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第14話 抽選にもれた記者さんが




「何だありゃ!」

 人垣の向こうにデッカい鳥居が見えます。

 ネット中継を確認しながら取材準備を進めていたのですが、光ったと思ったらこれです。訳が分かりません。

「…鳥居だな」

「んな事は分かってるんだよ。スタジアムは何処行った!」

 カメラさんは、よくIt's Toriiって言えたなと言う、ポカーンとしたマヌケ面。記者さんはお顔真っ赤で錯乱中、汚い言葉でまくし立てます。記者失格と言いたいところですが、記者とリポーター、アナウンサーは違いますからね。

 二人は別件のドキュメンタリーの取材チームで、今もその案件は動いています。急きょ社会畑の取材記者とカメラシステム兼音声での取材です。

「ディレクターはまだ出ないんですか」

「匿名取材だからな~。まったく、男性アイドルの性被害案件何か放っとけってんだ」

「いやいや、大問題ですよね? 何で日本で問題にならないのか理解出来ない」

「日本のメディアは、メディア自身でメディア規制をやってるからな。政治圏からの圧力何か目じゃないのさ。デカいタレント事務所を敵に回すと番組が作れない。本当は幾らでも遣り様はあるのに、見ない振りで遣り方を変えない。保守的な民族なのさ。こんな案件BBCに振って、ロイターにはロイターにしか出来ない取材をしろってんだ」

「落ち着きましたか」

「…スマン」

「ダンジョンの中からでも中継出来るそうですが、どうします」

「スマホで中継を確認しながら、スマホとメインのダブルカメラでライブ中継だ。システムを一手見にゃならんから、お前さんの負担が大きいが、出来るか」

「メインカメラを兼務だと無理です。JBのスマホの自撮りをメインカメラにして、ハンディはカットinにすれば可能です」

「OK。上出来だ。ドローンがあればな~」

「無い物強請りです。諦めましょう」

「分かっちゃいるんだがな~。まっ、いつ入れるのか見当もつかんが」

「まるで初詣の明治神宮みたいですね」

「だな。そうだ、ヘッドカメラ持ってたよな」

「ありますけど、あれをメインでやるつもりですか」

「ああ。スマホで中継を確認しながら、場合によっちゃあ、それをそのまま使う必要がある。ヘッドカメラでやるしかないだろ」

「ううん、理解は出来ますが、相当画質が落ちますよ」

「それがロイターの取材だろ」

「言わんとする処は理解しますよ」

「何が問題だ」

「LIVE中継中の映像を使えますかね」

「今回はNHKがOKしそうな気がしてな。一丁当たってみるぞ」


 記者さんはOKもらったのに黄昏れています。どうしたのでしょうか。

「一発OKて、なあ、キース、NHKは何考えてるんだと思う」

「さあ。良かったじゃないですか。交渉に時間を取られなくて。それとも、何か問題でも」

「商売っ気なさ過ぎだろ」

「それは彼らの問題でしょ。はい、ヘッドカメラです」

「おう」

 と、受け取ってイソイソと身に付けます。ヘッドカメラとヘッドセットマイクにイヤホン、ハンドマイク、外部バッテリーと有線でつなぎます。その辺中で生配信やってますからね、トラブル予防措置です。

「……これで良いか」

「……ハンドマイクが来てないですね。スマホ音声も時間で金払えですからね、スマホは私が持ちましょう。幾ら格安でも垂れ流しはいけません。画板出さないとな」

「そうだな、それで行こう。テストがてらあのフィッシャーマンに当たろう。確かタレント釣り師だ」

「ラジャー、オープニングは大丈夫ですか。……レアアース…スルーしましたね、今」

「何! マジか。……マジっぽいな。よしフィッシャーマンにOK取って来る。OKなら、オープニングはスマホ画面をハンディで写してから周囲を一回しして俺に寄れ。状況説明後にフィッシャーマンの彼女にアンカーマンになってもらおう」

「そんな軽い感じで良いんですか。一大社会問題を軽く扱い過ぎ何じゃ」

「軽く扱うしかないんだ。中に入れてすらいない今、そこを目指す人々にスポットを当てるしかないだろ」

「そうかもね。…じゃあ、タイトルは『ダンジョンを目指す人々』、クレジットはチームJBで行きましょう」

「それで良い。俺は行くが、お前さんも誰か良さそ気な人がいないか、注意して見ていてくれ」

「ラジャー」


「失礼、鮎川、鮎川桃子さんですよね」

「ごめんなさい。タレントは引退したからもう鮎川桃子じゃないのよ。ロイターのジェームズ・ブラウンさん」

「Oh、JBと呼んでください」

「本名なんですって」

「そうです。父が大ファンでしてね」

「楽しそうなお父さんね」

「お騒がせな処はそっくりですよ」

 アングロサクソン丸出しの風貌での命名です。かなりの茶目っ気が予想されますね。

「それでJB、取材依頼でいいのかしら?」

「Yes、でもタレントは辞めたんですよね」

「だから自由にやれるわよ」

「タレントに未練がお有りですか」

「社長とケンカしてなければ、今もやってたわね」

「Oh、ケンカって、そんな風には見えないですよ」

「ありがとう。社長がアイドル活動をさせようとしなければ、今も釣り船のアイドルをやっていたわよ。ボイトレに歌のレッスンって何考えてるのかしら」

「十分通用しそうですよ」

「ありがと。でも、リズム感も音感も致命的にないの。友人達も絶対にカラオケにだけは誘ってこないわ」

「Oh、何と言ってい「(英語)JB! スマホ見て! 中継見て!」」

 二人して中継を覗き込みます。元・鮎川桃子さんのスマホです。

『世界市場が崩壊する……』

 川田総理が地平線まで続く小麦畑を前に絶句しています。

 アマテラス様は更に続けています。経済崩壊宣言です。

 二人は中継に見入っています。

「JB、これにコメントするの…?」

「…難しいですか」

「温暖化で文明崩壊宣言にグローバル経済崩壊宣言よ。重過ぎるわぁ」

「社会派の本格的釣り師アイドルでしたよね。正直な処、私達にも重過ぎるのです。しかも、ダンジョンには入れていない。そこで、ダンジョンを目指す人々のタイトルでコメントを求めようと考えています」

「軽過ぎない?」

「ダンジョンに入れもしない状態ではその位しか出来ないのですよ。ロイターが憶測報道をする訳にはいかない。しかし、この全世界的ゲームチェンジの瞬間に何もしないではいられないのです」

「私も船から上がってきたらこの騒ぎで、ただただ、居ても立ってもいられなくてダンジョンを目指しているだけよ」

「そこをもう少し深掘りしてくれ「あら? ちょっとごめんなさい」」

 二人で見ていたスマホに着信です。

「JB、面白い人からよ。ちょっと待ってて」

 そう言うと電話を取ります。

「もしもし葵さん、こんな時間に珍しいですね。どうかしました?」

『アユちゃん、今ダンジョン前にいない』

「いますよ」

『よし、見間違いじゃなかった。私もダンジョン前にいるんだけど、政府関係者通路の方なの』

「ああ、あっちの良く流れている方ですね」

『そそ。で、もし大使館の仕事でもよければこっちにこない』

「大使館ってイギリスのですよね?」

『ですです。ダンジョン1階の生物調査を頼まれたの。どう?』

「面白そうですけど、情報機関とか関わってないです?」

『やあね、関わってるに決まってるじゃない! でもオシントね。オープンソース・インテリジェンス、関わっても迷惑を掛ける事はないわ。絶対はないけど、限りなくゼロに近いわね』

「で、結局何するんです?」

『釣りするの! アユちゃんにぴったり!』

「私、今、ロイターさんと一緒なんですよ」

『あら面白い。でもロイターか、ちょっと待ってて……』

「彼女、大使館員の奥さん。日本人妻ね。私の釣り仲間よ」

「面白いですね、ご紹介いただけると?」

「あっちしだいよ。情報機関が関係しているって断言してるもの。オシントだって言ってたから、日本政府には止められない公正な活動でしょうけど、今のロイターはトムソン・ロイター(カナダ資本)でしょ。BBCなら即OKでしょうけど、今のロイターはどうかしらね」

「貴女が社会派と言われる所以を見誤っていました」

「環境保護に熱心な釣りタレント。間違ってないわよ」

「アイドル活動を嫌がる訳だ。社長はっ」『アユちゃんアユちゃん聞こえる?』

「ハイハイ聞こえますよ。どうでした?」

『絶対的に公正な活動しかしないから、取材には何の問題もないって。何なら日本のテレビ局を連れて来ても構わないそうよ』

「私はもう事務所は退所したんですけどね」

『そうなの? じゃあ何でロイターなんて連れてるの?』

「偶然よ偶然。で、どうするの、ジェームズ・ブラウンさん?」

 音量を絞りながらもスピーカーされたスマホを向けられるJBさん、キース君とアイコンタクトでうなずき合いました。

「(英語)取材協力に感謝します。ロイター通信のJBことジェームズ・ブラウンです。相棒はキース・ドナルド=カペル(エセックス伯爵家、こいつは伯爵の甥設定の当然架空)、中継取材班としては小規模ですが、実力派を自負しています」

『(英語)JBね、よろしく。キース君は同姓同名でなけれ、又従兄弟の従兄弟(ここテキトー)じゃないかしら、勿論夫の』

「(英語)キースです。外務省の遠戚で日本人と結婚したと言うと、カーライル伯爵の処の分家か。ジェラルド・スタイナー=ハワード(当然架空)かな」

『(英語)正解。葵唐橋よ。日本向きには葵=ハワードを名乗っていますけど』

「こう言うのは本当に羨ましいよ。血脈がそのまま力になっている」

「彼女も千年続く名家の出よ。代々文章博士を排出した半家、維新によって子爵に列せられた菅原氏の本流よ」

「菅原氏って北野天満宮の祭神ですか。もしかして貴女もですか」

「生駒歩花、男爵家の分家の分家その又分家よ。アユで良いわ」

「アユ、それは力になるのですか」

「全く。男爵家よりも織田信長の側室生駒吉乃の方が受けるわね」

「(英語)JB、アユさん、大使館から証明書をスマホに貰いました。関係者通路に出て、止められたら見せれば良いそうです。(日本語)ハイ、アユさん、まだハナシます」

「あっ繋がってるのね、ありがとう」

『アユちゃん、聞こえる? とりあえず関係者通路のゲート前で落ち合いたいんだけど』

「分かったわ。竿が波子で五目やるには硬いかもしれないけど、何とかなるでしょ。(英語)貴方達、用意出来た? 行くわよ!」

「「Yes,Ma'am!」」

『おお、仕切るなぁ』


 記者さん達、何か爪跡を残せるといいですね。

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