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蒼炎

【玲瓏のディストピア】を読んでくださり、誠にありがとうございます!


今後の執筆活動の励みになるので評価と感想もよろしくお願いします!

真っ白な空に、地平線すら見えないこの世界では自分が立っている場所が本当に地上なのかさえ疑ってしまう。


「ここ…前にも来たことあるな」


ゴーレム戦で吹き飛ばされたあの時にも見た光景に、キリンジは深い溜息をつきその場に座り込んだ。


─また来たのですか?─


突如背後で自分の声が聞こえ、咄嗟に振り向くとそこには真っ黒な女性のシルエットが立っている。

このシチュエーションも以前と全く同じである。


「私も来たくて来てる訳じゃないんだけどね」


━貴方はまだ若い…命をもっと大事にしなさい━


「でも…」


「彼女の言うとおりだ照葉。シェリフは仇討ちでお前が死ぬ事など望んでいない」

そう言って何処からともなく現れたのは麒麟である。


「つまり恩人を殺した相手を黙って見逃せって言うの?」


「それは君次第だ照葉。一つアドバイスするならば、勝利の秘訣は手札の多さと発想力だ」


「手札の多さと…発想力」


━そろそろ時間です。さあ、ぶちかましなさい━





その直後、先程までの白い世界とは一変しキリンジの視界には星空が広がっていた。


流石のエンフォーサーも立ち上がったキリンジを見て驚いた様子である。


「ほう、まだ立ち上がるとは…流石英雄を継ぐ者だ」


「発想力ね、それならとっておきを見せてあげる…蒼炎(ブルーフレイム)ッッ」


彼女の叫びに呼応するように、蒼い炎が彼女を覆う。


エンフォーサーも初見の魔法に心踊るようで

「レッドドラゴンから得られる魔法として記載されていない魔法か…実に興味深い」

と静かながらも歓喜の声をあげている。



【ブルーフレイム】

ファイアボールの蓄積された魔力を全身に纏う事で、魔法を含む総合的な戦闘スキルを底上げするバフを自身に付与するキリンジが独自に編み出した魔法。


静かに燃える蒼い炎を纏うキリンジはエンフォーサーをギロっと睨むと、拳を前に突き出し、親指を下に向けて見せた。


「よく見てろクソ野郎…私こそ麒麟児、私こそガーディアンだ」


地面を勢いよく蹴り、先程とは比べ物にならないほど凄まじいスピードでエンフォーサーとの間合いを詰める。


(速い…先程とはまるで別人のようだ)


ポータルからツヴァイヘンダーを取り出し、脇構えで近接戦闘に素早く切り替える。


脇構えはリクから教わっていた構えの一つであり、剣全体を体で隠す事によって相手に間合いを予測させないこの構えは、リーチが武器であるツヴァイヘンダーとの相性は抜群である。


遠心力に、ブルーフレイムによって底上げされた筋力、その他あらゆる知識と技術をこの一撃に詰め込む。


「喰らえエンフォーサーッッ」


エンフォーサーもチャクラムで受け止めるが、キリンジのツヴァイヘンダーの威力が上回った。


火花が飛び散り、チャクラムは宙を舞いエンフォーサーの背後で重い金属音を立てて落下した。


しかし、それに動揺する素振りも見せずエンフォーサーは片方のチャクラムでキリンジの刃を抑える。


ギリギリと刃と刃をが擦れ合い、戦闘は再び鍔迫り合いへと発展した。


「忘れたの? ブルーフレイムで底上げされた私の力はお前より遥かに強いッ」


そう言ってキリンジが次第にエンフォーサーのチャクラムを抑え込み、刃は彼の喉元へ今にも届きそうである。


すると徐に彼は笑い出した。

「一切無駄の無い動き、その威圧感…素晴らしい、素晴らしいぞ麒麟児よッッ。もっとだ、もっと楽しませてくれ!」


直後エンフォーサーの体は液状になり影に溶け込んでしまった。


(影に溶け込む能力を持つモンスターはビートストッパーしかいないッ)

ビートストッパーとの戦闘経験を経て、傾向を熟知している彼女は瞬時に思考を巡らせ、次の展開を予測する。


キリンジの背後で影から姿を現すエンフォーサー、キラリと輝くチャクラムの刃。


振り向いても間に合わない。


「お別れだ麒麟児、なかなか楽しめたぞ!」


しかし、それでも尚キリンジは不敵な笑みを浮かべていた。


「やっぱり、背中を狙ってくれると思ったよバーカ!」


突然キリンジとエンフォーサーの間にポータルが開き、エンフォーサーも勢いを抑えきれず中へと突っ込んだ。


「クソったれ殺人鬼、待ちに待ったお別れの時間だよ!」


もう一つのポータルはキリンジの正面に展開され、エンフォーサーが姿を現す。



右手に蒼炎を纏い、そこへ残りの魔力を全て注ぎ込む。


流星(シューティングスター)ッッ!」


キリンジの右手から光の速度で放たれる凝縮された魔力の矢は、エンフォーサーの胸元を見事に貫いた。


ドサっとその場に倒れたエンフォーサーを目にし、キリンジも力無くその場に座り込む。


「やっと…終わった」






しかし…


突然キリンジの背後で拍手が鳴り始め、恐る恐るその方向へ目を向けると…


「エン…フォーサー?」


そう、なんとたった今致命傷を負わせたはずの彼が立っているではないか!


それだけではない。貫いたはずの胸元には傷など一切ない。


「君の技、ここから確と拝見させて頂いたよ。いやぁ、実に素晴らしい」


「なん…で?」


「私が使役する魔法はビートストッパー上位種のもの。影から私そっくりの(デコイ)を作る事など容易い」


「じゃあ、あそこで倒れているのは…」


そうしてキリンジが再び倒れているエンフォーサーの方へ目をやると、既にその姿は消えていた。


「そうだ。もちろん偽物だとも」


キリンジは暫く堪えていたものの、ついに耐えきれなくなったのか歯軋りをし、拳を固く握り目は血走っている。


「なんで死なねえんだよ! 私から大事な人を奪っておいてなんでお前が無傷なんだよクソが! 死ねよ死ねよ死ねよ!」


精一杯の罵倒を吐きながら震える手でエンフォーサーの裾を掴み、非力な拳で叩き続ける。


「シェリフを…………返せよ….」


「もう戦う気力は残っていないようだな。君のような才能の原石を無碍にするのは私としては大変辛いが、致し方ない…さらばだ若き麒麟児よ」


俯くキリンジの首に真っ直ぐ振り下ろされるチャクラム。


その時だ。突然鳴り響いた発砲音と共にエンフォーサーのチャクラムは弾き飛ばされてしまった。


「おうおう、勝手に俺を殺した気になってんじゃねえよ」


キリンジはパッと顔を上げ、涙を拭いその方向へ目をやる。


渋い声に、白髪のミディアムヘア、右手に握られたSAA。


キリンジは己の目を疑ったが、無理もない。


串刺しとなり死んだはずの英雄が、無傷でそこに立っているのだ。


「悪いがエンフォーサー、ここで死んでくれ。その嬢ちゃんは俺の娘同然なんだ。これ以上泣かせちまったら、父親として胸張れねえぜ」


不的な笑みを浮かべるシェリフに、エンフォーサーも不気味に笑う。


「薄々気付いてはいたのだが、これで君の能力がはっきりと分かったよ。そこで、一つ質問して良いかね?」





「構わねえぜ?」







「君は…能力と引き換えに何を差し出した?」


………………


…………


………


……



静寂が場を包み、キリンジはエンフォーサーの問いを未だ理解出来ずにいた。


そしてシェリフが口を開く。

「それを知ってお前に何の得がある?」


「ただ興味があって聞いただけさ。しかし、私の言う通り君は根っからの化け物らしい」


「…とっとと失せろ」

いつにも増して真剣な顔つきのシェリフを初めて見たキリンジは訳もなく焦燥感を覚える。

 

エンフォーサーは溜息をつき、屋上の縁に立つとキリンジに向かって言った。

「若き麒麟児よ。もしこの暗黒郷(ディストピア)を本気で変えたいと願うのであれば、この世の全てを疑え…君が信じる存在は、果たして本当に正義かな?」


何か意味ありげな言葉を残し、エンフォーサーは深い闇夜へと姿を消した。


その後ろ姿を呆然と眺めていたキリンジの横にシェリフが座り込み、キリンジの頭をわしゃわひゃと撫でる。


「帰ったら…ちゃんと話すさ」


果てしなく広がる星空、夜はまだ明けそうにない…

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