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Spin cock

【玲瓏のディストピア】を読んでくださり、誠にありがとうございます!


今後の執筆活動の励みになるので評価と感想もよろしくお願いします!

キリンジとシェリフは鬱蒼とした森の中を歩いており、キリンジは周囲を警戒しながら進む一方でシェリフは煙草を吸い酒を飲んでいた。


「気を付けるニャキリンジ、まだゴーレムがボスと確定したわけじゃないニャ」


「ああ、そうだね」

ニャルテのホログラムは心配そうに語りかけるも、キリンジは目も合わせず警戒を続ける。


「嬢ちゃん、そんなに警戒したって無駄だぜ」


シェリフは首を横に振りながらそう言って再び煙草を口に咥え、徐に銃を取り出し空に向かって一発放った。


発砲音の後、シェリフのすぐ右の地面に鳥のような生物がドサッと落ち、キリンジはそれを見て目を丸くした。


「そいつは…ブラッドレイブン?」


【ブラッドレイブン】

赤と黒の毛が特徴的な鳥型のモンスター。

ブラッドレイブンの鳴き声はBクラス以上のモンスターを引き寄せる効果があるとされている。


「ブラッドレイブンがいるって事は」

「ああ、俺らは既に狙われてるのさ」


するとシェリフは銃をホルスターに戻しスマホを取り出した。


「ちょっ! 戦闘前に何やってるんですか?」


「戦闘するときはBGMがねえとやる気が出ねえんだよ。今から聴くのはAC/DCのDemon Fireさ」


シェリフがスマホの再生ボタンを押すと同時に闘争心を駆り立てるロックな曲が再生され、茂みから複数のコボルトが現れた。


キリンジはモンスターの対応に手一杯で、悠長に曲なんて聞いている余裕はない。


「楽しんでるかい嬢ちゃん?」

一切の無駄を許さない完璧な身のこなしで攻撃を避け、急所を確実に撃ち抜いていく。


「こんな状況で楽しめるわけないでしょッッ」


一匹、また一匹と処理しながら倒木を飛び越えツタを払い走る。


「次はどうする嬢ちゃん?」


湧いて出てくるモンスターを止めるには元を止めるしかない、そう判断したキリンジはシェリフに口笛で合図を送った。

「ブラッドレイブンは私が殺しますから、コボルトは頼みますッ」


シェリフは親指を立て「任せな」と言い残しキリンジから引き離すようにコボルトを誘導し森の奥へと消えていった。


キリンジは指を鳴らしハイジャンプでブラッドレイブンのいる空へと飛び上がった。


するとキリンジの視界に入ったのは二匹のブラッドレイブンだ。


ハイジャンプはその名の通りジャンプであって飛行能力ではない。滞空時間に限りのある技で如何にして二匹同時に倒すものか。


─銃に浸れ─


シェリフの言葉が脳裏に浮かび、キリンジはふっと笑いライフルを右手に持ち左手に炎を纏わせた。


(そうだ、あるじゃんこの銃にしかできないアレが)


そうしてレバーに中指をかけ、銃身はぐるりと一回転し再びキリンジの手に戻った。


ウィンチェスターライフルの強みの一つである"スピンコック"


魔法を使用して戦うガーディアンとの相性は抜群である。



コボルトを一掃しキリンジの様子を見ていたシェリフは酒瓶を掲げニカっと笑う。

「乾杯だ、お前さんはいつかとんでもねえ事を成し遂げるぜ」

そういって酒の残りを飲み干した後、足元に横たわり弱りきったコボルトに向かって勢いよく酒瓶を振り翳し、その最後を見届けた。



(集中しろ、標的をさらに絞って狙えッッ)

キリンジは引き金を引き、左手からはファイアボールが放たれた。


二匹のブラッドレイブンのうち一匹は燃えながら落下し、もう一匹も核を撃ち抜かれ地面へと落下していく。


しかし落下するのはキリンジも同様だ、彼女は銃の反動で姿勢を立て直すことができず木の枝にぶつかりながら最後はドサッと音を立てて地面に落ちた。


「イタタタ……空中で射撃するなんて思いつきでやるもんじゃないわね」


体についた泥や葉を払いながらしばらく歩いた後、キリンジは突然歩みを止めた。




チリンチリン…



(鈴の音? どこから?)

鬱蒼とした森に響き渡る鈴の音、キリンジはその音に引き寄せられるように再び歩き出す。




チリンチリンチリン




音が大きくなるにつれて周囲に無数のオーブが出現し、暗かった森は美しく照らされていく。


「綺麗…」


小鳥が囀り、蝶が舞い川のせせらぎが聞こえる。


「ここ、まるで」

「まるで天国?」


突然背後から聞こえた声にキリンジは素早く振り向くも、目の前の光景にキリンジの脳の処理は追いつかなかった。


馬、いや違う。明らかにこの世のものではないその生き物は人語を操り黄金の光沢を纏い凛としてこちらを見つめている。


「恐れることはない、我は貴女の味方だ」


「貴方は何者なの?」


「いざ何者かと聞かれると、悩ましいが人間からはこう呼ばれている…麒麟とな」


【麒麟】

目撃情報やその他詳細な情報は無く、古来より幸福の象徴として崇められてきた伝説上の生物である。


「伝説上の生き物が、何故私なんかの前に現れたの?」


「我達は然るべき時、然るべき場所、そして然るべき者の前に姿を現し手を差し伸べる。今貴女は力を欲しているな? 己に期待する者を守り、価値を証明するに見合った力を」


(なんか展開について行けないけど、このチャンス逃すまいッッ)


キリンジはコクっと頷き、麒麟は額を彼女の額に合わせ目を閉じた。


「もう少し話していたいが今は時間がない、手短に済ませよう」


「いつでもどうぞ」

キリンジは目を閉じたまま答え、しばらくすると周囲には無数の蛍が舞い。先程とはより一層の美しさを増した世界が広がる。


「我は汝を護る盾となり剣とならん。照葉よ、我が力を継ぎ仁義を尽くせ」


そう言い残し麒麟は風と共に消え、残されたのは一本の古びた剣のみであった。



「生きてるうちにアルカナ種に出逢えるとは、俺も嬢ちゃんもツイてるようだな!」

そう言いながら茂みから出てきたのはシェリフであった。彼は服や髪に付着した葉を払い落とし、剣を拾い上げる。


「アルカナ種って?」

「アルカナ種ってのは、通常のモンスターのクラスとは別枠のモンスターの事だ。伝説やら神話やらに出てくる奴らと思えば良い」

「けど、モンスターでも攻撃して来なかったよ?」

「ああ、アルカナ種には好戦的な奴もいればさっきの麒麟同様争いを好まない奴もいる。だが、アルカナ種の信用を得れば、最高の恩恵を手にする事ができるのは間違いなしだ」


シェリフは剣をまじまじと眺めた後キリンジに丁寧に渡し、再び続ける。

「こいつはツヴァイヘンダー、しかも麒麟の魔力を贅沢にトッピングした上等な武器だ。大事に使えよ」


大事に使えよと言われても、キリンジにはただの重たく古びた剣にしか見えない。



─我が名を呼べ、照葉─


「ひゃい?!」

突然麒麟の声が彼女に語りかけ、彼女は驚き飛び上がった。


─我が名を呼ぶのだ─


キリンジはツヴァイヘンダーを握り締め「麒麟!」と叫ぶ。


するとツヴァイヘンダーがエメラルドの光沢を纏い、先ほどまでの刃毀れだらけの姿を忘れ去れるほどの刃の美しさにキリンジは見惚れていた。


「綺麗…」


─真に必要な時、また我を呼ぶが良い─


そう言い残し、光は消えてボロボロの剣に戻った。


シェリフは首に巻いたアフガンストールを外し、キリンジに差し出す。


「ほら、これで剣を包め」

「あ、ありがとうございます」





そう言ってキリンジの手がストールに触れる直前、地面が大きく揺れ動物達は逃げ去って行く。


キリンジはため息をつき「一難去ってまた一難…か」と己の運の悪さに気を落とす。


シェリフは高笑いし、銃のハンマーを起こした。

「やっと骨のありそうな奴のお出ましだなッッ」





キリンジ達の前に現れた次なる敵の正体とは──

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