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聳孤の剣

【玲瓏のディストピア】を読んでくださり、誠にありがとうございます!


今後の執筆活動の励みになるので評価と感想もよろしくお願いします!

地面が割れ、メキメキと音を立てながら木々が倒れていく。


「おいおい、一体どんな奴が出てきやがる?」

「分からないけど、こいつは間違いなくアンノウン!」


【アンノウン】

その名の通り、データが全く存在しない未知のモンスター。

世界融合から10年経った今でも、この様なモンスターと遭遇することは珍しくない。


割れた地面から現れたのは、200センチ程の人型の土人形であった。


(ゴーレム? いや、細部まで人間に近いあの体、明らかにゴーレムとはかけ離れてる)

キリンジはゴクリと唾を飲み、銃のレバーを引く。


突如として現れた謎のモンスターに、流石のシェリフも真剣な眼差しでそれを睨みつけている。


そして互いに睨み合っていた沈黙を最初に破ったのはモンスターだ。


「ギィァァァァァァァァァ!!」


甲高い鳴き声を上げ突進してくるモンスター、それに対しキリンジは素早く銃口を向け迷いなく引き金を引いた。


「ギィ?!」


見事に命中…………?


しかしキリンジは自身の目を疑う、ダメージどころか弾痕すら残っていないのだ。


尚もモンスターはこちらへ向かって走り続ける。そして鋭い爪が勢いよくキリンジの方へ伸び、キリンジの頬を掠めた。


「ッッ!」


バックステップで再び距離を取るも、すぐにまた距離を詰められる。


「これじゃまるで鬼ごっこじゃない!」


この状況が続けば最終的に殺される。それを知っていても尚戦況を覆す策が見つからない。


「ファイアボール!」


炎がモンスターを包み込む。


「ギィィ」


しかしメラメラと燃え上がる炎から再び現れたそのモンスターに効果は全くないようだ。


「シェリフ! 見てないで加勢して下さいよ!」


木の枝に腰掛け戦いを眺めるシェリフはニッと笑い言った。


「そいつは今のお前と同等レベル、故に俺が加勢するまでもねえだろう。ああそうだ、弾が効かねえなら別の武器を使えばいいんじゃねえか?」


シェリフの言葉にキリンジはハッとした。


(そうだ、今の私にはアレがある)


素早く剣を手に取り「麒麟、力を貸して!」と叫ぶ。


するとたちまち刃はエメラルドブルーの光を放ち、その光は呼吸するように点灯と消灯を繰り返していた。


─早速だな─


麒麟の声は先にも増して活気付いているように聞こえる。


そしてキリンジは自身の身長よりも大きなツヴァイヘンダーを構え、剣先をモンスターの喉元に定めた。


不思議なことに剣の重さは一切感じない、アルカナ種の恩恵だろうか。


「悪いわね泥人形、アンタを殺してとっとと帰らないとニャルテが怒るのよ」


威勢のいい声で言い放ったキリンジは一呼吸置いた後、左足で勢いよく地面を蹴り凄まじいスピードで距離をモンスターとの間合いを詰める。


「ギィ?!」


先程とは全く違ったオーラを纏うキリンジに面喰らったのか、モンスターは咄嗟に距離を離そうと彼女との間に土の壁を出現させた。


「そんな壁くらいなら余裕ッ」


そう言って壁に向かって薙ぎ払うように剣を振り、斬られた壁はボロボロとその場に崩れ落ちた。


「ギィァァァァァァァァァア」


一方モンスターは余裕が無くなったのか、何のフェイントも無く突進を仕掛けキリンジに迫る。


振り上げられた鋭い爪をもつ手を見てキリンジはこれまでに無い恐怖を感じた。完璧に避けても尚波動で損傷を負わせる程の威力、まともに食らえば確実に死ぬ。


─隙だ、隙を見つけるんだ─


(隙なんてどこに…)


腕を振り上げるモンスター、腕は愚か頭も狙うことはできない。


そうすると考えられる中で最も無防備な部位それは胴しかない。


そしてついに腕が勢いよく振り下ろされる。


決断の時


殺らなければ、殺られる!


覚悟を決めたキリンジは素早くモンスターの懐に潜り込みすれ違いざまに腹部に斬撃を与えた。


振り下ろされたモンスターの拳は土煙をあげ深く地面に突き刺さっており、その跡は威力の強大さを物語っている。






─見事な抜き胴だ─


「ありがとう麒麟」


─礼には及ばない─


しかしまだ安心はできない、今の斬撃でやっと軽傷を負わせた程度なのだ。相当な長丁場になるだろう。


「ギ…ギギ」


腹部を庇いながらキリンジに手を伸ばすモンスター、先の戦闘で体力と集中力を使い果たした彼女も限界に近い。


それでも戦わなければ殺される生死の瀬戸際で疲労云々言ってはいられない。



「さあ来なさい、今すぐ楽にさせてあげるわ」


息切れしながらも剣を突きつけ、モンスターの赤い瞳を睨み付ける。


「ギ…ギィァァァア!」


振り上げられる腕、そして片方の腕は腹部を庇っており隙が無い。


その時だ、モンスターの後ろでカチッと激鉄を起こす音が聞こえた。


「ナイスファイトだ嬢ちゃん」


いつの間に気付かれずに移動したのだろう、シェリフはモンスターのすぐ後ろに立っており、想定外の事態に動揺しているのかモンスターの動きもピタリと止まる。


そしてついに引き金が…引かれた。


パアァン!


放たれた弾丸、森中に響き渡る銃声、驚き飛び去る鳥達……


頭を吹き飛ばされたモンスターは崩れた砂の城のように原型を失い最後に残ったのは紅く輝くクリスタルのみ。


キリンジはその場に立ち尽くし足元に転がっているクリスタルをただ呆然と眺めている。


(消滅した? あの強力なモンスターが一瞬で…?)


「嬢ちゃんアンノウン相手によく粘るなぁ、感心感心!」


シェリフは高笑いし、来た道を引き返すように歩き出した。


(Sクラスガーディアン…やっぱり先は長くなりそうだ)


「おっといけねえ、忘れねえうちにこいつを返しとくぜ」

そう言ってシェリフは突然立ち止まりキラリと輝くナニカをキリンジに向かって投げ、咄嗟にそれを受け止めた彼女は言葉を失った。


それはクリスタル、今の今までキリンジの足元に落ちていたはずのクリスタルだ。


(まただ、いつ拾ったのか気付かなかった)


「シェリフ! これっていつ…」

「よっしゃあ仕事も終わったし帰ってビールでも飲むか!」


シェリフの声量にキリンジの言葉は遮られ、彼女は黙ってクリスタルをリュックに仕舞いシェリフの後を追うように早足でその場を後にした。




彼女が英雄へ抱く謎は深まるばかり────

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