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第ニ話 一日目

よろしくお願いします。

白い天井。

差し込む陽の光。





「やっと起きましたか?」


仰向けのまま顔を横に倒すとそこには一人のメイドさんが水を入れていてくれた。


「改めまして、私はクレア・エルドラドと申します。あなたを召喚したラスヴァイン・ストラ・ニルヴァ王女付きの筆頭メイドです。」


「はぁ…」

最初に会ったラスヴァインさんのような妖艶な雰囲気ではないが改めて見るとクレアさんもかなりの美人だ。


「唐突ですがあなたには時間がありません。最悪は言葉も通じない魔獣が出てくる可能性もありましたので…」


「…召喚ってそんな曖昧な精度でしか出来ないんですか?」

淡々と眉一つ動かさず語る姿には人を寄せ付けない印象を受けた。


「通常、行われる召喚の儀式、つまり主に調教師テイマーが行う召喚は術師の力量により召喚獣の強さが決まり、その中で波長の合う個体が選ばれます。

しかし今回行った儀式ではより安全を考慮するなら上位の並行世界にゲートを作るだけで私達の魔力が尽きる筈でした。

しかし運のいい事に上位世界の方から私達のゲートを何者かが補助したため私達は予備の魔石を使い切り、高位の知能を持つ人型生物というところまで条件を加えられたのです。」


「高位…ですか…記憶がないんでちょっとわかんないですけど…」


「言葉を操って冷静な話しが出来るだけで十分高位の知能です。人型で武術が使えるのも私達にとっては嬉しい誤算ですね。」


…そんなにあっさりと棒読みで嬉しいとか言われても信じられないんですけど。


「う~ん…武術って言っても身体が覚えてただけで何が出来るかわかんないんですよ…」

あの時、確かに薄い意識の中で自分の身体を確かめながら使っているのはわかった。

それにいつも以上に身体が動く気がした。


「訓練すればきっと思い出しますよ。

とりあえず三日間ほどは安静にしててもらいますが、その間にまずはある程度の基礎知識を教えますね。」


「わかりました。どんなことを話してくれるんですか?」

記憶喪失の身としては情報は命に関わる。

ただで教えてもらえるだけありがたい。


「そうですね…今日は目も覚めたばかりですしエルナード様の質問にお答えしますよ。

明日は簡単な国の歴史を、明後日は魔術学の基本を学んではどうでしょう?」


「いいですね、その予定でお願いします。」

確かにあの召喚魔法、途中で騎士が放った火の玉には興味が沸く。

僕も使えるといいんだけど…


「じゃあ最初に俺がどうなるのかを教えて欲しいんだけど…」


「後ほど詳しく話しますが、端的に言うならあなたがどうなるのかはまだ決まっていません。

その理由は一つ、魔王ベジャール様は悪政を敷き、国民から妬まれているため、暗殺が公表されれば実行犯であるあなたは英雄扱いを受ける。

二つ、あなたが見せた動きは魔王を守る近衛兵を圧倒するものでありその力は興味を引いている。

三つ、ラスヴァイン様の希望に沿ってエルナード様を養子として迎え、子供のいない正妃の子とすると王位継承権はかなり高く、扱いが難しい。

四つ、建国の父ミナモトと同じ召喚魔法を使い、同じ黒い髪、黒い目を持つあなたは既に城内でミナモトの生まれ変わりではという噂が発生しているからよ。

今現在、三大公爵が準備しているけどおそらく魔王の葬儀に三日、その後の相続問題ってところで結論が出るのは十日後くらいかと。」

英雄扱いって…そこまで嫌われてんのかよ…


「そんなに恨まれてたならなんで誰も暗殺しなかったんだ?」


「『魔族が魔王を殺す刻、始祖の呪いによりやがて世界は終焉を迎える』って言い伝えがあるのよ。ベジャール様は徹底的な排他主義をとったから隷属印の無い他種族がいればすぐ見つかって暗殺なんか出来ないのよ。」


それにしても上手い抜け道の一つや二つ、無かったんだろうか…


「ちなみに魔王が執務を行う王宮には奴隷の立ち入りがそもそも結界によって出来ない。ベジャール様はここ数年一度もその区画整理から出てない、と言えば言わずともわかるでしょう?」


なるほど、他種族は触れるどころか見ることすら出来なかったのか…


「助かった。じゃ次は、」

ズキン…!


咄嗟に頭を押さえる。


「気絶して倒れた時にエルナード様は頭を打っています。今日はもうお休み下さい。明日からもお話出来ますゆえ。」


急激に襲った痛みは益々、僕の頭を締め付けて意識を放させた。


ーーーーーーー


ーーー建国の父シトゥーネ・ミナトは争乱にあった我が魔国の礎を築きました。

十二将軍と呼ばれる十二名の様々な種族からなる混成軍を築いたミナトは元々混乱の中で漁夫の利を狙い侵略を繰り返した人間共の勢いを削ぎ落とし、ついには押し返し始めたのです。

その手腕は見事で、争乱にあった種族間の問題を解決。

魔族を中心にした一大連合国家を築きあげた。

それだけでなく彼の今にも折れてしまいそうな細い剣(シトゥーネは刀と呼ぶ)から繰り出される剣戟は圧巻で鎧ごと敵を真っ二つに切り裂いていった。

彼は大量の魔力を持っていたが、幼いころから魔術を行使しなかったために魔力栓が塞がり、体内を巡らせる身体強化しか出来なかった。ーーー


ーーーシトゥーネの死は壮絶なものだった。

彼は大陸の中心に広がるバルナバの大平原の戦いで、神聖トレイエル皇国の手で神降ろしの器とされた英傑バルディと三日三晩戦い瀕死の状態に陥る。

彼が諦め掛けたその刻。

地獄から魔神エークリウッドの声が昇った。

『その剣を大地に突き刺せ。さすれば我が力を貸そう。』

彼は迷わずその手にした刀で大地を切り裂いた。

封印が弱まっていた魔神の枷はその一撃で粉々になり、魔神を降ろしたシトゥーネはその絶大な力を持ってバルディを百八回殺したという。

満身創痍のヨシトゥーネ。

彼を目の前にして魔神は言った。

『私を呼んだことをお前は悔やみ続けるだろう。なぜなら私の望みは生者の殺戮なのだから。

お前の死が始まりだ。』

魔神はシトゥーネを放り上げると爆発的なエネルギーをぶつけた。

シトゥーネは考えていた。

魔神を呼んだのは間違いだったのか?いや、呼ばなければ心を失って壊れたバルディによって守りたい者は全て殺されていただろう。

では呼んだのが正しい決断だったのか?いや、自分の死をもって始まる殺戮は間違いなく全ての生きとし生けるものを殺し尽くすだろう。

ならば、どうするべきか?

これは運命か?

世界は滅びるのか?


彼を救ったのは無理やりバルディという器に押し込められた聖神ヴァレリーだった。

彼を導くように手を取り刀の切っ先を真下にいるエークリウッドに向ける。

『全ての力を先端に。あなたのおかげでこの世界を生かし続ける価値を見出せました。』

次の瞬間彼に向かう光の奔流は刀身を削りながら逸らされていた。

彼とヴァレリーは真っ直ぐに魔神エークリウッドを刺し通す。

神々が力を貸す。

天から無数の光が彼を強める。

その衝撃は凄まじく、半径三百キロを消し飛ばした。封印された半径十メートルほどの土地を残しすり鉢状に削られた深さは五キロとも十キロとも言われている。

この戦闘により負った被害は人間側に二十五万の死者、三十万の負傷者を出し、魔国側には二万の死者、三万の負傷者を出した。

なお人間側の被害が大きいのはバルディが倒されたのを見て突撃の命令を出したため、魔族側はヨシトゥーネの命により、優位な状況ゆえに撤退を始めた。

この再封印により大陸は一筋の陸地を残して中央に巨大な海を抉られた。またある説によれば北にあった龍の島が空へ浮上した可能性がある。なお正確な位置が把握されていなかったので詳細は定かではない。

封印の島を中央に濃霧、嵐が耐えず起きているため魔国と人間が住む大陸は断絶された。


ーーーーー


俺は【魔国建国史】と書かれた分厚い本を閉じた。

さぁ、今日の勉強は終わりだ。

はぁー頑張って勉強すると肩がこるなぁ…

一休みする

「エルナード様、午前中で後五冊です。このままでは今日中に現在の魔国まで進みません。」


額から、いや至る所から噴き出す嫌な汗。

この真っ青な空を見よう。

窓の外には足が四本ある鳥が飛んでいる。

「エルナード様、次はこの本です。」

ズシッ


足の上に乗せられた先ほどより重量感を増した本。

そしてベッドの反対側に積まれた本の山。

朝起きるとクレアさんから今日の分はここまでです。と言われて頷いてしまったがやはり無理じゃないか?

時間的には夕方に終わる量だが、精神的に不安が募る。

朝ご飯も美味しかったし食事面では恵まれてるかもしれないが…

とりあえず今はとにかくひたすら読み進めよう。

ドアの横に次々誕生する本の山は気にしない。

集中、集中…



ーーーーー



うん、もう働かない。


俺の頭の処理能力は完全に吹っ切れた。


理解出来た事を自分なりにまとめると…



魔国はヨシトゥーネ以降平和がしばらくは続くもやがて魔族至上主義者により他種族との大戦乱へ。その後は条約結んだりクーデター起きたりの浮き沈みを繰り返し、ベジャールは急進派の至上主義者だったため現在の外交は悪化の一途を辿る。

南の山脈では竜人と巨人族とドワーフ、

東の沼地ではアンデットとヴァンパイア、

北の湾岸ではウンディーネにドリアード

西の森林ではエルフと獣人

が建国して魔国との間で小競り合いが頻繁している。

王族に関してだがベジャールは僕を召喚したラスヴァインさんの従兄弟にあたり、前魔王つまりはラスヴァインさんの父が崩御した時はまだ若過ぎたラスヴァインさんに代わり一時的な魔王に就任した。

彼はラスヴァインさんを軟禁し、婚約。

暴虐、悪政の限りを尽くした…




ラスヴァインさんはその中でも身の回りを専属の騎士で固めて性交渉だけはさせなかったが、奴隷から貴族の娘まで妾としたベジャールには子がたくさんいた。


これからはクレアさんの個人的な見立てだが次代の魔王の座が現実的なのは俺を含めて四名いる。




まずは継承権第五位のディオル王子、母親は前宰相の娘で政務部にパイプがあり、頭も良い。主に中央貴族に人気がある。、問題点は父親に似て女癖が悪い、賄賂や汚職の噂が絶えないことだろう。



次は継承権第八位のファルナ姫、母親は高名な魔術師で魔術院の序列で現役学生ながら五位に収まっている。主な支持層は女性。問題点は負けん気が強く融通がきかないことろ。



最後に継承権第十位ガスター王子、母親は高級娼婦で元農民。現在は若くして副騎士団長の座に着いている。義理に厚く努力家。支持層は平民。問題点は魔族至上主義者で敵対する部族を徹底的に滅ぼすこと。



最後に俺。暫定継承権第一位で他の候補者と違い後ろ盾が無いため拮抗した魔術院、政務部、騎士団の関係を中立出来る。また民衆から絶大な人気を誇る王女様が遺した人物というのも大きい。欠点は内情をよく知らない、人間であるということか…



「とりあえず今日はこのくらいにしておいてあげましょうか…」



とりあえずって…


パチッ。


部屋の入り口にある何かのスイッチらしきものを触ると部屋の灯りが全て消える。


「では、また明日起こさせていただきます。」


「クレアさん、おやすみ」


一礼して立ち去る彼女を見送ると月明かりの元に取り残される俺。


なんもすることないし、疲れたからとりあえず寝よ………







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