3.(余裕の本気で)リベンジかまします。
――そして、現在に至る。
山小屋のリビングで、軽食を食べながらの打ち合わせが行われている。
「ゆっくり説明してやりたいが、今はその時間が惜しい」
エンリケの言葉に頷き、メヒティが見せる大鏡に、ダンジョン内を逃げ戻るエリオとコラードが写っていた。
『ここらで一旦休憩しよう、エリオ』
『まだ8層だぞ』
『ああ、ここは先に殆どの魔物を奴らが排除してくれたから安全だ』
コカトリスの廃墟で、エリオとコラードが食事をしていた。
『ノイアにはすまない事をした』
落ちこむエリオを、コラードは鼻で笑う。
『今さらだな。弟を助けたいんだろう?だったら我々の言う通りに動くことだ』
『分かってる。どうせあんな瘴気獣が現れたらこの世界は終わりだ。聖女様でもどうにもできないだろうさ』
『でも万が一という事があるだろう?だから俺たちはそれを見届けてから外に出る。「やっぱり聖女様でも瘴気獣は倒せなかった。俺たちは命からがら聖女様が逃がしてくださったんだ。この世界はもうお終いだよ」って外で待つ兵士達にそう言うまでが役目だからな』
『俺たちが言わなくてもどうせ噂はすぐに広まるだろうが。今度の聖女様もまた失敗だったって』
『そうだよ、それこそが絶望を産み、俺たちの宿願が叶う日を近づける』
『……お前は何者なんだ、コラード』
『ブルローネのコラードだよ。寝言を言うなよ、エリオ』
『…すまない』
鏡を見ながらフィーアとベンテ、ギータに怒りが浮かぶ。
「あの野郎…」
フィーアの瞳が氷のように冷たかったので、ラースは近づかないことにした。
「これはパノラマ虫ではないですね」
ベンテの問いに、頷いたのはジル先生だった。
「私の配下のモノを数名、影に潜ませている。彼女たちの目をメヒティの鏡につないだ」
メヒティが捕捉を付け足す。
「7層目で儂が付けていた虫は全て奴に消された。他の国が付けていた虫はダンジョンの入口付近で一掃しおった。こいつ、かなりの魔力持ちだぞ。ひょっとすると儂やお前以上かもしれん」
メヒティの言葉に、スターリーナイトの3人は衝撃を受けていた。
「何者なんですか」
「まだ確証は取れていない。イルムの「情報収集」を使ってもな」
「手強いですね」
と、言ったフィーアの言葉に、
「そうか?こんな奴」
と言ったラースがフィーアに睨まれ、すぐに横を向いた。
山小屋のキッチンでは、泣きはらして目元を赤くしたトロワと、モリーが甘いお菓子を作っていた。ノイアとミユリはダイニングテーブルに座り、ホッと息を吐いてティータイム。
そうして、お茶を飲みながらクッキーを齧っていたミユリが爆弾発言をし、トロワとノイアが驚きの声を上げた。
「えー!!男の子?ですって」
「嘘でしょう!!」
モリーは知っていたのか、ただ微笑んだだけ。恥ずかしそうに頭をかき、
「本名は実由里小太朗と言います」
と、小太朗が照れていた。
「「…………」」
二人が驚いて声もなく小太朗を見つめていると、
「やっぱりそうだったのね。イルムの集めた情報で何となく判ってはいたけど、大変だったわねえ。ごめんなさいね」
優しいモリーの言葉に、小太朗がポロポロと涙をこぼした。
「いえ…」
思えば召喚された時に、自分が男だと判ったこちらの人たちの絶望的な顔とか。異界を渡ってきたのに手に入れたスキルが「調達部」(意味不明)と分かった時の落胆した顔などなどが浮かび。
泣けてきた。
「苦労してたのねえ、あんたも」
「トロワさん」
共感した小太朗とトロワが、二人してさめざめと涙を流した。
思えばとんだ世界に来たものだ。
山小屋のリビングで、優雅にお茶を飲むジル先生が口を開いた。
「お前たちは笑っていたが、トロワの空気無効が無ければあの瘴気の中、ああも軽快に動くことなど不可能だっただろうな」
その言葉に何となく納得がいかないような、行くような。スターリーナイトの面々が複雑な表情を浮かべていた。
「ではトロワ、様ならあの瘴気獣が倒せると?」
尋ねたのはギータだった。
「さあそれはわし等でも判らんなあ」
「うん、あんな瘴気獣、鏡で見ていただけでも恐ろしさが伝わってきたからね」
メヒティとエンリケが頷き合う。
「いや、大丈夫。たぶんもうすぐなんだ」
レムの言葉に全員がキッチンの方を向く。
おかしな獣に導かれ、スキルだ魔法だ剣だと騒ぎ立てる、それが常識の世界にやって来た。
キッチンでさめざめと泣いていたトロワに変化が起きていた。
トロワはサーヘルの村に来た二日目には、赤髪の少女に形態変化(スキル「女神の特性」細目で)できることを知り、以来ずっとその姿で過ごして来た。老人達は最初ひどくガッカリしていたが、本来の姿があまりにも先代に瓜二つだったため、赤髪の少女の方が良かろうという話に収まっていた。
その変化が解け、元のオッドアイの瞳を持つ聖女体に姿を変え、ノイアと小太朗が驚きつつも、見惚れていた。
ダイニングの方に来た一同が目にしたのは、さらに光り輝くトロワの姿だった。
「これは…」
ラースも驚きで目を見開く。
トロワから輝きが収まると、どこからともなく声が聴こえた。それは男の子の声でこう話しかけた。
『私はトロワ・キルアのスキル「自動学習(得丸君)」が進化した「完全自立型AI搭載スーパーコンピューター(得丸君改)」です』
「え?ああ、よろしく」
「軽いわ」
と、ノイアと小太朗からツッコミを入れられるトロワ。
少し考え込んだように押し黙ると、また声が聴こえた。
『それがご希望なら、沿えるように致しましょう』
声が消え、代わりにポンとミニゴーレムサイズの卵型ロボットが現れた。
「得丸君改です。よろしくお願い致しますマイロード」
「うん、よろしくね、得丸君」
そしておかしな連中と一緒に、恐ろしい敵を倒す?いやいや、無理ですって。
そう思ってはいるのだが、どうやら私には、それを可能にする力があるらしい。
甚だ疑問ではあっても、やるしかない――。
山小屋の中に再びノゾミの扉を出現させた。
スターリーナイトのフィーア、ベンテ、ギータの3人。ラウノの姿のラース。本来の姿のヴァルキュリア、ジル先生。そしてノイアと女装のままの聖女ミユリが扉の前に立ち並ぶ。
「これより個体名ベヒモスアルファ、並びにメジードの瞳討伐に向かいます」
メンバーに向き合うトロワの右肩には、得丸君改、左肩にはミニゴーレムのレム。
そして、得丸君改が次々と細目を羅列。
「対象者に「女神の特性」より細目、物理攻撃無効、魔法攻撃無効、精神攻撃無効、状態異常無効、回避行動補正、速度補正、動体視力補正、……を付与。「神々の気まぐれ」より細目、体力強化、剛腕強化、瞬発力強化、判断力強化……を付与」
扉の向こう、ダンジョン遺跡の間には恐ろしい化け物たちが待ち構えていた。
「魔導士ベンテ、ノイア、ミユリ小太朗には魔力自動再生を付与」
小太朗が驚いていたが、ベンテを見ると小さく笑って頷いてくれた。
「さらに武器庫より、魔導士ベンテには第8位階の魔法行使を可能にする杖、「原初のスタッフ」と魔力増強の宝玉を貸与」
ベンテは開こうとしたメジードの瞳に、第8位階の魔法「ストロンググリッター」を浴びせ次々と瞳を粉砕。
「武器庫より、ギータには「風神雷神」の弓と矢を貸与。連射速度上昇の指輪を合わせて付与」
ギータがベンテをフォローし、メジードの瞳に次々と矢を放つ。
「武器庫より、フィーアには「天と地の理」の双剣と、邪を祓う力を持つ「静謐の腕輪」を貸与」
ベヒモスと対峙したフィーアが、次々と襲いくる触手を相手に、華麗な二刀流の剣技を披露。無数とも思える触手を切りまくるフィーアの顔には、楽し気な笑みさえ浮かんでいた。
「武器庫より、ノイア・サンテルマ、ミユリ小太朗両名には「万能管狐」のローブと「鉄壁針鼠」のローブ。並びにシルード強化のロッドを貸与」
ノイアと小太朗には防御力に特化した魔導士のローブが貸し出され、時おり放たれるベヒモス本体の衝撃波攻撃から、シールドを張りトロワをガード。
二人は顔を見合わせて頷き合い、互いをフォローしながらシールドを維持し続けた。
ジルフィリアは本来の力を解放し、べベヒモス本体に挑んだ。地を蹴って低く飛び、華麗なるハルバードを振るい、一振りでベヒモスの足一本を薙ぎ払った。瞳を輝かせ、口元に微笑みを称えたジルフィリア・ヴァルキュリアは美しかった。
「ラウノの所持する妖魔剣シンラには武器庫より、あらゆる魔を断ち切る宝玉、「降魔の極」を貸与」
シンラの柄頭に埋め込まれた宝玉を確認し、ラウノが不適な笑みを浮かべる。
遺跡の間では、片足を失ったベヒモスが痛みに荒れ狂っていた。前足を躱し、次々と襲う触手もすり抜け、瘴気獣の頭上を軽々と飛び越えていき。
天井高く飛び上がったラウノが、上段に構えたシンラに力を籠め、真上から渾身の一撃を叩きこんだ。
室内に断末魔の叫びが響き渡り、振動がおきた。遺跡の間の壁が剥がれ、さらなる瘴気が吹き出す中で、トロワが静かにスキルの名を告げた。
「フィールドプリフィケーション」
言葉の後には瘴気が浄化されはじめ、次々と光の粒に変わり。
そして、光の洪水が起きる。
光の粒は遺跡の間全体を埋め尽くし、やがてダンジョンの隅々にまで届いていった。
スキルの使い過ぎで、トロワは意識を無くしかけていた。
それを拾い上げ、お姫様抱っこをしたのはラースだった。ノゾミの扉が開かれ、ジル先生とラース達はサーヘルへと戻って行った。同時に貸与された武器諸々も手元から消えた。
扉からエンリケ達が手を振っていた。
「よくやった」
「でかしたぞ」
「トロワ様が起きたら連絡を入れる」
「この後もお気をつけて」
4人の老人達に頷きかけ、スターリーナイトの3人はまたマスカレードマスクを装着。聖女ミユリとノイアを伴い遺跡の間を後にした。
10層目に来た時、フィーアがクスリと笑う。
「この特大の超超レア魔石」
フィーアの手元には、亜空間から取り出した魔石があった。それは両手ほどもある虹色に輝く魔石。
「国宝級だな」
転移魔法を発動しながら、ベンテもにやにやしていた。
「見たらさぞかしトロワは悔しがるでしょうね」
ギータの言葉に、聖女ミユリとノイアが可笑しそうに笑った。