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避難 1

ラジオから流れてくる単調的なトーンで語られるラジオを囲むように座る私達。


「場所は———神倉総合体育館?ちょっと遠いね。」


「メモしとけ———神倉第2中、森林公園フォレストホール、」


ラジオから流れる避難場所を私がメモを取りながら、聞き逃さないように耳を傾ける。


「神倉大学キャンパス、神倉福祉教育センター。5か所か。」


「少ないね。小学校はさっき化け物に襲われちゃって、校舎使えないから名前が挙がらなかったね。」


私は書いたメモをお義母さんに見せつつも、避難所の少なさに少し驚いた。


「あそこは第1よね。第2は?」


「名前が挙がらなかったってことは、同じように襲われたのかも。」


「ここから行ける中で、一番近くの森林公園フォレストホールに行こう。最悪、お袋の"スキル"も使える可能性があるしな。」


紫苑の言葉に私達も立ち上がって荷物を背負い始める。今のところは車で移動できそうということで、紫苑の車に荷物を詰め込んで行くことにする。


「ママ、この子連れていきたい。」


藍里の声に振り返ると、胸に抱きしめるように持っていたぬいぐるみを見せられた。


「あぁ、1体だけだよ?」


夜いつも一緒に寝ているウサギのダンサー"ラービーツ"。私が小さい頃には流行っていたアニメの主人公で、ダンスを武器に悪の組織と戦う正義のヒロインだ。

復刻DVDをヘビロテしてた際に藍里も見てハマり、復刻記念についてきた20cm大のぬいぐるみを貸してあげていた。


「失くすなよ。」


紫苑も藍里の頭をポンポンと撫でた後で、ラービーツを見た瞬間———ぴたっと動きを止めた。少しの間、紫苑の視線はラービーツに向いたままだ。


「紫苑?」


「———藍里、聞いていいか?」


私の呼びかけを無視して、紫苑は藍里に話しかける。


「小学校で逃げてる時に、こういう石拾ったか?」


紫苑が見せているのは、例の緑色の宝石だ。藍里は申し訳なさそうに黙り込んだ後に頷いた。


「その石、どうしたんだ。」


「ぎゅっと握って持ってたけど、いつの間にかなくなってた。」


その言葉に紫苑は考えこんでいる。私も藍里の言葉であることに思い当っていたが、黙って聞くことにした。


「藍里。前に遊んだ"ふぁみりあふれんど"ってゲームを覚えているか?」


紫苑が言う"ふぁみりあふれんど"とは、数年前に発売されたゲームで幼児用に可愛らしいデザインの動物や空想上のペザガスやドラゴンといった生き物と仲良くなり、"ふぁみりあ"として生活を共にするほのぼの系のRPGだ。


藍里が今でも携帯ゲーム機に入れて遊んでいるゲームの一つだ。


「あれと同じように、ラービーツに話しかけてごらん。」


紫苑の言葉に頷いた藍里は、抱きしめたままのラービーツに視線を落とす。


「ふぁみりあ、ふぁみりあ。私とふれんどになって!」


藍里が唱えたのはゲーム内でふぁみりあと契約する際に唱える魔法の言葉だ。


すると、ラービーツは垂れていた耳をぴんと立てて、抱かれたままで藍里を見上げたのだ。その瞳には生命が宿ったような輝きが生まれ、まるで生き物のように藍里を見つめていた。


「わぁ!ラービーツが喋った!」


話せて嬉しそうにラービーツを抱きしめる藍里。だが、私にはラービーツの声が聞こえていない。


「藍里、ママ達にはまだラービーツの声が聞こえないみたい。きっと好感度あげないと聞こえないのかもね。」


と"ふぁみりあふれんど"のシステムで好感度の低い人以外とは話せない設定を持ち出して、私はそっとラービーツの頭をなでる。


「ラービーツ、藍里をよろしくね。」


そう言うとラービーツに語り掛けると、顔をこちらに向けてこくんと頷いた。


「藍里、ラービーツのことはまだ誰にも話さないでね。できればラービーツには私達以外の人がいるときはぬいぐるみのフリをしてもらうようにお願いしておきなさい。」


「なんで?」


「藍里よく見てるアニメでよくあるでしょう?変身できることや魔法が使えることを隠してること。あれと同じよ。」


スキルに関してはまだ情報が不足している、根拠のない情報は混乱を招きかねない。紫苑がよく言う言葉だ。


「わかった?」


「うん。じゃ、これから外に行くから、ラービーツはぬいぐるみのフリね?」


こくこく、と可愛く頷くラービーツ。動きが可愛すぎて私も抱っこしたい衝動を今はぐっと抑える。


「移動するぞ。」


紫苑の言葉に全員が車に乗り込み、お義母さんのスキルで木の壁が一部開かれて、車は動き出した。





「こちらが入り口です!押さないでください!!」

「怪我した方いませんか!?」


避難所となった森林公園入口には自衛隊と警察官が出入り口で避難してきた人々の誘導を行っていた。私達も素直にそれに従い、フォレストホール内の駐車場へ停めると、駐車場所を案内してくれた自衛隊員が下りてきた私達に話しかけた。


「すみません、最初に検疫を実施しますのであちらへ並んでください。」


今まで災害に見舞われたことのない私の知識でいきなり検疫をするのか、と思ってビックリしたものの紫苑やお義母さんは特に驚いた様子がないので、黙って受け入れる。


検疫所というプレートが掲げられたテントでは、防護服のようなものを着た人々が並んでいる人達に何かを身体にかざして回っている。一抹の不安がよぎるも、とりあえず並んでいるしかないので黙って待っている。


ピピー。っと私達よりも前で並んでいる人にかざした瞬間に音が鳴りだした。


「すみません、おひとりですか?あちらの列の方へ移動をお願いします。」


その人は半ば強引に腕を掴まれて、別の列へ並ばされた。その列の先は中が見えないように覆い隠されたテントのほうだった。


「嫌だわ、何かの病気?」


前に並ぶカップルがボソリと呟いた。それを聞いた私は藍里の手を握り、隣に紫苑を見上げた。紫苑はこちらをチラッと見た後に、スマホを取り出した。何かを打ち込んだ後にチャットアプリの通知の振動がポケットから感じた。

黙ってスマホの画面を見ると、やはり紫苑がチャットを打ち込んでいた。


『紫苑:これはスキルの存在、気づかれてるな。』


分析スキルを持つ紫苑なら、あのかざしてる機械に関して何か知りえたのかもしれない。


『ゆかり:つまりあの機械は、スキル探知機的なもの?』

『紫苑:そうだな。さっき引っ張られた人、スキル保持者だった。』


つくづく紫苑のスキルがいかんなく発揮されていて大助かりなのだが、そうなるとスキルを持っていない私が一人取り残されてしまう形になる。


『ゆかり:えー、じゃあ私だけハブじゃないですかーヤダー。』

『玲子:ゆかりちゃんにもスキルとってもらえばいいのに。』

『紫苑:獲得するのに何かしらの方向性が分かればやらせるつもりだったけど。』


とチャットをしてる間に、機械をかざす防護服の人が近づいてきたので、私達は仕方がなくスマホをポケットに入れた。


「ちょっとすみません。」


紫苑が防護服の人に話しかけ、他には聞こえないような声でボソボソと会話を始める。


「わかりました、お待ちください。」


どうにかうまく紫苑が話してくれたようで、防護服の人が別の係員の男性を呼ぶ。

やや長めのやり取り後に、係員の男性が私達に話しかける。


「こちらへどうぞ。ご家族の方もご一緒でかまいませんよ。」


男性の案内についていく私達。行先は先ほどのテントではなく、ホールのほうだった。

ホールの中へ入り、事務所のあるエリアへ案内されると、男性が代わりにドアをノックする。


「失礼します。」


中には自衛隊員や白衣を着た男性が数人いて、一斉にこちらに向き直った。


「何かトラブルですか?」


白衣を着た男性が係員に話しかけると、先ほどの紫苑のようにぼそぼそと会話を始めた。


「なるほど。私が対応します、どうぞこちらへ。」


会話が終わった後、白衣を着た男性が私達を奥の部屋に案内する。部屋の中にはソファがいくつかあり、私達は座るように誘導される。


「先程の係員より、あなた方は超能力をお持ちとのことを伺いましたが、本当ですか?」


「はい、峰本さん。」


まだ名乗っていないはずの白衣の男性の名前を呼ぶ紫苑に、本名だったのか峰本さんは驚愕の表情に変わった。


「驚きましたね、まだ名乗ってすらいないのに。」


「私の能力は見たものを分析するものなので。」


峰本さんと紫苑のやり取りを黙って聞いてる間に、いつの間にか係員の女性が缶ジュースを藍里に差し入れていた。


「ありがとうございます。」


きちんと礼を言う藍里に女性もにこやかに笑みを浮かべ、私とお義母さんにも缶のお茶を差し出した。


「ありがとうございます。」


「いえ、多分峰本さん達の話は長くなると思いますので。」


係員の女性の言葉に、私は苦笑しつつも頭を下げる。


「———そうですか、大体は理解しました。」


峰本さんと紫苑とのやり取りは長丁場が予想されたが、案外あっさりと受け入れられた。


「つまり我々に協力する代わりに、ご家族の保証をしてほしいとのことですね?」


「そうです。」


「わかりました。スキルの件に関しましては、私が責任者です。対応しましょう。」


峰本さんはにこっと笑みを浮かべて答えた。


「よろしくお願いします。」


握手を交わしあい、どうにか紫苑の落としどころに収まったようで私は内心ほっとした。


「あの、少しよろしいでしょうか?」


話が済んだようだったので、私から峰本さんへ話しかける。


「なんでしょう?」


「今、この町はどういう状態なんでしょうか?」


現状を把握しておきたくて思わず聞いてしまったが、聞かれた本人の表情は暗い。


「そうですね。我々もすべてを把握しているわけではないのですが、ご協力していただく上ではある程度お話ししておいたほうがよいでしょう。」


そう前置きをして、峰本さんは近くにあったホワイトボードを見上げて説明を始めた。

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