違和感 2
紫苑と共に私は峰本さんに会いに行くと、話を聞いていたのか彼が笑みを浮かべて待っていた。
「先程、紫苑さんより提案を受けましたが、本当によろしいんですか?」
スキル発現のメカニズムのために実験台になるからだろう。
峰本さんは心配した声音だが、表情はそこまで心配した様子がない。
「はい。夫が大丈夫というのを信じてますので。」
とわざと紫苑を前面に推して責任をぶん投げると、言われた本人は肩をすくめた。
「わかりました。では、紫苑さんの予想が当たることを祈りましょう。」
案内されたのは長い通路と階段の先、関係者以外立ち入ることが出来ないこのフォレストホールの映写室だった。
本来ならば会場が見えるガラス窓はカーテンで仕切られ、ホール内を見ることができなかった。
目の前のテーブルには様々な機械が置かれ、その部分だけはまるで研究室のような雰囲気だった。
「今からふたを開けて、中にある石をお渡しします。」
峰本さんと紫苑の説明を時々頷きながら黙って聞く。
「ゆかりは石に触った瞬間から、"干渉"って言葉を頭の中で連呼しろ。」
「かんしょう?」
「映画を見るほうじゃないぞ?」
紫苑の言葉にそりゃそうだ、と心の中で思いつつも、私は頷いた。
「では、いいですか?」
峰本さんは目の前の機械の上部の蓋を開けた。手を差し入れ、すっと野球ボールくらいの大きな銀色に光る石を取り出した。
ミラーボールのようにでこぼこしたその石は、照明に当たると虹色に煌めいていた。
「うわぁ、大きい。」
「皆さんがここに来る前に迎撃したドラゴンの石です。」
峰本さんの言葉に私は思わず、それってとつぶやいた。それを聞き取ったのか、峰本さんは頷いた。
「あれだけ大きいものが空を飛んでれば、噂になってしまいますか。」
がっつり手で触れている峰本さんの姿を見て、ふと違和感に気づいた私。
「峰本さんが持っても消えないんですね。」
「ああ、私はもうスキルをもっているので。どうやら獲得できるスキルは1つだけのようです。」
それより、と峰本さんは私にその銀色の石を差し出す。
「準備はいいですか?」
改めて峰本さんに問われて、私は必死に脳内で"干渉"の言葉を繰り返しながら頷いた。
"干渉"———他の意思とは無関係に、自身に従わせようとする。
支配、よりは重たくないが、介入・妨害の類義語になる。
なるほど、紫苑の読みは察した。
私はもう一度深呼吸をして、再び脳内で言葉を繰り返しながら、石に指先を当てそのまま勢いよく、石を掴んだ。
"干渉スキルを習得しました"
脳内に響いたアナウンス。
中世的な機械的なその声にビックリしてる間に、掴んだ手の中で空気に溶けて消えていったのを見た。
「どうだ?」
紫苑の言葉に私は彼の顔を見上げて、頷いた。
「うん、聞こえた。スキル、取れたみたい。」
そういうと、峰本さんは心の底からホッとした様子を見せた後、
「では、試しに使ってみましょう。」
と研究好きが疼くのか、楽しげに微笑み始めた。ちなみに紫苑も同じ表情です。
「えっと、」
私はスキルをどのように使うか迷っていると、頭の中で何かの違和感を覚えた。
すぐさま脳内に文字列が浮かび始めて、私はたまらず目をつぶる。
文字列が瞼の裏に流れるように見え、私は両手で覆いながらそれを読み取る。
「どうしました?」
「え、ちょっと待って。説明文、見てる。」
峰本さんの言葉にそう言いながら、流れる文字列を見て、理解しようと脳みそフル回転にする。
「えっと、んー、」
独り言が口から零れて、何とか理解した辺りで両手を外して目を開いたが、まだ文字列が空中に浮かんで見えていて、まるでホログラムを目の前に投射されたようだった。
「ちょっとやってみます。」
私だけが見えているであろう文字列を追いながら、すぐ近くにある映写機に触れる。
「"干渉"」
呟いた後、目の前の映写機が自動で動き出し、カーテンで遮られた窓に映像を投射する。
映写機自体にはフィルムがついていないのは確認できた。
私が干渉して流した映像は、今私の目の前に見えるホログラム的なものを峰本さんたちにも見せるために、投射するようにスキルを発動させたのだ。
「これは?」
「映写機に干渉して、私が今見えてるものを映してもらってます。こうずっと何かしらの文字が目に浮かんできて、落ち着かない感じです。」
「ほぉ、これは。この文章は何かのヒントになるかもしれませんね。」
峰本さんはタブレットを取り出して撮影をしようとしていた。
「あ、待ってください。それ、借りていいですか?」
私がそういうと峰本さんは不思議そうにこちらをみて、タブレットを渡してくれた。
受け取ってタブレットの中にある文章作成アプリをタップし、
「"干渉"」
スキルを使ってアプリに文字を打つ出してもらうように干渉すると、
タブレットの中のアプリが動き出し、触れてもいないのに文字が次々表示されていった。
「すごい、ですね。」
「さっきの説明文から察すると、スキルにも干渉できそうな感じなんです。」
「! それはつまり、スキルを操作できるかもしれないということですか?」
峰本さんにタブレットを返すと、アプリに表示された文章を見つめ始める。
「確かに、そういう記述があります。」
「ただ、今めちゃくちゃ体が重くて、ちょっと。」
とスキル発動時から感じた体の異変に耐えかね、私は近くにあった椅子に腰を掛けた。
「ゆかり、大丈夫か?」
「うん、結構しんどい。スキルを使ってからだから、この干渉スキルはリスクが高いかも。」
私は背もたれに寄りかかりながら、だるさがじわじわと体を蝕むのを感じてふぅ、と一息ついた。
「スキルを使用した後には、体に異変が起こった者もいました。やはり、これだけのスキルですから、どうか無理をなさらずに休んでください。」
峰本さんはタブレットに入力された記述を読み解きたいとのことで、お開きになった。
峰本さんが先に退室したのを確認してから、私は何とか立ち上がろうとしたがそれもしんどい私に、腰に手をまわしながら支えてくれる紫苑。
そんな状態で何とか歩き出きつつ、紫苑は私に聞こえる範囲の小声で話し始めた。
「ありがとな、無理させてごめん。」
「ううん。多分、慣れてなくてすっごく疲れたんだと思う。初めてやるスポーツを無我夢中でやり始めて疲れた感覚に近いし。」
「ごめんな。」
謝り倒す勢いで心配してくれる夫の姿に、私は嬉しくなって頬にキスして返した。




