第二章 第三幕 中 真の友情は
水族館の帰り道、夕焼けが私達を照らす。私は後ろにある伸びた影を何度も振り返って見た。金子は、いつもより少し後ろを歩いていた。歩幅が合わないわけじゃない。ただ、彼女は、私の隣に並ぶことを選ばなかった。「うまくいかなかった」それだけを言って、視線を合わせようとしなかった。声は小さく、風にさらわれそうなほど頼りなかった。
「あー......。ごめんね。失敗しちゃったね」
私はその場をやり過ごすように、そんな言葉を出してしまった。彼女は何も言わず、ただ立ち止まって、そして私を避けるように、駆け足で帰ってしまった。
休日が明けた月曜日から金子の様子はおかしくなっていった。私が話しかけようとしても、どっか行ってしまうし、最近、周りの女子からの目線が冷たい気がする。......何か私が悪いことをしたのだろうか。でも私がただ自意識過剰なのかもしれない。チャットで謝っても無視。話しかけようとしても無視。......手紙を置いても、別の友達から返されるだけ。
放課後、教室の窓から見える空は、どこまでも青くて、やさしかった。なのに、私の胸の中には、ずっと重たい雲がかかっていた。誰にも見えない、私だけの曇天。佐藤と話す時間が増えた。金子がいないから、自然とそうなっただけ。でも、教室の空気は、私の知らないうちに変わっていた。誰かが私のことを見ている。そんな気配が、背中にまとわりつく。振り返っても、誰もいない。けれど、笑い声が、ひそひそと耳の奥に残る。
その夜、夢を見た。水の中を、くらげが漂っていた。青白い光の中で、金子がこちらを見ていた。目が合った。でも、彼女は笑わなかった。ただ、沈んでいった。音もなく、泡のように。あの水族館の光景が浮かぶ。青白い光。くらげの群れ。水面に揺れる影。金子の横顔。あのとき、彼女は何を見ていたのだろう。私ではない、誰か。あるいは、もういない自分自身。
友情の裏側に、静かにひびが入っていく。音もなく、色もなく。ただ...この先に起こる『業火』に燃やされるとも知らずに、窓の外のダリアが揺れた。




