5.聖女達の(黒)歴史②
王都の誇るルフレ宮殿は、広大な敷地に大小様々な庭園と幾つもの離宮を有している。王都クインテールのセントラル地区にあり、小高い丘と大きな湖に沿って建てられた宮殿は、一般に開放されている庭園の一つで、休日には市が立つこともあった。
市民に人気の名所でもある。
夜会が開かれている宮殿広間には、大勢の貴族たちが着飾り集っていた。広間から続く中庭にも人が流れ、天空にかかる丸い月が下界の宴を照らしだす。メインホールでは楽団の調べに乗って舞踏会が行われ、隣の小ホールではビュッフェ形式の晩餐が振舞われていた。
その小ホールで、トロワとコタは壁際のテーブル席でビュッフェを満喫中。それを集まった貴族達が白い眼差しで、遠目に窺っていた。
「あの、視線が痛くないですか」
「うん、でも気にしたら負けよ、負け。お腹いっぱい食べて帰りましょう」
「そ、そうですね」
コタは周囲を気にしながら、トロワは周囲を無視して、ひたすら食事に専念した。
今宵の夜会は、非公式に先のダンジョン攻略の成功を祝して開催されている。集った者達の中で、真実を知るのはごくわずか。
夜会の主役はフィーアとベンテ、ギータとノイアだった。4人はどこにいても輪の中心となり、フィーアがギータをエスコートし、ベンテはノイアをエスコートしていた。
ギータとノイアはそれぞれに着飾り、淑女を装い、フィーアとベンテは貴公子を演じた。
里桜とハイデルは、そんな4人を面白くもなさそうに眺めていた。が、イシアスが遅れてやってくると、里桜は途端に態度を変え、弾かれない程度まで近づいていった。
「イシアス様」
「里桜殿」
『スキルのせいですって』
里桜の私室で、着替えながらトロワはまだ里桜の話を聞かされていた。余程ストレスを溜めていたのか、里桜の饒舌は尽きず。
『私のスキルはあんたのようなお気楽なモノとは違ってね。「破邪の達人」というスキル持ちなわけよ。多少の瘴気を帯びてるマモノでもイチコロ。自分で言うのもなんだけど、私は強い。魔力量も測ってもらったらMP9200あったし』
『9200!凄いじゃない』
『でしょ、あと少しでこの世界でも数人しかいない第6位階の魔導士になれるって言われたわよ』
『へえ、人は見かけによらない典型よね』
『そうそう、どこからどう見てもおしとやか。じゃなくてっ』
『おしとやかとは言ってない』
『うっさいわね。だから、私が言いたいのは、界を渡って来た者は総じて優れた魔導士になれる魔力量を持っているけれど、聖女にはなれないってこと。スキルだけに頼ってダンジョン攻略なんてできないのよ』
里桜によると、破邪の達人は邪を許さない。またイシアスも腕っぷしは弱くても貴族の端くれ。一般人よりは龍人の血が濃く、スキルを2つ所有していた。それが「正道」と「革新」。
『いろんなスキルがあるのね』
『あるのよ、この世界には。それが私たちの恋路の障害になっててね』
話を理解したトロワがプッと吹き出した。
『笑うな。切実なんだから』
『要するにスキルが邪魔をしてHができないと』
『Hとは言ってない。ただ、手ぐらいは握りたいなあって、思うでしょ、誰でも』
里桜の顔は真っ赤になっていた。それを見てトロワは腹を抱えて笑った。
『悲劇よね、あはははは』
『笑うな!』
メインホールの正面奥にある玉座は、一段だけ高くなっている。ラルゴ王と妃のシアは気さくな人柄で、時には二人してダンスを披露することもあった。今は玉座で家臣達の挨拶を受けながら、ホールに目を向けていたのだが。
メインホール全体が重く、楽団が奏でる曲にまで影響しそうな、昏いオーラに包まれようとしていた。
皆が視線を合わさないようにチラチラと玉座を盗み見る。ラルゴ王とシアの傍らに、正装をした王太子ラウノの姿があったからである。この変わり者で有名な王子は夜会には滅多に顔を出さず、出てもいつもと変わらぬ服装だったりして家臣達を困らせていた。
それが今日は正装にシンラを帯剣し、メインホールを睥睨している。その姿に貴族の令嬢達の中には頬を染める者も多かった。だがしかし。
「ラウノ!嘘だろ、何であいつがここに」
ラウノの姿を確認したハイデルが、悔しさで親指を噛んだ。
「何だってあいつがここにいるんだ。南の島に飛ばした筈なのに。これだからこの国の魔導士達はボンクラばっかりなんだよ」
「残念だったね、ハイデル」
背後から囁きかけてきたのは、満面の笑みのフィーアだった。
「……$#%&」
フィーアの笑顔に言葉もなく。ハイデルはただ、ラウノをホールの隅から睨みつけた。
しかし、ラウノはそんな悪意にも気づかないほど、不機嫌だった。不機嫌オーラを全開にし、ホールを威圧。
前に座るラルゴ王が注意しようと振り返ったものの、あまりの不機嫌さに声をかけられないまま、顔を正面に戻した。隣に座る妃のシアが、軽くため息を吐いた。
正面を向いたまま、ラウノに話かける。
「その不機嫌をどうにかなさい。今日の夜会はあなたのお嫁さん候補を見つける機会でもあるのですよ」
夜会には各国からの招待客の姿もあった。
「母上のお言葉ですが、いらぬお世話です。まだ嫁などいりません」
二人は小声で会話していて、周囲には聞き取れなかった。ラルゴ王だけがしっかりと聞き耳を立てていた。父親としての威厳を保ちつつ。
「何に怒っているのです?」
「私がサーヘルに飛ばされたのはあれのボディーガードが役目だったからの筈。あれは目を離すと何をするか分かりませんよ」
「いや、お前が言うな…」
と、ツッコミを入れた父親を一睨みで黙らせたラウノに、シアはまたため息を吐き、
「私は詳しい報告を受けた訳ではありませんが…、とにかくトロワ様をあれと呼ぶのはお辞めなさい」
「あれはあれで充分です。何をしでかすか分からないから俺が側にいないとダメなのです」
シアは息子の変化におやおやと、内心では軽い驚き示す。これまで力のある者、剣豪とか武神とか最上位の大魔導士とかにしか興味を示さなかった息子が、珍しく女性に興味を示した。
確かに聖女の力を持つトロワを弱いとは断定できないが、守護する対象として誰かを思うのは初めての事ではないだろうか。
「ふふふ」
背後で不機嫌オーラ全開の愛息子の未来を思い、シアは微笑みを浮かべた。
アダ遺跡のダンジョン攻略直後――
サーヘルの村に戻った翌日。昼を過ぎても、スキルの大量使用で体力を消耗したトロワは目覚めなかった。
モリー達が心配して時おり部屋を覗きに行っていたので、昼過ぎまでは確認が取れていた。けれど、夕刻。部屋で眠っていた筈のトロワの姿がなかった。
ジル先生とミニゴーレムのレムは呑気にエンリケ宅で夕飯を食べていて、サーヘルに居た。
「ノゾミの扉を使ったのだろうな。けれどいつもの隠れ家にはいないようだ。あの地は厳密には精霊界の片隅だ。今はあの地にもいないと精霊たちが言っている」
目を閉じ耳を澄ましたジル先生の言葉に、老人達が慌て出した。
「とにかく、サーヘル以外で扉のマーキングを残しているのはどちらですか」
「新しくマーキングした可能性も捨てきれませんが、そうなると探し出すには骨が折れる」
エンリケとメヒティの言葉にレムも肯いていた。
トロワが扉のマーキングを残しているのは2カ所のみ。最初に冒険者登録をしたベルクスの街とアダ遺跡のダンジョン最奥の間だけ。
「遺跡に魔石を回収しに行った?」
イルムの憶測に全員が首を横に振り、
「ならば魔石を換金しに冒険者ギルドに行った?」
ガラの憶測に全員が「ああ」と納得を示した。魔石を入れたリュックも無くなっており、裏は簡単に取れた。すぐにメヒティとイルムがベルクスの知り合いに鏡魔法で連絡を入れ、ジル先生も配下のモノを飛ばして探索に入った。
ほどなくして、冒険者ギルドで魔石を換金しに来たトロワの目撃情報が上がり。銀貨1枚といくばくの白銅貨を手にしてホクホク顔で帰っていくトロワが確認されていた。
しかし、冒険者ギルドを出る寸前に、黒衣の女性に声をかけられ、しばらく揉めていたらしい。その後すぐに、トロワ諸共黒衣の女性は転移魔法で姿を消し、行方は知れず。
そこまでの情報が入ると、老人達にはさらに緊張が走った。
「その黒衣の女性に心当たりが?」
ジル先生の言葉に、エンリケとイルムが肯いた。
「おそらくは厄災の魔女と呼ばれる闇魔導士ギルドのギルマスで間違いないでしょうな。転移魔法を簡単に発動できる者はそう多くいませんので」
「ラパス州は河を挟んでヴィザ共和国と言う小国と隣接しています。特にベルクスの対岸にはヴィザの首都クルースという街がありましてな。そこは今無法地帯に近い状態にあるのですよ」
村の集会所に数十名の年寄り達が集まって来た。いつもは農作業や牧畜業をしている年寄り達だった。2階建ての集会所は、普段は古民家カフェのようなほのぼのとした雰囲気を持つが、事変があれば村の指令所へと変貌する。
大魔導士として名を馳せたメヒティの元、何カ所もの鏡魔法を発動し、目的地周辺を探索。転移魔法で座標を持つ近辺に偵察と工作隊数名を派遣。皆元は百戦練磨の武官文官たちである。動きには無駄がなく、統率も取れていた。
「クルースには現在ブラッディオラクルという邪神教の本部が置かれていましてね。我々は数年前からこの教団に興味があって探っていたのですよ」
エンリケが説明を進めた。
ラウノにも、ブラッディオラクルと厄災の魔女という名には聞き覚えがあった。
「危険な相手なのか」
ジル先生の問いに、答えたのはイルムだった。
「ブラッディオラクルは宗教団体という表の顔とは別に、3人の司祭に率いられた秘密結社という裏の顔も持ちます。我々は彼らをオラクルブラックと読んで区別していますが、オラクルブラックは得体の知れない組織です。各国で内乱や暴動を扇動し、彼らの行く所で必ず瘴気は深まっている。ということしか判っていないのです」
「少しは落ち着け、ラウノ」
エンリケの言葉で、ラウノは自分が集会所の中をイライラと歩き回っている事に初めて気づいた。近くにあった椅子に座るが、やはり落ち着かない。気分が態度に現れ、片足が絶えずジグリング。カタカタカタカタと小刻みに足を鳴らし続け、集会所全体にまで振動が伝わっていき。
「やめんか」
「止めろ、うっとうしい」
と、エンリケとジルフィリア両名から頭を殴られ、やっと止まった。
ヴィザ共和国は5年前に革命が起こり、王制から共和制へと移行した国である。しかし、実際には実権を握る指導者の独裁政治が敷かれ、その独裁者もまた、ある男の傀儡として生かされているにすぎない。
男の名はコラード。ここではブラッディオラクルの司祭、グロルと名乗っていた。
「あ、裏切り者」
黒衣の女性に転移魔法で連れて来られたのは、どこか見知らぬ礼拝堂のような所。空気が重く淀んでいて、室内も薄暗かった。
「何だ、お前か」
祭壇の近くに、黒の法衣を纏ったコラードがいた。顎の割れた顔が土色となり、体調が悪いのか、祭壇を背にして床に座った。
「話が聞きたいって言ってたでしょ。さすがにスターリーナイトのメンバーは拉致れないし、これで我慢して。丁度葱背負って歩いていたから連れてきたわ」
「人をカモ扱いするんじゃないわよ」
「あら、あなたこの言い回しが分かるのね」
「私の育った村ではおじいちゃんおばあちゃんがよく使ってました」
「村の名前は?」
「サ…フィリア村」
「聞いたことないわね」
「そんな事はどうでもいい。あの後、何があったか答えろ」
グロルの問いに、
「殆ど気を失ってたんで、覚えてないけど。聖女様が頑張ってたわよ、多分」
「聖女の力か…忌々しい。…くっ」
座り込んだままのグロルが顔面を抑えた。
「お怪我ですか」
トロワの問いは無視され、
「ネイロ、クーリアの聖女を始末してこい。あれは後々の災いでしかない」
「無理よ。私にはできないわ。王都には潜入できないし、人殺しは私の趣味じゃない」
「……もういい、そいつを連れて行け」
礼拝堂を出ていく途中で、トロワはふと悪寒がして振り返った。そこで見たモノは、瘴気の闇に溶けていくコラードの姿だった。
「ヒッ…」
思わず声が出そうになって口を押えた。
あれは見てはいけないモノだ。なけなしのトロワの直観がそう叫んでいた。
ネイロと呼ばれた女性の後にピタリと張り付き、礼拝堂を出てからは狭く薄暗い階段を上っていった。ほどなく階段の先に鉄の扉があり、開くとそこは、ネオンに彩られたカジノ併設のホテルだった。
ホテル「フローベルサンズ」。コラードのいた礼拝堂はカジノの地下にあり、入口受付横の扉に通じていたようだ。地下の淀んだ空気が流れ込んできているらしく、入口付近の空気が重く淀んでいた。
ネイロは無言のまま、客で混みあうカジノに入っていった。人を避けながら奥へと進み、スタッフオンリーの従業員専用通路に出て、さらに奥へと進んだ。トロワの時間の感覚がマヒしていたものの、おそらく深夜だろうと検討をつけた。
通路の先にあった従業員用エレベーターに乗り込むと、ネイロがやっと口を開いた。
「この世界にはもう慣れた」
「…何のことでしょう。私はジルフィリア村の出身で…」
「さっきはサフィリアって言ってたわよ」
「え、そうだっけ?」
「ふん、いい加減な聖女様ね」
「私、聖女、違う、ただの冒険者」
「何で片言になるのよ、変な子ね」
とネイロが笑い、笑うと雰囲気が丸くなった。長いストレートの黒髪に、色は白くても顔はそこはかとなく和風。黒のかっちりとしたロングドレスを着ているが、最初の印象からは怖さが半減していた。
「あなたひょっとして…」
「そう日本人。こっちに召喚されて15年になるわ」
「15年!」
「まあ色々あってね。着いたわよ、静かにしていて」
エレベーターを降りると、柄の悪そうな男が数名、カードゲームに高じていた。ネイロを見て口々に挨拶をする。
「姐さんお疲れ様です」
「お帰りなさい、姐さん」
ネイロはそれに軽く手を上げて応え、先に進んだ。眼球の落ち込んだ骨ばった男がすっと近づいてきて、ネイロに報告をした。
「クインテールに派遣した奴らからの連絡はまだありません。それとは別に昨日から要人暗殺依頼が2件といつもの発注リストが届いています。十代の少年少女なら容姿は不問とのことですが、いかが致しますか」
「後で検討するから返事は保留で」
「…了解しました」
トロワは知る由もなかったが、そこは闇魔導士ギルド(ダークパペッティア)の本拠地だった。ホテル最上階にあり、冒険者ギルドと良く似た造りのホールに、客室と同じタイプの部屋が幾つか。その一つの部屋の扉を開け、ネイロはトロワにも入るよう促した。
「レントなら言いつけ通り、まだ手を出してはいません。ただ、捕獲時にちょっと手違いがありまして。止血はしておきましたが、腹をやられています。うちにヒールを使う魔導士はいませんし、ポーションも持ち合わせがなく」
骨ばった男がそう告げるとニヒッと笑った。
「そう。分かったわ。尋問は私がするから、ミーガンは席を外してちょうだい」
「…了解しました。その女は?」
「彼女も一緒に尋問するのよ。聞きたい事があってね。だから邪魔は許しません」
ミーガンと呼ばれた男がまたニヒッと笑い、下がっていった。
部屋に入ると、ベッドに中年の男が横たわっていた。短い黒髪が汗で張り付いていて、片方だけのモノクルも汗で曇っているようだった。ベッドのシーツが血に濡れているのを見て、トロワは叫びそうになった。
咄嗟に手で口を押えたので悲鳴は飲み込んだが、男が誰なのか、何故自分がここにいるのかは、さっぱり不明のまま。
ネイロはベッドに近づくと、亜空間から水を取り出し、男に与えた。
「時間がないからよく聞いて」
男は朦朧としながら水を口にし、少し意識を取り戻したようだった。
「今からこの男を連れて逃げなさい、トロワ」
「へ?私に行ってるの」
「そう。あなたが彼を連れて逃げる」
このホテルのオーナーだという男の名は、レント・フローベル。ネイロの話によると、彼はクインティアから派遣された諜報員だそうだ。
「この国はもう長くないし、私ももう疲れたのよ。だからあなたに全てを託すことにしたわ」
そう言って薄い笑みを浮かべるネイロは、儚げな女性に見えた。
「アダ遺跡のダンジョン攻略、誰もが失敗すると思っていた攻略が成功した。しかも遺跡は浄化までされていた。ずっと鏡魔法で見ていて目を疑ったわ。あなたが入口付近でスキルを連発した時からもしやと思ってはいたけれど」
「まるで私のスキルを知っているみたいな言い方ね」
「知ってるわよ、世界中の閲覧禁止書物も読んだもの。トニア・ティアレンは私の憧れ。中の様子は見えなかったけれど、入口付近の様子ははっきりと見えていたし、見てたわ。アダ遺跡が光に包まれて浄化されていく様はとても美しかった」
ああ、またトニア・ティアレンか。トロワはそう思った。この世界の人は本当に彼女が大好きらしい。目の前の女性はこの世界の人間ではないものの、15年もこっちにいたら世界に馴染んでしまうのは仕方のないことだろう。
「まさか当人がベルクスに一人で現れるとは思ってもいなかったけれどね。本当にカモネギ」
「だから人をカモ扱いしないでよね」
「一つ教えて、あなたも召喚されたの」
「じゃないわ、転生者よ。私は向こうで落ちて来た看板に後頭部直撃されてぽっくり」
ネイロがプッ吹き出した。
「ああ、ごめん。悪気はないの」
「悪意の塊なんじゃないの、あんた」
「今まではそうね、いつの間にか厄災の魔女と呼ばれるようになった元聖女上矢代音色。それが私」
「厄災の魔女?」
「そう。この世界が憎かったから壊したかった。でも憎しみも怒りも持続させるには力がいるのよ。その力が尽きてしまった。あなたという本物の聖女も現れたしね。だからもう足を洗うことにしたの」
「足を洗うって、あんたも一緒に逃げるってこと?」
ネイロは首を横に振り、
「私は闇落ちなのよ。今さら足を洗っても元には戻れない。それにあの男。グロルは本当に危険な存在だから、気をつけて」
それから幾つかネイロと話し合い、トロワとレントは彼女の転移魔法で飛ばされた。飛ばされる直前に、
「最後にお願いがあるの。ガラ・キルアに伝えて。ありがとうって」
「え?ガラおじいちゃんに…ちょっと」
聞き返す間もなく、トロワは転移先に到着。重症のレントの頭を支えながら、見渡したそこは、何もなかった。
時刻は薄明、夜明け前。夜の闇が陽の光と交わる時間。トロワの視界も開けて行き、何もないと思っていたそこは、本当に何もない砂漠地帯だった。時おり夜の名残りの冷たい風が吹きすぎていき、砂の音がサラサラと鳴った。
「どこよ、ここ」
「……ぅっ」
レントという人があまりにも苦しそうだったので、
「得丸君、お願い」
ポンと現れた卵型ロボットの得丸君改が、
「ラジャ」
と言うと、レントの身体をサーチし、答えた。
「キュアで対応可能ですが、ヒールの方が確実です。体力回復も追加で。どちらも女神の特性細目です」
「じゃあ、ヒール。それと体力回復」
砂漠に寝転んで苦しそうにしていたレントが、がバッと起き上がり、驚いていた。
「ここは…、あなたは?」
「うん、とりあえず、帰ってから話しましょうか。ノゾミの扉、オープン」
トロワの声に反応して、目の前に突然出現した扉が開いた。
「立てる?レントさん」
「ええ、おかげさまで」
トロワが案内して山小屋経由でサーヘルの村に着くと。
村の集会所は大騒ぎだった。