第4話 のじゃロリは逃げ出した
「何じゃこれは」
そこにはロリがいます。
10歳位でしょうか、巫女服をベースにした豪奢な衣をまとい、驚いた様子で体中を叩いています。はたと身を起こすと、額の前の小さな発光物をむんずと掴んで引っ張ります。するとまるでミョーンと言う様に周りを彩る放射線状の光も付い来ます。ダメですねこれは、案の定ロリが胸の前で手を広げると、パチンとでも言いそうな勢いで額の前に戻ります。
「何なのじゃこれは!」
ロリが悲鳴を上げます。そしてその顔色が段々と悪くなって行きます。光背の様な光がロリの首の付け根を中心に回っています。ああ、三角縁神獣鏡の紋様が舞い踊っているんですね!
ロリが泣き始めました。ソファーにしがみついてのギャン泣きです。
「ひどいのじゃ。あんまりなのじゃ!
お主の娘は何という小説を書くのじゃ。いくら妾が残念女神でも程度とゆうものがあるのじゃ~。もうこの姿がTVにもネットにも流れてしもうた。妾はこの文明が続くかぎりこの姿のままなのじゃ~」
おいおいと泣き崩れています。
「そっそれは玲子はいつまでもその姿だと言うのですか」
陛下が思わずロリに駆け寄ります。父としては当然の行動ですが、ロリの人間では有り得ない圧倒的なまでの存在感に、わずかに一歩二歩進み寄るに留まります。
取りあえず、このロリっ子が天照大御神様に間違いはなさそうですね。ご本神様ソファーにしがみついて泣いてますが。
「心配するでない。妾が降神を解けば元通りなのじゃ」
あっ、ロリ神様復活です。どこからともなく取り出したハンカチで涙を拭くと、チーンします。チーンです。それをひょいと投げるとどこかに無くなり、姿形も見えません。
「あの小説、玲子様が書かれていたのか」
会場の記者の誰かのつぶやきですが、ロリ神様は反応します。
「おお、其方あの小説を読んでおったか。読んでおったなら知っておろう。あのファンアートと玲子の想像力と、千五百年に及ぶ依りましの血脈のおかげでこの様なのじゃ。妾をここまで残念に書くのは玲子以外におらんのじゃ」
そしてまたチーンです、チーン。やっぱりハンカチはどこかに行ってしまいました。
ロリ神様はソファーに身を沈めます。しどけなく艶やかな仕草なのですが、アニメッチクに細身のロリ神様では、色気も淑やかさも残念仕様です。艶やかで艶やかな仕草をしても、背伸びしたチミッコの様にしか見えません。
ちなみに、未だに記者さん達の半数程は、『目が~目が~』状態です。
混乱収拾のために選択した玲子様登場以前より混沌としています。
一早く復帰した一神教徒などは、もうとてつもない表情でアマテラス様(推定)を見ています。
TVカメラは三脚固定で難を逃れていますが、クルーの半数は『目が~』です。カメラマンの執念でそのレンズは玲子様=アマテラス様(推定)を捉えていますが、放置状態が1/3。頭をフリフリレンズの向きだけは何とか確保しています。
とは言え、会見としては、それはもう空前絶後の大惨事です。皇室の消され得ぬ黒歴史です。しかも、未だに誰も会見を仕切っていません。
これは会見史史上に残る大惨事です!
そこに足音です。何の誰何も誰の制止も無く会見場に入って来ます。
「陛下、やはりこうなりましたな」
「ああ総理、すみま…」
ここで総理は強引に言葉をかぶせます。天皇陛下に謝罪などさせてはならないのです。
「責めている訳ではございません!我が方で仕切っていたとて如何ほどに違いましたか、ハハハ」
その笑いは、『危ね-、良くあそこで責任回避に動いた。良くやった俺』と、言うものです。また、それをあからさまにしています。おそらくは彼なりの配慮ですが、評価は分かれそうですね。
「とは言え、収拾が必要です。御前に罷り越しましたは川田章毅、現在、内閣総理大臣の任を拝命しております。御前様は天照大御神様に相違ございませんでしょうか」
「うむ、妾が天照大御神じゃ。玲子の体を借り受けておる。大御神まで付けて呼ぶは大仰ゆえ、アマテラスと呼ぶがよいのじゃ」
アマテラス様はソファーでふんぞり返ります。子供がおだてられて喜び勇む感がハンパないです。
「ではアマテラス様、会見が混乱しており、一度仕切直したく存じます」
「妾が閃光を発して気を引くわけには行かぬか?」
「…その閃光を浴びた者等がもだえておりますれば、何卒ご容赦を」
「では、もうさっさとダンジョンを創ってしまうのじゃ。皆は造成地に移動せよ。妾はちと、玲子とナシを付けねばならんのじゃ」
そう言うと控室を目指して脱兎の勢いです。どんな話を付けるのでしょうか。心配です。
「どんな仕置きがよいかの、やはり、のじゃ語でしか話せん様にしてやろうかの、どうじゃ玲子、ククク」
恐ろしい呪いです。のじゃ語での御公務…大惨事間違いなしです。しかし、これは玲子様とアマテラス様は会話が出来ているのでしょうか。注目です。
会場に幕が引かれアマテラス様は消えて行きます。
記者さん達には、ダンジョン造成予定地までのバスの案内がされています。多分これは内閣官房回りの官僚さん達、もがき苦しむ記者さん達に、濡れタオルを進めているのは宮内庁職員さん達です。
時間中途半端ですが、お昼はどうするのでしょうか。
こうしてダンジョン造成説明会は一つ目の幕を降ろしました。
「何だったんだこれ」
記者さんの一人がつぶやきます。
……のじゃロリお披露目会とかどうでしょう。
そしてのじゃロリは、逃げ出した……。