Ep.7 1度目の世界移動は嵐のように
気温がグンと冷え込み、イージスの町にも雪が降りはじめた。炎魔法の使える住民が忙しそうに屋根の雪を溶かしている。
窓から外の景色を覗いていると、遠方からの冒険者を見かけるようになった。冒険者はワープ(世界移動)を使って飛んできたギルドの一員だろう。
窓の奥、家から少し離れた広場ではヒンガナ…"ヒメ"が子どもたちに雪を投げつけられていた。
あっという間に時間は過ぎて今日は2月1日。
ヒナと出会いギルド<プリティープリンセス>に入ってから一月が経過していた。
ヒナ
「まったくあのクソガキども!ワタクシに雪玉ぶつけて何が楽しいんですの!?いつかぶっ飛ばしてやりますわ!!」
ヒナが全身雪まみれになって家に上がり込んできた。
ギータ
「おかえりヒナ。紅茶とコーヒーが残ってるが何か飲むか?」
ヒナ
「コーヒーをいただきますわ!」
コーヒーカップ2つに、インスタントパックを淹れて熱いお湯を注いだ。テーブルに持っていき1つをヒナの前に、もう一つを自分の前に置いた。
ヒナ
「ありがとうですわ!」
ギータ
「あぁ、もちろん」
俺とヒナはその後ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
その後も談笑しながら休憩をしていた。
話題は次第に、ある"大事な事"へと変わっていった。
ヒナ
「ギルドフェスタが始まって今日で1か月。私たちの滞在している”ウィンドカーテン地方”でのフィールドPt獲得状況もかなり進んだ言えますわね」
ギータ
「あぁ、フィールド全体で言えば半分もいってないが、お互い出身地ということもあっていいペースだ。近場は完ぺきと言ってもいいんじゃないか?」
現在フィールドPtは800Pt。ギルドPtはアイテムPtステータスPtも合わせて1020Ptだ。
こう見るとやはりフィールドPtの恩恵がダントツだ。
他のギルドも最初はフィールドPt集めを最優先に動いているようだ。
ヒナ
「えぇ、もう少し手広くここを探索するという手もあるけどこの世界<エムエムオリア>はとても広大ですわ。絶対にすべてのフィールドPtを取ることはできないと既に推測されています」
ギータ
「そうなると。そろそろ”アレ”を使うべきか」
ヒナ
「そうですわね。”アレ”を使う時が来たようですわ…」
”アレ”とは。
すなわち世界移動。
ワープである。
ギータ
「…ックク」
ヒナ
「…フフフ」
ギータ
「クックック」
ヒナ
「ウフフフ、ウフッ…ケホ!ケホ!!」
ギータ
「クフハハハハハ!!!!!ついにワープの時間だ!待ってたぜ~~!!!!」
ヒナ
「オーッホッホッホ!!!!!未開拓の土地がワタクシたちを待ってるわ!」
ギータ・ヒナ
「ワープ!ワープ!ワープ!ワープ!」
俺たちは手を組んでぐるぐると回りはしゃいだ。
ひとしきりはしゃいだ後お互いに席に座った。
ヒナ
「世界移動するのは決まりとしまして、問題はどこにワープするかですわ!」
ギータ
「俺…実は昔っから和と侍の国「武火の都」に行きたいって思ってたんだよ!」
ヒナ
「私は幼い頃から美とファッションの国「ファミリエ」に行きたいと思ってたんですの!」
一瞬の静寂。
ギータ
「そうか…じゃあファミリエに行こう」
ヒナ
「いえいえ!私は武火の都にも行きたいと思っていましたの!先ずはそちらに行きましょう!」
「ファミリエ!」「武火の都!」
2人はMenuの≪世界地図機能≫を開いたまま"譲り合い"の喧嘩を始めた。
ヒナからMenuを奪ったギータの肘がMenuに触れる。
<Menuの機能により、お手軽に世界移動が可能です。≪トぺ地方≫≪ポーラータウン≫に移動しますか?>
Menuを奪い返したヒメの指先が決定ボタンを押した。
<Menu>
≪目的地が決定されました。今より1分後”世界移動”を行います。お忘れ物がないようにしっかりと装着してください≫
ギータ
「あれ…俺たちどこか押しちゃった?」
ヒメ
「これは…」
そう言って、スマホを注視するヒメ。
ヒメ
「まっまずいですわ!1分以内に荷物をまとめてくださいまし!もうすでに"世界移動"が始まっています!」
一瞬固まるギータとヒメ。そして
ギータ
「うおおおおおお!武器!俺の武器ー!!!」
ヒメ
「キャアアアア!!!!!私のご飯!椅子!服ー!」
ギータは家の中を人生最高速度で走り回り、ヒナは涙を滝のように流しながら荷物をまとめだした。
<Menu>
準備が整いました、世界移動を開始します。10…9…8…
ギータ
「食料!弾薬!寝袋!鞄ー!!!!!」
ヒメ
「ドレス!スカート!バッグ!お金~!!!!!」
<Menu>
2…1…0。世界移動を開始します!
ギータ・ヒナ
「ちょ、ちょっと待ってええええええ!!!!!」
2人の願いはMenuに届かず、ギルド<プリティープリンセス>1回目の世界移動が実行された。




