第10話 やっとダンジョンらしくなってきました
「だいぶいじめてしもうたが次へゆくのじゃ」
もう声も出ないみんなが集まって来ます。そしてピカーと光ってスイーと移動、最後はやっぱりビタッです。これは仕様です。仕様ですから直りません。
降りて来たそこは、かなり広い芝の公園のような場所を、水堀が所々切れながら取り囲んでいます。
その先は草原です。所々に雑木林でしょうか。小さな森も見えます。
そしてここも広いです。見渡す限りの地平線です。日本の景色ではありません。
まあ、次の層への道は上の階層と同じように続いていますが。スロープトンネルは公園の中にあります。
「ここ6層目からがモンスター区画じゃ」
記者さん達が目をこらしますが、動くモノは見えません。
「どこのダンジョンも6層目の入り口は安全地帯になっておる。そこな堀の水も飲めるのじゃ。このダンジョンは動物系が多いの。さて、そこまで歩くのじゃ」
皆さんゾロゾロ移動です。100メートルほど来ると一番近い堀の切れ目です。堀の先には膝丈位の草が生えています。
「みなに見えるように、ちと地形をいじるのじゃ」
アマテラス様はそう言うとペカーと光ります。すると大地がペカーと光ります。
ペカーです。
ズズズッと大地がうごめきます。これで、普通に立っていられる事が不思議です。
でき上がったのは、まるで半円形劇場みたいですね。後ろまで良く見えます。
「さて、まずはと、お主じゃな」
アマテラス様、目でSPさんをご指名です。SPさんの無言の問いに総理がうなずきます。
「お主、銃の腕は」
「はっ、過去クレイピストルで日本選手権6位でした」
おお、なかなかの名手。
「うむ、なら安心じゃ、ほれ1匹出て来たのじゃ」
のそのそ草を搔き分け出て来たのはデッカいウサギです。食用のジャイアント種と言うヤツですね。10キロ位はありそうです。
アマテラス様、『殺れ』の目です。
SPさんは総理を伺います。総理が頭を掻いています。後頭部の一部ですが。本当は両手で掻き毟りたいのでしょう。
「拳銃で殺しなさい。総理の名で許可します」
許可しちゃいました-。これ後で絶対問題になるヤツですよね-。まあ大事の前の些事ですが。
SPさんアイソセレススタンスで構えます。右肩を引いて両手です。
パンッ
見事に頭を撃ち抜いています。ウサギは一発で仕留められました。
「最近の日本ではあまりウサギは食わんらしいが、食えるのじゃ。この後どうなるかは分かっとるの。じゃが待ち時間は迂遠じゃ」
ウサギが薄く光って収縮して行きます。
アマテラス様『取ってこい』の目でSPさんを見ます。
SPさん拳銃をしまって取りに行きます。キョロキョロ若干おっかなびっくりです。
「心配せんでも妾がコントロールしておる。今この周辺には何もおらんのじゃ」
SPさんが何かを拾い上げます。
ううん、何でしょう。一つは魔石みたいですが、もう一つ、100ミリリットルのドリンク剤ポイですが、ミドリですね。そして蓋がありません。瓶に見えるそれも、はたして瓶なのかどうか。
「うむ、ポーションじゃ、蓋などのうてもこぼれはせんのじゃ。皆に見せて見よ」
SPさんが分かり安いように掲げます。
記者さん達はポーションと聞いて活気づきました。
総理は苦虫かみ潰した顔です。
「ポーションは使おうと思えば使えるのじゃ。ポーションはの、飲むか振りかけて使うのじゃ。振りかければ、即効じゃ。ダンジョンで負った傷ならじゃがの」
「ダンジョンでの傷にしか効かないと」
総理の被せ気味の質問です。
「お主等は人間の叡智を捨てるのかえ。こんな物を飲めば怪我も病気も治る。人間は医術を忘れようの」
「それを聞いて安心しました。病院も製薬会社も潰れるのかと心配で心配で」
「お主少し壊れておるの。為政者としてシャキッとするのじゃ!」
アマテラス様から活が入りました。幼女の活です。
「はっ、男川田、誠心誠意頑張らせていただきます」
やっぱり壊れ気味。まあ、こんなに色々あると壊れるよね。
「まあよい、続けるのじゃ」
アマテラス様諦めました。匙を投げたとも言います。記者さん達には総理の代わりに頑張ってもらいましょう。
「ポーションはダンジョンでの傷に特化しておる。外で負った傷には止血程度の効果しかないのじゃ。その止血も不十分な効果しかないのじゃ。飲むとじゃ、ダンジョンの中であれば、体力増強して効果時間中に負った傷をゆっくりと治すのじゃ。外で飲んでもドリンク剤程度の物じゃ。まあ、この辺で出るポーションはそこまで優秀ではないのじゃ。効果が高いのが欲しくばもっと下るか、これなのじゃ」
大判のスマホのようです。
「ダンジョンスマホじゃ」
そのままやん!
みんなの心が一つになります。
「そのような目で見るな。妾達は名付けられる側じゃ、命名センスなどないのじゃ。気に入らねば好きに呼ぶのじゃ。これはお主のじゃ」
ダンジョンスマホがSPさんの方へと流れて行きます。
SPさんダンジョンスマホを受け取ると、ポーションをポケットにしまいます。そして画面をガン見です。
「皆にも見えるようにしようかの」
アマテラス様がキラキラ光ります。すると、大型の投影モニターのようなものがアマテラス様の頭上に現れました。8面360度対応です。
そんなに要らないと思いますが。まあ良いでしょう。
TVカメラが以外と撮りずらそうですが気にしません。
そう言うのもっと早く欲しかった、と言う目も気にしません。
「それは今、ショップアプリが開いておる。ダンジョンポイントと出とるじゃろう。お主がウサギを倒したからじゃ」
上の方に10ポイントと出ています。ウサギさんは10点です。
「お主、魔石を載せてみるのじゃ」
SPさんがポケットから出した魔石をスマホに乗せます。すると、『ウサギ核×1 10P』と出ました。
「うむ、売ろうと思ってみよ」
『売りますか イエス ノー』と出ました。
「まあここは売っておくのじゃ」
SPさんがイエスを押すと、ヒュッと消えます。当然20ポイントになりました。
「とまあ、ダンジョンで出た物は大抵売れるのじゃ」
「全てではないのですか。後、ウサギ核になっているのはなぜですか」
総理は少し持ち直したようですね。
「うむ、資源区画の物はダメじゃ。その辺の草を売ろうとしてもダメじゃ。ポーションは当然売れるのじゃ。核になっておるのは、この者が核と思うておるからじゃ」
「理解いたしました」
「うむ、持ち直したようじゃな。為政者はこうでなくばなんらのじゃ」
「肝に銘じます」
「うむ」
アマテラス様満足そう。うむうむ言ってます。
「さて、次じゃ。ショップに入店してみよ」
お店マークを押しました。
すると、ポーション、生活用品、武器、防具、アクセサリー、トレードと出てきました。
「トレードは説明するのじゃ。後のはそのままじゃ。トレードはの、ダンジョン産の物を他の者とやり取りできるのじゃ。双方がダンジョンにおれば、世界中どこでも瞬時にやり取りできるのじゃ。資源区画のはダメじゃ。やり取りはダンジョンポイントでも物々交換でも可能じゃ。それぞれスマホを触れさせれば良いのじゃ」
「武器とはどのような物でしょうか」
総理としては見過ごせない所です。
「おお、銃刀法があるんじゃったの。刀剣に槍が多いの。銃はなしじゃ。後は、外では鞘が抜けんのじゃ」
「理解いたしました。御配慮ありがとうございます」
「気にするでない、仕様じゃ。うむ、次じゃ。ダンジョンスマホは探索には邪魔じゃろう。仕舞おうと思うと消え、出ろと思えば出るのじゃ。やってみよ」
SPさんに命じます。
シュパッ、シュパッ、出し入れすると久しぶりに響めきました。
「さ、もうよいのじゃ」
SPさん解放です。スタッと警護位置に戻ります。
「うむ、皆も見当は付いておろうが、ダンジョンの中でモンスターを倒せば人間は強うなるのじゃ。際限なく強うなるモンスターを相手にするのじゃ、当然じゃの。人間も際限なく強うなるのじゃ。じゃが、外へ出ればただの人じゃ。多少強うはなるが誤差じゃ。まあ、ドラゴンを一人で倒すような英雄なら、ダンプに跳ねられてもピンピンしとろうがの」
「実際、どの程度反映するのでしょうか」
「うむ、0.1%以下じゃ」
「理解いたしました」
「モンスター区画は下へゆけば強うなる。まあ、10層までは動物に毛が生えた位の物じゃ。大抵は食えるの。人魂やら物の怪位は出るのじゃ。判らん物はダンジョンスマホを当てて見れば判るのじゃ。11層からが本格的なダンジョンじゃ。魔法を使う物も出てきだすのじゃ。人型が出るのもこれ以降じゃ。まあ、このダンジョンには人型は出んがの」
アマテラス様、顎に手を当てて思案顔。
「さて、おおよそは説明したのじゃが、質問もあろう。と、その前にダンジョンスマホを配っておくのじゃ」
アマテラス様、ちょっとだけ厳めしい顔になります。
「今からダンジョンスマホを配布するのじゃ。手が離れん者は後でダンジョンスマホ出ろと念じるのじゃ」
ここにいる人達は知りませんが、ダンジョン中に響き渡りました。
「うむ」
慌てて受け取る姿にうなづくアマテラス様です。
「では、質問タイムなのじゃ」
みなさんガヤつきます。
と、ここでアマテラス様、頭上を見ます。モニター出しっぱなしなのに、今気付きましたね。ヒュッと消えました。
泰然自若の雰囲気です。強いです、アマテラス様。