黎久
ACマッチ開始20分経過━
森林エリアで銃声が聞こえてくる。キリンジとブラストがエンカウントしたのだろう。
リクは凪露兼元を手に、DE を構えるニトの前に姿を現した。
「馬鹿なのかテメェ…俺が引き金を引きさえすりゃぁ、お前は即退場だぜ?」
「ほう、なら早く撃ってくれよ」
「あぁん? 第二ラウンドがなんとか言ってた割には、えらく弱気だなぁ」
「気が変わったんだ。アンタらみたいなのには到底勝てないし、正直キリンジがサンクチュアリに入ろうが入るまいがどうでもいい」
リクの態度の変わり様に観客は騒然とし、同時にブーイングの嵐が巻き起こる。
「あいつ、キリンジを捨てやがったッ!」
「このクズ野郎がッ! 恥を知れ!」
「で、俺がお前を撃って退場させりゃいいんだな?」
ニトがチャンバー内の弾をチェックしながら問う。
「その通り。だが、最後に一つゲームをしよう」
そう言ってリクは刀をニトに向けながら言う。
「自慢じゃないが、俺はこの刀で弾丸でも真っ二つにできるんだぜ? お前がする事は簡単だ。ただ俺を撃って、退場させれば良い。さらに俺はお前を撃たないと約束しよう」
「そんな見え見えの罠に、俺がかかると思うのかよ」
「なら…これでどうかな?」
そう言うとリクはポータルからMP5とUSPを取り出し、地面に置いた。
「これで俺は、銃火器を一切持たない状態。つまり、お前の一方的な射程圏内にいる一般人に等しい」
それを見たニトは邪悪な笑みを浮かべ言った。
「ゲス野郎め…面白い、そのゲーム乗ってやる」
ドォンッ!
直後ニトは再びDEを構え発砲。
下っ腹に響く銃声と共に、その鉛玉はリクへと一直線に飛んでいく。
「まずは一発」
リクは刃を真っ直ぐ振り下ろし、弾丸は見事両断された。そしてリクは直様ポータルを展開し割れた弾丸を中へ収める。
「ポータルを介して敵を攻撃する。ブラストと似た手法だな」
ニトの言葉に、リクはフッと笑い言った。
「言っただろ? 俺はお前を撃たないって。切った弾丸で退場なんて面白くないだろ?」
「それもそうだな」
そうニトも言うと、落ちていたリクのMP5を手に取り、リクに向け構えた。
「なら、この射撃レートに耐えられるかな?」
ダダダダダダダダンッッッ!!!
放たれる複数の弾丸を、リクは軽々と切り刻んでいく。
そして射撃が止んだ。弾切れである。
「チッ、こんな時に」
そしてMP5を投げ捨てようとするニト。
しかし、リクは凄まじいスピードでニトへと迫ったッ!
「テメェ! 何近付いて来てやがるッ!」
刃が届く範囲まで近付いてきたリク。しかし、リクは攻撃するどころか、地面に落下寸前のMP5を回収すると直様距離を置いてしまった。
「気安く投げ捨てるなよ。俺の大事な銃だぞ」
そう言いながらリクはMP5の汚れを手で払った。
「そいつはすまなかったな…………だが、そろそろ俺はこのくだらねぇゲームにいい加減飽き飽きしてんだよ!」
ニトは、リクがこちらに注意を向けていない隙を見計らってホルスターに手をかけた!
リクはもちろんそれに気が付いていない様子だ。
観客も悲鳴をあげる。
「リク、後ろを見ろ!」
「ぼーっとしてんじゃねえ!」
その時である?
「?!」
ニトの動きが静止した。かと思うと今度は自身の装備を忙しなく確認し始める。
「どういう……事だ?」
動揺を隠しきれないニトに対し、リクは至って冷静な様子である。
「もしかして…お前の探し物はこれか?」
そう言ってリクが取り出したのは、ニトのDE ではないか!
「テメェ、いつの間に………そうか、MP5 を回収した時に、だが残念だな。お前は俺を撃たねえと約束した。誇り高きサムライは約束を破る訳がねえ! そうだろう?」
リクは深く頷き言う。
「その通り、俺はお前を撃てない。そしてこの距離じゃあお前を斬ることも叶わん」
「これじゃあ決着がつかねえなぁッ! まあ、どのみち基礎スペックから違うんだからさ、諦めて舞台を降りな」
「……………俺が撃てないなら、お前がお前を撃てば解決するだろ?」
「あぁん?」
「お前、周りを見てみろよ」
リクの言葉通りにニトが周囲を見渡す。
ニトの周囲には彼を取り囲むように無数のポータルが展開されているではないかッ!
そしてニトは顔から色を無くし、瞳に映っていた勝利への自信はすっかり消え失せていた。
「テメェやりやがったな、俺の弾丸を利用しやがったな!」
「お前は50を2発、9を31発の合計33発撃った。そして俺が一つ残らず真っ二つにしていれば66発ってところか」
「なんだとぉぉぉぉッッッッッ!!!!!」
「基礎スペックが高くても、脳のスペックは俺の方が上だったみたいだなぁおい!」
「チクショォォォォォォォォッッッッッ!」
遂にポータル内で加速し、威力を倍増させた66発の弾丸がニトに襲いかかるッ!
みるみるうちに彼のHPは削られ、ニトの残りHPは1となった。
ボロボロになりながらも、ニトは憎しみを顔に浮かべながら悲鳴に近い叫びと罵声をリクに浴びせる。
「俺がぁ、テメェみたいな雑魚ガーディアンに負ける訳ねぇんだよッッッッッ! 俺を倒すのは、お前じゃねえ…俺自身だッ!」
そう言って立ち上がった彼の手に握られていたのは手榴弾だ。
しかもただの手榴弾ではない。
「防御魔法貫通の手榴弾?! 使用禁止な筈だろッ!」
「やめろッ、お前もリクも死ぬぞッッッッッ」
観客席も絶叫の嵐だ。
これには流石のリクも驚いた様子で
「血迷ったかニトッ! 今すぐそいつを捨てろッ!」と必死に叫ぶも、もはや手遅れ。
「なら、お望み通りにッ!」
ニトはこれまでにない邪悪な笑みを浮かべ、ピンを抜いた手榴弾を投げ捨てた。
地面を蹴り、リクはニトの方へと走り出す。
「リクやめろ、死ぬ気かッ!」
観客の悲鳴はさらに激しくなる。
(収納ポータルに手榴弾を入れる? いや、この距離じゃ起爆まで間に合わない。 それならッ!)
リクは刃を掌に当て、刃と皮膚の接地面からは赤い血がダラダラと流れ出す。
「我が血と魂を捧げ、我が正義を成す。主は誠を尽くす我に相応の加護を与え、我は誉なき愚者共に慈悲なき天誅を下さんとす」
詠唱の終わりと同時に、刀は紅い光を帯び始めた。
「ニト、そこを動くなよッ」
そう叫んだリクは刀を勢い良くニトへ向けて投げ、その剣先はニトの左足へと深く突き刺さった!
「これより、5秒間! 刀身に触れている人間に所有権を移行するッ! 凪露兼元の生み出す加護は防御貫通効果さえも無効化するッ!」
「リクお前、自分の加護は?」
絶望と疑問の顔を浮かべるニトに、リクは不敵な笑みを浮かべる。
「お前を倒すも生かすも、俺というガーディアンの仕事だからな」
ドカァァァァァァンッッッッッ!
そして遂に、手榴弾は破片を撒き散らしながら爆散した。
数秒後、土煙の中から姿を現したのは…リクのみ。
防御魔法貫通なだけあって、リク自身相当な重傷を負っていた。
観客席は未だ静寂に包まれている。
「ニトは、一体どこだ?」
その時、大音量のアナウンスが会場全体に鳴り響いた。
「ガーディアン・ニト、HPが0に達した事により退場! ガーディアン・リクの戦闘継続の可否は本人の意向に委任されます」
しかし、リクの反応は無い。
地面に座り込んだまま、血を流し俯いている。
「10秒以内に反応が見られない場合、戦闘継続困難と判断し、リタイアとなります」
10…
9…
8…
カウントダウンのアナウンスが流れ、観客席から応援の嵐が巻き起こる。
「立て、立てよリクッ!」
「キリンジがまだ戦ってるんだぞ! 早く立つんだ!」
その時だ。無線から銃声と共にキリンジの声が聞こえてきた。
「リク、リク聞こえる?!」
「キリ…ンジ………」
「リク、ニトを倒してくれたんだね。ありがとう…後は私に任せて」
「あぁキリンジ。そうだな、後は頼んだぞ…」
ニトを倒した今、キリンジならブラストと補欠の角刈り野郎くらい倒してくれるだろう。
「安心して、傷を治してもらってね」
「分かったよ…………」
リクは刀の剣先を地面に突き刺し、なんとか立ち上がった。
「だがな…お前、キリンジじゃないな…?」
「………………チッ、これだから勘のいいガキは」
「キリンジの声真似は見事だったが、俺を舐めんじゃねえよ」
そして物陰から姿を現したのは、補欠の角刈り野郎だ。
名称不明。パッツパツのジーンズに使い古されたブラックの革ジャン…
もはや笑わせに来てるのかという程キャラが濃い…物凄く濃い。
「スィミラーがコピーしたキリンジの声を見破るとは、本当にCクラスか?」
「たった今Aクラスへの昇格が確定したがな。さあかかってこい…いくらでも相手してやらぁッ!」
ニトを倒したリクにさらなる刺客が登場ッ!
激しい AC マッチの結末は如何に!




