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04 洗礼式

 カリナとの軋轢もなくなり、更に2年と半年が経った。

 3歳の誕生日を迎えてから初めて迎える春、今日は洗礼式の日だ。

 カリナも今では立派な弟想いな良い姉に……なった。 


「ほら! 手伝ってあげるから逃げないでおとなしくしていなさい!」

「やめてよお姉ちゃん!自分で着替えられる!」


 普段は凛とした目元で将来はクール美人(ビューティー)に成長するであろうカリナが、今は目尻を下げ、ニヤニヤし緩みきっただらしのない顔で追いかけてくる。そんなカリナから逃げるべく母さんから白い祭服を受け取り僕は自分の部屋に立てこもる。

 祭服は魔糸を織り込んであり、その色によって魔力の属性が変わる。洗礼式では、自分が契約したい精霊の属性と同じ色の魔糸が織り込まれた祭服を着ることで、その属性の精霊を呼びやすくなる。しかしこの話には実証がなく、あくまでも願掛けのようなものらしい。


「せっかくの祭服なんだからお姉ちゃんがきちんと着付けしてあげる! だからこのドアを開けなさい!」

「大丈夫! 僕だって成長してるんだから、お姉ちゃんの手伝いがなくても自分でできるの!」


 着付けの手伝いに立候補したカリナを全力で拒む。しかし扉の向こうからは「はぁ、強がるリアムも可愛いわ」なんて声が聞こえてくる。ここまでくると野暮さを通り越して呆れてくる。

 このままカリナとドアノブのせめぎ合いを続けていると時間に間に合わなくなってしまうので「恥ずかしがらなくて良いからお姉ちゃんに全部任せなさい!」なんてドアを叩く音とともに聞こえてくる声を無視して、黙々と祭服に着替える。





「あら、よく似合ってるわよ」


 僕の祭服姿を褒めながら最終チェックをしてくれるアイナ。その後ろでは僕が着付けをさせてくれなかったとカリナがむくれている。


「そろそろ出発しないと遅れるぞー!」

「じゃあ、行こっか」

「はーい」


 外は晴天で春の風が通り抜ける。暖かな光が降り注いでいるため、草原に出かければのんびり昼寝をしたくなるような陽気だ。

 洗礼式は教会で行われる精霊教の恒例行事で、子供が3歳になって初めて迎える春か秋に執り行われ、この異世界の星に生まれ落ちた子供たちを祝福し、精霊教が信仰する10柱の精霊王達に祈りを捧げて中位、下位精霊と契約を交わす儀式だ。


 精霊については、アイナを質問攻めにして予習してきたからバッチリだ。


ーーーー

 精霊王:司る属性全ての精霊の王


 高位精霊:人とも完璧な意思疎通が可能な高位の精霊


 中位精霊:鳴き声や仕草で感情表現可能な形を得た精霊


 下位精霊:形は簡単に言って光の塊。大きくなったり点滅したりして感情表現をする


ーーーー


 その階位は上から順に高くなり、使用できる精霊魔法の種類レパートリー魔力きぼも、上から順に多い。

 洗礼式では大抵が下位精霊と契約をし、生涯を相棒(パートナー)として共に過ごす。偶に初めから中位精霊と契約できる人もいるようだが、普通は長い時間を共有して共に過ごしているうちに中位精霊に位があがるのが一般的だ。 

 この他にも、精霊の位を上げる方法はあるらしいが、これにはケースに合ったかなり特別な手段を必要とする場合がほとんどのようだ。

 そして、高位精霊ともなると契約者が得られる恩恵は中位精霊のソレより遥かに大きい。人間と契約した中位精霊が高位精霊に位を上げられることはまずないという。高位の精霊と契約を果たすには、精霊に気に入られて直接契約を結ぶ必要がある。


 この直接契約は1代限りで終わるものもあれば、代々契約した者の一族に引き継ぐ世襲タイプがある。アウストラリアの王族と一部貴族は高位精霊と代々の契約を結んでおり、契約の親として主契約を結ぶものを家の当主として添える形式をとる。主契約者以外の一族は契約の”子”として血の繋がりによって恩恵を受けて眷属魔法というこれまた特殊な精霊魔法を操るらしい。

 そのため、高位の精霊と契約をしている一族とそうでない人々との間には一線が引かれ、幼い頃から強い精霊魔法を操ることのできる彼らは、総じて通常魔法の扱いにも長けているらしい。


相棒(あいぼう)か〜。良い響きだな〜』


 しかし高位だ中位下位だ属性だ世襲だなどと実のところそんなことはどうだって良い。それよりも僕は契約精霊は”相棒”という言葉の響きに心惹かれていた。

 僕の祭服には無属性の白い魔糸が織り込んである。無属性は純粋な魔力に近く、どの属性にも特化しない。前世では室内にいることが多く、ほとんど一人でいることが多かった僕にとって一蓮托生の相棒を得られるということは限りなく魅力的なことで、どんな属性の精霊でも契約してくれるだけで正直満足だ。


「……」


 これから始まる相棒を得る儀式にウキウキしていた僕だったが、まだむくれ不貞腐れているカリナの視線が後ろから背中に突き刺さる。


「お、お姉ちゃんの精霊さん、また見たいな〜」

 

 カリナの表情がパァッと明るくなる。満更でもない。


「リアムがそこまでいうならしょうがない。おいで、フェアーリル」


 右腕を前に差し出し精霊を呼ぶカリナ。

 すると、カリナの差し出した右手の人差し指には一匹の青く美しい蝶が止まっていた。現れた蝶はカリナの瞳の色と同じ色の綺麗な青い羽をゆっくり上下させて指の上で大人しくしている。


「お姉ちゃんの精霊はいつ見ても綺麗だな〜」

「ふふん、そうでしょそうでしょ」


 精霊を褒めると、カリナも自分が褒められたみたいに上機嫌になっていく。本当に綺麗な青の羽だ。だから魅了される様に吸い込まれてフェアーリルに近づいてしまった。


「あっ……」 


 すると、指の上に止まっていた精霊は突然飛び立ち、逃げるようにカリナの影に隠れてしまった。ウィルが「あちゃー」と、カリナとアイナも心配するように僕の方を見ていた。美しい青い羽はそれから決して僕の前に姿を現そうとはしない。


「どうして僕が近づくとみんな逃げちゃうんだろう……ハァ……」


 こうなることはわかっていたはずで、自業自得なのだがやはり落ち込んでしまう。……そう、僕が精霊に近づこうとすると精霊が逃げて行ってしまうのだ。これはフェアーリルだけに限られた話ではなく、ウィルとアイナの契約する精霊も同様で、全員逃げてしまって僕に近づこうとはしない。ちなみに、ウィルの契約精霊はモグラのような土の中位精霊のモグリ、アイナの契約精霊はフェアリー(タイプ)の火の中位精霊バルサだ。


「だ、大丈夫よ、リアム。きっと今日はあなたと一緒にいてくれる精霊と必ず契約できる!」

「そうね。きっと大丈夫よ。あなたは私たちの子供でカリナの弟でもあるんだから。ね、ウィル」

「ああ、大丈夫だ。男は胸を張っていてなんぼのもんだ。そんなんじゃお前の相棒になる精霊に笑われるぞ」


 そうだよな、僕もやっと精霊と契約して一緒に過ごせるんだ。これから苦楽を共にする精霊に、最初からこんな姿を見せていたらダメだよな……大丈夫……。


「みんなの洗礼式の時はどんな色の祭服だったの?」

「あぁー、俺は茶色で……」

「私は教会で借りた祭服だったから真っ白」

「私は青。パパが氷属性が得意で、ママも水属性の魔法が使えたから」


 それから教会までの道中は、みんなが洗礼式を受けたときの話をして楽しく過ごした。


 そうして遂に到着した教会は、前世のカトリック式にも似た様式の建物だった。

 ウィルとアイナは、門の前の受付で僕の洗礼式の出席確認をしている。一方で僕とカリナはというと、これから行われる洗礼式についての会話を続けていた。


「精霊契約の時の感覚ってどんななの?」

「だからそれは内緒だって。精霊と魔力が繋がる感覚はその人にとって大切な思い出となるもの。だからリアムも自分で体験して知らないとね」

「チェー」

「不貞腐れるリアムも可愛いわ!」


 緊張している僕は緊張を解そうと洗礼式について一度はもう訊いたような質問だと分かっていながらもう一度投げかけるが、望んだ答えが返ってこず、チョッチ不貞腐れる。この過剰な反応を見せるカリナの対応にも最近慣れつつある……慣れていいのだろうか?


「出席確認が終わったぞ。それにもうすぐ集合のようだから、この首飾りをかけてリアムは門のところに行こうな」

「私たちは洗礼式の間、門から内側には入れないから、リアムはみんなと仲良く良い子で頑張るのよ」

「うん!」


 洗礼式に出席する証の首飾りを受け取り首にかけると、ウィルとアイナが一世一代の大勝負に向かう息子を応援するため気合を入れて送り出してくれる。


「こんにちは」

「こ、こんにちは」


 家族に送り出されて、集合場所で何気にその時を緊張して待っていた僕に見知らぬ女の子が話しかけてきた。


「あなた、リアム?」

「うん、そうだけど……」

「そう、私はレイア。よろしく」


 話しかけてきたのは白百合のように可愛い女の子だった。ふわっとした白く長い髪にくりっとした緑色の碧眼の女の子。


『こんな女の子にあったことあったかな? それに僕の名前を知ってるのはどうしてだ?』


 突然話しかけられた上に僕の名前を知っているレイアに正直困惑していた。


「アッチ……」


 すると、レイアは僕の心情を察するようにある方向を指差して、そちらを見るように促す。


「今はリアムの家族に隠れてチラッとしか見えないけど、うちの両親とおばあちゃんがあなたの両親と知り合いなの」


 レイアの指差した方向にいたのは僕の家族だった。ウィルたちの影に隠れて姿ははっきりとは確認できないが、確かにウィルたちは僕の知らない誰かと話込んでいるようだった。


「それにうちは薬屋さんをしててね。あなたのお父さんがよくうちにポーションを買いに来るの。その時にね、おじさんからあなたのことを何度か聞いて知ってたの」


 ウィルはダンジョンに行って冒険者を生業としているから、なるほど、ポーションは必要だ。


「私も初めてだから……大丈夫」


 少し離れたところにいるウィルをジッと見る僕の手に、レイアが触れる。


「おっ?」


 すると、僕の視線に気づいたウィルがこちらを見て「うまくやれよ!」とでも言うようにサムズアップした。僕とレイアはそんなウィルを見て思わず苦笑いをする。


「……えっ?」


 しかし気不味い苦い笑いも束の間、ウィルたちの影から出てきた赤い髪の女の人とそれからカリナにウィルが連行されていった。そして数秒後、路地裏へと連行されて再び共に2人と一緒に帰ってきたウィルは、ボロ雑巾のように、それはもう服のあちこちを引き裂かれてボロボロになって戻ってきた。

 目も当てられないウィルから互いに顔ををそらすと、僕とレイアの目と目がを合う。


「ッフフ……」


 レイアが少し息を漏らしすようにして笑いを堪える。


「ッフフフ……」


 僕もつられて笑いを堪える。


「あははははッ ──!」


 しかし遂に我慢していた二人の笑いが決壊する。お腹を抱えるように笑う僕とレイアは、その後、教会の係員に静かにするように言われて笑いを抑える。何とか笑いを抑えた僕は、こちらも何とか笑いを抑えたレイアと再び目が合ってしまい、フフッともう一度2人で係員に気づかれない程度に軽く笑い合った。


「全員確認……欠員なし」


 係員に点呼を取られ、言われた順番に整列してレイアと別れた僕は、改めて、いよいよ始まる洗礼式に胸を膨らませていた。


「すーごい!」

「うん、静かそうでいい……」


 扉が開くと、周りの声につられて明らかに一人だけズレた感想を口走ってしまう。

 教会の内装は質素ながらも整然とした装飾が施されており、教壇の後ろには恐らく正光教が崇める主神、善神と呼ばれるヴェリタスを象ったモノであろう像があった。また、その後ろの中央の窓には彩が豊なステンドグラスがはめ込まれていて、差し込む太陽の光が室内の神聖さをより醸し出していた。まさに質実剛健といった感じだ。因みにこの星の総称も地球アースである。


「静粛に……」


 扉が閉められ子供たち全員が教会の中に入り整列すると、部屋の端に並んでいた聖職者らしき人物等の一人が一歩前に出て、椅子や壁に染みいる淡々とした声質で子供たちを鎮める。また、教壇の隣にはこの教会の司祭らしき人が教典を持って立っている。


「これから司祭であるアストル様が洗礼式を行われます。あなた達は静かにアストル様のお話に耳を傾けるようよろしくお願いします」


 静粛聖職者が、一歩後ろに退き元の位置に戻る。

 そして教壇の隣に立っていたアストルと呼ばれた司祭様は、ゆっくりと滑らかに精錬された動きで教壇に立ち、話を始める。


「アースに生まれ落ちた我らが愛しき幼子達よ。そなたらも神々の恵みを受け、精霊のご加護を得る時が来た。しかし、そなたたちはまだ幼い。これから力の種を授かるそなたらは、その力をどのように使い、どのように成長させていくかを経験を通して学ばなければならない。そして、驕ってはいけない。頼りきってはいけない。いわば精霊達はそなたらの分身。時には頼り、時には助け合える良き隣人でなければならない ──」


 司祭の前置きが続く。しかし3歳の子供がこのあたりの話を理解しているかは疑問だ。事実、周りの子供達は眠そうだったりウズウズしたりしている。

 しかし長い話にも終わりはある。この後には人生で数回あるかないかほどの貴重で素晴らしい機会が待っている。


「精霊が自分の手元にきたら魔力を流してくれるので、その魔力を受け入れるように。魔力を受け入れると精霊とつながった感覚を得ることができます。それで契約は完了です」


 そんな感じでご褒美の精霊契約を心待ちにしていると、司祭の話も前置きが終わり精霊契約の注意事項も終わりを迎えようとしていた。

 司祭は一度僕たちを確認するかのように見渡すと最終確認を終える。

 そして遂に精霊を呼ぶ祝詞を唱え始める。


「では── どうか主神ヴェリタスの加護とこの土地の神ケレス、そして精霊王達による導きがそなたらと共にあらんことを。幾久しく、精霊のご加護が悠久の友としてそなたらを守るよう ──」


 祝詞が終わりに近づく。あとは呪文を唱えるだけだ。


精霊(イスプリート)との()契約(コントラクト)


 司祭が呪文を唱えると、天井に大きな魔法陣が浮かび上がり、祝福の光と共に様々な色をした光の球が降り注ぐ……どうやらアレが精霊のようだ。


「やった」

「こ、こんにちは……」

「んー……パクン、もぐもぐ……?──ハックチュン!」


 上から降り注ぐ光の球達はそれぞれがまるで昔から知っている旧友の元へ向かうように重複することなく契約者の元へと飛んでいく。精霊達は契約をすると、下位精霊の場合は光の球のままで、中位精霊の場合、契約した瞬間に姿を変える。




 ……しかしここで事態は急変する。


「あれ?」


 上を見上げ今か今かと待ち続けていた僕は異変に困惑する。優しく降り注ぐ光が僕の頭上より少し高い位置に来ると、その光がまるで傘でもあるかのように避けていくのだ。


「これって……」

「お魚さんだー!」

「いいなー!」


 ……新しい精霊と契約できた他の子供達は嬉さでどうやらこのことに気づいていない。


「いったいどうしたというのでしょう……」


 しかし皆を見渡せる位置にいた司祭は、どうやら頭上の異変に気づいたようだ。祝福の光が避け、精霊と契約できていない僕を目を丸くして見ていた。司祭の立ち位置から見ると、それはもう一目瞭然に僕の頭上だけ祝福の光が避けているのだからそれは驚くだろう。


「嘘……終わり?」


 やがて降り注ぐ祝福の光が消え、僕以外の皆が精霊との契約を終えたようだ。……放心していた。絶対に契約できるはずの精霊と契約ができなかった。


「そ、そんな馬鹿な!」


 突然の司祭の叫び声にその場にいた誰もが驚いて注目する。注目を受けた司祭はそのまま僕の方に小走りで近づき肩を掴み顔を覗き込む。


「君! 精霊との契約はできたのか!?」


 目の前で大声で問いかける司祭の言葉に虚を突かれてビクッと肩を震わせた後、力なく首を横に振る。


「精霊と契約できなかったの?」

「なんでー?」


 すると、今度は周りがざわざわと騒がしくなり始めて、好奇の声が所々から新しい注目の的に向かって……無邪気さが傷心に刺さる。


「そ、そうか……すまない」


 得たかった回答を得た司祭は、周囲の好奇と疑惑の視線にようやく気付いたのか、申し訳ないことをしたと僕の肩から手を離した後に重い足取りで教壇に戻ると、咳払いをして再び自分に注目を集める。


「祝福を受けし我らがアースの子供達よ。そなたらが敬虔なる神の教徒として、正しき道を精霊達と共に歩まんことを願う。さて……これにより洗礼式は終了だ。扉の前で洗礼式を終えた証を配布しているので、出席の首飾りとそれを交換して受け取るように。それを受け取ったら、怪我のなきよう落ち着きを持ってご家族の元へと戻りなさい」


 司祭が最後の祝辞を述べ終えて、洗礼式の閉式の旨を子供達に伝える。すると、さっきまでの出来事を完全に忘れてしまったかのように、精霊達との契約が終わった子供達は次々に家族に契約できたことを報告するべく、教会の外へ駆けていく。

 洗礼式の前から一緒に話をしていたレイアも、周囲の目に晒された僕の方を心配そうに見ていたが、今は話しかけない方が良いと判断したのか彼女は後ろ髪引かれるようにその場を後にした。


「……どうして」


 僕以外の子供達の姿がホールから消える。


「君、今までに高位の精霊と直接契約をしたことは?」


 もちろんそんな記憶はない。司祭の質問に再び首を横に振る。


「そうか……高位の精霊などと契約をしていれば精霊契約ができないことにも納得がいくが……しかし精霊達の祝福の光までもが彼を避けたというのはどういうことだ?」


 司祭は頭を捻り契約失敗の原因について考えてくれている。


「すまない。このようなことは初めてでな。前代未聞でおそらく事例がない」


 僕の答えを交え、それから2、3分ほど自問自答しながらウンウン唸っていたが、しかしそれでも精霊契約できなかった原因について結論は出なかったようだ。


「一応、こちらでも調べてみるので何かわかったら知らせよう。今日は残念な結果になったが、お家の人も心配しているだろうから、もうお帰りなさい」


 司祭は僕の首からゆっくり首飾りをとると、代わりに洗礼式を終えた証を手渡してくれる。


「はい、ありがとうございます。失礼します」


 この司祭さんはいい人らしい。子供相手でも傲慢にならない。明らかに落ち込んでいる僕に優しく接し、今後の対応まで考えてくれている。しかし、僕はあまりのショックに3歳児らしからぬ返答をしてしまった。そんな3歳児らしからぬ返答をする僕を見て、よほどショックだったのだろうと帰結した司祭は教会の扉を開けてくれる。


「出てきたわ!」

「何かあったのかと……よかった……!」

「リアムー!」


 外に出ると、門の近くで僕のことを待ってくれている家族の姿が映る。ウィル、アイナ、カリナが皆、笑顔でこちらを見ている。その笑顔を見ると、とても口では言い表せない感情が押し寄せてきて泣いてしまいそうになった。しかし、僕を笑顔で出迎えてくれる家族に泣き顔は見せまいと一度下を見て目に溜まった涙を拭き取り笑顔を浮かべる。


「なにか……あったみたいだ」


 だが、僕が袖で涙を拭ったことがわかってしまったのだろう。皆、今は表情を変えて心配そうに僕を見ている。そして、堪えるゆっくりとした足取りで家族の元へと辿り着くと、アイナがギュッと僕を抱きしめた。


「けいやく……できなかった!」

「そうなの……」


 突然抱きしめられた僕は、中身の年甲斐もなく、外見の年相応に泣いてしまった。


「残念だったわね……でも私たちがいるわ……大丈夫」


 抱きしめるアイナの温かさは僕の悲しみを優しく包み込み、頬を(くすぐ)る春の風は、僕の涙を遠くへと運んでくれた。


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