探し物、そして醤油煎餅
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森中に絶えず響き渡る銃声、キリンジとミクは信号が途絶えた地点を目指して森の中を進んでいた。
ここに来るまで一体何匹のモンスターを葬ってきたのだろうか、周囲は血と獣の匂いが蔓延し彼女達が歩む後ろにはブラッドレイブンやコボルト、ゴブリン等その他大量のモンスターの死骸が転がっている。
「ニャルテ…このクソみたいな森を抜けるまであとどれぐらいかかりそう?」
ブレスレットから投影されるニャルテのホログラムに向かって話すキリンジの体力が尽きるのも時間の問題だ。
何より今は深夜、戦闘はおろか森林での行動など自殺行為である。
「ジョーカー達が残したマップによれば、このまま10分程歩けば洞窟が見えてくるはずニャ。ジョーカー達はそこで消えたのニャ」
「ミクは戦闘には加わらないの?」
「極力加わらせたくにゃいのニャ」
「どうして?」
「それは…」
その時、周囲の茂みがガサガサと動き始め、上空では複数のブラッドレイブンがガァガァと鳴き始めた。
直後茂みから姿を現したのは複数体の漆黒の体を持つ人型のモンスターだ…
「こいつはッ」
初めて目にするモンスターだがキリンジにはすぐに ソレ が何なのか分かった。
「ビート…ストッパー」
Aクラス最恐とも言われるモンスター複数体に囲まれ、キリンジは絶望のあまり腰を抜かしその場に座り込んでしまった。
「なんで…どうしてブラッドレイブンがBクラス以上を呼べるのよ…」
一方ミクは警戒する様子もなくひたすらに煎餅を頬張り、しばらくしてキリンジに言った。
「こいつらって食べれる?」
「へ?」
「こいつらって…食べて良いの?」
「よ…よく分かんないけど、倒してくれるなら何でも良いよ!」
「ふ〜ん」
ミクが納得したように相槌をうった次の瞬間、ビートストッパーが鋭い爪をミクに向かって伸ばす。
しかし爪がミクの額に接触する直前ミクの糸目がカッと見開き、開かれた大きな口から伸びた舌がビートストッパーの腕に巻き付いた。
ギチギチと音を立て締め付けられたビートストッパーの腕は舌によって引きちぎられ、甲高い悲鳴を上げながら距離を取ったビートストッパーはより一層警戒を強めたようだ。
「キリンジ、無事かニャ?!」
「ええ、なんとかね。さっきから聞こうと思ってたミクについてだけど、何となく察しがついたよ」
「ほほう?」
「ミクは...ミミックなんだね? 名前もそれっぽいし…」
「正解、その子の強さはAクラス以上Sクラス未満ってところかニャ。ただしミクは機動力と攻撃力重視の戦闘だから...」
「長期戦には不向き...か」
キリンジはそう言った後フッと笑みを浮かべビートストッパーとミクの戦闘へ再び目をやった。
片腕を失い怯むビートストッパーを守るように他のビートストッパー達が前線へ歩み出る。そして堰を切ったように再開される二体のビートストッパーの猛攻!
「#&?*$@5a?!」
繰り出される二本の腕、しかしミクの目には恐怖どころか戦闘を楽しんでいるような狂気が覗えた。
「キャハハハ!」
甲高い笑い声と共にミクも鋭い爪を剥き出し、右から襲ってきた一体の胴体を真二つに切り裂く。
続いて左の一体に目をやったミクは間髪入れず舌を操りビートストッパーの腕と胴体を縛り、頭を自身の大きく開かれた口へと放り込んだ。ボキボキとビートストッパーを捕食する音が唖然とするキリンジの鼓膜に絶えず響く。
しかしビートストッパーは湧いて出てくるように数が減ることはない。口元に付着したドス黒い血を舌で拭いミクは再び臨戦態勢へと入り、キリンジを横目に叫んだ。
「ミク、コイツら片付ける。キリンジ、先に探し物見つけに行け」
初めてまともに喋った! と喜びたいところだが、ミクは長期戦に適していない。お言葉に甘えて先に行くという事もできないだろう。
「でも...」
「いいから行け! ミク強い、だからまた会える」
そうキリンジの言葉を遮るように叫び、親指を立てニッと笑ってみせた。キリンジはミクの言葉を信じライフルを手に取り洞窟へ向かって駆け出す。
その姿を見送った後、ミクは自身を取り囲むビートストッパーを前にして不敵な笑みを浮かべながら小さく呟いた。
「見つかるといいね、探し物」────────
「ハア...ハア...」
どのくらい走ったか……それを確かめる術はないが、ミクとビートストッパーの戦闘音は聞こえなくなったところを見ると相当離れてしまったようだ。
「ここだ…」
キリンジの目の前には大きく口を開け深淵よりこちらを手招きする洞窟があり「いかにもダンジョンって感じの洞窟ね」と溜息混じりに言ったキリンジは小走りで洞窟の奥へと進んで行った。
「キリンジ…こちらニャルテ応答するニャ」
「こちらキリンジ、ばっちり聞こえてるよ」
「洞窟の中からの信号は何者かによって妨害されてるようニャ。だから今後の通信も途絶…」
「ッッ! 通信障害?!」
砂嵐と共に途絶えた通信。何度か再開を試みるも努力虚しく再び通信に成功することは無かった。
「まあ、ジョーカー探しに集中出来るからいっか」
そう言って足を踏み出したその時だ。何かが足に強くぶつかった。
「これは!」
それはハルバード(斧と槍が付いたでっけえ武器とでもイメージすれば良し)であり、持ち手の部分には「Joker」の刻印があしらわれている。
ジョーカーを象徴する武器が落ちていたという事は…いいや、考える事すら今の自身の心に傷を負わせかねない。
「きっと…まだ…」
ハルバードを手に取り、指を鳴らして現れたゲートにそれを放り込む。これは先述した通りニャルテが事前にブレスレットにダウンロードしていた空間魔法だ。
その時─
「グルルルルル」
何処からともなくモンスターの呼吸が洞窟内に響き、キリンジは瞬時に近くの岩陰に隠れた。
そっと顔を覗かせると、そこにはバチバチと電気を帯び、首元に痛々しい切り傷を負ったドラゴンの姿があった。
さらに不幸な事に、モンスターはこちらの居場所が分かっているかのように近付いてくる。
「チッ」
キリンジは覚悟を決めたようにライフルのレバーを引いた。
「グルルル」
もう奴はもうそこまで来ている。そんな時、すぐ横にキリンジの口をパッと手で抑え、「シー」と人差し指を口に当てフードを被った女性が現れた。
「切って」
「え?」
「通信を全部切って」
そう言うと女性は強引にキリンジの腰にある信号発信装置のスイッチを切った。
これはバイタル信号や位置情報を本部へ送るための物だ。原則としてスイッチを切る行為は禁止とされている。
「な、なんて事するんですか!」
すると女は勢い良くフードを外し、その直後キリンジの動揺や不安はパッと晴れ、喜びと安堵に満ち溢れた。
長く艶のあるポニーテールに真紅の瞳。そう、それは間違いなくキリンジが今まで探していた存在である。
「ジョーカー…やっぱり、やっぱり生きてた!」
しかしこの島全体がドラゴンの巣だ。安心するにはまだ早い。
「喜ぶのは、生きてここを出られたらだよキリンジ」
すぐそこまで迫るモンスター、彼女達の運命は如何に─────




