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違和感 1

「———ま?」


「ま。」


語彙力がなくなるほど、思考が停止した私に同様に返答する紫苑。


「じゃなきゃ、あんなもん用意できないだろ?」


紫苑が会議で議題に上がり、まだ公には伏せられた話を続ける。


「話の内容的に、おそらく日本のどこかでも同じようなことが過去に———しかも数か月前後で起きてたらしい。」


その町の名前や被害状況、スキル保持者のことは細かく聞けなかったが、そのおかげで今回の事態の対応が素早かったということらしい。


「しかも、今後も日本のどこかで起きることもわかっていたからこそ、この対応だったわけだ。」


家から持ってきた荷物から、ポテチを取り出すと紫苑は食べ始めた。


「まぁ、政府が把握してるなら、今後はこれ以上の被害は出ないってことよね?」


「どうだろうな、あの口ぶりからするとまだありそうな気がする。」


ポテチを開けたことで家族全員が匂いにつられてつまもうと手を伸ばすので、紫苑は仕方がなくパーティ開けをしてくれた。


「あと、ゆかり。」


「ん?」


「実験台にならないか?」


夫として理解に苦しむド直球な一言に思わず飲みかけたウーロン茶を吹きかける。慌てて手で押さえると紫苑をにらむ。


「いきなりすぎるっしょ!!」


「そうよ、紫苑!いくらアンタでもその言い方はないでしょ!」


さすがにお義母さんまでもが口を出して怒り出すが、紫苑はケロッとした顔だ。


「対策チームではスキルの情報が調査したいらしいが、むやみやたらに志願を募るのも避けたいらしい。んで、どうかなと。」


「そういうなら理解できるけど、直球すぎやしません?」


私がむーっとうなるのもお構いなし、紫苑はにっこり笑みを浮かべる。

こういう時の紫苑の笑みにはろくなことがないことを経験は知っている。


「はぁ、いいよ。どうすればいい?」


頭ごなしに拒否するつもりはないので、肩をすくめて答える。


「自衛隊で取得した石を使って実験してみたい。多分、俺の分析が当たってれば、チートスキルゲットだぜ?」


「ぜひやらせてください し( ・´ー・`)J」


紫苑の言葉に即答し、全力の両手上げする私。コロン〇ア!!


「ちょっと紫苑!本当に大丈夫なの?!」


お義母さんも心配で言ってくれているが、紫苑は言い出したら聞かない性格だとよく知っているので、何も答えない紫苑に呆れている様子だった。


「とりあえず炊き出しでも食いに行こう。ハクも外につなぎっぱなしで心配だし。」


先ほどの移動の際に愛犬のハクは連れてこれない、とのことで他のペットを保護した区画に移動させられたのだ。


「じゃ、森脇さんに同行してもらわないとね。」


そういって応接室のドアを開けると、ちょうど森脇さんが気付いてこちらを向いたタイミングだった。






「順番に並んでください!」

「押さないで!ちゃんと人数分ありますので!」


炊き出しが始まってもう10分以上経つが、列が減る気配はなかった。それだけの人数がここに集まっているんだろうと推測できる。


森脇さんの指示でほかの避難してきた人たちが集まるエリアとは別の場所で、しかも中が見えないタイプのテントの中で待機することになったが、網状になっている部分から炊き出しに並ぶ列は見えた。


炊き出しの列に並ばずに待機しててください、とお願いされ、他の避難所のスタッフが並びに行ってくれている状況。傍から見たら特別感がすごすぎて、他の避難者の差に不評を買いそうだ。


「お待たせしました。」


スタッフがお盆で運んできたのは豚汁とおにぎり、緑茶のペットボトルだ。

人数分きっちり運ばれてきて申し訳なく思いつつも、いただきますと食べ始める。


大量に作りこんでいるのもあるせいか、豚汁の味はとってもおいしくて身に染みた。


「こちら、ワンチャン用です。」


とわざわざスタッフが茹でた野菜の切れ端等を、ペット区画から連れてきたハクの前に置いた。

きちんとお座りをして待機していたハクは、ありがとうと言わんばかりにきゅうん、と鳴いてから食べ始めた。


「お利口さんですね、このワンちゃん。」


「良かったね、ハク。」


野菜を食べつつもわふ、っと声を上げるハクに運んでくれたスタッフの癒しになったようで笑みがこぼれていた。


「あの、森脇さん。」


食事も無言が多かったため、一緒に食事をしていた森脇さんに何となく話を振ってみる。


「はい。」


「ここに避難した人に会いに行っても大丈夫ですか?」


「勿論。ただ申し訳ないですが、私も同行します。お話の邪魔にはしないようにちょっと離れたところで見ていますので。」


そういわれてホッとする私。

さっき避難している間も、ちらほらご近所や藍里の同級生達を見かけたので、話しておきたかった。


特に藍里がとても会いたそうにしているのもあって、許可が出て本当に良かった。


「話をする際にはくれぐれも避難している場所等は話さないでください。勿論、スキルのこともです。」


食事を済ませた私達。紫苑は再び峰本さんと行動するので先程のテントで別れて、女性陣だけで避難所内を歩きだした。


「だって、藍里。わかった?」


「うん。」


「言い方に困ったら黙ればいいよ。ママ達がフォローするから。」


避難所になったホールの待合室には段ボールによるパーティションが各所に設けられ、各家庭や個人で何とか自分のスペースが確保できていた。


再会した藍里の同級生やお義母さんの知り合いに挨拶しつつも、ここまでたどり着いた苦労話の花が咲く。


その中でも驚きの言葉に同級生のママから飛び出した。


「え?ドラゴン?」


「そうなのよ!私がこの子を迎えに行く直前に、空を覆うような大きなドラゴンが飛んでたのよ!」


そのママの話では化け物に襲われ、命からがら車で逃げた途中。

車を覆うような影を窓から見上げたその先に、悠々と空を飛ぶドラゴンがいたんだそうだ。


「すぐ自衛隊の飛行機がドラゴンを追いかけて飛んでるのも見たのよ。CGなんて嘘っぽくなるくらいリアルだったわ。」


洋画好きのママなので、話す姿も興奮した様子だった。ちゃんとスマホで撮影していて、見せてもらえば確かに空でドラゴンと飛行機が追いかけっこしてる動画が再生されていた。


「神村さん。」


背後から声がかかって、森脇さんがそろそろ、と手招きをしている姿が見えた。


「見せてくれてありがとう。そろそろ戻らないと。」


「また後で来るでしょ?ここだと窮屈だし、退屈で。」


そんな会話を交わしながら、私は申し訳なさそうに頭を下げつつもその場に後にした。


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