第4話 危険度《レベル》5の魔物 後編
前話に少し描写を追加。
「アインネさん、無事でしょうか」
聖女の魔法少女、セインツは風で自身のベールを揺らしながらそう独り言を零す。
そして、再び伸びてくる黒の触手に手をかざした。その触手の速度は更に速くなっており、音速の10倍程の速さに到達する。
だが、手をかざされ、聖なる光に触れたことによって、その触手も一瞬で弾けとぶ。魔物はそのことに狼狽えつつも、本体が自らセインツに向かって動き始めた。
次に、セインツが手を振りかぶると、空に超大規模な幾何学模様の魔法陣が現れる。
「『神聖属性付与』」
そう唱えると、魔法陣は神々しい光を帯びる。
魔物は命の危機を感じたのか、向かっていた動きを180°回転させ、逃げ始めた。
あくまで、魔物の目的は”生存”。命を捨ててまで戦いたいわけではないのだ。
そして、そのを狙ったのか、セインツは振りかぶった手を魔物に向け、唱えた。
「『裁け』」
幾何学模様の中心にある空間から光が現れる………と共に、魔物に向かって柱のように追跡する。
魔物はとっさに触手を使って地面を掘り始めそこに潜り込んだが、裁きの光はそこも見逃さない。光は静止したかと思うと、地面にいる魔物を貫き―――。断末魔の叫びを上げる暇もなく消滅させた。触手で貫くことを得意としていた魔物にふさわしい皮肉な最後であった。
「ふ、ふぅ。これ以上の被害が出る前に仕留めることができました。………あっ、み、皆さんを治療しないといけません」
魔法陣を変えると、更に唱えた。
「『癒』」
大規模魔法陣から放たれた優しい光は人々を包み込み、傷を直した。ちょっとした擦り傷は勿論、骨折や部位欠損すらも治してしまった。
おぉおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
この夜空に神々しく照らされた奇跡の光に人々は歓声を上げる。
おぉおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
大歓声がそこら中から上がっている。
そんな中、私ことアインネはへたり込んで地面に座ってしまっていた。
「あーもう無理〜………」
「アインネ、素が出てるよ」
あ、やべ。疲れすぎてどっちがどっちかわからなくなった。
とりあえずは今日は帰らせてもらおうか。
「じゃあ、後はよろしく、アンニン」
「いや、アンニンって誰?」
何かを喚くアンニンを無視して帰宅の為に空間を圧縮させる。
「教えてよーーー!!!この浮気者〜〜〜!!」
遠くから何かを喚くアンニンの声が聞こえる。だが、一つ物申したい。
いや、アンニン以外の妖精の名前なんて知らないんだけど。ちなみに、アンチニュートンを略してアンニンね。
眠い………。
自宅から100kmほど離れた地点での戦闘だったから、流石に戦闘の余波は届かなかったのか、家は無傷であった。ほっと胸を撫で下ろしながら、変身を解いて窓から家の中に入る。
眠い………。
家では戦闘時間諸々を込めて1時間で帰宅したため、未だに情報が伝達していないのか、警報がまだ鳴っている。
眠い………。
んーーー?なんかさっきと別地点で危険度5の気配が―――。
zzz………。
『今すぐ避難してください!!もう一体危険度5の魔物が現れました!!今すぐ―――………zzz………』
その日、日本という国は滅亡するかのように思われた。
2体もの危険度5の魔物が連続して出現し、2体目の攻撃範囲は日本全域。
最早駄目か、と思われた時に、1人の少女が睡眠から目を覚ます。
「あー、あー。よし。久々に入れ替われたね。いつも頑張っているからナデナデしてあげたいところだけど、今は体を借りてるだけだから自分で自分を撫でるという意味わからないことになるんだよね〜」
彼女は変身すると、どこからか大鎌を取り出し、空へと翔ける。
「いやー。懐かしいね。この感覚。今の私じゃこうでもしないと感じられないのは少し悲しいけど………。まあ、じゃ、さっさと魔物を刈り取ろっか」
その場で大鎌を構え、振ると同時に能力を使う。
「全てを刈り取れ、『世界断絶』」
キィィィィィィィン
金属音に似た音が空間から鳴り、空間が割れ、世界がずれる―――。
彼女からかなり離れたある地点で空高く浮遊していた魔物はそのずれた世界に対応する間もなく2つになる。
そして、再生することなく魔物は消失した。
ずらされた世界はその修復力をもって、数秒のうちに元通りに戻る。
「うーん。久々にこれ使うとちょっと疲れるなぁ………」
そう、彼女は呟くと大鎌をしまい、パチンと指を鳴らす。
その時には景色が移り変わり、彼女の自宅に転移していた。そして眠いのか変身を解き、ベッドに入るとそのまま目を閉じる。
「お休み、アインネこれからも頑張ってね。………私の能力の継承者さん」
突然と現れた危険度5の魔物と、それを葬った何者かに人々は困惑することになったが、その真相についてわかる人はいないのであった。
聖女ちゃんは遠距離固定砲台型万能サポーターです。