なのだろう。

さて、何故私はいきなり監禁されてしまったのだろうか。

理由を考える。

私が今まで人間観察をしていたが故に巻き込まれてしまった事件たち。

一つ一つ、順番に思い出す。

何か手掛かりはないか、そもそもあの女の人はどこで出会ったか。

考える。

記憶を辿っていく。

事件だけじゃない。

私が今までに観察した人間やその身内。

私の知る全ての人の記憶を探った。

しかし。

出てこない。

思い出せないのではない。

例えどんなにイメチェンしたり人格を変えたりしていても、素というものは必ずどこかで出るものだ。

私ほどの観察眼を持つものならば、それを見つけ出すのは容易いのだが。

それでも思い当たる節がないということは。

私の関わったことの無い人間。

すなわち。

私に恨みがあるわけではない人間。

さきほどの下りを思い出してみよう。

・私は柴崎檸檬(の着替え)を観察していた。

・新たにわかったことをノートに書こうとした。

・そしたらあの女性が現れた。

彼女は何て言った?

私のノートをとって。


「これでアイツを×××できるかな?」


と言った。私の記憶が正しければ。

何をできるかはよく聞こえなかったけど、声の調子から察するにたぶん“ぎゃふんと言わせられる”とか“やつけられる”とかではないだろうか。

ということはだ。

きっとこれは。

柴崎檸檬に恨みのある人の行動だ。

そうとしか考えられない。

私はきっと人質。柴崎檸檬を“ぎゃふん”と言わせるための。

勿論これは仮定でしかない。

あくまで私の推測。

本当は全く違う理由かもしれない。

例えば、私を人体実験に使うとか。

私を売るとか。

・・・・・・それはないか。

情報が少ない。

せめて彼女の性格が少しでもわかっていれば。

この後の展開も予想できるのだが。

わからない人間のことは本当にわからない。

ましてや初対面の人間なんて。

推測は苦手だ。

私が得意なのは事実を元に組み立てていくこと。

その為には情報が少なすぎる。

ああもう!もどかしい!

わからない。解らない。判らない。

しょうがない。

このまま大人しく転がっていてもしょうがない。

周りの音を聴け。

私は目を閉じて耳を澄ますことに集中した。


―無音の世界。

不気味なほどに静まり返っている。

何も聴こえない。

もしかして、ここは防音仕様なのだろうか。

それにしても聴こえなさすぎないか?

あーあ…。

こんなに静かだと眠くなってきた。

私はふあーとあくびをした。

退屈だ…。

あー、退屈だ!!

何も聴こえない、すなわち情報が入ってこないということで、それは情報収集が生き甲斐の私にとっては一番退屈な展開で。

あーあ、あーあ、あーあ!

た・い・く・つ!

退屈すぎて思わず床をごろんごろんし始めたとき。


「痛っ…!?」


背中に何か固いものがぶつかった。

上半身を起こし、見てみる。

…ん?

よくわからない。

もっと顔を近づける。

これは…ヤスリ…?

このざらざらした面で擦ったら縄がとけるかもしれない。

そうときまれば行動あるのみ!

私は手首の縄を鑢のざらざらした面にあて、上下に擦り始めた。

ジャリッ…ジャリッ…

結構な重労働。


「はぁ、はぁ…」


ひたすら上下運動を繰り返す。

髪がバサバサと揺れ、とても邪魔くさい。

次第に額から汗がしたたり落ちてきた。

まだか、まだ切れないのか。

疲れてきた。

縄はかなり太く、なかなか切れない。

段々とイライラしてきたそのとき。


「大丈夫か!」


バーンと音がしてドアが倒れた。

ぼわんと埃が舞う。

光が差し込む。

その光の先にある人影。逆光でよく見えないけれど。

あの声。あのシルエット。

間違いない。

あれは、私がずっと観察し続けてきた人間。

柴崎檸檬その人。


「待たせたなッ!」


彼はこちらへ来て、私の手足の縄をほどく。

初めて近くで見た彼の姿。

白縁のサングラスにふんどし一枚の姿。

思わずぼうっとした。

心拍数が上がる。

彼が今、目の前にいる。

遠くからしか観察したことのない姿の彼が。

私を、助けに来てくれた?

かっこいい、素敵と思ってしまった。不覚にも。

ヒーローみたいだ。

正義のヒーロー。

でも、でもどうして?

どうして?

不意に、ドキドキが疑問へと変わる。

何故私が置かれている状況がわかった?

何故この場所がわかった?

何故―私を助けにきた?

私は彼と話したことはない。

観察だって私が一方的に始めたことだ。

なのに、何故?

何故私を?

ぐるぐると頭の中で渦巻く疑問。

困惑する私をよそに彼は言う。


「すまない。私の所為で」


私の所為?

どういうこと?

ということは彼は予めこうなることはある程度予測していたのか?

何か心あたりがあるのか?

わからない。

ここ数日彼を観察してきた。

だけど。

“感情”はある程度わかるようになったが“考え”はわからない。

彼の頭の中はわからない。

今、何を考えているのか、何を思っているのか、何か思っているのか。

所詮は他人。

自分以外の人の考えていることなんてわからないのだ。

兎に角。

彼は私の拘束を解き、自由にする。


「ここから先は私がうまくやる。君はすぐに逃げたまえ」


そういう彼の目には、何か確信のようなものが宿っていた。

しかし、私はその言葉に素直に従うことができなかった。


「あ、いや、柴崎檸・・・・・・・」


何を言おうと思ったのだろうか。

私は彼の名前を呼ぼうとした。

しかしその声は途中で遮られる。


「あーら、もう来たの?以外と早かったじゃない。王子様」


物置の扉から聞こえてきた声。

それは紛れもなく私を拉致監禁した張本人。

背の高い、茶髪の女性。


「レイナ・・・・・!やっぱりお前・・・・・!」


ハッとした顔をする柴崎檸檬。

そして彼は彼女に向かって喋りだす。


「今更何だって言うんだ!もう僕たちは赤の他人だろう?もう二度と会わないはずだっただろう?なのに、何故今更、今更こうやって僕の知人を監禁してまで「うるさい!!」


彼の声が遮られる。


「赤の他人!?赤の他人ですって!?ざけんじゃないわよ!こちとら今までずっとどんな思いして生きてきたと思ってんのよ!!そんなすぐ忘れてたまるか!!忘れるもんか!何年一緒にいたと思っているんだ!!」


叫ぶ彼女。


「私は、まだ納得いかない。どうして?どうしてよ!?そんなんになっちゃって!!アホらしい格好して、正義のヒーローとか言って人助けまがいのことして!それで何か満たされるの!?何か楽しいの!?何か気持ちが―紛れるの?」


柴崎檸檬は何も言わない。


「お願い。もう一度元に戻ろう?元の生活をしよう?また・・・・・、一緒に暮らそう?」


彼はまだ何も言わない。


「ねぇ、お願い。もう二度とあんなことは起こらないから。絶対に起こさせない。だから、だからお願い。お願いお願い」


必死で懇願する彼女。

柴崎檸檬はようやく口を開く。


「レイナ・・・・・。ごめん。それはできない。それにこれは僕たちだけではどうこうできる問題じゃないんだ。僕は君とは暮らせない。会うと思い出して辛くなるから、もう・・・・・君のことは見たくない」


そして彼は言う。


「過去は捨てたんだ。これが今の僕だ」


その言葉を聞いた彼女は。

彼女は。


「う・・・・・、う、ぁ、ぁ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!!!」


叫んだ。

そして。


「どうしてよ!?どうしてなのよ!?私のこと、もう好きじゃないの?好きじゃないの?好きじゃなかったの?好きになれなかったの!?」


そう言いながら、髪を振り乱し、悶え始める。


「私は・・・こんなに好きなのに!今でもまだ、好きなのに!大好きなのに!」

「あなたは私のことが嫌いなの!?もう顔を見るのも嫌な程嫌いになってしまったの!?」

「だから・・・・だからあんなことを言って、私のところからいなくなったのね?」

「ふふ、そうなの?そうなのね?」

「いいわ、あなたが私を嫌いなのであれば、好きになれないのであれば」

「私はあなたが大好きなのだから。大好きで、大好きで、死にたいほどに大好きだから」

「あなたが私を好きになってもらうのにはこうするしかない」

「私―あなたを殺すわ」


!!!???

何だか一人で危ないこと言い出したと思ったら。

彼女はおもむろにカッターナイフを服のポケットからとりだした。

ちょっと待て。明らかにおかしいだろ今の理屈。

柴崎檸檬もサッと顔を青ざめさせた。


「まて、レイナ!早まるな!違う、違うんだ!あれは僕の意思ではなかったんだ!僕だって、僕だって!」


「うるさい!うるさいうるさいうるさい!」


彼女はカッターナイフを振り回す。


「あなたを殺して私も死ぬ!あなたと一緒の墓に入るわ!そうすれば二人永遠に一緒だよ!もう離れないよ!離れられないよ!」


「レイナ!」


「馬鹿馬鹿!もう、皆馬鹿!嫌いよ、嫌い嫌い!父さんも、義母さんも!そもそも、再婚したのが間違いだったのよ!おなたさえいなければ!あなたと出会わなければ、私はこんな思いをすることもなかったのに!」

「あなたなんかいなければよかった。あなたと出会わなければよかった」

「あんなこと、なければよかった」


「レイナ・・・・・・」


「死んで。だから死んで。私も死ぬから。大丈夫。痛くないよ。二人で死ねば怖くないよ」


「・・・・・・・・・」


私をいないものとし、ドラマのような会話を繰り広げる二人。(柴崎檸檬はふんどし一枚の姿である)

私はカッターナイフを向けて柴崎檸檬に迫る彼女の足元にズカズカと歩み寄る。

何故そうしたのかは自分でもわからない。


パン。


何かが破裂する音がした。

何の音だろう。

私は自分の手元を見る。

目の前には頬を手で押さえた茶髪の少女。

だんだん、その頬が朱に染まっていく。

私はどうやら彼女のことを平手で叩いたらしい。

柴崎檸檬も呆気にとられた顔をしている。

私は言った。


「あなたのエゴで人を殺すのはやめなさい」


「な・・・・!?」


考えていたわけではないのに口が言葉を紡ぐ。


「出会いは大切にしなさい愚か者。何があったかは知らないが出会ったことであなたは人を好きになる気持ちを知ることができたのでしょう。柴崎檸檬という人を知ることができた。楽しい日々を送ることができたのでしょう?いいじゃないそれで。楽しい過去があったんだから」


「・・・・知ったような口を」


「そう、私は知ったような口しか利かない。それは本当に知っている訳ではないから。でも楽しい過去があったというのは推測できる。あくまで推測だけど。考えてみなさい、楽かった過去がある現実と楽しかった過去がない現実どちらがいい?」

「私には楽しい過去なんてない。だからそれと今を比較して憎むこともできない。あなたはそれができるんだから。過去を否定するな。出会いを否定するな。このワガママ娘」


我ながらどの口が言うんだって思う。

自分の言うことは微妙に外れているとも思う。

だって、これは楽しい過去のなかった、思う人なんていない私の単なる嫉妬だ。

もしくは、会話から察するに、昔柴崎檸檬となんらかの友達以上の関係を持っていた彼女に対する嫉妬なのかもしれない。

兎も角向こうからすればワガママ娘は私の方だろう。

しかし、私は言わずにはいられなかった。

何故だろう。

もやもやと、イライラとした不思議な気持ちになる。


「今、あなたがどれくらい辛い思いをしているかはわからない。でも自分だけ辛い訳じゃないから。あなたよりキツい経験をしてる人、いるから。でも皆誰も殺してないでしょう。そんな殺せるものなら私は全人類殺しているよ」

「憎かったら殺していいのね?それだったら私は貴方を殺すよ」


「何で!?何で貴方にそんな権利があるの!?ほぼ出会ったばかりの人間でしょう!?」


「出会ったばかり・・・・?はっ。よく言うわ。柴崎檸檬一人を呼び出す為だけに私を監禁したのはどこの誰?わざわざこんな薄暗い狭いところに閉じ込めてしかも拘束までして。そして目的の人が来たら私のことなんてほったらかし。どういうことよ。挙句の果てにわけのわからない理屈を並べて自分の価値観で人を殺そうとする。人のことなんだと思ってるのよ」


ああそうか、私は。


「この世界はあなた中心に動いているわけじゃないの。いろんな人がいるんだから。あなただけの、あなたの都合のいいようにできてる世界じゃないの。いい加減に自覚しなさいな」


私は―怒っているんだ。この子に。


私に対してのこともあるけど、きっと、私は。


あの子が柴崎檸檬のことを否定したから。柴崎檸檬のことを殺そうとしたから。


この気持ちは・・・・・・。


「あ、あ、あ、あなた、な、なんかに、あ、あなた、なんか、に」


ずっと固まっていた少女がふるふると震えながら言葉を発し始めた。


「私なんかに?何?言ってごらん?」


「う、う、うぁ、あ、うあああああああああああああああんんんんんん!!!!!!」


そして、彼女は目に大粒の涙を浮かべ、大声で泣き叫び始めた。


「私だって!私だって!わかってる!そんなこと!でも!でもこうするしかなかったの!こうするしか!」


「レイナ・・・・・・」


それまでずっと私達の会話を黙視していた柴崎檸檬が入ってきた。


「檸檬!檸檬!・・・・・王子、さま」


彼女は檸檬に抱きつき泣いた。わんわん泣いた。


「ごめんね、ごめんね。ごめんね!本当に・・・・ごめんね」


彼女は謝った。心からの謝罪。

ごめんで済むなら警察はいらないと思うけど・・・・・。

まあ、この雰囲気でそんなことを言うのもKYなので、ここは黙っておこう。

謝罪の気持ちは大切だしね。

何だかもう二人のムードなのでここは空気を読んで帰ろうかな。

もう私はここにいる意味もないし。

そう思い、外に出たが。


「あ・・・・・・・」


ココハドコ?



その後、後から出てきた柴崎檸檬と少女の案内により私は無事帰った。

意外にも私の家の近場で少し驚いた。

三人で特に何を話すまでもなく私の家に着いた。

柴崎檸檬は言った。


「本当に…ごめん。じゃあ、また月曜日」


私はこくりと頷いた。

そして家の扉に手をかけたとき。


「待って」


それまでずっと黙って柴崎檸檬にくっついていた少女が、不意に私を呼び止めた。

私は振り替える。


「あ…あなた、さっき言ったわよね?『楽しかった過去がある現実と楽しかった過去がない現実どちらがいい?』って」

「私は楽しかった過去のない現実の方がいい。だって、楽しさを知らない方が絶望したときの悲しみが大きくないもの」


いきなり何を言い出すかと思えば。

そんなことか。

私は言った。


「それは私から見れば、恵まれている人の言うことだ」

「あなたは体験したことがないでしょう」

「本当の楽しさが一つもない人生がどんなものか」

「そんな人生は―味気ない」

「つまらない」


そう、つまらない。

楽しさのない世界は退屈だ。

少しでもその退屈感を埋めようと人間観察をした。

確かに人間観察は楽しかった。

とても興味深かった。

でもそれは所詮他人から楽しさを無断で貰っているだけだった。

今ならわかる。

最近何故あんなに退屈だったか。

人間観察をしても全然楽しくなかったか。

私は飽きていたのだ。

他人から楽しさを貰うことが。

きっと。

私は自分で楽しさを作り出したかったのだろう。

だから私は言う。

もう楽しさのない退屈な生活は懲り懲りだ。

折角何かの縁で出会った人間だ。

これを機に踏み出してみてもいいかもしれない。

まだ会ったばかりで、しかも最悪の出会いだった彼女だけど。

でも、今まで彼女を見てきて、彼女は何かが違うと思った。

彼女なら、もしかしたら。


「あなた…レイナ、だっけ?」


「え、ええ…」


「人間って・・・・不公平だよね」


「・・・え?」


いきなり何を言いだすのだ、というような顔の彼女。


「私はさ、友達がいないんだ。あなたみたいに大切な人もいないんだ。家族との仲も冷めてて、楽しい思い出とか、幸福な思いではないんだ。どうしてだと思う?」


「・・・は?」


ますます困惑顔の彼女。


「人間ってさ、不公平だよね。でもさ、その不公平さをお互いに分け合って平均的にすることはできると思うんだ」

「でも私は今までそういう人がいなかったんだ」

「私はね、人と違う能力があるんだ。だから、ずっと人間の世界の不公平の“優”の側であるが故に“負”の側だった」

「でも、今日はそんな関係になってくれる人が現れた気がする」


「え・・・それって、つまり・・・・」


「レイナさん」


それは、生まれて初めて口にする言葉。


「私と友達になってください」




「・・・・・・・・うん、喜んで」




今日は中々刺激的な一日だった。

こんなにワクワクしたのは初めてかもしれない。

そしてドキドキもした。

今でもドキドキしている。

今日は嬉しいことがあった。楽しいことがあった。

初めてだ、こんなことは。

友達ができた。

私に友達ができた。

意外にもその喜びは大きかった。

ずっと一人でいいと思っていたけど、やっぱり私は友達が欲しかったんだな。

月曜日が楽しみだ。

待ちきれない。

私はそんなことを考えながら、眠りについた。


月曜日。

日曜日は疲れたのかずっと寝ていた。

あれから柴崎檸檬とレイナの間で何か話し合われたのだろうか。

そんなことを考えながら学校に行く。

足取りが軽い。

柴崎檸檬はもう来ているかな。

私はいつも教室に一番に入るのでまだいないだろう。

教室に入った。

柴崎檸檬はもう来ていた。


「おはよう」


私に気づくと、彼はそう言った。


「土曜日はごめんね。そして、ありがとう」


「うん・・・・・・」


そういえば柴崎檸檬とまともに会話をするのは初めてかもしれない。

今まではずっと観察しているだけだったので正面から向かい合うのも(昨日を除けば)初めてだ。

両者の間に沈黙が訪れる。

黙っていても仕方がないので私は口を開いた。

ずっと聞きたかったこと。


「あのさ、何で私のことがわかったんだ?」


「ん・・・?なんでってそりゃあ、君、ずっと僕を観察していたからだよ」


「え・・・・?」


嘘嘘!まさか気づかれていた!?

これは・・・人生最大のミス!

まさか気づかれていたなんて・・・・・・。

そんな。これは大事件だ。

驚愕の事実に開いた口がふさがらない私に対して柴崎檸檬は何事もないかのように言う。


「じゃあ、次は僕の番だ。何で君は、ずっと僕を観察しているの?」


逆に質問されてしまった。

これは正直に答えていいのだろうか。


「完璧な人間だと思ったからだ」


「完璧な人間?」


不思議そうな顔をする柴崎檸檬。


「私は完璧な人間を求めていた。容姿、学歴、性格。全てにおいて完璧な人間」

「貴方と出会ったとき、私は直感で思ったんだ。『コイツはもしかしたら私のずっと探していた人間かもしれない』」


「へぇ・・・・それで?」


特に引いた様子もなく話しの続きを促す柴崎檸檬。


「あなたはきっと、私の求めていた完璧な人間ではない」

「でも」

「あなたのおかげで私はいろんなことを知ることができた。あんなに人間にドキドキしたのは初めてだった。あんなに一人の人間に執着したのも初めてだった。あなたを観察するのは予測不能で、とても興味深かった」


「それは、光栄だね」


「やっぱり完璧な人間はいないんだね。でも、人間のその欠陥を見つけるのもおもしろいかもしれない」

「人間観察について改めて考えさせてもらえた。ありがとう」


「そんなお礼を言われるほどでもないと思うけど・・・・」


苦笑する柴崎檸檬。

それから彼はふと、思い出したように言う。


「そういえば、聞かないの?」


「何を?」


「僕が何であんな格好をいつもしているか。僕とレイナのこととか。僕は何故学校であんなキャラを気取っているのか」


ああ、そんなことか。


「答えは簡単だ。人間観察は私にとって趣味で特技で生き甲斐。知りたい情報は自分で取るのが私のポリシーだからだ」


「そうか。じゃあ、まだ僕のことを観察するの?」


「ああ、勿論だ。あなたみたいな面白い人材はそうそういないからな。当分は観察させてもらうよ」


「それは・・・・怖いなあ・・・・・・。じゃあ、期限を決めよう」


「期限?」


「そう。期限は来年の入学式。僕たちが2年生に上がるまでに君はどれだけ僕を知ることができるか。」


「何故そんなことをする義務がある?」


「君・・・・・、僕に恋してるだろう?」


はぁ?

突然のナルシ発言に私は吃驚する。

“柴崎檸檬は素ではナルシ”

新たな情報が手に入った。


「すぐにわかったよ。読心術があるのは君だけじゃないんだ」


え・・・・・・?


「それは兎も角として、2年生にあがるまでに君が僕のことを僕が決めたクリア条件のことまで知っていたら僕は君とつきあってあげよう」


・・・・・・・。


「どうだい?ずっと観察されるのは落ち着かないからさ、それくらいで勘弁してよ」


「・・・・・・いや、つきあわなくてもいい」


「え?」


「確かに私はあなたを見ると心拍数が上がったる。でもそれは恋とは違うと思う。安心しろ。2年生になったらちゃんと観察はやめるから」


残念だがな。


「でも、それまでは」


「あなたのことを観察させてください」


私は柴崎檸檬の公認ストーカーになった。


「・・・君の気持ちはわかった。じゃあそれで行こう」


「ああ、よろしく」




―時は経ち、あれから一年。


柴崎檸檬の観察を私はやめた。

かなり私は彼のことを知ることができた。

クラス替えがあり、彼とはクラスが離れてしまった。

それきり、彼のことは見ていない。

まだ、“ふんどしマン”をしているのだろうか。

ポーカーフェイスキャラも相変わらずだろうなあ。

レイナとは良いお友達でいる。

そろそろ親友に発展しても良さそうだ。

とにかく、私と柴崎檸檬の物語はここで終わった。

でも、少し退屈じゃなくなった。


さて、現在。

帰りの会は終わり皆帰ったり部活にいったりするところだ。

私は授業道具をかばんにいれている。

突然、廊下の方から凄まじい足音が聞こえてきた。

そして。


「―ここにっ、河合凛々子という生徒はいるかっ!」


教室に入るなりそう言った“彼”。

それは顔の右半分を包帯を巻いて隠し、さらに制服の右腕の袖の上から包帯をぐるぐると巻いた少年だった。

彼は教室をぐるりと見回し、言った。


「河合凛々子っ!いたら手を挙げろっ!」


私は手を挙げた。

すると彼は。


「お!君が河合凛々子君か!どうだい?―僕と一緒にこの学校を守らないかい?」


―何か、新しい刺激的な毎日が始まりそうな予感がした。

よくぞここまでたどり着いたっ・・・・・!

読んでくれてありがとうございます。

最後の方とか意味わからないですよね。結局何が言いたかったんでしょう・・・。

何かおかしなところとかあったら言ってください。直します。

それとこれ、「ふんどしマン」と「学園の守護者たち」の番外編になっているんですです。

知らない方はそちらもぜひどうぞ

詳しくは活動報告に書く予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ