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第36話 「久々の里帰り」

8月8日





ブォォオオオン。





 山道を、クルマのエンジンが鳴り響く。

 アスファルトがタイヤを切りつけながら、雲一つない空を駆け抜けていた。

 これからうちに帰ったら、全然チープではないビックなスリルに身を任せることになる。


 はぁと、大きい溜息しか出てこない。


「そんなに家に帰るのイヤ?」


 助手席にいる恋人兼幼馴染の陽葵ひまりが、当然のように俺の心を読んでくる。


「イヤってほどじゃないけど……」


 お盆の墓参りのため、俺のクルマは久しぶりに我が実家へと向かっていた。

 半ば、陽葵に無理矢理連れていかれるような形だ。


 シェアハウスの面々もお盆はそれぞれが帰るとところがあるらしく、自然にシェアハウスは大家さんたちを残して今日から誰もいなくなってしまっていた。


「イヤじゃないけど、ちょっとだけ気まずいだけ……」


 親には、ほとんど黙ってこのシェアハウスに来た。

 そのことに対する、後ろめたさは当然にあった。


 そんな俺の気持ちを知らずにか、今日も陽葵はニコニコと機嫌がいい。




「春斗くんちのおばさんに挨拶するの緊張しちゃうなぁ」

「なんだよ今更」

「違うよ、普通の挨拶じゃないよ! 付き合ってますって挨拶だよ!」


 そうなのだ!

 お互いの両親に挨拶するというビックイベントも控えていたのだ。


 うぅ……、なおさら気が重くなる。


 陽葵んちのおばさん、ちょっと苦手なんだよなぁ。




「俺も、スーツとかちゃんとした格好いったほうががいいかな?」

「結婚するみたいじゃん!」


 きゃっきゃっと陽葵が騒ぎ出す。


「じゃあ、私も制服着ていかないと!」


 女子高生の礼服……すなわち制服だった。

 スーツ着た男と、制服に身を包んだ女子高生が、親に付き合ってますと報告するとなると、何故だか一気に犯罪臭がする気がする。陽葵とは2歳しか離れていないのに……。


「楽しみだなぁ……!」


 陽葵が久々の里帰りで、胸を期待でいっぱいに膨らませていた。




※※※




 クルマを走らせること小一時間。

 前に、陽葵と買い物にきた麓ふもとのスーパーマーケットの駐車場で休憩をしていた。

 実家に着くにはこれからもう一時間以上、クルマを走らせなければならない。


「前にここに来たよね、えへへへ」

「顔がとろけてるぞ」

「前にきたとき楽しかったから思い出しちゃって」


 幸せそうにニコニコしている陽葵。


 二人でそのスーパーで買ったアイスを食べていた。


「そういえば、今日はお互いの家に帰るの? 離れ離れになっちゃうの?」

「そりゃそうだろ」

「えぇええー!」

「お前はどうするつもりだったんだ!!」

「春斗くんが私の部屋にくるか、私が春斗くんの部屋いくか?」

「どっちも親が許してくれないだろ……」

「えっ? そんなことないよ?」


 陽葵が自分のスマホの画面をこちらに向ける。


 “ハルくんにうちに泊まったらって言っといてー!”

 “分かった!!”


 陽葵のおばさんと陽葵のやり取りだった。

 思ったよりもめちゃくちゃ歓迎されていた。


「カレーでいい? ご飯どうする?」

「……カレーでお願いします」

「はーい!」


 ポチポチとスマホにメッセージを打ち込む陽葵。


「あっ! 春斗くんちのおばさんもうちに食べに来るって!」

「げぇええ!!」


 嫌な予感しかしない!

 うちのオカンと陽葵のオカンの組み合わせとか絶対大変なことになる!

 OKAN×OKANが始まってしまう!

 頼むからずっと休載していてください!


「あんまり嫌な顔しちゃ、春斗くんちのおばさん可哀想だよ?」

「そりゃ分かってるんだけどさ!」


 あぁ! もうこうなったら腹をくくるしかない!

 ガリガリっと今食べていたアイスを口に放り込んだ。


 頭がキーンと痛くなった。




※※※




 見慣れた街並みがやってきた。


 山奥のシェアハウスに逃げ込んでからまだ半月くらいしか経っていないのに、この街並みを見るのが随分懐かしく感じる。



「……もう着いちゃうね」


 さっきとはうって変わって陽葵のテンションが随分下がっていた。


「急にどした?」

「二人きりの時間終わっちゃうなーって」

「大げさだなぁ」

「だって、うちのお母さんも春斗くんのこと好きだから絶対独り占めされちゃうもん」

「そんなこと言ったら、うちの母親も絶対ヒマちゃんヒマちゃんでうるさくなるぞ」


 そんな会話をしながらもクルマは進んでいく。

 あともう少しで到着だった。


「春斗くん、ちょっとだけクルマ止まれる?」

「? 別にいいけど」


 すーっとクルマを路肩に寄せる。

 誰も通らないような、小さな道だった。


「どしたの?」

「着く前に充電して!」


 陽葵が助手席からこちらに腕を広げる。


「はいはい」


 陽葵の細い身体をこちらに抱き寄せる。


「しばらくぎゅーできなくなっちゃうかもだから」


 運転席と助手席の収納スペースが腰のあたりにあたってちょっと痛い。

 けど、そんなのおかいまいなしに陽葵がぎゅーっと抱き着いてきた。


「充電できた?」

「空っぽになった!」

「燃費わるっ!!」


 誰かに見られないかハラハラしながら、しばらく陽葵とそうしていた。

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