警鐘
【玲瓏のディストピア】を読んでくださり、誠にありがとうございます!
今後の執筆活動の励みになるので評価と感想もよろしくお願いします!
雲ひとつない晴天! 照らす太陽! 青く澄んだ海!
絵に描いたような美しいビーチの砂浜に照葉は横たわり、夏の風を肌に浴びて休暇を堪能している真っ最中であった。
(前の生活じゃこんなにのんびりできなかったろうな〜、ガーディン最高!)
「キリンジ、ジュース持ってきたよ」
両手にパイナップルジュースが入ったグラスを持ったミクはそう言って片方を照葉に手渡す。
「お〜、ありがとうミク!」
「ジョーカーがお肉焼けたから来いって言ってたよ」
言い忘れていたが、今日はジョーカー、リク、ミク、そして照葉の四人でU.K.A.K作戦と適当に称し、それを本部に申請して資金を掻っ攫い遊びまくるというジョーカーの企画だ。
「こっちだよ照葉! もうお肉焼けてるよ〜!」
煌びやかな笑顔でこちらに手を振るジョーカーの水着姿はやはり夏空の下のビーチでは映える。
体の曲線美とさらりとした白髪、そして太陽に照らされ輝く真紅の瞳は照葉でさえ溜息をついてしまうほどだ。
彼女の元へ駆け寄ると同タイミングでリクも到着し、手には大きなスイカが日光に照らされ光沢を放っている。
「そういえばニャルテは?」
リクの問いにキリンジは眉をハの字にして答えた。
「ニャルテは家族に会う用事があるみたいで、来れないとの事です」
「家族との時間も、この仕事を続ける上では重要な事だからな」
伝え忘れていたが、何故リクも同行することになったのか疑問に思った者もいるだろう。
それは遡ること5時間前、場所はミーティア本部のカフェテリア。
キリンジはある問題を抱えていた。
それは…
「8月だってのに夏っぽいこと何もできてないじゃんか!」
そう叫んだキリンジを宥めるようにニャルテが言う。
「まぁ、最近はやけに融合が頻繁に起こるからにゃあ」
「キリンジ、それにニャルテ。久しぶりだな」
突然の声かけに二人はバッと振り向くと、そこには抹茶ラテを片手に持ったリクが立っていた。
「あ、リク! 任務は順調?」
「ああ、丁度調査任務も終わってひと段落ついたところだ」
「お! 暇そうな奴らみっけ!」
そこへジョーカーも現れ、キリンジの肩に強引に腕を回した。
「暇ならやろうよ、夏っぽいこと!」
そして今に至る。
「そういえば、リクってどんな魔法を使えるの?」
焼けた肉を頬張りながら問うキリンジに、肉を裏返しながらリクは答える。
「俺の魔法は少し特殊でな、説明すれば長くなるぞ」
コーラの瓶を揺らしながらジョーカーも口を開いた。
「リクはね、銃の才能はビミョーだけど剣術と魔法に関しては凄いんだよ!」
キリンジはそれを聞いて考える。
(クラスマッチは銃のみでの戦闘。つまり、近接武器と魔法ありの戦いだったら負けてたかもって事だよね)
「俺もそろそろBクラスに昇格したいんだが、上からの返事が全く来ないんだ」
「リクなら、すぐにBクラスに行けるさ」
プルルル…
その時、テーブルに置かれたジョーカーのスマホの着信音が鳴った。
彼女はパッとスマホを手に取り「こちらジョーカー」とさっきまでとは違う、低い声色で電話に出る。
暫くしてジョーカーは電話を切り、着替えが入ったバッグを手に取った後キリンジ達に言った。
「めちゃめちゃ楽しかったけど、本部が僕達へ緊急の呼び出しがあるみたい」
「私にも用事が?」
キリンジが恐る恐る聞くとジョーカーは首を横に振り答えた。
「いいや、厳密には主に君への用事だ」
リクもそれに加えるように口を開く。
「片付けは俺に任せろ。ジョーカー達は先に行け、後で追いかける」
普段陽気なジョーカーが深刻な顔持ちになるのも無理はない。本部から個人のガーディアンに直接呼び出しがかかるなど、滅多にない事なのだから。
ミク、キリンジ、ジョーカーの三人はバンに乗り込み、鋪装が不十分な森の道を猛スピードで飛ばしていく。
ここへ来る前の幸せに満ちた空気が嘘だったかの如く車内は緊張に包まれ、静寂そのものだった。
そして2時間後━
キリンジは目前に聳え立つウォールナット調の巨大な扉を前に腰を抜かしていた。
彼女の前にある部屋、通称【ハットルーム】はミーティアの創設者であり最高司令官シェルヴェ・ラングヴェールのオフィスである。
そしてそのシェルヴェは、ニ世界融合後、最も速く環境の変化に適応し、異世界と現世の協定を申し出た。まさに新時代のパイオニアである。
そしてついに、巨大な両扉がゆっくり、ギィィと重い音を立てながら開く。
彼女は高鳴る心臓を抑えるように息を吐き、目を瞑る。
だが…
(無理無理無理! マジで怖いんですけどぉぉぉお!!)
やはり怖いもんは怖い。
「入ってくれ、キリンジ」
腹底で反響するような低い声がキリンジの鼓膜に響く。
中に入ると、大理石の床と壁に豪華な装飾が施された部屋が彼女を出迎えた。そして正面のデスクに座る老人が一人、その男こそシェルヴェである。
「お…遅くなり申し訳ありません! ミスターシェルヴェ」
そう言って気まずい雰囲気をなんとか変えようとキリンジは床に両膝両手をついた。そう、DOGEZAである。
「まあ、そう固くならないでくれキリンジ。君をここに呼んだのはね、ある男を始末して欲しいからだ」
一瞬解れたキリンジの緊張であったが、シェルヴェの最後の言葉によって再び鼓動が速くなる。
彼女には分からなかった。ミーティアの敵はモンスターな筈、何故人殺しが必要になる?
「断ります」
思考の余地はない。彼女はきっぱり言うとシェルヴェに背を向け出口へと歩き出した。
「それは残念だな。その男の名はエンフォーサー、元Sクラスガーディアンだ」
「尚更Bクラスの私に仕事を頼む理由を知りたいですね」
キリンジは歩みを止める事なく聞き返す。
そうだ、この疑問は今に始まった事ではない。森林攻略任務の時やジョーカー救出の件だって想定外の事態ばかり、その度にBクラス以下のガーディアンが大勢犠牲になっている。
「もう一つ、彼は無差別殺人鬼だ。ガーディアンとして生きる事を条件に死罪を取り消してやった」
その瞬間キリンジの足がピタリと止まり、尚もシェルヴェはこう続けた。
「だが彼は本部から脱走し、情報によるとあるガーディアンの命を狙っているらしい」
「おっと、今回は無差別じゃないんですね。それで標的は誰なんですか? まあ、私が動くことは無いですが」
「英雄、シェリフだ」
キリンジの脳の処理が追い付くまでの時間3秒。
憩いの時はいとも簡単に崩れ去った。




