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15話 吾、先駆者たらんと欲す




 小鳥遊勇気は痛い男だ。残念ながらもう少年ではない。

 もう一度言う、小鳥遊勇気は痛い男である。

 足元は安全靴、ケプラー素材のお高い作業服の上下、バックパックに掛けられたライト付きヘルメットも、ただの作業用ではないお高いやつだ。ベストのポケットも半分ほどは膨らんでいる。腰には水筒。まあ、ここまでは良いだろう。もしかしたら、そんな作業員がいるかもしれない。いや、デカイバックパックを見れば登山者と思うかもしれない。

 しかし、バックパックの中身を確認すればそんな疑念は消し飛ぶ。水、使い捨てバイオフィルター、ブロック栄養食、出し入り味噌、塩コショウ、醤油、ドライフルーツ、ナッツ類、片手鍋、フライパン、固形燃料、ライター各種、目だけのではあるが『ハード』なゴーグル、45cmに縮む釣り竿、小型両軸受リール、ルアー各種・毛針各種・サビキ各種他釣具入り小型ツールボックス、釘抜きハンマー・ペンチ・スイス製多用途ナイフ・安物の折りたたみ式多用途ペンチ・小型(かんな)(のみ)各種・マイナスドライバー中長、ドリル各種・スケール中小・ダイヤモンド砥石・釘各種など入りツールボックス、折りたたみ式(のこぎり)、テント、ターフ、ロープ各種、寝袋、食器類各種、食器用洗剤、スポンジ、たわし、着替え上下、下着類、タオル大小、ヤッケ各種、折りたたみ式サバイバルナイフ、猟師向け皮ハギナイフ鍛造品、雑作業用鉤爪状前曲がり鉈鍛造品、手斧鍛造品、作業ベルト、ウエストポーチに片負いザップ。

 これを毎日担いでいた。普段はこれに大学の鞄が加わる。

 総重量…? ……重いです。

 193cmの細マッチョの肩に食い込むが、涼しい顔だ。侮られてはいけない。この位軽い物だ。でも、職質は怖い。平静に…平静に…


 小鳥遊勇気は感動していた。

 今からダンジョンに潜るのだ。中二からの夢が叶う瞬間だ。夢見た異世界は成らなかったが、この地球にダンジョンができた。

 行かねばならない……

 これは使命だ!

 小鳥遊勇気はマウンテンバイクを漕ぐ。

 目指すは6階だが、装備が消えては困る。1階でネズミ狩りだ。自衛隊さんなら、何か情報をくれるかもしれない。クールに爽やかに、小鳥遊勇気は良い奴なのだ。

「おいおいすごい格好だな」

「チャッス、任務ご苦労さまです」

「6階を目指すのか」

「はい、当然です」

「今この辺にいるのは、自衛隊と友好国の外交官ばかりだ。自転車と装備は置いて、ネズミを踏ん付けろ」

「なら大丈夫ですね」

「ネズミは何処からともなく現れる。気が付いたらそこにいるんだ。後な、出現に波がある。ぽつぽつかと思うとどどっと出てくる。一度、絨毯かと思うほど出てな、思わず悲鳴を上げたぜ。ほれ来たぞ」

「!」

 冷静に踏み付けてネズミを殺す。

「冷静だな、後ろだ。来るぞ」

「!」

 半歩身を開きながらバックステップして振り返り切らずに仕留める。

「良い動きだ、お前さん何かやってんな」

「古流を少し、歩方は独学ですが」

「まあ、異世界に行きたいなんて、その装備も常備してんだろう、当然か」

「何故それを!」

 勇気の顔は真っ赤だ。一応、恥ずかしいことだとは思っているようですね。

「実は、お前さんで二人目だ。デカいザップに山刀を腰に差した奴が来てな、そいつは歩きだったが、いかにも中二病ですって感じでね。カマ掛けたらポロッとな、来るぞ」

「!」

「やはり良い動きだ。そいつは、冷静さが足りない感じでな、後ろからとかだとあわあわしてた」

「先を越されたのか」

「まだ2階辺りを歩いているんじゃないか、運動不足ぽかったし」

「!」

「良い反応だ。どれ、装備を見せてみろ」

「あっ、ぎっしり入ってるんで」

「大丈夫、その辺は心得てるさ。…手斧に鉤爪鉈か、良い判断だと思うぞ。刀や剣は刃立てができんとアッと言う間に壊れるからな」

「!  !」

「やっぱ良い動きだ、隊にスカウトしたいとこだ」

「勘弁してください」

「ザコの間は釘抜きハンマーなんかも良いみたいだ。6階についちゃ、1番結果出してるのは90センの釘抜きバールだ。突きも叩きも引っ掛けもできるのが良い感じらしい」

「突き、!か、猟師の仕留め用短槍で来たかったんですが」

「ああそいつは職質待った無しだ」

「ですよね、諦めました」

「なあ、自転車を少し貸してくれんか」

「えっ、何するんですか」

「いやな、広いだろ。道は良いんだがそれ以外の比較的短距離の移動をどうするかってのが問題でな、荒れ地の移動を試してみたいのさ」

「なるほど、良いですよ。ええと」

「ダンジョンスマホ出してみな」

「アッと、出ました」

「そいつを俺のとちょんとくっ付ければお互いの名前とアドレスが交換できる」

 ちょんとやるとブブッとしました。

「それで入ってるよ。改めまして、小野崎浩二だ。二尉をやってる」

「小鳥遊勇気です。一応大学生です」

「それじゃあ少し借りるぞ」

「はい、どうぞ」

 小野崎二尉はガコガコ荒れ地を移動中です。

 勇気はネズミ狩りの追い込みです。

「…20匹位狩ったかな」

 始めの方のは魔石になっています。

「バイク用に1個取っいて、バックパックに、テント、手斧と鉈、ああ今の装備も洗うならやんないとダメなのか。まだまだ要るな~」

「気を付けろ坊主、溢れるほど来るぞ!」

「えっ!」

 あっちに5匹10匹、こっちに10匹20匹、そっちに…いっぱい。絨毯てほどではないですが、地面の3割ネズミです。

「移動しながら踏み付けろ! 一カ所でやると集られるぞ! 反時計回り! 3重の輪になれ! 坊主は外側だ!」

「「「「「了解!」」」」」

「はい!」

「隊列ができたら第2分隊は逆回転だ! 抜け出すのは追わなくて良い!」

 ・

 ・

 ・

「良し、輪を解け! 各人掃討に移る!」

「「「「「了解!」」」」」

「はい!」

 ・

 ・

「掃討完了! しばらくはほとんど出ないはずだ! 魔石は山分け! 各人五個づつ取れ! いくぞ5、…10、…15、…20、…25、…30、…35、40、そろそろネズミが混じるな、このまま行くぞ…45、…50、51、52…、各人51・2確認!…良し、山分け完了!」

「ふう」

「良い活躍だ、勇気!」

「あっ小野崎さん、ありがとうございます。でも疲れました」

「ハハ、ザコでも緊張したままはな、疲れるんだ。自転車ありがとうよ。お礼に判っている情報をやろう」

「良いんですか、助かります」

「魔石取り付けしながら聞くと良い」

「はい」

「まず、6階に出るのは、ウサギ、イタチかテン、タヌキ、トビ、イヌが確認されてる。一番倒し安いのはタヌキ、倒し難いのがイタチ、怖いのがイヌだ。やっかいなのが膝丈の草でな、イタチの強襲は一撃もらってからのカウンターになる。イヌは中型犬サイズのシェパードだと思え。足首に噛み付いて引きずり倒そうとしてくる。少なくとも、安全地帯の周辺は1匹ずつしか出ないが、トビが挟撃を仕掛けてくる。夜の情報はまだないな」

「倒し安いのはタヌキなんですか。ウサギじゃなく」

 バックパックを開きながらたずねる。

「ああタヌキだ。タヌキは無警戒にトンコロトンコロ襲ってくる。ウサギは警戒心が強い。逃げもするし隠れもする。そこから全速力で襲ってくる。しかも、タヌキよりも大きい」

「なるほど」

「後な、魔石取り付けが必要なのは鞄や袋だ。収納物にも魔石の効果が確認された。ついさっきな連絡が来た。お前さんのライバルはまだ知らんと思うぞ」

「おお、ありがとうございます」

「7階はな、さらにデカいウサギ、20キロ以上あるそうだ。大型の中では小さめのイヌ、3羽のカラスユニット、後は続報がない。その先は10階でマンモスを見つけたが、持ち込んだ装備じゃ即死させられんので、引き上げたそうだ。9階では野牛が群れてるそうだ。8階にはまだ踏み入っていない。教えられるのはこんな所だ。ああ、7階は銃を使っているからな、ダンジョンスマホのマップに情報が出るらしいが、流れ弾対策はできていない。一応、通路方向には撃たない事にはしているが、バックアタックを受けた時、どこまで冷静でいられるかはな…」

「そうですか。気を付けます。小野崎さんは6階を経験しているんですね」

「ああそうだ。さっきみたいな事があるだろう、外交官の安全の為に呼ばれた」

「ああ、だから自衛隊さんは接待プレーだったんですね」

「そう言う事」

「でも爆湧き対策がもうできているってすごいですね」

「そう誉めるな照れる」

「小野崎さんが?」

「ああ、お前さんの言う爆湧きはこれで3回目なんだが、1回目はグダグダで軽傷者が出た。自衛官じゃないがな。それで俺達が呼ばれたんだ。一応、もっと少数で裏の死角を無くそうとは考えていたんだ。で、前回のは今の2・3倍でな、思わず悲鳴を上げたんだが、咄嗟にな、閃いた。で、軽傷者無しだ。今は一曹に任せているが」

「あっそうだ」

 勇気がダンジョンスマホを取り出します。攻略特許の確認です。

「あった。載ってますよ。ネズミ爆湧き対策、考案者は小野崎さんです」

「何ぃ。…マジかぁ。ああ、ダンジョンポイント増えてるわ」

「「「「「おめでとう」」」」」

 勇気を始め、自衛隊さん達、外交官さん達が口々に祝福します。攻略特許の第1号です。まだこれしかありませんが。

「しっかし勇気、下着も魔石付けするって、籠もるつもりか」

「当然です」

「今は良いがしばらくすれば緩んでくるはずだ。4・5日後からは気を付けろよ」

「神様がダメ出ししてるのに、そんなバカいるんですかね」

「どこにでも自分だけは特別だって奴はいるのさ。どうだ、足りたか」

「最低限は」

「なら6階に行ってこい。何なら、トレードでネズミ核を手に入れれば良い」

「あ!そうか、その通りですね」

「みんな、アドレス交換をしてやってくれ」

「ありがとうございます」

「ハハハ、小野崎二尉に気に入られたようだな。ほら、順番にな」

 スマホがブブッブブッブブッと音を立てます。勇気は小野崎指揮下の1個小隊と、事の始めからここにいた2個分隊の計56人と、外交官達55人のアドレスを入手しました。

「ネズミ核のトレードは外交官達の方が喜ぶだろう」

「分かりました」

「さあ行ってこい。気を付けてな」

「はい!行ってきます」

「「「「「気を付けろよ」」」」」

「「「「「頑張れよ!」」」」」

 自衛隊さん達だけでなく、外交官さん達も応援してくれます。何と言っても戦友ですから。

 勇気はマウンテンバイクに乗って1階から消えて行きました。

 目指すは6階、ライバル達に遅れを取るわけにはいきません。早く自衛隊さん達にも追いつかないと。


 小鳥遊勇気、吾、ダンジョンの先駆者たらん!

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