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第16話 川田総理は完全復活しました




 アマテラス様が神去って直ぐに、川田総理は復活していました。壊れていた間の事もきちんと覚えているそうで、さすがは秀才総理の呼び声高い川田総理ですね。まあ、秀才総理の名は、Fラン大総理と呼ばれた先々代総理からの嫌味ですが。

 陛下と玲子様のお躰は、既に皇居にあります。お車の中で目覚められた玲子様は疲れ切っておられましたが、ダンジョンからお車が出る時は根性でお手振りなさったそうです。今はもうベットの中、正にバタンキューでしたとか。一応、ただの疲労であろう、との報告が上がっています。


 一方、川田総理の身は未だダンジョン6階にあります。警視庁所属のバスに陣取り、自分自身のと秘書官達のスマホをダンジョンスマホと一体化させて、取っ替えひっ替え電話を掛けまくります。

 結構残っている記者さん達にも、随時、直接間接問わず情報提供しています。まあ、たまに上げる叱責は直に聞こえるように、乗降口が開けてあるのがあざとい所、策士ですね。

 今繋がっているのは水産庁です。

「遺伝子調査など後回しです!

 今最優先すべきは毒の有無、寄生虫の有無です! もう釣り人は入っているのです!

 ふう、優先順位を間違ってはいけません。はい、それで良いです。

 そうですね、遺伝子調査、生態調査などは大学や水族館に全て任せてしまいましょう。……はあ、新人研修中です。仕事量がオーバーフローしますよ。だいたい、彼等は勝手に入ってきます。連絡だけつけて勝手にやらせれば良いのです。……それは助成金や補助金を、貴男方が管理したいだけでしょう! だいたい、ここだけではないのですよ! 部下を過労死させる気ですか! 今の最優先事項は食用の安全確認! 次に大雑把な生態分布です。良いですね!

 後、泊まり込むのも良いですが、ちゃんと寝なさい。夜食も内閣府で手配しています。後ほど連絡が行きます。これは長丁場です。部下をちゃんと休ませるのです。今回は、これが一番の貴男の仕事です。良いですね。

 私からは以上ですが、貴男からは何か。……そこは任せます。緊急事態です。そんな宣言も法的根拠もありませんが、緊急事態には違いありません。その程度の裁量権は委ねます。他は、…ないと、では以上です。頑張って下さい」

 秘書官にスマホを渡すと同時に次のスマホを受け取ります。

「牧田資源エネルギー庁長官です」

「川田です。状況は。……そんな老害ども入れても間に合わないでしょう! 調査機器を整えて入るのは明日? まず入って、現場に合わせた機器を用意する。これが調査です。それが出来ない所は、全て、切り捨てなさない!

 ……牧田君、これ以上省益云々を左右するなら、更て「総理!! 資源エネルギー庁の現場からです! ガソリンらしき物の自噴を発見した! との事です!」何ですって!!

 …そちらも今ですか。…良いでしょう。では一度切りますよ。…はい、では」

 すぐにスマホを交換します。

 確認した名前は岩木一翔、資源エネルギー庁に鳴り物入りで入庁して3年目のホープです。川田総理は詳しくまで覚えていませんが、化学にまつわる環境学・地質学の分野で4つの博士号を持ち、キャリア官僚と技術官僚を両立させている天才です。目を付けている期待の若手です。

「岩木君ですか、総理の川田です。…はい。おべんちゃらは無しにしましょう。状況は……何と!」

 川田総理が記者さん達の前に走ります。ついでにスマホはスピーカーモードです。

「岩木君、申し訳ないがもう一度言って下さい」

 スマホを記者さん達に指し向けます。

「ではもう一度、ガソリンらしき物の自噴泉を発見。これのガソリン化に成功し、現在、オクタン価調整実験中です」

 ドワドワドワドワドワドワ

 ちょっと収集が着きそうにありません。スピーカーモード終了です。バスの奥に逃げ込みます。

「良くやりました。

 ……ええそうです。老害どもと省益官僚どもが使い物になりませんからね。これで動かざるを得ないでしょう。

 それで、らしき物と言うのは? …揮発していない? ……火を放り込んですら火が着かない。それは管理上有意義ですね。とは言え後です。

 自噴泉はどこで見つけましたか? ……やはり。その位置なら後は軽油と灯油ですね。軽油・灯油もそう遠くは無しに見つかるでしょう。オクタン価調整実験は程々にしてこれらの確保が最優先です。

 ……自衛隊を予測値で探索に出したと。良くやりました。ああ、うん、私の見立てでは、天然ガスも少量は道の反対側で見つかるでしょう。おそらくはガスハイドレート、メタンハイドレートの状態でしょう。これも同じようにガス化して下さい。魔石を使えば可能でしょう。

 ……ハハハ、アマテラス様には、結局これしか紹介していただけませんでした。予想はしていましたよ。

 大型の油田ガス田は少し奥まった所にあるはずです。そちらは老害どもに任せなさない。もっと奥に行けばボーキサイトにニッケル・チタン、ケイ素を大量に含んだ砂、石灰石、後は、リチウム辺りもあるでしょう。全て露天掘り出来るはずです。ああ、砂はハイドレートと一緒に採掘できるでしょうね。

 考えている事が分かりますか。……ちょっと違います。国際政治は得意ではないでしょう。…ハハハ、伊達に総理などやっていませんよ。で、今意見を述べたのは? …山崎翔馬君ですか、なるほど。そこにいるメンバーと自衛官の人数を教えて下さい。…ああそうですね。二曹に変わって下さい。…はい川田です。早速ですが、周辺に展開している部隊の詳細を教えて下さい」

 聞きながら総理は、山崎翔馬のプロフィールを思い返します。環境省生え抜きの若手です。修士課程中に博士号を取得、岩木と同じく、キャリア官僚と技術官僚を兼ねる若手の大物です。緊急開発プロジェクトのリーダーは、彼で行く事に決めました。

「なるほど、分かりました。このまま資源の発見と確保に努めて下さい。後、1個中隊追加して、資源の確保に努めなさい。接近観察までは許可の方針に変更はありません。司令部にダンジョンスマホで連絡を、……はあ、その通りですね。謝罪します。申し訳ない。繋いだらスマホを合わせて下さい。軽く一体化します。それで中継出来ます。換わって下さい。総理の川田です。木村臨時司令、この2階層の警備に後1個中隊を追加しなさい。何であれば、下層から引き上げさせても構いません。即開発可能な物がある以上、放置はできません。後、魔石を佐藤二曹の隊の警護する技官に渡しなさい。そうですね、1万ポイントほど。……はい、それで良しとします。以上です。お願いします」

 川田は思います、この緊急事態に柔軟性が足りない。やはり自衛隊にも組織の硬直化はある。これを打破しなければ日本は生き残れないと。

 ううん、被害妄想含みですね。

 間違ってはいませんが。

「…ええ川田です。岩木君、山崎君に変わって下さい。…川田です。そちらのメンバーの紹介をお願「総理! 森山実晴先生がガスハイドレートらしき物を発見したと」…山崎君、参院の森山先生がガスハイドレートらしき物を発見したそうです。自衛隊に資源確保させた後、貴男方に合流してもらいます。すべてはそれからです。…はい、では一旦切ります。…はい、以上です」

 スマホを素早く取り変えます。

「お待たせしてすみません、川田です。

 …ええ…ええええ分かりました。

 森山先生に提案があります。

 まず、報告として、ガソリンらしき物の自噴泉を発見、精製に成功し、現在オクタン価調整実験中です。傾向は出たので後は限定的でもある程度生産して、計算通りか確認するだけです。……資源エネルギー庁の岩木君と環境省の山崎君ですよ。

 でですね、森山先生には自衛隊に資源確保を私の名前で命じた後、集まるまでに彼等の方に合流してもらいたいのです。先生足は。ええ軽トラですか、秘書の方が余程良い車に乗っていますね、いやなんとも。

 はいはい、核心は日本の外交利益です。特許の完全公開と…そうです、ロイヤリティーの放棄。精製にはめどが立ちました。後は生産です。そう、そうです、打ち込みポンプです、えっと、持っている? ええ? 何と! さすがは森山先生です。どうも、頭ガチガチの奴が多く「総理! 2階の自衛隊からです。自噴泉を発見したと」…聞こえましたか? ええ、これで捗りますね。森山先生、一旦自衛官に電話を変わってもらえますか。ええはいお願いします。

 ……総理の川田です。では、新藤君、森山先生に教えてもらって、ガスハイドレートらしき物をある程度の量、確保して下さい。スコップはありますか?円匙ならあるって、そこはショベルじゃないんですか? 自衛隊なら円匙(えんぴ)ですか。ええ、はい、それでOKです。それからですね、そこから道路と並行して下層側に もう少し色の白い似たような物があるはずです。それも同じく確保です。正確な位置は、今貴男がいる場所から逆算して下さい。ええと、はいそれでほぼ正確な位置になるはずです。ええそうです。では以上です。お願いします。森山先生に変わって下さい。

「総理、2階の自衛隊から自噴泉を発見したと」聞こえましたか、森山先生。ええ、これで燃油は揃いました。この場は自衛隊に任せて下さい。ええ、打ち込みポンプを届けて下さい。お願いします。後、特許料放棄はちゃんと、欧米基準で謝礼を出すと伝えて下さい。お願いします。私はこれから牧田君と戦争ですね。

 それでですね、この際、この5ヶ所は国有化してしまおうかと思うんですよ。そうです、後に払い下げれば良い。

 そうだ、森山先生、ダンジョンの外にはケーブルやパイプラインはダメだそうですが、ダンジョン内での階層間輸送はどう思われますか。下はレアメタルにレアアースだそうです。……ハハハ、またまたおっしゃる。しかしまあ、合理的なダンジョンです。さっさと発注した方が良いですね。ハハハそうですな、参考にさせてもらいます。

 森山先生は、山崎君の連絡ああ持ってらっしゃる。私からの電話は明日以降になると彼等に伝えて下さい、お願いします。ハハでは任せました。はいお願いします」

 川田総理は肩の力を抜くように息を吐きます。一服の溜息と言う所でしょう。ガチガチでは、また壊れてします。ペットボトルのお茶とチョコレートなど1齧り。

「ふう、8時前ですか、民間に新たな資材を即時に求めるのは難しいですね」

 川田総理は森山の電話を受け取った、内閣総理大臣名義のこのスマホのメールチェックをします。今回、件名で結果報告もしろと徹底しています。大抵は経過報告で大した報告はありませんが、重要な物もあります。

 極力簡素に確認するように命じた物の、結局は確認方法まで指示したケーブル・パイプライン案件です。

 『できない』

 簡潔な回答がありました。

 ちなみに方法は、電力で、動員している消防車の常備車載装備の小型発電機にライトをつないで、ダンジョン内外からライトを持ち出して照らせたら、ケーブルによる電力供給が出来ると言う物。さすがに1から10どころか、1から100までになるので総理も言いませんでしたが、パイプラインの方も、消防車による送水によって確認しています。

 期待していた、逆方向への実験を開始した、と言う報告はありません。

 今回、報告は全て、ダンジョンスマホを一体化させたスマホで行うように徹底しています。一体化スマホを持ちいると、連絡先を知らなくても、『誰々だ誰々だ』と念じれば連絡先が出てくるのです。これはまだ公表していませんが、今回の作戦?に動員した人員間では、情報を共有しています。ちなみに見つけたのは、森山先生の警護に付いていた新藤三尉です。この時、川田総理と新藤三尉は直に言葉を交わしています。さらに、『今回の動員全員、今回の動員全員』でメールの一斉送信もしています。

 川田総理は、このケーブル・パイプライン案件の結果を伝えたメールの送り主に、電話を掛けます。

「総理の川田です。ええ、はい、ええ、結果報告は受け取りました。ただ、個人的には、期待していた追加実験の報告がないのが残念です。…吉田君、基本的に待つのが仕事の消防職員に、積極的に実験をしろと言うのがお門違いですから、責めているわけではありません。新たな提案の電話です。1層から2層に送水して下さい。送れるなら下り坂です。各署が大事に取っている水芸するホースをかき集めなさい。これなら末端でも即時提供が可能でしょう。はい、その通りです。実験のタイムリミットは明日の午前6時です。ですが、可能な限り早くに、です。送水が可能か否か。これが実験の要件です。送水が可能なら可能な限り2層に水を溜めて下さい。資源探索班が水を求めるでしょうから。電力でも行って欲しいですが、消防が装備する小型発電機では送電距離的に難しいでしょう。…いえ、時間的に正規発注は難しいでしょう。ここは素直に東電です。発電機車を動員出来ないか提案して下さい。現状を考えれば、どちらかが通れば、もう片方も可能でしょう。まだ情報公開するわけにはいきませんが、そう言う合理性をダンジョンは示しています。ですから、片方はおまけです。ええ、消防に頼んでいるんですから、本命は送水ですからね、お願いしますよ。で、ですね、貴男は私の電話など受けていません。他の職員達と語らって思い付いたのです。いいえ、幻聴です、夢幻です。いいですね? 吉田君、もう一度言いますよ、貴男は私の電話など受けていません。良いですね? はい、それで良いです。ではお願いします。以上です」

 川田総理はスマホを秘書官に渡すと、またお茶とチョコレートです。いくつかの案件を確認したり承認したり、いくつか新たな報告も受けます。その中には、メタンハイドレートらしき物の発見もあります。

「お弁当が届きました」

「ああ、では先にいただきましょう。この後は、牧田長官と戦争ですからね。エネルギー補給です。貴男方も交代して食べなさい」


 ダンジョン6階の夜は更けないようです。

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