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第一章 召喚

拙い話ですが読んでいただければ幸いです。

真っ赤な空に僕は何を想う



出逢い



光が見える…


なんだか…暖かくて…


俺は不思議と手を伸ばした…




ーーーーーーーーーー



「女王様!?後少しです!少しの間我慢してください!!」


闇に包まれた体育館ほどの広さをもつ地下にある広間では巨大な魔法陣が淡い光と共に出現していた。


そして円の縁に並ぶ黒いローブを被った人影と煌びやかなドレスを纏った王女は誰一人例外なく玉の汗を浮かべ魔力と呼ばれる力を送り込み続けている。


膨大な時間と大金を出して手に入れたA級魔石120個は儀式を始め出してから一つ、また一つと割れて力を失う。


むらが出ないように均等に魔力を行き渡らせるだけのコントロールが本来の仕事だが、条件を欲張ってしまったことで魔石が足らず自らも魔力を放出するようになってからかなりの時間が経ったにも関わらず召喚はまだ終わっていなかった。


「ありがとう…状況は厳しいけど…もう少し………頑張りましょう。」


王女はその美貌を歪め、言葉を一句一句絞り出す。


パキンッ


また一つ魔石が失われる。


負担はもう限界に近付き、共に力を注ぐ精鋭の魔術師達が一人でも欠ければこの儀式は失敗するだろう。


永遠にも思える時間の中で中心を見つめるいくつもの瞳。


そしてついに。


ピキッ


皆が自分の近くにある魔石を探しながら負担が増えることを察知し、諦めの表情を浮かべる。


しかしひびが入った魔石は見つからない。


すると控えていた女中の一人が息を呑んだ。

「あ、あそこの床っ!!」


その指の直線上にあったのは微かなひび。


そして皆が見つけた瞬間、また音を立ててひびは広がった。


枯渇していく自らの魔力を全力で注ぎ込む。


加速度的に広がっていくひび。



そして光ははじけた。



ーーーーーーーーーー



目を開けると俺の前に深紅のドレスを纏った美女がいた。


額からは大粒の汗を流し、今にも死にそうなのにその目は俺を捕らえて離そうとしない。


侍女が慌てて彼女の肩を支えて立たせる。

引き寄せられるように勝手に歩を進める俺の足。


後、一歩というところまで迫ると、

「止まれ。」

という言葉で俺は停止した。



「あなたの年はいくつ?」


『18…』


「18歳…結構若いのね。魔術回路パスはちゃんと繋がってるみたい。」


『あれ俺今喋ったか?』

『召喚の副作用ね。それが魔術回路パスよ』


俺の内側に響く耳にしたばかりの彼女の声。


『突然呼び出してしまったものね。ごめんなさい。召喚した者とされる者に魔術回路パスが結ばれるのは当然のことなの。』


『はぁ…そんなもんなんだろうか…』


『あなたまるで魔術を知らなかった建国の父、ミナトみたいね。』


『魔術?』


『あら、本当に知らないのね、魔術回路パスが召喚主と使役される者の間に繋がれるのは当然なんだけど…』


『召喚主…?なんのことだ?』


『後で聞けばいいわ。自己紹介が遅れたわね。私はストラ帝国の王女、ラスヴァイン・ストラ・ニルヴァよ。』


『俺は…だれだ?』


『思い出せないんじゃない?この世界では今日からあなたはエルナード。エルナード・ストラ・ニルヴァを名乗るの。』


『エルナード…俺の名前?』


『そうよ、あなたには私の代わりに夫で82代魔王ベジャールを殺して魔王になって欲しいの。』


『自分で殺せばいいんじゃないか?なんで俺が…』


『それも後で聞いてちょうだい。最後に召喚に答えてくれてありがとう。私はあなたを愛してるわ…さようなら…私の最初で最後の子』

彼女の目から光が失われていく。



『おい、しっかりしろ!』


「クレア…後は頼んだわ。名前はエルナード、18歳よ…」

ゲホッ


吐血。

大きく吐き出した血液は中空で粉々になり、光となって魔法陣へと吸い込まれていった。


白磁のような肌を赤黒い血液が滴る。

だが一滴たりとも地面に落ちることなく光の粒に変化する。

ある意味幻想的な光景だが、俺には着実な死の侵食に見えて気持ち悪い。


「もう、長くないのですね、ご主人様…覚悟はしていましたが…」


「…そうね。後はおじ様とアンジェによろしく伝えて…」



最初に異変があったのは眼だった。

光を失い、黒ずんだかと思うと今まで鳶色の瞳が埋まっていた場所がブラックホールの様に収縮、瞬きの間に眼球の位置には空洞が。


そして涙のように決壊した血の滝。


『ごめんなさい。この国を立て直すにはこれしかなかったの…また紅の国で会いましょう…』


彼女の足が消える。


趣味の悪い犠牲だ。


整った彼女の体に小さなブラックホールが生まれ収縮すると、次の瞬間には光の粒子となり消滅していく。



右腕が消えた時、立派な装飾を山ほどつけた杖は甲高い音を立てて倒れ、粉々に砕けた宝玉は彼女の身体と同じ様に魔法陣へ消えていく。

彼女を構成した物質は全てが塵となる。


数秒後にはそこには王女ラスヴァイン・ストラ・ニルヴァの身につけていた深紅のドレスだけが冷たく広がっていた。





ギィ…


「こんなとこへ呼び出して何のようじゃ、ラス?」


魔法陣の淡い光が落ち、ろうそくのわずかな明かりだけになった部屋に一筋の光が挿した。


逆光になりよく見えないが確認出来る人影は三人。甲冑のような物を着た兵士と思われる二人と、守られているまるまる太った人間。


「これは…」

「貴様ら!何をしている!?」


殺せ…


殺せ…殺せ…殺せ…


殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…



頭が膨大な殺意で浸食されていく。


あいつだ。


先ほどまでの曇りきった思考は急激に澄み渡っていく。


あの兵士達に守られてるでっぷり太ったジジイがベジャールに違いない。


おれは訴えかける欲望に従って右足を踏み込む。


爪先は冷んやりとした石床を捕らえ、そのまま抉る。


さっきと違って体が羽根のように軽い。


遅れて聞こえる軽い足元の床が弾ける音。

二十メートルはあったはずの距離が一瞬で詰まる。


かろうじて脇に立つ一人の兵士が反応するも、上段に構える余裕もなく中段から身を屈めて突っ込む俺を捕らえようとする。


振り下ろされる両刃の剣。


タイミングはどんぴしゃ。


でも見える。

力が乗っていないからか右手の親指と人差し指で挟んだ感覚は軽い。


剣先を掴んでそらす。

そのまま、左足を踏み込んで

右足の上段蹴りを顔面に決める。


俺には側面を覆う兜が歪み、その中の顔が弾けるのが見える。


廊下まで吹き飛ぶ兵士。


「リック!くそっ!」


俺に向かい虚空から30センチほどの火の玉が生まれ、飛ぶ。


さっきの剣先よりは早いがまだ遅い。

少しだけ首を傾けてかわせる。


髪が少し焦げるが、体を倒してリックとやらの剣を借りる。


左下からの逆袈裟斬り。


流石に反応し、斬線が重なる。


だが、押しきって両手ごと剣を跳ね飛ばす。


俺も剣を投げ捨て、体を倒したままガラ空きになった兵士の体の中心に右足の裏を押し込む。


踏み込む左足の爪先。

腰のひねり。

筋繊維の一本一本が躍動する。


先ほどより上手く力が乗った一撃は鎧をぶち抜き、石壁に兵士をめり込ませる。


「なんなんじゃこれはっ!おい!わしを助けろ!!来るな!こっちへ来るなぁぁ!!!」



腰を抜かしたベジャールは失禁しながらへたり込み、必死に後ずさりしている。

グチャグチャに汚い顔を見せて助けを請う姿には暴虐王と呼ばれた彼の名残はなかった。

俺は目の前で震えるベジャールを内なる衝動に従って全力で顔面を思いっきり蹴り飛ばした。


壁に真っ赤な華が咲き、目の前で血を吹き出す噴水が出来たのが確認出来ると、俺は意識を失った。






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