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第18話 玲子様ダンジョンに潜る




 玲子様へのアマテラス様からのご褒美は、公表された赤い糸の他にもありました。その一つが、自己管理できるダンジョンゲートで、資源区間をスキップして第6階層に直通します。

 ()()のダンジョンに!

 玲子様は神様に、世界中のありとあらゆるダンジョンへの、無限侵入キーをもらったのです。

 玲子様は、あんな小説を書くくらいですから、程度の大小は置くとして中二病を患っています。

 中学生で、少し不登校を起こして問題になりましたが、決してやり返せないとの確信の元に、陰湿ないじめをする方が悪い訳で。結果、この頃玲子様は居合道にはまりました。柔・剣道は強制的にやらされていた玲子様ですが、白刃の美しさに魅了され、林崎の太刀を学びます。会津松平子爵より明治天皇に献上された小太刀を、祖父、今の上皇様よりいただき練習に励みました。今では目録をいただく腕前です。

 そうです、ダンジョンに潜って見たいのです!

 神降ろしの翌日は全休をもぎ取っています。

 チャンスです!

 とは言え、どこでもと言うわけには行きません。

 一、身バレしない。

 二、できればうさちゃん殺すのは勘弁願いたい。

 三、銃はダメ! 流れ弾怖い。

 これ絶対!

 そんな事をグフグフ笑いながらダンジョンの情報をあさっていると、姉弟子に勘付かれました。

 天皇家奥向きの使用人で、公費で賄われる表側の人間、女官たる宮内庁職員ではなく、あくまで、天皇家の私費で賄われる女中さんです。メイドとも侍女とも立ち位置の違う女中さんです。

 マズイのです!

 不登校の解決に一役かったこの姉弟子、と言うか、ほとんど師匠みたいな人ですが、母である皇后陛下の信頼絶大で妹扱いです。

 マズイのです!

 気が付くと3人してグフグフ笑っていました。

 皇后陛下もです。

 これでいいのか日本人!

 まあそれは置いといて、スコットランドに手頃なダンジョンがあるようです。エジンバラの公園にできた小ダンジョンです。伝承にある邪妖精のようなものを中心としたダンジョンで、手が止まるほどの人型ではないようです。やっかいなのはヤマネコやキツネだそうです。ただ、頻度は低いですがウサギは出ます。そこは心を鬼にする事にしました。

 猟銃持ちは7階層に降りたようで、6階層に銃持ちは報告されていません。

 英語で行けるのも高ポイント。

 ここだ!

 3人は頷き相い武器を手にします。

 玲子様は小太刀、皇后陛下は打刀、姉弟子は薙刀です。

 玲子様が手を伸ばすと鳥居が現れました。朱塗りでこそありますがシンプルな素木鳥居で、大きさは伏見の千本鳥居ほどです。極小ダンジョンのゲートよりもずいぶんと大きいです。あっちは躙り口ですから。

 3人は頷き合って一歩を踏み出します。3人並んでの一歩です。

 玲子様、真ん中は譲れません!

 ダンジョンに入るとそこは里山でした。グレートブリテン島の自然を模した景色ではあるのですが、説明するならこれでしょう、ザ・里山。

 3人は早速狩りを始めます。自由な時間は少ないのです。ムダにはできません。

 梢から後ろを取ろうと飛び出す60センチほどのカエルみたいな小鬼や、コウモリみたいな羽根を持つ猿っぽい何か、フヨフヨ漂うウィル・オー・ウィスプみたいなのを狩ります。

 瞬殺です!

 たまに出会うヤマネコやキツネ、ウサギなどに手が止まりそうになりますが、襲われた以上は倒します。

 玲子様ビックリです! これでは軽すぎますね…。玲子様は驚嘆しました!

 女は弱し、されど母は強し?

 いやいやいやいや。

 智香師匠最強~、とか思っていたのですが、これはちょっと、足元にも及ばないのではないでしょうか。

 お母ちゃんには絶対逆らわない!

 玲子様は気持ちを新たにしました。

 いや、逆らった事などないのですよ?

 3人は、6階層があまりに歯ごたえがないので、7階層に降りる事にしました。

 爆走するギネスより二回りほど大きなウサギを前に、猟銃持ちは引き上げたそうです。体を伸ばせば人間よりもずいぶん大きい兎です。これに駆け回られると、自動小銃ならまだしも、猟銃では厳しいでしょう。

 7階層は、棍棒を振り回す赤黒い、これはゴブリンなのかな、が幅をきかせています。醜悪な人型でありながら人型とは思えないそれは、120センチほどの体格で俊敏に駆けます。一直線に襲ってくるほどバカではありません。まあ、ハイドinシャドウしないなら3人の敵ではありませんが。

 他にも色々出ますが、怖いのはハイドして足元を襲うキツネです。実在のキツネよりも一回りほど大きなそれは、玲子様だと、ジャングルブーツに噛みつかせた後の方が確実です。皇后陛下と姉弟子には通じませんが。

 ここも温い!

 行くぞ8階!

 これはちょっと暴走していますね。

 8階に足を踏み入れると皇后陛下がおっしゃっいます。

「あ~うん、ここからがダンジョン攻略かな」

「ええ~、ママ何が問題なの?」

「群れているって事ね」

 群れです。

 今まで単体でしか出現しなかったのが、群れです。

 難易度上がり過ぎではないでしょうか。

 とは言え、まずは一当たりしてみないと情報もありません。

「そこから先は魔物の結界よ」

 皇后陛下が指す先に穴があります。イヌ科の巣穴の感じです。おそらく、7階層のキツネ位の大きさでしょう。つまり、大きめの中型犬位です。

 行くしかありません。

 近づいて行くと巣穴の奥で動きがありました。飛び出す事はないようです。

「厄介ですね。玲子は私の右に、お姉様は後ろをお願いします」

 巣穴を迂回して先へ進むと、周囲からキツネが出て来ました。3人を取り囲むように七匹です。時計回りにじわじわと距離を詰めて来ます。

「出ます」

 姉弟子が3歩の距離で動きました。踏み込んでの3歩です。5メートル位でしょうか。玲子様はその右を守るべく続きます。後ろは皇后陛下にお任せです。

 姉弟子が正面と左のキツネを一振りで仕留めますが、右から1匹飛び込んで来ます。これを玲子様が抜き打ちで仕留めます。後ろでは、距離を詰めようとするキツネを、皇后陛下が牽制しています。姉弟子と玲子様は、そこから次のキツネを仕留めます。そこで皇后陛下が前に出て2匹を仕留めて、周りを警戒します。

「玲子、8階には3人以上で入りなさない。私でも一人だと死にます」

「そうですね。玲子様クラスで3人、頼りないなら5人いりますよ」

「ううっ、身バレする」

「ダンジョンに潜り続けたいのなら、諦めなさない。それに、大分快進撃をやらかしたわ。もうばれているかもしれないわね」

「ええ~」

「何人かスマホで撮影していました」

「貴女も顔が売れているわ。バレていると見るべきね」

「ううっ肖像権…」

「そんな物王族にあるわけないでしょう! だから私達は常に皇族としての…」

 あっこれ長いやつだ。そう思う玲子様を救ったのは、姉弟子なのか魔物なのか。

「斥候のようです」

「ううっ、今日はもう引き上げます。刀も研ぎに出さないと」

「それが良いわね。ここに鳥居は出せる?」

「出せると思う。うん、出せそう」

「お姉様、私、久しぶりに兎が食べたいのですが」

「良いわね。7階に行きましょう」

 早足で引き返しながら姉弟子と皇后陛下が、ニッコリと兎肉への期待を語ります。

 玲子様は、教育として、兎を飼いそれを食べる事を経験しています。正直、児童虐待だと思うのですが、さすがに、自分で絞める事こそありませんでしたが、絞める時も立ち会い、バラす時も立ち会いました。

「殺さずに食える肉などない」

 皇后陛下の教育方針は、当時の天皇皇后両陛下の賛同を得て実施され、玲子様に多大な影響を及ぼしました。これは、全国で取り上げられ、賛否伴う社会問題と化しました。

 しかし、

「それでベジタリアンになるなら、食料・環境工学上けっこうな事です。我々人間は、私達の食生活を動物や植物の命が支えている事を忘れてはならないのです」

 この正論の前に言葉をなくし、今では、小学生の間に、米は脱穀して精米しなければ芽吹く事を、肉は殺し絞める所からブロックやスライスの肉になる所まで、実習なり見学なりをするのが主流になりました。

 ベジタリアンの割合は激増しましたが、それでも2割は軽く下回ります。

「玲子、あんなお化けみたいに大きくても兎はダメ? 鶏の方が良かったかしら」

「ううっ、できれば殺したくはないの。迫ってこられると怖いばっかりだけど」

「泣きながら美味しいって食べていたから大丈夫だとは思うけど、私達は出された物は全て食べなければならないの。分かっているわね?」

「それは分かっているわ。ただ、私が餌をやっていた動物が、殺されて食肉になるのが納得できないだけで」

「ペット飼いはさせていないはず何だけど」

「うん、抱っこした事もない」

「牛や豚の世話をしてもらったらどうなる事でしょう」

「やっ止めて…」

「わざわざトラウマを増やす事はしません。ねえ玲子、アマテラス様を降ろしている時に何か感じなかった。そう、神々の思惑とかそう言う物を」

「他の神様と話している時は閉ざされて分からないです。アマテラス様については少し分かりました。自然神としてのアマテラス様は、ホンットに人間の事など一切考慮しない、太陽だけをコントロールするAIシステムです。人格?神としては、アマテラス様がおっしゃるよりも随分とお優しいです。後、私の小説にかなり引きずられていますね」

「私も読んでおかないといけないわね。で、その小説の事よ、書籍化の話しが来ているのでしょう。どうするつもりですか」

「国外からも来ていますし、どこか事務所に任せようかと思います」

「それも良いわね。当てはありますか」

「ありませんね。お母様はどこかご存じですか」

「あると言えばありますし、ないと言えばないですわね。この辺りが皇族としての距離感の問題ね」

「では、お父様も当てにはできないのですね」

「そうね、イラストレーターさんの話もあるでしょうし、皇室の肖像権を管理してもらっている宗像さんに相談してみましょう。とは言え、あそこは海外の出版とか経験ないですし、できれば国際弁護士の強い所が良いのだけど」

 この心配が杞憂に終わるのを、今の二人は知りません。

「お姉様、ゲットして来ました。ワタを出した感じでは良さそうですが、食べるのは明日になります。大き過ぎるのが玉に瑕です」

 頭も手足(膝下)も落としてあるのでウサギ感はありませんが、その分スプラッター感がハンパないです。玲子様、思わずヒィてなります。

「いえいえ智香さん上出来です。玲子、ゲートを」

 姉弟子の前に出た鳥居に3人が消えて行きました。

 翌日、料理長が卒倒する事になりますが、彼女達の責任ではないでしょう。

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