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『ミルク』小さなコーギーの物語

作者: 木の葉りす

ぼくが生まれたのは、帽子屋のおばあさんちだったんだ。

ぼくの母さんは5匹の仔犬を産んだんだけど、ぼくだけが一番小さかったんだ。おっぱいの時間もぼくだけがうまく飲めなくて、兄弟たちよりもどんどん小さくなっていったんだ。ぼくはいつも端っこにいた。

ぼくはいつも兄弟達が遊んでいるのも見るだけ。だって仲間に入っても負けちゃうから。

母さんはそんなぼくをかわいそうに思って毛づくろいをよくしてくれたよ。気持ちいいから、ぼくはすぐ寝ちゃうんだ。だから、歩くのも一番遅かったんだ。

帽子屋のおばあさんはぼくを見てよくため息をついた。

「この子はダメかもしれないね…」

おばあさんはぼくを抱いてそう言った。ぼくは何て言ってるかわからなかったけど、悲しそうな顔しているおばあさんの手を舐めた。

「いい子だね…」

おばあさんがぼくを撫でて、そっと母さんの横に置いた。

ねぇ、母さん。

ぼく、悪いことしたの?

「お前はいい子だよ」

そう言って母さんは毛づくろいしてくれた。

しばらくすると兄弟たちが貰われて行くようになったんだ。

今日も1匹、明日も1匹って。

何だか寂しい気がしたけど、母さんの方が寂しそうだった。

ぼくは母さんの毛づくろいをして元気づけたんだ。

「優しい子だね」

とうとう子供はぼくだけになった。

でも、ぼくは誰にも貰われていかなくてずっと母さんのそばにいたんだ。それでも、ぼくはなかなか大きくならなかった。

そんな時、ぼくは病気になったんだ。母さんもおばあさんも心配そうにぼくを見ていた。

ごめんね、母さん。

ぼく大きくなれないや。


ある日、帽子屋のおばあさんのところに庭師のおじいさんが来た。

おじいさんはぼくを抱いて撫でてくれたから、ぼくも手を舐めたんだ。

おじいさんはぼくを自分の顔の前に持ってくると

「わしの所へ来るか?」

「でも、その子は…」

「良い子じゃないか。わしが育てるよ」

おじいさんはぼくを優しく抱きしめてくれた。

ぼくは嬉しかった。

そして、ぼくは庭師のおじいさんのところへ貰われることになった。

母さんと離れるのは悲しいけど、誰にも選ばれなかったぼくをおじいさんが選んでくれたのが嬉しかったんだ。

おじいさんは小さな箱にぼくを入れると車の助手席に乗せた。

「ちょっと揺れるけど我慢してくれ」

クゥン。返事をした。

おじいさんの家は町外れにあった。

家と小さな小屋があって、仕事の道具を入れてあるみたいだった。

おじいさんは、ぼくを箱に入れたまま家の中の暖炉の前置いた。

そして、ミルクを小さなお皿に入れるとぼくの前に置いた。

「飲めるか?」

ぼくは、ちょっとだけ舐めた。

おいしいや。


それから、おじいさんはぼくを育てようと一生懸命に世話をしてくれた。

朝起きるのも一緒、夜寝るのも一緒。

「コーギー、今日も元気か?」

「コーギー、お腹空いたか?」

どうやら、ぼくの名前はコーギーに決まったらしい。

ぼくは、優しいおじいさんのために大きくなろうって決めた。

ぼくは頑張ってミルクを飲んだ。そして歩くの遅いけど、おじいさんの後を追って行った。

おじいさんは、とても喜んだんだ。

ぼくも嬉しくなって、おじいさんといつも一緒にいたんだ。

なのに、ぼくはまた病気になって、

おじいさんのベッドから動けなくなった。

おじいさん、ごめんね。

おじいさんはぼくを動物病院に連れて行ってくれた。病院の先生は首を横に振るばかりだった。

でも、おじいさんは諦めなかった。

ぼくに少しでもミルクを飲ませようと綿にミルクを湿らせて飲ませたり、ずっと抱いて暖めてくれたんだ。

「大丈夫だぞ」

それがおじいさんの口ぐせだった。


ある朝、おじいさんがぼくを抱いたまま眠っていたから、ぼくはおじいさんの顔をペロペロ舐めた。

おじいさん、ありがとう。

ぼく、大丈夫だよ。

おじいさんは目覚めると、ぼくを持ち上げて喜んだ。

「おぉ!コーギー。今日は元気じゃないか!もう大丈夫だぞ」

何だか、ぼくも嬉しくなってシッポを振ったんだ。

その日からぼくはびっくりするくらい元気になったんだ。

おじいさんもびっくりするくらい。ミルクもたくさん飲めるし、走ったりもできるんだ。

だから、ぼくはおじいさんを毎朝起こすことにしたんだ。でもね、本当はおじいさん起きてるけど、寝てるふりをしてるんだ。

ぼくのために。

毎朝おじいさんを起こしていると、ベッドから飛び降りたり、おじいさんを飛び越えたりできるようになったんだ。少し大きくなったのかもしれない。ぼくは嬉しくて何度もおじいさんを飛び越えて遊ぶようになったんだ。

おじいさんも怒らずに笑って見ていてくれるんだ。

ぼく、すごいよね。

ジャンプもできるようになったよ。

ある朝、おじいさんを起こしていると窓に知らない猫がいたんだ。

灰色の毛に青い目をした猫。

ぼくをじぃーと見ていたから話かけてみたんだ。

「猫さん、どうしたの?」

灰色の猫は何も言わずに行ってしまった。

何しに来たのかな?

「コーギー、どうした?」

あ、起こさなくっちゃ。


それから灰色の猫が毎日来るようになったんだ。

何も言わずに見るだけ。

ぼくを見ているのか、おじいさんを見ているのかわからないけど。

話かけると帰って行くので気にしないようにしたんだ。

どこから来るんだろう…。

ぼくは後を付けてみようと思ったけど、すぐ見失ってしまうんだ。

やっぱり気になって、ぼくは灰色の猫がどこから来るのか、いつ来るのかを調べようと家の陰に隠れて灰色の猫が来るのを待ったんだ。

家の壁に立てかけている板の下に潜り込んで待った。

息を止めて待ったんだ。

なのに、見つける時はぼくの真上の屋根の上や塀の上や窓のところにいるんだ。

ぼく、負けない!

そこでぼくは、屋根に登ってみようと考えた。

家の周りをぐるっと見て登れそうな所を探した。

外に置いてある樽を見つけて登ってみようとしたけど、全然届かない。

でも、諦めずにジャンプしていると手が届いてぶら下がった。

すると、樽の上に灰色の猫がやってきた。

「何やってる?」

ぼくはぶら下がったまま、何も言えずにいると

「おい、ちび」

「ちびじゃない!コーギーだ」

「ちびコーギー、じいさんに気をつけてろ。離れるなよ」

「だから、ちびじゃないって。おじいさんに何かあるの?」

「とにかく、離れるな」

そういうと灰色の猫は行ってしまった。

何だろう…

その日からぼくはおじいさんから離れずにずっと後を追いかけたんだ。

猫さんに言われなくても、ぼくとおじいさんはいつも一緒なんだ。

灰色の猫は、それからも毎日来た。

少し離れて見ているようになった。

ぼくは不思議に思いながらも、おじいさんのそばにいたんだ。

何も起こらないよね。

「どうした、コーギー。お前は甘えん坊だな」

おじいさんはそういうとぼくの頭を撫でた。

ぼくは甘えてるんじゃないんだけどな。おじいさんを守ってるんだけどな。

ぼくは、気をつけて周りを見渡している時だった、おじいさんが胸を押さえて倒れた。

ぼくは、びっくりして吠えたんだ!

すると、灰色の猫がやってきた。

「どうした?」

「おじいさんが倒れたんだ。どうしよう…」

ぼくは泣きそうだった。

「オレが人を呼んできてやる。お前はじいさんに付いてるんだ」

そう言って灰色の猫は走り出した。

ぼくはおじいさんが心配でジッとしていられない。

猫さん、早く!


猫さんが人を連れて戻ってきた。

「おじいさん、大丈夫か?」

そう言って助けに来た人は、車におじいさんを乗せて病院へ行ってしまった。

「おじいさん、大丈夫かな?」

「心配するな。大丈夫だ」

ぼくが泣きそうになると

「コーギー、男だろ。泣くな」

そう言いながらも猫さんは一緒にいてくれた。

「あの…猫さん」

「オレの名はジンだ」

「ジンさん、ありがとう。でも、どうしておじいさんに何かあるってわかったの?」

「感だな。それしか説明のしようがない」

「ジンさんってすごいんだね。猫さんってみんなそうなの?」

「さぁな」

ジンは笑った。

ジンさんはいい猫さんだね。

ジンさんは、ぼくにいろいろなことを教えてくれた。獲物の取り方や早く走る方法を教えてくれるけど、ぼくは全然できないんだ。

足の長さも違うし、ぼくは犬だし…

でも、ジンさんは諦めずに教えてくれた。

食べ物も持って来てくれたんだ。

「ミルクばっかりじゃ、大きくなれないだろ」

それからも、おじいさんはなかなか戻って来なかった。心配だったけど、ジンさんがいてくれるから寂しくはなかったんだ。毎日、外を走ったり、塀や木を登る練習をしていると、何だか、自分が強くなって行く気がしたんだ。

あの病気ばかりして弱々しかった自分じゃないみたいなんだ。

すごいよね。

ぼくがバッタを追いかけていると車が近づいてくる音がした。

ぼくはバッタを追いかけるのをやめて家の前に行くと、おじいさんが車から降りてくるとこだった。

ぼくは、嬉しくておじいさんのところまで走った。

おじいさんはぼくを見て、びっくりした顔をして抱き上げてくれたんだ。

「コーギー、大きくなったんじゃないか?前より重いぞ。それに逞ましくなったように見えるぞ」

おじいさんは、ぼくを持ち上げて頭から尻尾まで見た。

ぼくは嬉しくて、力いっぱい尻尾を振ったんだ。

そして、おじいさんの顔を舐めて伝えたんだ。

おじいさん、おかえりなさい。

ぼくはおじいさんが帰ってきたことをジンさんに知らせようとして探したけど、どこにもいないんだ。

いつも一緒にいたのにおかしいな…

どこかな?

それでもぼくが探していると

「コーギー、どうした?何を探しているんだ?」

そっか、おじいさんはジンさんのことを知らないんだ。


それからも、ジンは現れなかった。

いつも一緒だったし、いつもどこかにいたのに変な気分だった。

煙みたいに消えちゃったんだ。

寂しいような心にポッカリ穴が開いたみたいだったんだ。

ほんとにジンさんはいたんだよね?

そういえば、どこから来たのか、飼われてるのかも知らないや。

それに、おじいさんは帰ってきてから何だか元気がないんだ。

ため息を吐いたり、ボーっとしてることが多くなった。

だから、ぼくはおじいさんを元気付けようと虫を捕って来て、おじいさんに見せたりしたんだ。

おじいさんはぼくの頭を撫でて笑ってくれるけど、やっぱり元気がないんだ。

ぼくは気付いたんだ。

おじいさんがいつも写真を見てため息をついていることを。

その写真には、小さな男の子と女の人が写っていた。お母さんと子供みたいだった。

誰なんだろう?

なぜ、この写真を見てため息をつくんだろう?

ぼくには、わかんないや。

でも、ぼくも母さんに会いたくなったんだ。


ある日、おじいさんがまた写真を見ているから、ぼくはおじいさんの膝の上に登って一緒に見たんだ。

そしたら、おじいさんが話出した。

「コーギー、この男の子はな…わしの孫なんだよ。こっちはわしの娘さ」

おじいさんは指を差しながら教えてくれた。

「もう長いこと会ってないんだ」

おじいさんの話によると、おじいさんと娘さんは仲が悪いみたいなんだ。だから、長い間会ってないみたいなんだ。どうして、仲が悪いのかはわからないけど。

でも、おじいさんは体の弱い孫の男の子を心配しているみたいなんだ。

ため息をついてたのは、男の子を心配していたんだね。

ぼくは、おじいさんと男の子を会わせてあげたいって思ったんだ。

きっと、男の子と会ったらおじいさんは元気になると思うんだ。

だけど、どうしていいのかわからない。

男の子は、どこに住んでいるのだろう。どうしたら会えるんだろう。

男の子もきっとおじいさんに会いたいと思うんだ。


ぼくは毎日考えた。

おじいさんと男の子が会えるようになることを。

庭を行ったり来たりして考えていると、

「おい、チビどうした?」

びっくりして声の方を見ると灰色の猫のジンさんが屋根の上にいた。

「ジンさん、どこに行ってたの?ぼく探したんだよ!」

ぼくは、嬉しくて大声で叫んだ。

「じいさんが帰ってきたからな。オレがいなくても大丈夫だと思ってな」

「でも、行く時は、ひと言言ってくれないと…」

ぼくは泣きそうになった。

「おい、チビ泣くなよ」

「チビじゃないってば!コーギー!泣いてないから!」

「わかった、わかった。で、コーギーどうした?」

ぼくは、おじいさんと孫の男の子こと、仲が悪くなってしまった娘さんのことを話した。

「男の子と会ったら、おじいさんは元気になると思うんだ。誰も貰ってくれなかったぼくを育ててくれたおじいさんにお礼がしたいんだ」

「うーん。でも、どこにいるのかわからないんじゃあな…」

「名前は何て言うんだ?その男の子」

「そういえば、名前も知らないや」

「おいおい、名前も知らないんじゃ探しようがないぞ」

「ごめんなさい。そうだよね」

「何とか名前を聞き出せ。話はそれからだ」

「うん!わかった」

ジンさんは、また風のように消えて行った。

聞き出すと言っても、ぼくは人間の言葉が話せないしな…

仕方なく、ぼくは男の子の写真が飾ってある棚に行って、写真を見ているところをおじいさんに見てもらうしかないと思ったんだ。

おじいさんが近くに来るたびに写真を見つめた。すると、おじいさんが

「どうした?コーギー。レンの写真ばかり見て」

レンって言うんだ。

名前がわかったぞ!

ぼくってすごいや!

でも、ジンさんにどうやって伝えよう…

ぼくは今度はジンさんがいつ来てもいいように家の周りをウロウロしてジンさんを待ったんだ。

「おい、チビ。わかったのか?」

いつものようにジンさんがいつ現れたのか屋根の上にいた。

「ジンさん!名前わかったよ!レンって言うんだって!」

「よくわかったな」

ぼくは自慢気に写真を見つめておじいさんが名前を呼ぶようにしたことを話した。

「ほう。よく考えたな」

「ぼくだって、やればできるんだよ!」

「わかった、わかった」

ジンさんは屋根の上から降りてきた。

「レンって言うんだな。他に何か知ってることあるか?」

「うーん。体が弱いって言ってたかな…」

「体が弱いか…」

「これだけじゃあ、わからないよね?」

「そうだな…」

ジンさんは珍しく考え込んだ。

「レンの写真は見れるか?」

「うん!棚の上に置いてあるよ」

ぼくたちは写真の置いてある棚に行くとジンさんが写真をじぃーと見つめて

「この子がレンか?」

「そうだよ」

それだけ言うとまたジンさんは考え込んだ。

「行ってみるか…」

「どこに行くの?」

「コーギー、お前はここにいろ」

「やだよ。ぼくも行く」

「ダメだ。じいさんが心配するだろうが」

またジンさんは行ってしまった。

どこに行ったんだろう?

写真見て何かわかったのかな?

ジンさんって不思議な猫さんだよね。


ぼくはまた毎日ジンさんを待つようになった。おじいさんは、相変わらず元気がない。

でも、ぼくを可愛がってくれることは変わりなかった。

おじいさんは、ぼくを膝に乗せて撫でながらレンの写真を見るんだ。

この間、倒れてから凄くレンに会いたくなったんだと思う。

でも、ぼくには何もできない。

おじいさんが寂しくならないようにそばにいることしか。

だから、おじいさんから離れなかった。

ジンさん、早くレンを見つけて。


「おい、コーギー。待たせたな」

声が聞こえる方を向くと屋根の上にジンさんがいた。

「ジンさん!待ってたよ!」

ぼくは嬉しくて飛び跳ねた。

「チビ、落ち着け」

ジンさんが風のように降りてきた。

「じいさんは大丈夫か?」

「うん!元気ないけど大丈夫だよ」

「レン、見つけたぞ」

「どこにいたの?」

「病院だ。体が弱いって言ってたろ?だから、病院を探し回ってたんだ」

「レン、病気なの?」

「多分な。入院してたからな」

「すごく悪いの?」

「いや、元気そうだった」

「そうなんだ!よかった」

「後は、どうやって会わすかだな」

ジンさんはまた考え込んだ。

「ジンさん、ぼくが病院まで走っておじいさんを連れて行くのはどうかな?」

「じいさんを病院まで走らす気か?」

「そっか、ダメだよね」

どうしたらいいんだろう。

おじいさんにレンを会わせてあげたいのに。

ぼくも考え込んでいると

「コーギー、病気になるか?」

ジンさんが笑った。

「ジンさん、ぼく元気だよ?」

「わかってるさ」

ジンさんがまた笑った。

「笑ってないで教えてよ!」

「わかった、わかった。その病院の横に動物病院があるんだ。お前が病気になったら、じいさんはお前を病院へ連れて行くだろ?」

「あ!そうか!」

ぼくもジンさんみたいに笑った。

ぼくとジンさんは計画を立てることにした。

まず、ぼくが病気のふりをする。

慌てたおじいさんが病院へ連れて行く。病院へ入ろうとした時ぼくがおじいさんの腕から飛び出して、隣の病院に走る。レンの病室の前までおじいさんを連れていけば成功。

ぼくにできるかな。

ドキドキしてきた。

「ジンさん、うまく行くかな?」

「それはコーギー、お前にかかっているな」

「ドキドキしてきたよ」

「大丈夫だ。病院に着いたら、オレが前を走るから付いてくればいい」

「うん…」

「しっかりしろ。じいさんにレンを会わせるんだろ」

「うん!がんばるよ」

おじいさんを喜ばすんだ!


その日から、ぼくはおじいさんの前で元気がないフリをした。

ゆっくり歩いたり、あんまり食べなかったりした。

「コーギー、どうした?元気がないじゃないか」

おじいさんは心配顔でぼくを撫でた。ぼくは少し胸が痛くなった。

でも、おじいさんのためなんだ。

ぼくは倒れるフリをした。

「コーギー!」

おじいさんは、びっくりしてぼくを抱き抱えた。

「コーギー、どうした?どこか痛いのか?ほら、こっちを見てごらん」

おじいさんは今まで見たことがないくらいオロオロした。

「お前にもしものことがあったら…」

今にもおじいさんは泣き出しそうだ。

ジンさん、これでいいの?

「コーギー、病院に行こうな」

おじいさんはぼくを毛布で包むと車の助手席にそっと乗せた。

ぼくは頭を上げて家の方を見ると屋根の上にジンさんがいた。

ジンさんは、ぼくと目が合うと頷いた。

ジンさん、大丈夫だよね?

ぼくはジンさんを見ると少し安心した。

きっと、上手くいく。

「コーギー、すぐ着くからな。ちょっと我慢するんだぞ」

おじいさんはそう言うと車を出発させた。

ジンさん、車より早く病院に着けるのかな?

ジンさんのことだから大丈夫だよね。

ぼくは、元気なのがバレないように丸くなって大人しくした。

「クーン」

お腹が空いて鳴いてしまった。

車が出発して、しばらくすると車が急に止まった。ぼくはびっくりして頭を上げると、おじいさんは車から降りて行った。

何だ?

どうしたんだろ?

ぼくは車の窓から覗くと、おじいさんが灰色の猫を抱き抱えているところだった。

ジンさん⁈

ぼくはびっくりして吠えてしまった。

「ワン!」

おじいさんはジンさんを抱いて車に戻るとぼくの横にそうっと置いた。

「この猫が倒れておったんだ。どこか悪いのかもしれん。この子も病院で診てもらおう。コーギー、吠えてはいかんぞ。猫がびっくりするからな」

おじいさんはそういうと車を発進させた。

ジンさんはニヤリと笑った。

「ジンさん、どうしたの?」

ぼくは小さい声でジンさんに聞いた。

「自分で行くより早いだろ?」

「そうだけど、びっくりしたよ。先に言っといてくれないと」

「オレもさっき思い付いたんだ。いい考えだろ?」

そう言うとジンは眠った。

ジンさんには、いつもびっくりさせられるなぁ。

いつの間にか、ぼくも眠ってしまったんだ。

車が止まる音がして目を覚ました。

「ジンさん、起きて!着いたよ!ジンさん!」

ぼくが鼻で突いてもジンさんは起きないんだ。

おじいさんは降りる用意をしている。

「ジンさんってば!病院に連れて行かれちゃうよ!」

ジンさんの目が開いた。

おじいさんがぼくを抱き抱えようとした時、ジンさんはおじいさんの横をすり抜けた。ぼくも後を追って行こうとしたけど、毛布が引っかかって抜けない。

「あの猫はどうしたんだ?元気になったのか?」

おじいさんがジンさんの方を向きながらぼくを持ち上げた。

すると毛布から抜けた!

ぼくはジンさんを追って走った。

「おい、コーギーどうしたんだ?病院で診てもらうんだぞ」

おじいさんはびっくりして、ぼくを追ってきた。

ぼくは、おじいさんが転ばないように少しゆっくり走ったんだ。

ジンさんも振り向きながら、ぼくの前を走っている。

おじいさん、頑張って!

「コーギー、そっちへ行っちゃいかん!そっちは人の病院だぞ」

おじいさんは困り顔で追いかけてきた。

おじいさん、ごめんね。

でも、おじいさんのためなんだ。

「コーギー、こっちだ」

前を走っていたジンさんが振り向いて病院の裏口へ入って行った。

ぼくも続いて入ろうとした時!

裏口にいた警備員に見つかってしまった。

「なんだ?この犬は。こら、お前は入っちゃいかん」

警備員は、ぼくを捕まえようとしたけど、横をすり抜けたんだ。

ぼくもジンさんみたいだな。

嬉しいや。

でも、すぐ警備員は追いかけて来た。おじいさんもその後ろから追いかけてきている。

前を走っていたジンさんに追いついた。

「レンのいる病室は108号室だ」

「ジンさん、ぼく字は読めないよ」

「わかってるさ。オレについて来い」

ジンさんは少し前を走った。

廊下にいる人たちは、ぼくたちにびっくりして避けてくれた。

悲鳴も聞こえたけど、仕方ないよね。

前を走っていたジンさんが叫んだ。

「あの一番端っこの部屋だ!」

それなら、ぼくにもわかる!

部屋の前まで行きそうになった時、ぼくは警備員に捕まってしまった。

「ジンさん!助けて!」

思わず、そう叫んでしまった。

振り向いたジンさんは向きを変えるとぼく達の方へジャンプした。

ジンさんは警備員の肩に乗った。

警備員はびっくりして、ぼくを離したんだ。

「コーギー、行け!」

警備員はジンさんを肩から降ろそうと一生懸命だ。おじいさんも追いついてきた。

「コーギー、どうしたんだ?こんな所まで来て」

おじいさんが来たのを見て、ぼくは108号室へ飛び込んだ。


「どうしたの?犬さん」

108号室には、小さな男の子がベッドに座っていた。

あの写真に写っていた男の子だ。

この子がレンなんだ。

ぼくは、嬉しいのと不思議なのでレンを見つめてしまった。

「おいで。怖くないよ」

レンは優しい顔でぼくに微笑んだんだ。

おじいさんにそっくりだね。

ぼくがレンを見つめていると、おじいさんが入ってきた。

「すいません。うちのコーギーが…」

おじいさんはそう言いながら顔を上げてレンを見た。

「レン!レンじゃないか!」

おじいさんは腰を抜かしそうなくらいびっくりしている。

「おじいちゃん⁈おじいちゃんなの?」

「レン…どうしたんだ?どこか悪いのか?」

おじいさんは泣き出しそうだった。

「おじいちゃん、大丈夫だよ。お熱があったけど、もう下がったんだ」

「そうか、そうか」

おじいさんは嬉しそうな顔をしながら泣いてたんだ。

ぼくも嬉しくて泣き出しそうだった。

よかったね、おじいさん。


「おい、コーギー」

振り向くとジンさんがいた。

「あ、ジンさん。大丈夫だった?」

「あ、って。忘れてたのか?」

「あ、ごめん」

「まぁ、いいけどな。うまくいったようだな」

「うん。ジンさんのおかげだよ」

ジンさんとぼくは、おじいさんとレンを見て笑った。

「行くぞ」

「え⁈」

「行くってどこへ?」

「家に帰るのに決まってるだろ」

「どうして?」

「どうしてって。じいさんとレンを2人きりにしてやれ。オレらがいると騒ぎになるだろ」

「あ、そうだね」

「お前…やっぱりまだ、ちびコーギーだな」

「ちびじゃないよ!もう大人!」

「行くぞ」

「待ってよ〜」

ぼく達は帰りも警備員の追跡をかわしながら病院を出た。

2匹並んで走るのは気持ちよかった。

でも、ジンさんが前を走って、ぼくが後ろを走ると犬が猫を追いかけているように見えるよね?

ぼくは走りながら笑った。

「どうした?」

「なんでもないよ」

ぼくは笑いをこらえて走ったんだ。

ぼく達が家の近くまで来た時だった。ジンさんが塀へ飛び乗った。

「じゃあな」

「ジンさん、行っちゃうの」

「ああ。もう終わったしな」

「また会える?」

「多分な」

「絶対だよ」

「やっぱ、ちびだな」

そう言うとジンさんは風のように去って行った。

ありがとう。ジンさん。


ぼくが家に帰ってしばらくするとおじいさんが帰ってきた。

ぼくが喜んでしっぽを振って行くと

「おお、コーギー。戻っておったか。お前にお土産だぞ」

おじいさんは笑いながら、手をぼくの前に出した。

そこには、小さなリスが乗っていたんだ。


はじめまして。りすちゃん。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語が最後まで主人公のコーギー君の目線上で流れて行って いて感情の移入がしやすかったですね。 コーギー君の心の動きに沿って読みながら心配したり嬉しくなったりとまるでコーギー君になってい…
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