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◆絶滅寸前の人間は、魔族の友達に会いに行く  作者: 駄文職人


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10/15

再会

 城壁の外に出てみれば兵士たちと冒険者たちが集まって既に応戦していた。


 だが有効打を与えられずにいる。


 飛び回るワイバーンに魔道砲や魔法を当てるのは困難を極めた。町の兵たちが次々と魔法と魔道砲で応戦しているが、空を自由に飛ぶワイバーンはそのすべてをひらりとかわしてみせる。


「早すぎる!」

「軌道を予測しろ! 先回りして撃つんだ!」


 それじゃダメだ、とラスラは思った。


 低級とはいえ竜の端くれ、制空権はワイバーンにある。あれは放たれた魔法を目視してからでも十分に回避ができてしまう。


 んー、とラスラは考える。


「弓矢じゃ狙いが定めにくいし、風魔法で阻まれて逸れる。やるなら……」


 ならば、とラスラは崩れた壁面を駆け上がる。

 上りきると見張り用の通路に出た。


 ちょうど壁の整備用と思われるロープが床に打ち捨てられているのが目に入る。


「これ、借りる!」

「うわっ、なんだお前!」

「通りすがりの狩人だよ!」


 ロープの端に、ヴィーネの鞄から取り出した物をしっかりと括り付ける。


 振り回しても取れないことを確認して、ラスラは落下防止の塀の上に飛び乗った。


 ワイバーンが喉を膨らませて火玉を吐こうとしているところだった。


「うりゃ」


 ロープをブンブンと回し、投擲。


 飛ばされた火玉の動線に割り込んだ黒塗りのそれは、ガァン!! と良い音を立てて火の玉を上に打ち上げた。


「なっ……!」

「ありゃなんだ!?」


 兵士たちは宙を舞ったそれを見て、あんぐりと口を開けた。


「「ふ、フライパン……」」


 先程品質審査を通過したばかりの、魔法を跳ね返すフライパンである。


「さすがガンジじいちゃん、良い仕事する」


 ロープを手繰って戻ってきたフライパンは傷一つなかった。

 モーダルと組んで質が上がったのではないだろうか? 握ったフライパンは家にあるそれよりも軽い。


「個人的にはもう少し先が重い方が投げやすいんだけどなぁ」

「投げる前提!?」

「いやそもそもおかしいだろ!? フライパンで火を打ち返せる訳あるか!?」


 叫ぶ周囲にラスラは平然と言い返す。


「何言ってんだよ。うちの村じゃ、ワイバーンが襲撃したら全員フライパン装備は常識だぞ」

「どこの村か知らんが、そんな常識知らない!」

「それどこ製!?」

「欲しかったらヴィーネに聞いてくれ。売るって言ってたから」


 ギルドからしょーにんが出たと言っていた。それさえもらえれば町で売れるのだとヴィーネが言っていたから、任せておいたら上手くやるだろう、とラスラは考える。


 一方、ワイバーンの火球を弾くようなフライパンが一般販売されるかも知れないと知った兵士たちの頭の片隅に「ヴィーネ」という名が刻まれる。



 数日後、元に妙に門衛たちからフライパンの注文が相次いで舞い込み、ひどくヴィーネが頭を抱えることになるのだが、別の話。



 思いがけず火球を打ち返されたワイバーンは虚を突かれて攻撃を止めている。


 やはり若い。ラスラの村を襲ったことのある個体なら、これぐらいの反撃ならすぐに立て直す。


 そしてこの距離なら、弓矢が届く。


 マントの下、背中に隠していた短弓を抜き素早く矢を放った。少し放物線を描いてワイバーンの上から背中を狙う。


 当然避けられるが構わない。もう少し壁の近くに誘導したかっただけだ。


 ラスラは矢を放つと同時に駆け出している。 塀の上部で助走をつけて見張り塔の壁を蹴り、そこから跳躍――


「りゃっ!」


 ナイフを振るってワイバーンの腹部に斬撃を与えるが、肉にかすり傷程度。


「うっわ、堅ぇ!」


 ワイバーンが咆哮と共に翼を打つ。風圧でマントが吹き飛ばされる。ラスラが空中で体勢を立て直し、地面に落ちる直前――


 空中に浮かぶ魔法の〈障壁〉の足場が出現した。


「……は?」


 反射的に着地してしまったが、透明な〈障壁〉の上ではまるで宙に浮いているような気分だった。


 懐かしい魔法だ。




「相変わらず無茶をしているなぁ、君は」




 静かな声。


 振り向きたかったが、「ちゃんと集中してよ」と先んじて注意を促されてしまい、ぐっと堪える。


「アレ、君なら落とせる?」


 訊かれて、上空を嘲笑うように飛び回るワイバーンを見上げる。


 どうせ攻撃はこちらには届かないとタカを括っている。


 ラスラははっきりと答えた。


「落とせる」


 戯れに飛ばしてくる火の玉に、城壁の内側は消火で大騒ぎになっていた。


 混乱させ、撹乱し、一気に下降して餌に襲いかかる。ワイバーンの狩りの常套手段だ。今は遊んでいるが、獲物を捕らえたらすぐに離脱してしまうだろう。


 背後から声が尋ねる。


「どうすればいい?」


 ラスラは簡潔に答えた。


「道が欲しい」

「了解だよ」


 パチン、と指を弾いた音がした。

 途端に無数の淡く輝く足場が、空へ向かって現れる。


「チャンスは一回だ。まさか失敗なんてしないだろうね?」


 挑発めいた声に、ラスラの頬が思わず緩んだ。


「言ってろ、バーカ」


 踵を鳴らす。

 カゲボウシが揺らめく。


「〈影食み〉、ーー足鴉」


 膝の上まで包み込んだ影がブーツをかたどる。カゲボウシによる脚力の強化。


 次の瞬間、ラスラは風を切って駆けた。


 障壁を一枚、また一枚。まるで空中を跳ねる獣のように、速度を上げて一気に上昇していく。


 まだ早く。もっと早く。


 その時、下からその様を見ていた兵士や冒険者たちは後に声を揃えて語る。


「アレはまるで空へ駆け上がる彗星のようだった」と。


 電光石火、迸る黒い閃光はジグザグに駆け上り、ワイバーンすらも越えて蒼穹に跳んだ。


 勢いそのままに縦回りしたラスラの眼下に、こちらを呆然と見上げる竜が見えた。


「〈影食み〉、ーー夜纏(よまとい)


 黒霧のような闇が繭のように包み込む。


 それはつまりカゲボウシによる強化の恩恵を全身に受けるということ。


 天を蹴る。


 たったそれだけの動作は、爆発的な加速を生む。


 閃光のような、天からの一撃。


 彼が知るはずもない。冒険者たちの間でささやかれる〈天撃〉という名そのままに、ラスラの剣が音もなくワイバーンの首を断ち切った。


 首を失った巨体は空中でもがきながら、門の外れに落下していった。





 歓声が遠くに聞こえた。


 ラスラは瓦礫の上に寝そべっている。


 夜纏による一時的な〈身体強化〉で大怪我を免れたラスラだが、ワイバーンを強襲した速度そのままに、崩れた城壁の残骸の上に落ちてしまった。


 上体を起こそうにも、全身が軋んでいる。


「あーくそ、……やっぱ慣れないな」


 夜纏は速度も威力も桁違いに上がるが、反動が酷い。一撃で決着がつくと確信が持てる時にしか使わないようにしているのだ。


 だけど、今回は仕方がない。

 あんな風に、煽られては。


「見事なもんだ」


 手を打つ音。


 倒れたまま顎を持ち上げれば、こちらに誰かが近付いてくるのが逆さに見えた。

 陽光に照らされ、銀髪が風に揺れている。


 背が伸びた。声が低くなった。顔つきも昔よりずっと大人っぽくなった。


 それでも、空みたいに深みを帯びた瞳もこちらを見下ろす悪戯っぽい笑顔も変わらない。


 ラスラはしばし見上げて、声をかけた。


「久しぶり、イオ」


 つい先ほどまで商業ギルドに監査官として査察をしていた青年は、十年以上ぶりの旧友を前に目元の笑みを深くした。



「久しぶり、ラスラ」


次回1月7日22:00に更新します。

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