第8話 ダンジョンは広かった
「ささ、ゆくのじゃ」
そう言って陛下と総理を伴いダンジョンに入って行きました。慌ててSPさんや秘書さん達が追い掛けます。段取り全部吹き飛ばす暴挙です。
「ほれ、何をしとる。さっさと来るのじゃ」
顔だけ出したアマテラス様が記者さん達をせかします。まずTVクルーから行くようですね。先頭を譲りあっています。一大スクープなのですが。ああ、アメリカのTVクルーが先頭で行くようです。
TVクルーの人数は二人に制限されていて、どこもカメラマンとディレクターで、音声さんは省略してディレクターは実況を兼ねると言う感じですね。今も実況をしながら恐る恐る進んで行きます。片手を一度入れてから引っこ抜き、確認しながらソロリソロリと進んで行きます。あっ、一度頭を入れて見るみたいですよ。引っこ抜きました。
「ワアオ、oh my god! 危険は無さそうです。急いで入りましょう!」
一番乗りはそのままに、後は広がりながら入って行きます。記者さん達が続きます。何と言っても広いですからね、幅100メートルは伊達ではありません。政府関係者も入って行きますが、ジャマにもなりません。TV中継やインターネット生配信は、ほんの一瞬乱れましたが、しっかりと繋がっています。
「何だここは!」
あっ、カメラさんの肉声が入りましたよ。ほら、進んで進んで。
「海だ~!」
どこかの実況が叫んでいます。
そうそこは、水平線まで見える広大な海辺でした!
地面はまるで道路のような自然石です。チャートでしょうか、更にセンターラインのようなまっすぐな線が見えます。それは、500メートルほど先でトンネルで以て地下へと下って行きます。
その道路から離れると左右に、自然石なのに、まるであつらえたかのような港です。周辺には、岩場や砂浜も見えます。
そして何と太陽です! 青空に燦々とした日射しはどこかのリゾートみたいです。
「ほれ、いつまで遊んでおるのじゃ」
アマテラス様が記者さん達を呼び集めます。そう言う間にも、
「保安庁は潜水調査もです。それと、東京湾の漁師にも協力を仰ぎなさい。漁船を運び入れてしまいましょう」
「面倒じゃな、ほれ」
そう言って取り出したのは釣り竿が3本、ルアーフィッシング用と、胴付き仕掛けの底物用波子竿、最後は投げ竿、砂地でキスやカレイやヒラメを狙います。どれもプラグが付いています。エサはいりません。
「誰かの落とし物なのじゃ」
記者さんの一人にロックオンです、視線で呼びつけます。
しかし、豪奢な巫女服のロリと釣り竿、違和感がハンパないです。
アマテラス様記者さんにルアーロッドを授けます。もちろんプラグ付きです。この記者さんは生配信中です。顔見知りに声をかけて応援を要請します。
「神様に釣りを命じられてしまったよ。スマホは山下記者に預けて大物を上げてみたいね。預かったロッドはメーター級でも大丈夫そうだ。プラグはシーバス、スズキ狙いみたいだね。では1投目だ」
そうスマホに向かって話すと慣れた手つきで投げます。結構な上級者のようです。それはわずかに3投目でした。
「これはいるな。全然スレてない感じ。きた!でかいぞ!それこそメーター級じゃないか、くうう、体ごと持って行かれそうだよ、エラ洗いだ、スズキに確定。これでも90センは上げたことがあるんだが、1メーター半は行かないが、1メーター20はありそうだ。見えてきたぞ、でかい!やはり120センは超えている。海面が近くて助かるな。頭を岸壁に乗せたら横向きに引きずり上げる。少し下がってくれ。よし乗った!行くぞ!よっしゃあ!」
そう言って一気に竿を持って後ろに下がる。そうするとスズキの銀色の魚体が上がって来ます。確かに1メートル20センチは大きく超えているようですね。
「よろしいですか?」
「はい何でしょう」
総理秘書官の一人です。
「その魚を預からせていただけませんか」
「良いですよ、さすがにいきなり食うほどの度胸はないです。本当にスズキかも確かめて欲しいです。ああ、でもこのスズキを前に記念撮影が必要です。山下記者も一緒に入って、武田記者お願いします。ほら秘書さんも入って入って!こいつも3人を前にでかく見えれば本物の大物でしょう」
なかなかやり手です。武田記者が1眼レフで狙います。ばたばたと記念撮影を終え、生配信一旦終了を宣言すると名刺交換会です。人脈が力です。総理秘書官何て大物、放ってはおけません。
ちなみに、投げ竿を預けられたSPさんと波子竿を預けられた男性自衛官さんは釣り続行中です。
記者さんは近くに来た女性自衛官さんに釣り竿を渡します。取材続行です!
「…公務で釣りができる何て素敵すぎます~」
ああ、ダメな方の人です。まあ、頑張ってもらいましょう。
「はい注目」
軽くフラッシュピカッピカッさせて、アマテラス様存在感再度増大です。更に少し浮きます。後ろまでよく見える高さで少ぉし漂います。
「ここは漁業区間じゃの。すでに分かったかと思うが、サイズは千年前のサイズじゃ。こっちは太平洋であっちは日本海じゃ。入って来たゲートを回り込むと、釣り公園や海水浴場に最適な所があるのじゃ」
そう言うと総理の方を見ます。
「子供等も来やすいように海を1層目にしておいたのじゃ。ここの桟橋以外はお主等で開発するのじゃな」
そうして2層目に進むスロープトンネルの先を指差します。確かにまだ開発できそうな海辺です。かなり先までありそうです。
「さて、ダンジョンには魔物がおる。とゆうてもダンジョンゲート周辺には出ぬのじゃ。ここな港とゲートの裏側は安全にしてあるのじゃ。どこのダンジョンも大抵似たようになっておる。どこのダンジョンも1層から5層は資源区画なのじゃ。それで出る魔物も1層から5層までは一緒じゃ。それがこやつなのじゃ」
そう言って手を伸ばします。またピカッです。
するとそこにはネズミです。アマテラス様の小さな手からは零れそうなデカブツ、子猫よりは小さな、うん、クマネズミですね。少しキラキラしながら記者さん達の上を飛びます。そしてSPさんの前で地面に降ります。
「放つぞ、蹴殺すのじゃ」
ギィギィ鳴きながらまっすぐ突っ込んで来るネズミをSPさんが踏んづけます。一撃です。
「うむ。殺した魔物は10分そのままじゃ。それを過ぎるとまあドロップになる。それまでにいじれば魔物をそのまま利用できる。病気何ぞ持っておらんから食いたければ食えるのじゃ。まあ、今は時間の無駄ゆえさっさとドロップに変えるのじゃ」
少しキラキラしながらネズミが浮かび上がりみんなに見える高さで止まると、シュッと消えました。
「小そうてよく見えんかもしれんが、小指の先程の小石じゃ。魔石とでもエネルギーコアとでも好きに呼ぶがよいのじゃ」
またキラキラしながら記者さん達の上を回ります。
「使い方じゃが、石炭と一緒に燃やしても使えるがの、非効率なのじゃ。これでまあ、石炭の1,000倍位じゃ。どうにかして液化か気化させて燃やすのが効率的じゃ。個体のままエネルギーを取り出すこともできるがの、電気とは相性が悪いのじゃ」
「それは燃やしても二酸化炭素を出さないと言うことですか」
「炭素何ぞ含んでおらんのじゃ。もっとも、燃やせばその熱量は発生するのじゃ。もっと別の使い道もあるのじゃ。ダンジョンに放置された物はじゃ、2時間でダンジョンが吸収してしまうのじゃ。これを防ぐのに使うのじゃ」
そう言うと、記者さんに変わってルアーフィッシング中の女性自衛官さんを呼びつけます。ピカッピカッ光って目で来いです。小石も近くに寄せます。
「竿にその石を押し付けるのじゃ」
自衛官さんは言われるままに小石を取って竿に押し付けます。するとグミのようにへしゃげた後、スーと吸収されて行きます。後にはうっすら赤く光る模様だけです。石は透明だったんですが。
「色が赤に変われば完了じゃ。青に変われば電池切れじゃから同じようにして補充すればよいのじゃ」
「どの位持つのですか」
「その竿であれば半永久的にじゃ。これから造るであろう施設じゃと、まあ大きさによるが2年は持つじゃろう。ネズミはこの階層であればスロープトンネルの上辺りに多くおるのじゃ」
自衛官さん達が急いで駆けて行きます。なんかスコップ持ってますね。車とか入れようとしているのですから、えらい騒ぎです。
「魔物が強くなればその石も大きくなるのじゃ。当然力も強いのじゃ」
「魔物はどこまで強くなるのですか」
「ドラゴンなんかもおるのじゃ。際限なしじゃ。25階層を過ぎれば戦車を一発で破壊する魔物が出始めるのじゃ。まあ、この話は6階層でするのじゃ。そろそろ次の層へ降りるのじゃ」