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◆絶滅寸前の人間は、魔族の友達に会いに行く  作者: 駄文職人


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2/15

商会の始まり

 百年前、魔族との長きにわたる戦争の末、魔王に挑んだ勇者は敗れ、人間の国は滅んだ。


 生存圏を押し広げた魔族が新人類として社会の中心に君臨し、かつての覇者であった人間種は旧世代の残り滓として大陸の片隅に押しやられた。


 ――アーラルク大森林。


 強力な魔物が巣食い、冒険者すらめったに奥地へ足を踏み入れぬ危険地帯。魔族の誰もが寄りつかぬこの魔鏡の奥深くで、今なお人間種はひっそりと、しかし確かに生き延びていた。





「聞いてんのかよ。怪我は?」


 人間種の少年ラスラがしきりに驚くばかりでこちらの質問に答えようとしない少女に苛立ちの色を滲ませると、彼女はようやく我に返った。


「ご、ごめんなさい。お陰様で無事よ」

「そりゃあ良かった」


 ちゃんと受け答えもできる。見たところ逃げた時にできたであろう擦り傷はあるが大きな怪我もなさそうだ。


 それでもなかなか降りてこようとしない少女にラスラはあ、と思い至る。


「川ならあっちにあるよ」

「ちっ違うわよ! 失礼ね!?」


 下の問題はないらしい。

 木の上の彼女のことはひとまず置いておいて、魔熊の喉元に刺さったままのナイフを引き抜いた。


「やっぱり一撃とはいかねぇなぁ」


 今の戦闘、恐らくラスラの師であったなら最初の接近で魔熊の首を落としていたはずだ。

 身長が伸び悩んでいるラスラにはどうしても体格分の筋力が足りない。ナイフを楔に脊椎を貫くので精一杯だ。

 手拭いでナイフの血を拭き取っていると、少女がそろそろと木から降りてくるところだった。


「あの……」

「ん?」

「助けてくれて、ありがと。……でも、なんで?」


 質問の意図が分からない。

 首を傾げていると、言葉足らずに気が付いたのか少女は続けた。


「わたし、見ての通り魔族よ。魔熊の目を射抜くほど目の良いあなたが気付かなかったはずないでしょう。どうして人間種が、助けてくれたの?」




『君は人間種だろう。なんで魔族を助けるんだ?』




 昔、似た質問をされたことがあるなとぼんやりと思いながら「別に」とラスラは素っ気なく答えた。


「魔熊は執念深いんだ。一度獲物を見定めたら仕留めるまで絶対諦めない。数日かけたって追い詰める」

「あ……」

「余計なお世話なら悪かったよ。困ってるように見えたから、助けた。それだけだ」


 魔族だとか人間種だとかは関係ない。この森はラスラの庭だ。自分なら手を差し伸べられる、そう思ったから手を貸した。

 一度追い払っても魔熊は彼女を逃しはしない。殺すしかないから狩った。


 それ以上の理由はない。


 慌てて少女は手を振って「違うの!」と否定した。


「気を悪くしたならごめんなさい。感謝してるの、雇った護衛はみんな役立たずだったから……」


 言いながら少女は苦い顔をする。さすがに一人で森に入るような自殺志願者ではなかったらしい。


 時折森の中を探索している魔族の冒険者たちとは違い、武器となるものを何も持っていなかったから不思議に思っていたのだが、護衛がいたというのなら手ぶらでもまだ理解できる。


「あー。魔熊にやられた?」

「いや。魔熊と鉢合わせした途端、逃げやがったのよ。わたしだけ置いていかれたの」

「そりゃあ……ご愁傷様」


 大した護衛がいたものだ。


「何がランクBのベテランよ。あんな腰抜け共に前金だけ払わされて、とんだ大損だったわ!」


 地団駄を踏んで語気を荒げる。「あー! 今思い出しても腹立つ!」と叫んだ。


 栗色の髪を翻し、くるりとラスラを振り返る。


「わたしはヴィーネ、駆け出しの商人よ」


 手の平を見せられ、今度はラスラの方が虚を突かれた。

 これまでも何度か魔族を助けたことはあるが、初対面で握手を求められたのは初めてだ。


「ラスラ。狩人だ」


 出しかけた手が血に濡れているのを思い出して、手拭いでぬぐう。


 それでもまだ汚れている手は、思いの外強い力で握られた。


 青い瞳にじっとラスラを映し、ヴィーネはにっと笑う。


「狩人なら良かった。ねぇ、わたしに雇われない?」

「へ?」

「森にたった一人取り残されて困っているの。他所から来たばかりで土地勘もないし、あなたの力を借りられたらありがたいんだけど?」


 どうやら町までの護衛を依頼したいらしい。

 勢いに押されて頷いてしまった。


「報酬は金貨五枚、あの役立たず共に払った前金と同じ額よ。恩人だし本当はもう少し上乗せしたいけど、今あまり持ち合わせがなくて」

「いらん」

「他で何か埋め合わせできたら……って。何ですって?」


 聞き返されたので、ラスラは言い直した。


「だから、いらねぇって」

「はあ!? いやいや、そういう訳にはいかないわ! 助けてもらっておいて対価を払わないなんて商人の名折れよ!!」

「そうは言われても、魔族のお金なんかもらっても困るって。使い道がないし」


 こちとら絶賛鎖国化している人間種である。外部との交流がない以上、魔族の硬貨などただの鉄屑も同然だ。


 そう説明すると、ヴィーネは顎に指を当てて考え込む。


「なるほどね。それじゃあ確かに金貨で払っても意味がないわね……」

「どうせ送ってくつもりだったし、気にすんなよ」

「嫌よ。わたしの気が収まらないわ」

「そう言われてもなぁ」


 どうあっても引き下がる気がなさそうなヴィーネに、困り果てたラスラは「じゃあ」と魔熊の骸を指差し、


「こいつを解体するのを手伝ってくれよ。あんたがいれば持ち帰れる肉が増える。それならいいだろ?」


 肉体労働という代わりの対価を提示した。





 明らかに良い育ちであろうヴィーネだが、魔熊の解体について一言も泣き言を漏らすことはなかった。

 ナイフの刃を入れる時はさすがに青い顔をしていたが、目をそらさずにラスラの手元を観察していた。


「手際、良いわね」

「早くしないと血の匂いで狼が寄ってくるからな」


 大腿部の肉と、いくつか素材になりそうな部分だけを切り出す。

 今日は兎肉もある。充分な成果である。


「結構ガタイの良い熊だったから、毛皮を剥いで絨毯とかにしても良いんだけどな。さすがに持ち帰れないから諦める」

「もったいないわね」


 同感である。せっかく森からいただいた命だ。できることなら有効に使い尽くしたい。


 だがここから集落までずいぶん距離がある、人を呼びにいって帰ってくるまでに狼や鷹などに荒らされる可能性が非常に高い。かといって二人でこの巨体を運ぶのは現実的ではないだろう。であれば、悔しいがこのまま自然にお返しするのが一番良い。


「その代わり、取れるところは全部取るよ。こいつの胆嚢は薬に使えるんだ」

「魔石は? 取らないの?」

「取ってもいいけどなぁ。……まあ、あんたがいるから無駄にはならないか」

「ヴィーネ、よ」


 はいはいと適当に返事をしながら、心臓にほど近い場所にある魔石を回収した。

 作業を終えると、取った素材や体を洗うために近くの川へ移動する。


 後片付けの間、肉は縄に繋げて適当な枝にぶら下げてある。他の作業をする間に少しでも血抜きを済ませるためだ。

 ナイフを水に浸けて洗っていると、手を洗い終えたヴィーネがそばに寄ってきた。


「気になっていたんだけど、そのナイフ何か仕掛けがあるの? 魔熊って頑丈な上に身体強化を使うから刃物は通らないって聞いてたんだけど」

「場所によるし、死んだら身体強化は消えるからそこまで硬くない。ナイフ自体はそこまで特別な作りじゃないよ」

「ちょっと見ても良い?」


 と言うので、ラスラは水を軽く払ってヴィーネに手渡した。


「確かに、普通のナイフだけど……って、ちょっと待って。この素材」


 みるみる驚愕に目を丸くする。


「光で青く反射する金属、間違いない。魔鋼じゃない! この刃の部分、魔鋼を使ってるの!?」

「鉄も混ぜてるけど、元はオリハルコンらしい」

「オリハルコンっ!?」


 中に含まれた魔素の純度の高い魔鋼を一般的にオリハルコンと呼ぶ。扱いが難しく、熟練の鍛治師しか練ることができないという。


 このナイフは狩人の家に子どもが生まれる時に御守りとして贈られるもので、ラスラも見習いを終えた十歳の時に正式に持つことを許された。


「オリハルコンっていえば入手難度SSの希少素材じゃない!! こんな貴重品、解体で使うんじゃないわよ!?」

「道具なんだし、使わなかったらもったいないだろ」

「そうなんだけど……いや、でも! そうなんだけどっ!!」


 何やらヴィーネが苦悩している。忙しい人だ。


「何言ってんだよ。同じ素材なら斧でも使ってるぞ」

「オリハルコンを斧に使ってんの!?」

「あぁ。魔物の頭かち割るのに便利なんだ」

「それ斧の使い方合ってる!?」


 どうなってんの、人間種!? とヴィーネが悲鳴を上げた。


 魔物肉は森の中において貴重なたんぱく源である。


「どうりで魔熊に刃が通るわけだわ。オリハルコンは高い魔法耐性を持つって言われているもの。きっと身体強化魔法ごと切ったのね」


 まさか同じ素材でナイフや斧作ってるとは思わなかったけど、とヴィーネは呟く。


「お国が変われば物の価値が変わるっておじい様は言っていたけど……人間種ってだけでこんなに変わるもの? でも、少なくともラスラは……」


 ヴィーネはじっと何かを考えていた。


 その間にラスラはナイフを鞘に戻し、洗い終えた素材たちを丁寧に手拭いに包んで腰のポーチの中にしまい込んで片付けてしまう。

 そして、残しておいた魔石をほいとヴィーネに差し出した。


「やるよ」

「えっ」

「いらねぇから」

「ダメよ、受け取れないわ!」


 ヴィーネはものすごい勢いで首を振る。


「欲しかったんだろ?」

「だって明らかに一級品じゃない! こんなに魔力が満ちて……」

「だから、だよ」


 ラスラはずいと魔石をヴィーネに押し付ける。


「魔力が満ちているから、人間種には使えないんだ」

「あ……」

「邪魔なら捨ててくれ」


 似た容姿、同じ言語形態、それでも人間種と魔族が明確に違うところは、魔法を使えるか否かにある。


 魔族には生まれつき魔臓と呼ばれる、魔素を取り込んで違うエネルギーに変換できる器官を持つ。魔臓を持つが故に魔族は魔物と同じように魔法を使用することができる。魔熊に追われながらもヴィーネが何とか一人逃げ続けることができたのも、足に魔力を込めて早く走ることができたからだ。


 だが、人間種には魔臓がない。


 それどころか魔素に対する耐性をほとんど持たない。長時間魔素に晒されると体が耐えきれず不調を訴え始め、最悪死に至る。


 魔法に愛された魔族と、魔法に嫌われた人間種。


 先の戦争で人間種が淘汰されたのも、この違いが大きな戦力差を産んだためとされている。


 魔物からとれる魔石は魔族にとってのエネルギー源である。更に、魔道具などの日用品にも多く取り入れられていることから利用価値が高い。これほど大きく、ほとんど魔力を消費していない魔石は高く売れるだろう。


 だが、人間種にとってこれは毒を撒き散らす危険物以外の何物でもない。


 ラスラはそれを分かった上で、ヴィーネに譲るつもりで取り置いてくれていたのだ。


 ヴィーネは恐る恐る、まだ温かい魔石を受け取る。

 拳大の大きさのそれを見つめ、ヴィーネは口を尖らせた。


「……借りを返すつもりが、もらってばかりじゃ面目が立たないじゃない」

「おれはいらねぇもんを押し付けただけだよ」

「ねえ、欲しいものとかないの? わたしが手に入れられるものなら必ず用意するわ。商人の誇りにかけて」

「そうは言われてもなぁ……あ」


 断ろうとしていた口が止まる。

 その目は昔見た夢を思い出すような、諦めていた何かを誤って掬い上げてしまったような、懐かしさと虚しさを帯びていて。


 だがすぐに「いや、やっぱなんでもない!」と誤魔化そうとかぶりを振った。


 だがヴィーネは逃すまいと食いつく。


「何よ? 何でもいいわ! 欲しいものを言ってちょうだい! もしすぐに見つからないものでも、わたしの人脈全てを使って探して見せるから」

「いいってば。物じゃないんだよ」


 じっとヴィーネに見つめられて、ラスラは決まり悪そうに目を逸らす。

 それでも圧力をかけるように沈黙すれば、彼は根負けしたようにため息をついた。


「……人を、探したいんだ」


 ようやく話し始めたラスラの声は小さかった。


「一人は魔族で、おれの友達。ガキの頃に会ったっきりで、もうずいぶん会ってない。探しに何度か町に行こうとしたことがあるけど、人間種じゃ町の中にも入れてもらえなかった」


 ふらりと森に迷い込んだ魔族の子どもだった。

 ある時村の狩人に保護されて、しばらく村で過ごしていた。同年代がほとんどいない中で、ラスラにとっては唯一年の近い友達だった。


 やがて魔族の町に返された彼は、それ以来森に来ていない。


 あいつは今、元気に過ごしているだろうか。もうずいぶん昔の話だ、きっと『約束』のことなど覚えていないだろうけど、以前に人間種の子どもと一緒に森を駆け回ったことを少しでも記憶に残しているなら、会って話がしてみたい。


「大切な友達なんだね」


 ヴィーネの指摘に、自分でも驚くほど素直に肯定していた。


「おれに魔族のこと、外の世界のことを初めて教えてくれたやつなんだ。おれ、森の中しか知らなかったからさ」


 彼に、世界の広さを教えてもらった。


 別次元の住人だとばかり思っていた魔族が、人間種とそれほど違わないこと。魔法のこと。森の外の暮らしのこと。

 代わりに森での生活のこと、魔物の狩り方、人間種のことを教えてやると彼は興味深そうに聞き入っていた。


 自分の世界は狭い、と二人は口を揃えて言った。

 ならば一緒に世界を見に行こうと互いに拳を打ちつけ合った。


 過ごした時間は短くとも、二人は間違いなく親友だった。


「一人はってことは、もう一人いるの?」

「おれの親父」


 ヴィーネは目を瞬かせた。


「ラスラのお父さんって、その、人間種よね?」

「そう。おれが物心つく前に村から飛び出したらしい。死んでるのか生きているのかも分かんねえ」


 肩をすくめるラスラは存外淡白だった。


「そっちは正直、あんまり期待してない。十年以上帰ってこないヤツだもん。おれは顔も覚えてないんだ」

「でも、お父さんでしょう? 会いたいんじゃないの?」

「まあ、まだ生きてるなら会いたいかな」


 ぐっと拳を握って見せる。


「もし会ったらそのツラをぶん殴りたい」

「な、なるほど」


 自分を置いて行った顔も知らぬ父親には、むしろ恨みつらみの方が勝っている。


「人探し、か。しかも二人とも、魔族の協力がないと難しいわけね」


 ラスラの友達はともかく、父親の方も森を出たというのならば魔族の町に紛れている可能性は高い。


「別に無理ならいいよ」

「バカ言わないで。一度言ったからにはやり遂げるわよ」


 だが、情報が少ない上に古い。二人ともラスラが会ったのは十年以上前だ。今の顔も背格好も分からない以上、探すのは容易ではない。

 だからラスラもあまり期待していない。期待しなければ、やっぱり無理だったと言われても仕方ないと諦められる。

 しかし、ヴィーネは諦めていなかった。


「ねえ、私の夢の話をしてもいい?」


 ヴィーネが声を弾ませて言った。

 近くにあった大きな岩の上に軽やかに飛び乗り、にんまりと笑った。


「私ね、大商人になりたいんだ。自分の名前で店を出して、商会を大きくして、世界中どこに行ってもみんなが知ってる〈ヴィーネの商会〉にしたいのよ。この森に来たのも、商品になる素材がないか探すつもりだったの」


 この森は強力な魔物が棲まう魔鏡。

 滅多に魔族が寄り付かない未知の領域でなら、誰も見たこともない物があるのではと考えたのだという。


「わたしの店に置くのはただ売れる商品じゃダメ。見た瞬間にワクワクして、お客さんが笑顔になれる、そんなキラキラしたものでなくちゃ。こんなこと言うと、家族にも周りにも笑われちゃうけど、でも! わたしは自分の理想を諦めたりしない。〈ヴィーネの商会〉は人々に希望をもたらす店でありたいのよ」


 手を広げて語る彼女はとても眩しく、輝いていた。


『ぼくはいつか自由になりたい。世界中を冒険したいんだ』


 かつて同じ森で夢を語った友のように。


「ね、ラスラ。あなたの獲った素材、わたしに売らせてくれない?」

「えっ」


 ラスラは目を見開いた。


「わたしは素人だけど、ラスラの腕前はきっとAランク級の冒険者に匹敵するって思う。強さだけじゃない、素材を切り分けるのも丁寧だったし、あなたの仕事は信頼できる。もちろん、全て寄越せって話じゃないわよ? この魔石みたいに、取れたけど使えないものをわたしの店に置かせてもらいたいのよ」


 ヴィーネは熱意そのままに身を乗り出してくる。

 それを押し留めながらラスラは「いや、無理だって」と首を振った。


「おれは人間種だぞ! 人間種のとったもんなんか誰も欲しがらないだろ」

「逆よ、人間種の手でとれた素材ってめちゃくちゃ珍しいのよ! しかもそれが最高品質だったら? きっと話題になる! 少なくとも、わたしが絶対に売ってみせる」


 そんな簡単にいくはずがない。人間種だから、珍しいから、なんて理由で売れるなら誰も苦労しない。


「それに、町でわたしたちの商品が有名になれば、あなたが探してる人たちの耳にも届くよ」


 はっとしてラスラは顔を上げた。

 全く今まで考えつきもしない発想だった。

 言葉を失ったラスラに、ヴィーネは畳みかけるように言う。


「家族だって、友達だって、きっとあなたの存在に気づく。待ってるだけじゃ会えないなら、あなた自身が動いて知らせなきゃ! 『おれはここにいるぞ』って!」


 幼い頃に森で出会った、あの変わった魔族の友達。 森から出たきり帰らない、父親。



 おれが声を上げたら、気付いてくれるだろうか?



 少なくとも――どうせ自分がここでくすぶっていても、何も変わらない。 なにより、目の前で夢を語るヴィーネの言葉は、理屈を全部吹き飛ばすようにまっすぐだった。


「わたしと組もう、ラスラ。わたしの夢を叶えるのも、あなたの探し人を見つけるのも、きっと一緒ならできる!」


 ヴィーネの手が、差し出される。

 綺麗で華奢な手。けれど、迷いのない手だった。


 魔族と一緒に、よりにもよって商売。自分には関係ないと思っていた世界。


「……そこまで言われたら、しょうがねーな」


 ラスラはその手を確かに握った。


「乗ってやるよ、ヴィーネ」

「ホント!?」


 やった! とヴィーネは無邪気に声を弾ませた。



 こうして、森の片隅で交わされた小さな契約が、やがて世界を揺るがす商会の始まりとなるのだった。

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