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世界揺るがす秩序の稲妻

【玲瓏のディストピア】を読んでくださり、誠にありがとうございます!


今後の執筆活動の励みになるので評価と感想もよろしくお願いします!

洞窟の中にある広々としたこの空間は、恐らく件のアンノウンの巣なのであろうか。いずれにせよ、脱出は早いに越したことはない。


「よく聞いてキリンジ、ボクが合図したら出口までまっすぐ走って。ボクが時間を稼ぐから」


「いや、ジョーカー…そのセリフほぼ死亡フラグですよ!」


「え?」

「は?」

「死亡フラグって?」

「ん? あー、うん」

「うんって何?!」


死亡フラグというワードを知らない若者がこの世に存在したとは、世界は広いものだ…


そんな事を思いつつも、キリンジは収納魔法のポータルから取り出したハルバードを取り出しジョーカーに手渡す直前に言った。


「良いですか? 脱出は二人一緒です。逃げるなら一緒に逃げるし、もちろん戦う時も」


ジョーカーは暫く「う〜ん」と悩んだ後、眉をハの字にして笑いハルバードを手に取った。


「まったく、ボクは入団して間もない君にびっくりさせられっぱなしだよ」


二人は立ち上がり、アンノウンに目を向けた。


「これからどうする? キリンジ」

「遥々ここまで来たけど、まだ暴れ足りないですね」

「奇遇だね、ボクもそうさ」


二人は不敵な笑みを浮かべアンノウンの方へ歩き出した。


「ボクさ、あのドラゴンはアンノウンじゃないと思うんだよね〜」


「え?」


「奴の背にある針が電気を発電、蓄積し、通信を妨害している。ボクの読みが合ってるなら奴の部類はSクラスじゃない」


「それって…」


「ああ、奴の名はキャンデラ……アルカナ種だ」


【キャンデラ】

別称、閃皇。

異世界でも目撃情報は少なく、ニ世界融合以来出現したことのないまさに幻のモンスター。


「グオォォォォォォォオッッッッ!!」


こちらに気が付いたキャンデラは鼓膜が破れるほどの雄叫びを上げた後、威嚇するように翼を広げた。


風圧をものともせずジョーカーはキャンデラを睨みつける。


洞窟に響く咆哮は止み、場は緊張に包まれキリンジの首筋を汗が伝う。


そして……



ポチャン───



鍾乳洞から落ちた水滴が地に落ちると、堰を切ったようにジョーカーはハルバードを構えキャンデラの方へ走り出した。


「キリンジ! 奴は攻撃の前に必ず額のクリスタルからクソほど眩しい光を放つ。ボクが合図したらそこを撃って!」


「了解ッ」


返事をしたは良いものの、キャンデラの額にはクリスタルなど無い。ジョーカーの言い様だと、それが核でも無いようだ。


ジョーカーとキャンデラの距離約10メートル。

彼女は高く飛び上がり、キャンデラに向かってハルバードを振り上げる。


それとほぼ同時にキャンデラの額の皮膚が裂け翡翠のクリスタルが姿を表した。


(ターゲットを、さらに絞れッ)


「今だキリンジ!」


キリンジは「当たれッ」と叫び引き金を引く。


弾丸は見事クリスタルに命中。破壊とまでは行かなかったが閃光を防ぐことが出来た。


怯むキャンデラに追い打ちをかける様にジョーカーがハルバードを振り下ろす。


「仲間の仇は打たせてもらうよ!」


ハルバードの刃は風を裂き真っ直ぐにキャンデラの鼻先へ振り下ろされた。


しかし、キャンデラの肉体には傷一つ残らない。


「流石アルカナ種、ならボクも本気を出しちゃおうかな!」


そう言ってジョーカーがパチンと指を鳴らすと、ジョーカーの周囲を青く光を放ち様々な形の剣が無数に出現した。


「コールスリー…パワーサーティスリー…スタンバイ」


するとジョーカーの後方で待機していた三本の剣が彼女の前へと移動し、その剣先は真っ直ぐとキャンデラへと向けられている。


「切り刻め」


ジョーカーの命令を合図とし、三本の剣は一斉にキャンデラの方へ凄まじいスピードで飛び出した。


対しキャンデラは背の棘から電撃を放ち剣を迎撃する。


「まだまだ! コールシックス、パワーフィフティーンスタンバイ! 行け!」


六本の剣が立て続けに飛び出し、再びキャンデラも迎撃。二者の能力の撃ち合いは洞窟内の地面をも揺るがした。


激しい攻防戦は暫く続き、ついにジョーカーの剣のストックが切れてしまった。


「ジョーカー、危ないッ!」


ジョーカーに向かって放たれる雷。


「クッ、上等だよッ」


その時だッ!


「エンボス」


突如男の声が洞窟内に響き渡ると、地面が浮き上がり雷を遮った。


「全く、ジョーカーが死んだと聞いて来てみれば...閃皇も一緒とはな」


落ち着いた立ち姿、全身黒一色の装備、ホルスターに収められたM29...間違いない。


キリンジは希望に満ち溢れた笑顔で叫んだ。


「シーカー、来てくれたんだ!」


「ああ、どっかの老いぼれが一緒に来いってうるさくてな」


シーカーの言葉にキョトンとしてキリンジは首を傾げる。


「老いぼれ? 一緒に来い?」


「おうよ、嬢ちゃん」


いつの間にか背後に立っていたシェリフはキリンジの髪をわしゃわしゃと撫で、ギロッとキャンデラを睨んだ。


「久しぶりだな閃皇、9年ぶりか? 俺に絞められて尻尾巻いて逃げたとき以来だな」


キャンデラは「グルルル」と唸り、シェリフへ向けられたその声はジョーカーを目にしたときよりもより一層悍ましさを増していた。


「俺にまた牙を剥くたあ、随分偉くなったじゃねえか。喉元過ぎればってのはこの事だなぁ!」


「グルアァァァァァァァァァァ!!!」


シェリフの叫びとともにキャンデラは雄叫びを上げ彼の方へ猛スピードで走り出し、一方シェリフは不敵な笑みを浮かべながらホルスターに手をかける。


「好戦的、そんでもって技の一発でも喰らえば即死待ったなしの閃皇の名に恥じない絶対的な力。お前を殺せる人間なんて世界中何処を探したっていねえだろうよ」


シェリフはSAAを取り出し、キャンデラの額のクリスタルを撃ち抜く。


直後、急所を撃たれたキャンデラは勢いを失い再び距離をとった。


「もちろん...俺を除いてな。さあ、今日で終わりにしようぜ...」







─待って─


その時キャンデラの背後に巨大なポータルが開き、奥から現れたのは...


「女...の子?」

キリンジはぱっくりと口を開けながらその少女を目に唖然としていた。


ショートのブロンドヘアに白のワンピース...一見するとただの可愛らしい華奢な少女だが、キリンジは彼女が放つ異質なオーラを瞬時に感じ取っていた。


何より驚くべきは少女がキャンデラに警戒されていない。いや、あの閃皇を手懐けているのだ。


「遅くなってごめんねキャンデラ。悪いけど人間、お前たちにはここで死んでもらうよ」


少女の発言をジョーカーは鼻で笑いながら言う。


「何寝ぼけたこと言ってんの? ボク達は閃皇を殺して全員生きて帰るよ」


「ショーカー、だからそれが死亡フラグなんですって!」


「さっきから何なんだよ! 死亡フラグって何なの?!」


「今後の死を連想させてしまう発言の事です! シーカーも知ってますよね?」


「お、おう」


「ほらシーカーでさえ知ってる!」


二人の会話を遮るように「ゴホン」と少女は咳払いをし、再び話し始めた。


「お喋りはいい、消えろ」


直後、地を割りながら無数の触手が伸びキリンジ達へと襲いかかる。


キリンジはハイジャンプやライフルを駆使して触手を回避し、ジョーカーはハルバードでひたすらぶった切る。


シーカーは軽やかな身のこなしで難なく回避。シェリフは...言うまでもないだろう。



しかしキリンジはとうとう背後から迫る触手に拘束されてしまった。


「ッッしまった!」


どうするべきか、策を練ろうにも混乱と恐怖で思考が定まらない。


必死に脱出を試みるも、かえって高速の力が増すだけである。


するとシーカーが単身で少女の方へ走り出した。


「何やってんのシーカー! 単身で突っ込むなんて無理だよ!」


シーカーは自身に襲いかかる触手を躱しながらひたすら走る。


「魔法を止めるには、本体を殺るのが一番手っ取り早い」


数多の触手とキャンデラの電撃を掻い潜り、ついに触手と触手の交差が解け現れた射線。シーカーはこの好機を見逃さなかった。


「...終わりだ」


パァァァァァンッ!


響き渡る銃声、訪れる静寂....


シーカーの狙いは完璧であった。しかし悲しいかな、彼の弾丸は少女を覆う青い半透明のバリアによって防がれていた。


「クソッ」


シーカーはそう吐き捨て、直後に現れた触手によってキリンジ達の方へ勢いよく吹き飛ばされた。空中でバランスを取り戻し衝撃を和らげたため大事はないようだ。


「この加護は如何なる物理、魔法攻撃も受け付けないの。よって、あなた達に勝ち目は毛頭ない。分かったら大人しく跪いてこっちに首を差し出して、痛くないように終わらせてあげる」


すると、キリンジはライフルを置き立ち上がるとゆっくりと少女の方へ歩きだした。


「キリンジ...な、何してるの?」


ジョーカーは震える声でキリンジの肩を掴む。


キリンジは静かに言った。


「ジョーカー、あの光る剣...合図したら出力最大でこっちに飛ばしてください」


「え?」


困惑するキリンジに向かってキリンジは親指を立てニッと笑ってみせる。


「私、試したいことがあるんです。シェリフ! シーカー! 私が走っている間だけ触手と電撃の対応をお願いします!」


「おう!」

「了解」


彼女は希望に満ちた瞳で、空間魔法からツヴァイハンダーを取り出した。


「起きて麒麟、出番だよ」

─いつでも行けるぞ照葉─




彼女はキリッと少女を睨み、走り出した。


「諦めが悪いんだね、私の大嫌いな人間の特徴だ」

少女は軽蔑の眼差しをキリンジへ向ける。


「諦めが悪い? フッ、大ッ正解!」


キリンジは迫りくる触手を剣で薙ぎ払いながら進み、シェリフとシーカーもそれに加勢する。


「私がこの戦いで学んだことは三つ! 一つはハイジャンプは胴体の向きをZ軸として発動する技。すなわち、私の体勢次第で方向を自在に変えられる」


キリンジがそう言った瞬間前方を触手で完全に塞がれた。


「いいねぇ、ギャンブルしてみようか!」


前傾姿勢でそう叫んだ彼女は全身に炎を纏い強引に触手の妨害を破った!


「並の妨害じゃあ、もう私を止められない!」



「それで勝ったつもり? どれだけ近付こうが私の加護の前では全てが無意味なのよ」


そう、一番の問題は加護によって攻撃が通らないことだ。しかし尚もキリンジの顔は希望と決意に満ち溢れている。


「いいんだ。これだけ近付ければ充分だよ。ジョーカー! 今です!」


「オーケイ! コールワン...フルパワー...エクスカリバースタンバイ! 頼んだよキリンジ!」


ジョーカーはエクスカリバーと呼ばれる一本の剣を勢いよくキリンジへ向けて飛ばす。


「させないよ」


そう言って少女は剣をキリンジに渡すまいと無数の触手を操り剣を迎え撃つも、剣の魔力によって無力に散っていく。


そして、エクスカリバーはキリンジの手へと繋がれた!


「さあ、やってみろ。この加護を破ってみろ」



キリンジは剣を振ることなく、パチンと指を鳴らす。


「二つ目はほぼ賭けだけど、空間魔法のゲートは一定の面積内なら何個でも展開できる。つまり、私の位置とお前の加護の範囲内の二地点を繋ぐゲートを作る事ができるはず。外側から壊せないなら、内側壊すまでよ!」


簡単に説明しよう。

ゲートを展開できる面積には2平方メートルという制限が存在する。よって、1平方メートルのゲートを2つ生成する事も

理論的には可能なのである。


するとキリンジは展開された収納用の空間魔法のゲートに飛び込んだ!


「何処だ、何処へ行ったッ」

動揺する少女の背後に発生した空間の亀裂を切り裂き、キリンジが姿を現す。


「三つ目、背後は常に警戒を怠らないこと」


「やるじゃない、人間にしては」


振り向くことなく話す少女の背後で、キリンジはエクスカリバーを振りかぶり言った。


「そりゃあ、私は期待の星だからね」


「フン、その鼻っ柱いつかへし折ってやるわ」


「んじゃ、楽しみにしてるよ」


キリンジはエクスカリバーを振り翳し少女の首をスパッと刎ねた。


しかし、その体は瞬く間に灰のように崩れ風と共に消え、キャンデラもゲ再び現れたゲートへと吸い込まれて行ってしまった。


「途中からオーラが消えたと思ったら、やっぱり偽物だったか。けど、伝説のエクスカリバーはこの手に!」


と思ったら、その剣も青い光の粒となり宙へと消えてしまった。


「ちぇっ、これも偽物か」


キリンジはしょんぼりと俯く。


そこへジョーカー、シェリフ、シーカーの3人もやってきた。


「キリンジ! やったね!」

「よくやった」

「こいつは帰って嬢ちゃんに一杯奢らねえとだな!」


キリンジはホッと胸を撫で下ろすも、何か思い出したように「あっ!」と叫んだ。


「ミクは?! 二人共来るときに見てないの?!」


「俺は見てねえなあ、シーカーは?」

「いや、人らしき者は見ていない」



「キリンジ、お待たせ」

過呼吸気味になっていたキリンジの背後からした聞き覚えのある、無気力で落ち着いた声...ミクだ。


「ビートストッパー、全員、食べた、帰り道、安全だよ」


彼女の存在に気がついたキリンジは素早く駆け寄りミクを強く抱きしめた。


「死んじゃったかと思ったよミク! 生きてて良かったぁ!」

「キリンジ...息が......ウッ......」

「...ミク?」

「...」

「ミク?」

「...」

「ミクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


「キツく締め過ぎだ嬢ちゃん」

「やれやれ...」









洞窟を出ると、陽の光が明るく照らし彼女らを出迎えた。達成感と安堵に包まれるも、閃皇と少女の行方は未だ謎である。


彼女らの正体は? 何を目的としている? 検討もつかない。

何はともあれ、ジョーカーを生還させる本来の目的は達成。キリンジもやっと休暇が取れるだろう。




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