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神の罪  作者: 猫神心夜
1/1

壱、神の審判

緑の壁で隔離された中、今日も青空は広がっていた。


艶やかで癖のある腰まで伸ばした黒髪を揺らし、今日も高校へと通う1人の女子高生。

ふと空を見上げ、何かを見つめ、視線を戻す。まるで何かが起こることを知っていて、そしてそれを恐れているかのように後ろを振り向く。

黒髪が風で舞い、凛とした顔がよく見える。

整った顔立ち。細い輪郭。高い鼻。キュッと閉じられた口。そして、真剣なーー睨むようなーー瞳。

彼女の名は、神野崎カミノサキ 花梨カリン。神社の跡取り娘だ。

「花梨、おはよー!」

そう声がして、見ると花梨の友達の女子高生が駆け寄ってきていた。

花梨の友達の名は、最上モガミ 桜色サクライロ。友達というよりは親友の方が適している。

「桜色…。」

桜色は、茶髪のポニーテールで少し日焼けした肌が特徴的な女の子。

「どしたん? 今日の花梨、何かへんやよ? よう後ろ振り向くけんど何かあったん?」

さすがは親友。桜色は会ってすぐに花梨の異変に気がついた。

「いや、確信的なものは無いんだが…。少し、悪い夢のようなものを見てな…。」

「悪い夢ぇ? 花梨、ほんまにどないしたぁん?」

「そうだな。夢に振り回されるのは私らしくないか。」

「振り回されるまでは言うてないで…」


そう。

今日も普通に、先生たちのパーマやカツラを眺めて、冷めて、哀れんで、そして帰路につく……筈だった。


花梨達3人ががカツラを眺めて冷めて哀れんで、先生が冷や汗を流している頃、職員室前の廊下では、大きな事件が起こっていた。


「あんた、勝手に校内に入ってこやんといて下さいますぅ? 何しに入ってきたんーー」

「全校生徒を集めて下さい。」

「はぁ? 何言うてはりますのん? とっとと出てってーー」

「今すぐにです。今すぐに、全校生徒と全教師を一箇所に集めて下さい。」

「はぁっ⁉︎」

「紳士的に解決したいんでねぇ。」

「あんたの言うてることはようわからん。とっとと帰って! あっ、山里ヤマザト先生‼︎ 手伝ってください! この人許可無く校内に入ってきて!」

「何やて⁉︎ それはいかん‼︎ 手伝わなぁ‼︎」

「はぁ、紳士的に解決したいといったのですがねぇ…。おめぇら、目の前にいるのが誰だかわからねぇのか⁉︎ ならば見よ‼︎ この神の力を‼︎‼︎」

ブシュッッ‼︎

「キャァァァァァぁぁぁぁぁっ‼︎⁉︎ なっ、や、山里先生ぇ…?」

「さあ、早くしてください。紳士的に解決したいといったでしょう? 神には誰もさからえないのですからね…」


6限目が終わり、花梨達が帰る用意をしていた時のことだった。

『ピンポンパンポーン

ぜ、全校生徒と、全教師に、れ、連絡です。し、至急、た、体育館まで、あ、あつ…集まって…く、下さい……。

ピンポンパンポーン』

急な放送だった。

「至急体育館かぁ。何やろねぇ…。嫌な予感がするわぁ…」

時雨シグレ先生の声、震えてた…。まさか、そんな…、でも、だけど…、あぁ…。本当…だったの…? なら、この学校は…いや、この村……、まさかもうすでに外の世界は…」

「何言うてんのぉ…。怖なるやん。い、行こぉ。きっとなんか、ええことあったんよぉ〜」

「あ、ああ。そうだな。取り乱してしまってすまない。行こうか。」

そう言葉を交わして花梨達は体育館へと向かった。


「皆に来てもらったのは大事な話があったからだ! 単刀直入に言う‼︎ この村に神が降り立った‼︎ 今! 貴様等の目の前にいる! この俺が! 神だ‼︎‼︎」

体育館に全校生徒、全教師が集まって並び終わった時、舞台の上に1人の男と体中に血がべっとりと付いた時雨先生が上がった。

そして男は叫んだ。体育館中に響き渡る声で。

そして言った。

「ここに1人の教師がいる! 彼女は貴様等全員を呼んでくれた‼︎ まぁ役にはたった‼︎ だぁがぁぁぁッッ‼︎‼︎ この女はぁ‼︎ この俺をォ‼︎ 神をォ‼︎ 追い出そうとしたァッッ‼︎‼︎」

「ヒィィいぃッッ‼︎⁉︎」

時雨先生が悲鳴をあげた。

「だから今ァッ‼︎ 貴様等にィッ‼︎ 神のみわざをォッ‼︎ 見せてやろォおォォッッ‼︎‼︎」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっッッッッ‼︎‼︎‼︎」

時雨先生が舞台を飛び降り、死に物狂いで逃げ出した。しかしーー

ブシュッッ‼︎

時雨先生は血だけを残し、肉体は潰れて無くなった。

先頭に並んでいた数人の生徒に向かって血が花火のように飛び散った。

「キャァァァァァぁぁぁぁぁっ‼︎⁉︎」

「うわぁぁぁぁァァァァァ‼︎‼︎」

「いやぁぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎」

体育館に悲鳴が響き渡った。

「あはっ、あははははっ! あははははははははっ‼︎ いつ見ても綺麗だなぁぁッッ‼︎‼︎‼︎ お前等うるさいぞぉぉぉッ‼︎‼︎」

ブシュッッ‼︎

ブシュッッ‼︎ ブシュッッ‼︎

ブッシュッッ‼︎‼︎

男は離れた舞台からにして、人間を意図して潰していったのだ。人間業ではない。

「あはっ! あははははっ‼︎ 体の一部だけを潰すこともできるぞぉッッ‼︎‼︎ あはははははははっ‼︎‼︎‼︎‼︎」

腕。足。耳。目。鼻。指。首。

どんどん消し飛んだかのように潰れていく。

「あははははははははははっ! 見たかっ! これが神の力だぁぁぁぁぁッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」

男が叫びながら舞台を降りて体育館を歩く。

「これからはこの俺を崇めろぉぉぉぉぉッッ‼︎‼︎」

体育館に新しい血の臭いと模様ができた。


「な、なぁ花梨…、なんなん、あれ…。」

桜色は声を震わせてそう言った。

実は、花梨達は1年生。体育館での並ぶ順番は1年生が一番舞台から遠い。そのうえ花梨達は1組。1年生の1組と5組(全5組)は体育館の端だ。

そのため花梨達のクラスにはまだあの男が近づいてきていない。だから悲鳴と血の臭いで恐怖が引き立てられて、クラス全員足がすくんで動けないでいる。

クラスの何人かが列から逃げ出して体育館から出ようとしたが、男に見つかり殺された。

桜色も恐怖で足がすくんでしまって動けないでいるうちの1人だった。

「なぁ、かり…花梨?」

しかし花梨は違った。

花梨は目を大きく見開き、口を開け、信じられないものを見るかのような顔をしていた。

「“あの人”の言っていた事は…本当、だったのか……?」

「どしたん花梨⁉︎ 大丈夫⁉︎」

桜色が花梨の肩を揺らした。

すると花梨はハッとして目を瞬き、そして口をキュッと結んで男を睨みつけた。

「桜色、髪ゴムを貸してくれないか?」

そう言って桜色から髪ゴムを借りた花梨は、腰まで伸ばした黒髪を一つに結んでポニーテールにし、桜色に

「少し行ってくる。」

と告げて、男のいる方へとーー悲鳴と血の臭いのする方へとーー足を踏み出した。

「ちょ、花梨⁉︎ どこ行くん⁉︎ 危ないけん、ここおりぃな‼︎ そらずっとここにおっても何も変わらんけぇ、いつかは何か行動せなあかんけんど、花梨が行く必要ない‼︎ ウチは友達を! 親友を失いたくない‼︎」

桜色が叫んだ。

花梨は一度だけ振り返り、フッと微笑み歩き出した。

「花梨…。何なん? あの悟ったみたいな笑顔は…? 何、するつもりなん…?」

桜色は花梨の背中をただ見つめるだけしかできなかった。

「花梨…」


男の周りは血の海だった。

男が近づくと、近くにいた人間は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

男はその逃げていく人間を1人ひとり潰していく。

「あぁ〜あ。崇めろって言ったのに。崇めて欲しいだけなのに。こりゃ全滅だ。残念。」

男はそう呟いた。


花梨はゆっくり歩きながら人ごみの中を逆流していた。

するとぽっかりとした空洞の中に辿り着いた。

正面にはあの男がいた。

「おや、ようやくこの俺様を崇めようと思う人間が現れたのかな? 嬉しいなぁ〜」

男が立ち止まった花梨に話しかけた。

しかし花梨の顔を見て肩をすくめ、目を見開き怒りをあらわにした。

「何だいその目は‼︎ またかい⁉︎ さっきからずっとだよ‼︎ そういうヒーロー気取りの人間は‼︎ ウザいんだよ‼︎ まぁ、女の子は初めてだけどね。いいよ。俺様の女になるのなら助けてやってもいいよ。」

花梨は真剣な表情で、睨むような目で、男を見据えていた。

「はぁ。これだから愚かな人間は嫌いなんだよ。面倒臭いからね。恐怖と苦しみと絶望を与えて殺してあげよう。」

男はそう言って黒い笑みを浮かべた。

しかし花梨は真剣な表情のまま、またゆっくりと男の方へ歩き始めた。

男は少し驚いたような顔をして、更にドス黒い笑みを浮かべた。

「いいよ。まずは左腕だ。潰れて悶え苦しめ!」

ビッッ! スシュッッ!

男の顔に驚愕の色が広がった。

花梨は表情を変えず、また足を進める。

花梨の腕は、血を流しながらも付いていた。いや、“潰れなかった”という方が適している。浅く、切れただけだった。

「な、なぜ潰れない⁉︎」

花梨の制服は左腕の肩のところから消えていた。

「こ、今度こそ‼︎」

男は花梨に向かって手を広げ、グッと握った。手の中の空気を潰すかのように。

しかしまた、花梨の腕に浅い切傷ができただけだった。

「な、なぜだ⁉︎ 俺様は“神の審判”だ‼︎ 俺様の“決断”は“絶対”な筈だ‼︎ なぜだ‼︎ なぜだ‼︎ なぜだァッッッ‼︎‼︎」

男の“力”はことごとく“何かの力”によって防がれた。

男の顔に恐怖の色が現れた。

「な…、なぜ……だ…」

男は喉から声を絞り出した。

花梨は構わず進む。体中に傷がある。しかしどれも致命傷どころか大怪我にもならない。山登りをしていて飛び出た木の枝に当たって肌を少し切ったという程度だ。

「や、やめろ…。く、来るな…。」

男は喉から絞り出した声で必死に訴えた。

「死ねッ‼︎ 死ねッッ‼︎ 死ねぇッッッ‼︎‼︎」

男は叫んだ。花梨の傷は増えていくがいつまでも切傷程度。

花梨は足を止めない。

男は顔を恐怖一色に染めて、一歩後ろへ退いた。

花梨は足を止めない。

男は更に一歩後ろへ下がった。

花梨は構わず進む。

男は大量に汗を吹き出した。

花梨は更に一歩踏み出した。

男は汗に構わず後ろへ下がる。

「う、うわぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁッッッ‼︎⁉︎」

男は叫んだ。

男の足にはもう、力が全然入らなかった。

「お前は…何だ? 俺は、神だ。俺は、“神の審判”だ。俺の“決断”はッ、“絶対”な筈だァァッッッ‼︎‼︎」

しかし男は、後退を止めて花梨に向かって叫んだ。

「お前はッ、何なんだァッッ⁉︎」

花梨は静かに答えた。ゆっくりと歩を進めながら。

「貴様が“神の審判”で、貴様の“決断”が“絶対”なら…」

男の目が大きく見開かれた。

信じられないものを見るかのように。

そんなまさか、自分以外にそんな人間がいるなんて、ありえない、そんな筈はないと、呟いて。

そして何度も目を瞬き、またどっと汗を吹き出して、口を大きくあけた。

「ま、まさかお前、あの時、あの場所に居た、あの中の、1人…⁉︎」

男は叫んだ。

「嘘だ! ありえない‼︎ あれは、あれは俺だけの、俺だけの…ッ‼︎‼︎」

花梨は構わず続ける。

「私には“神の加護”がある…。」

男は口をーー下顎を落としたかのようにカパッとーー開けた。そこからよだれが顎を伝って床へ落ちた。

花梨は続ける。

「私の“生”も、」

男は、もうこれ以上は無理というくらいにーー目玉が落ちそうなくらいーー目を見開き、

「“絶対”だ!」

そう花梨が言った時にハッと我にかえり、

「嘘だ…ろ…?」

と呟き、

「嘘だ! 嘘だ‼︎ 嘘だァッッッ‼︎‼︎」

と叫んだ。

しかし花梨は止まらない。

花梨が手を伸ばした。

花梨の手が男の胸ぐらに届いた。

「あ、あ、あぁぁぁぁあ゛‼︎⁉︎」

男が悲鳴をあげ、必死にもがく。

しかし花梨はしっかりと男の胸ぐらを掴んだまま、男の目を覗き込み、睨みつけ、言った。

「お前は、自分の犯した罪を知っているか?」

男はもがきながら首を振り、呻いた。

「おれはぁ…かみぃだぁ…。かみはぁ…すべてぇ…ただしいぃ……。」

花梨は一瞬憐れむような表情を浮かべ、しかしすぐに険しい怒った表情になって右手を握りしめた。

「そうか…」

花梨はそう呟き、言い放った。

「ならば今‼︎ お前の罪を知れ‼︎‼︎」

そして花梨は握りしめたその拳を男の顔面に殴りつけた。

「だが、私の罪よりは軽いのかもしれないな…」

花梨は、動かなくなった男の胸ぐらを放しながらそう呟いた。


「花梨お手柄やねぇ」

桜色は少し離れたところから、グルグル巻きにされた男を見張っている花梨に向かって話しかけた。

あの後、花梨は気絶した男を引きずって体育館を出て校庭まで連れて行き、縄で身動きができぬようにグルグル巻きにしたのだった。

桜色達2人は、花梨にどうしても訊きたかったことを伝えた。

「“神の審判”とか“神の加護”とかって何なん?」

花梨は少し黙り込み、そして口を開こうとした。

しかし花梨は後ろを振り返った。

男の後ろに、知らない少年がいたのだ。

手には大きな死神の鎌のような物を持っている。

「誰だ⁉︎」

花梨は後ろへ跳びのきながら問うた。

少年は淡々と、感情の無い声で答えた。

「君と同じ人間だ。」

そして少年はその大きな鎌を、縄で縛られた男に振り下ろした。

花梨が止める間もなかった。

一瞬で男の肉体は、消え去った。

そう。消え去ったのだ。

服と悲鳴だけを残して。

「男に何をした⁉︎」

すると少年はまた、淡々とした感情の無い声で答える。

「僕の役目だ。」

「お前の役目だと⁉︎ ふざけるな‼︎ 命を奪っていい役目などあるか‼︎」

「そう。」

少年は言った。

「君は何も知らないんだね。外の世界の事。一度外に出てみるといい。」

そして少年は去っていった。

「まさか、本当に…?」

花梨はそう、呟いていた。

楽しんでいただけたでしょうか?

めっちゃ長いですけども!

いやーこれは長い。

次話もいつになるやら...

他作品もよろしくです♪

ではまたお会いしましょう♪

以上、猫神ネコガミ 心夜シンヤでした~

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