鼓綴里惠美
「 死人が出る訳じゃなくて良かった… 」
私はヴィネパラ皇女に分からないように、心の中で胸を撫で下ろした。
だって勇者を召喚する儀式の最中に死人が出るのって、後味が悪いもんねぇ?
自分達の都合で勝手に召喚しやがった此方側の術者達が儀式中に倒れて死ぬのは勝手だし、自業自得だと思うけどね!
幾ら召喚された側の私が悪くなくてもさ、色々とこじつけられたり、責められたりして、身に覚えのない責任を取らされるのは御免被りたいよ…。
鼓綴里惠美
「 う〜ん……勇者召喚の儀式ってのは、此方の世界で起きてる問題を自分達で解決出来ないから、異なる世界から招いた召喚者……勇者に自分達の代わりに此方の世界の問題を解決してもらおう──ってのが目的かな?
勇者召喚をしないと解決の出来ないような事情が此方の世界にはある──って事で良いのかな??
ヴィネちゃん、どうなの? 」
ヴィネパラ皇女
「 勇──いえ、エーミン様、其の通りですわ。
正に≪ タココミエット大陸 ≫は未曾有の危機に瀕していますの……。
私達…≪ タココミエット大陸 ≫の陸民の力では、歯が立たないのです……。
現在の≪ タココミエット大陸 ≫は8ヵ国に分かれていますが、遥か昔は17ヵ国に分かれていましたわ。
遥か昔は同じ陸民でありながら、御互いの領土を奪い合う為に頻繁に戦争を起こしていましたの。
ですが……凡そ700年程前、≪ タココミエット大陸 ≫の上空に、魔王城が聳え立つ浮き島が現れたのです。
魔王は多種多様の魔物を地上へ解き放ち、多くの魔族も地上へ降りて来ましたわ。
そして──、地上を侵略し始め、≪ タココミエット大陸 ≫の領土を奪い始めたのです。
700年間で9ヵ国が魔族に抵抗するも虚しく、戦いに破れ、滅ぼされましたわ。
現在は5ヵ国の領土が魔族に狙われています。
其の内の2ヵ国が自国を守る為に今も魔族と交戦中なのです 」
鼓綴里惠美
「 ふ〜ん……。
異世界から召喚した勇者に、自分達の代わりに魔物や魔族を倒してほしいって事で良いのかな? 」
ヴィネパラ皇女
「 は、はい!
魔物と魔族には、陸民の冒険者,騎士団,兵士では太刀打ちが出来ない程に強くて……。
魔物と魔族を従える魔王を倒していただければ、我が物顔で領土を支配している魔物も魔族も地上から去ってくれるのではないかと…… 」
鼓綴里惠美
「 勇者の魔王討伐か…。
良くある話だよね…。
ベタ過ぎて溜め息しか出ないよ… 」
ヴィネパラ皇女
「 エーミン様……。
どうか、どうか、魔王の支配から人類を救う為にエーミン様のお力を御貸しください!!
私達たち民みんの代かわりに魔ま王おうを倒たおし、人じん類るいを救きゅう済さいしてほしいのです!!
お願ねがい致いたします!! 」
鼓綴里惠美
「 ヴィネちゃん……。
涙なみだ脆もろい子こなの?
取とり敢あえず、涙なみだを拭ふこうよ 」
私わたしはスカートの中なかに入はいっている未まだ未み使し用ようのハンカチを出だして、ヴィネパラ皇こう女じょの前まえに差さし出だした。
ヴィネパラ皇こう女じょは意い外がいそうな表ひょう情じょうをしていて、恐おそる恐おそる私わたしが差さし出だしたハンカチを受うけ取とってくれた。
大だい事じそうに握にぎりしめなくていいから、両りょう目めから今いまにも溢こぼれそうな涙なみだを拭ふいてもらいたい。