第9話 人類、幼女に叱られる
「そろそろ次の層へ行くのじゃ。付いて来る者は寄って来るのじゃ」
アマテラス様はそう言てピカッピカッします。
「歩くにはちと遠いゆえ妾が運ぶのじゃ。皆もちと寄るのじゃ」
みんなワラワラ~と寄って来ます。昔の芋洗いと呼ばれたプール位の人口密度です。
まあ、アマテラス様と陛下と総理の回りはぽっかり空いてますが。
全部で2,500人位になりそうです。
あっSPさんは総理にしっしってされています。釣り続行です、うれしそうです。
「では良いの、ゆくのじゃ」
そう言うと地面が光り始めました。ちょっと、いやかなりまぶしいです。
そのためか、立ったままの移動に不安を感じないようですね。結構なスピードがでているんですが、そのままスロープトンネルを降りて行きます。トンネルの中も明るいですね。
第2階層に到着です。丁寧な減速からの最後の最後でビタッ、教習車なんかがこんな感じですね。
掴まり合ってた人達が散って行きます。
ここまで1キロほど、確かに歩くと10分では歩けません。時短です時短。
この階層は平原ですね。道の左右に平原です。荒れ地と言った感じ。500メートほどで次のスロープトンネルです。
「ここは石油天然ガス区画じゃ。遠くにゆけば軽金属なんかが取れるの。詳しゅうはお主等で調査せい」
絶句です。
ああ、この瞬間、資源価格の崩壊が決定しました。
「せっ石油が取れるのですか!」
総理思わず絶叫です。
「うむ、日産量は大した事ないがの、涸れぬ」
これには記者さん達含めて「えー!」ですはい。
「だからとゆうて温暖化をなめるでないぞ!すでに、土中の二酸化炭素やらメタンやらに主要因は変わっておるのじゃが、それだけ温暖化が進行したと言う事なのじゃ。このまま進行すれば日本海のメタンハイドレートが沸騰して終いじゃな。文明を維持する事はできんじゃろ。心せよ!」
かっ神様のお告げは文明崩壊です!
騒ぎが治まりません!
「静まれ!何も今すぐとはゆうとらんのじゃ!」
アマテラス様がピカーピカーとします。はっきり言ってまぶしいです!
ピカーです!
「アマテラス様、残された時間はどれ位でしょう」
陛下が意を決します。
「ふむ、改善がなけれ5年ほどすれば日本海が沸騰し始めようの」
ザワザワ!
思ったより切羽詰まっています!
「騒ぐでない。何のためにダンジョンなぞ創ると思うとるのじゃ。文明が崩壊すると存在が消える神どもがうるそうての、断り切れんかったのじゃ! まったく彼奴らと来たらブチブチブチブチ、ブチブチブチブチ………」
神様の愚痴です。神様も大変なようですね。でも、そんな事言って大丈夫ですか?
「このダンジョンには1層と5層に設置したが、農業ないしは漁業区画・放牧区画はどのダンジョンにも必ず1層は設置するのじゃ。もう農地開発なぞやめるのじゃな。ダンジョンの中なら悪天候はないぞ。雨位は降るがの。そうじゃ忘れておったのじゃ。ダンジョンの中では雨は降らんのじゃ。農業区画以外ではの。雨が降るなら農業区画を兼備しておるのじゃ。5層までは日も暮れるるし、潮も満ちるのじゃ」
何かに気付きかけた者もいるようですが、思考誘導を強めます。核兵器の事は、核兵器がなくなるまで秘密です。頭の良い人は気付きそうなので、中継を含め記憶媒体にも思考誘導を仕掛けます。
「ここはもうよかろう。次へゆくのじゃ。ささ集まれ」
わらわら~です、わらわら~と集まって、スイーと移動です。
やっぱり1キロほどで到着です。最後はやっぱりカックン停止です。あっ、光ったままですね。光量は落ちましたが。
「レアメタル・レアアース区間じゃ。次ヘゆくのじゃ」
集まったままなのでそのまま移動です。スイーと1キロほど。やっぱり最後はビタッと止まります。
「森林区画じゃ」
まさしくザ・原生林です。
「こんなじゃがネズミしかおらん」
みなさんパシャパシャしてますが、これぞ世界遺産と言わんばかりの原生林です。
ネズミしかいませんが。
不意にアマテラス様が光ります。蛍光塗料の光のような優しい光ですが、冷たい光です。幼女が皆を睥睨します。
「鹿でも連れてくれば増えようの。猪は気を付けたが良いぞ。虫もミミズもおらんゆえな、エサが不足しようの。美しき原生林か? まやかしじゃ。歪な欲望の具現がダンジョンじゃ。お主等が求めたからここにあるのじゃ。人造神どもがお主等の夢を拾い上げて築き上げたのじゃ。どっちが主か分かったものでないの。美しき自然! まやかしじゃ。自然とは常にそこにあるのじゃ。大都会東京・ニューヨーク! 自然じゃ! 思い上がるな、人間など自然の1ピースにすぎんのじゃ! 人工的? 笑わせるな! 全てが自然じゃ!」
アマテラス様が怖いです。
「草原の砂漠化? 気にするな、家畜は倍にすればよい。農地が足りぬ? 森林など一本残らず切り倒せ! 所詮、人間のゆう自然など人間に心地良い物を自然とゆうとるだけじゃ!」
手厳しいですね。
「そっその行き着く先はどうなのでしょうか」
陛下が震える声で尋ねます。
「破滅じゃ。そうやって人間は文明を繰り返してきたのじゃ」
ホピ神話でしょうか。
「……幻の先史文明……」
「そんな大仰なものではないのじゃ。中国・中東・アフリカ・インド・北中米、過剰開発で人が文明を捨て去った痕跡などいくらでもあろう。昔は他の地にゆけばよかった。今はそうはいかんのじゃ。よって、ダンジョンを創ったのじゃ。さて、人造神どもが五月蝿いのじゃ。この辺にしておこうかの」
そう言うとアマテラス様のプレッシャーがなくなります。うん、愛らしいです。
「この森林は日本中の植生を集めておる。あれは大雪山連峰、そこな先にはマングローブもあるのじゃ。海はないがの。まあ、使い易い植生が多いのじゃ」
記者さん思いきって質問です。
「木を伐った後はどうなるのでしょうか」
「木はまた生えてくるのじゃ。3ヶ月ほどで芽吹き、1年もすれ元通りじゃ。まあ道もないのじゃ。色々とやって見るのじゃな。さて、もうよかろう。次へゆくのじゃ」
またわらわら~と寄ってきます。また光って移動です。スイービタッと、これはもう仕様です。
そして、穀物相場が崩壊しました。
一面の正に見渡す限りの小麦畑です。
「のう、もう農地開発など要るまい。ここは農業区画じゃ。農業ゆえ一度刈り取れば、きちんと種を播き農作業をせねばならんのじゃ。一度目はサービスじゃ。収穫するまでこれ以上成長せん。品種は、あっちがキタノカオリで、こっちがきたほなみじゃな。さて、今回は小麦にしておるが、どちら側にも川はある、水田にする事も可能じゃ」
「世界市場が崩壊する・・・」
総理のお言葉、声に力がありません。
「ダンジョンを開発すればよいのじゃ。確かに、グローバル経済は壊滅しようがの。じゃが、ここに胡椒なぞ植えても育たんのじゃ。カカオとてそうじゃ。その地に応じた作物でなくば育たんのじゃ。チョコレートを食べたくば輸入するしかないのじゃ。後の、資源区画は色々あるがの、国中のダンジョンを開発すればその国に必要な分にはなるのじゃ。農業区画はだぶつくの。輸出分もあろうし人口増加もあろうしの。とりあえず、飢えんようにはしたのじゃ」
神様の経済壊滅宣言です。
「失業しようがダンジョンに来れば生きられる、その様に創ったのじゃ。後、各国にできるダンジョンには必ず特産品があるのじゃ。これを輸出に充てると良い。妾達とて、何も考えなしにダンジョンを造った訳ではないのじゃ。太平洋の小国とて、ちゃんと外貨獲得できるよう考えておるのじゃ。ただ、簡単に見つかる訳ではないのじゃ。大抵はこの下のモンスター区画の産物じゃし、資源区画の物は未知の物質じゃ。始めの内は、せいぜい象牙の代替品が見つかる位じゃろ」
小国崩壊はないようですね。でも大国はどうでしょう。不安な感じです。
「だいぶいじめてしもうたが、次へゆくのじゃ」