星空の下に天を見る
未完成です。
「ねえ、あなたは海の底に星空があるって、知ってた?」
目が覚めると、薄暗く狭い部屋の冷たいに寝転がっていた。
「ここはどこだ?」
僕は目をこすりながらゆっくりと起き上がり、見知らぬ景色を観察した。
__やあ、目が覚めたかい。
どこからか少し幼い少女のような声が部屋に響き渡った。
「誰だ!!ここはどこだ!!僕をどうするつもりだ!!」
僕は一心不乱に聞きたいことをすべて問いかけた。
__一度にたくさん聞かれても、君に答える義理なんて少しもないんだから。
可愛らしい声は、無残にも僕の質問には一つも答えてはくれなかった。
__君には一つ、ゲームをしてもらおうと思ってね、ここから脱出するという単純な脱出ゲームをしてもらいたいんだ。
少女は意気揚々と述べた。
「脱出ゲームだと……?」
僕は何もない部屋の中心に佇み、徐にポケットを探った。使い古したジーンズパンツの左ポケットには僕のスマートフォンが入っていた。バッテリーは残っており画面を見てみると、圏外を表示していた。
__おっと、当然だけど、外部との連絡手段は遮断させてもらっているよ。
僕の行動や思考をまるで見透かしているかのように、僕の心を握りつぶすかのように告げた。
「どういうつもりだ?」
__聞いていなかったのかい?私には君の質問に答える義理はないんだよ。まあ、でも答えてあげるよ。
私はね、日々暇なんだよ。暇で暇で仕方ないんだよ。だから今回は私の暇つぶしのおもちゃとして君を選んだのさ。
一方的に少女は言うことだけ言って満足したようで、むふーと声が漏れている。
「ガキのお遊びには付き合ってられないんだよ。とっととここから出せ。」
僕は苛々し始め、声を荒げてそう言った。
__あら、私にそんな口を聞いても大丈夫かしら?言ってはおくけど、代わりのおもちゃなんていくらでもいるんだからね?
少女はまるで奴隷に話しかけるような声色でそう言い、それと同時に部屋の天井からモニターとプロジェクターが下りてき、そこに映像が映し出された。
「なっ……お前!!」
その映像には僕の母と妹二人が生活を送っている様子が映し出されていた。
「僕の家族をどうするつもりだ!!」
__どうもしないわよ、君が素直に従えばね。ただ従わないんだったら、この子達に代わりに私のおもちゃになってもらうわ。
どうやら僕は家族を人質にとられているらしい。
「……わかった、何をすればいい?」
__最初からそうやって素直に従っておけばいいのよ。今君の入っている部屋は私が特別に作らせた仕掛けだらけの屋敷の一部よ。
それから屋敷の内部構造をくどくど説明し始めた。
__……そういうわけで、この屋敷から無事に脱出できたら君の勝ち、君も君の家族も解放してあげる。
「本当に解放してくれるのか、どう信用しろというんだ。」
__あら、信用しないでもいいのよ、何もしなければ結局君もここから出られないし、家族もみーんな酷い目に遭うんだから♩
「……ちっ」
意地でも僕はこいつの言いなりにならなけりゃいけないらしい。
__制限時間は24時間。その時間内に出れなかったら君の負け、死んでもらうわ。
「それじゃあ僕にメリットがない!!勝った時に解放されるだけでは対価に見合わない!!わざわざお前のおもちゃになってやるんだ、僕が勝ったら相応の褒美が欲しい!!」
__何よ、家族も解放してあげるって言ってんだからご褒美じゃないの。むしろこの私のおもちゃになれるんだから、光栄に思いなさい。
なんて暴論なんだ……!僕はうなだれた。
__じゃあ24時間後にまた会いましょう。せいぜい私を楽しませて頂戴。
少女はそう言って通信を切った。
僕は欠片もやる気を出すことはできなかったが、家族を人質に取られている以上やらないわけにはいかないので、僕は仕方なく脱出ゲームを引き受けた。
「この部屋には、目立ったドアはない……どうやってこの部屋から出るんだ……?」
再度部屋を見渡す。天井には先ほどのスクリーンとプロジェクターはなく、僕を監視するカメラだけが光っていた。
壁には本当に何もなく、コンクリートの圧迫感が僕を襲った。
「……ん?なんだこれは。」
ふと足元を見ると、そこには色こそコンクリートそのままのグレーだが、明らかに不自然な出っ張りがあった。
「何かのスイッチか何かか……?」
僕は不安に思ったが、思い切ってそのスイッチを押してみた。
押した直後、背後で大きな音がした。僕は振り返ると、そこには壁に四角い穴が空き、そこからガトリングガンが顔を出していた。
「なっ……!!」
ガトリングガンはすぐに回転し始め、今にも銃弾を吐き出そうとしていた。
「まずい!!このままでは蜂の巣だ……!!」
僕はすぐに壁際に跳んだ。そのすぐ後にガトリングガンは本当に実弾を吐き出し始めた。
ドドドドドドドと撃ち出す音が激しく鳴り響き、反響音もけたたましく、僕は我慢できず耳を塞いだ。
「なんなんだこれは……!!僕を殺す気満々じゃないか……!!」
次第に銃声は小さくなり、やがて止まった。
「なんなんだよくそ!!」
僕は理不尽な攻撃に思わず叫んだ。
ガトリングガンはゆっくりと壁の中に入っていき、壁の四角い穴もゆっくりと閉じた。
銃弾が撃ち込まれた対面の壁を見るとそこには、さっきまでなかった木製の扉が、コンクリートが破壊されて顔を見せていた。
「この部屋の出口か?そういう仕掛けだったのか……。」
非常に危険な仕掛けを無事に抜けることで脱出口を発見するという少女の悪趣味極まりない考えが僕には全く理解ができなかった。
ドアノブを回し、僕は最初の部屋をゆっくりと出た。
出た先は高級感のただよう綺麗な廊下で、床には赤いカーペットが敷かれており、間接照明で独特の雰囲気を演出しながらその全体を明るくしている。
「……本当に何者なんだ、あの女は。」
明らかにこの建物は以前からあるものではない。むしろ新築だ。
まるで僕をここに閉じ込めるためだけに建てられたかと思ってしまうほどに綺麗だ。
ふと、不自然な地響きに気づいた。
「なん……だよ……おいおいおいおい‼︎‼︎」
僕は廊下の先を見つめていたのだが、その先からこの美しい廊下には似つかわしくない、あるはずのない、あってはならない、巨大な大岩が僕めがけて転がってきていた。
「嘘だろ嘘だろおい‼︎あんなのぶつかったら即死だぞおいいいい‼︎」
叫びながら僕はその岩から逃げるように走った。
「くそっ‼︎なんで曲がり角も扉もないんだ‼︎廊下が長すぎる‼︎」
ごちゃごちゃ言いながら走っていると、漸く別の部屋の扉らしきものが見えた。
「やっとだ……ってうおおお‼︎すごそこまで来てる‼︎」
岩はもう10m近くまで接近してきていた。
「間に合え‼︎間に合えええええええ‼︎」
全力で走り、走り、こけそうになりながらも、それでも走り、僕は風にでもなったのではないだろうか。
扉までたどり着き勢いよく扉めがけて突進した。ノブは無意識のうちに回していたらしくその衝突に応じてバン‼︎という大きな音とともに僕は中に入ることに成功した。
「はあ……はあ……げほっげほっ……かはっ……」
息も絶え絶えで床に倒れこんだ。
しかし、すでにその部屋の仕掛けは作動しており、僕は信じられない光景を見た。
僕は仰向けになっていた、ただ、天井だけを見つめながら息を整えようと必死になっていた。
「はあ……はあ……くっそ……なんでこんな……休憩がないんだよ……」
天井が落ちてきていた。
ゆっくりと、ゆっくりと、天井はその高さを狭め、僕を潰さんとしていた。
「こんなのありかよ……」
僕は落ち着ききっていない状態で無理矢理立ち上がり、天井を止めるための仕掛けを探した。
「コンクリートの床や壁のどこかにまたスイッチがあるはず……」
僕は血眼になって床を這いずりながら、壁を触りながら、スイッチを探した。
「ない……どこにもない……」
僕は自分の顔から血の気がどんどん引いていくのがわかった。
ゆっくりと落ちてきていた天井も時間が経てば当然、もう手が届くところまで低くなってくる。
もうここまで低くなってしまえば、もしかしたら見逃したスイッチが隠れてしまっていてもおかしくはない。
「あんだけ頑張って走って乗り切ったのに、まさかここで終わりなのか……」
人生って意外とあっけないものだなと、僕は少し笑いそうになった。
諦めかけたその時、突然僕は雷にでも打たれたかのように閃きとともに衝撃を受けた。
すぐに僕はその考えを実行にうつした。
「天井にスイッチがあるかもしれない……‼︎」
もう直立は不可能になる程低くなっていた天井を急いで調べ始めた。
姿勢も悪く、探すにはかなり難しい状況だが、それでも懸命に探した。
膝立ちですらかなり厳しいところまで低くなってきた。
ゆっくりと仰向けになりながら、天井に手を這わせ、焦りながらも丁寧に探す。
もう床下50cmまで天井が迫ってきたところで、とうとう違和感を見つけた。
「あった……‼︎」
直径1cm程の小さなボタン。
ためらいなく僕はそれを力強く人差し指で押した。
……………
……………
「どういうことだ、どうして止まらない‼︎」
天井は思い虚しく、落ち続けていた。
「くそっ、期待だけさせて結局こうなるのかよ‼︎結局僕は死ぬのか‼︎」
希望を折られた僕は拳を天井に叩きつけ、力なく腕を下ろした。
しかし、その折れた心は、また弄ばれていたことがすぐにわかった。
床下30cmまで天井が落ちてきたところで突如ガタンという音とともに天井が動きを止めたのだ。
「……なんだ?」
不審に思っていると、今度は天井が上昇し始めた。
「元に戻っていく……のか?」
漸く天井が元の高さに戻った後、すぐにザザ……と機械音が流れた。
__本当に面白い反応を見せてくれるわね、君は。
少女の声だ。
「次は24時間後じゃなかったのか?僕を笑うためだけに、話しかけたのか?」
__あまりにも面白かったから、つい声をかけてしまったわ。フフフ……
何がそんなにおかしいのか、僕は生きるために必死なんだ。彼女には人間としての道徳が完全に欠如している。
__だって、何もしなくてもその天井は30cmまで降りたら勝手に昇るような仕掛けにしておいたんだから。死ぬわけないの、その仕掛けで。
「……は?」
__だから、君の表情の豊かさは本当に面白いわね。
「僕は命がけなんだ‼︎死にかけたんだ‼︎なんでそんなに楽しめる‼︎」
__だって、死の間際に見せる顔を見る時が一番興奮するんだもの。
こいつ、サイコパスすぎる……。シラフでサイコとかやってられないぞ……。
__じゃあ、引き続き私を楽しませて頂戴。
ブツッと一方的に通信は切られた。
「くそっ、なんで僕がこんな目に……。」
空虚なコンクリートの部屋に、悲痛な叫びは虚しく響くだけだった。