離任式
その日は、突然でなくやってきた。
遠くへ行ってしまうの?先生。
卒業式、終業式を終えた3月の下旬。
約1週間ぶりに袖を通すセーラー服。
中学2年生、最後の登校。
行きたくない。
けど、行きたい。
離任式。
どうでも良い行事だった。
関係ないと思ってた。
でも、今回は違った。
「おはよう」
「おはよう」
いつものように、友達と挨拶を交わした。
無理に笑顔を作った。
逃げ出したくなった。
堪えた。
「これ、せんせに寄せ書き。書いてくれる?」
友達に1枚の色紙を渡される。
一瞬だけ気が遠のいた。
「分かった。書くね」
ペンを持つ手が震えた。
先生、やっぱり行っちゃうの?
“今まで、ありがとうございました”
短く、シンプルに、気持ちを悟られぬように。
与えられたスペースに、少し大きめの字で書いた。
言いたいことは山ほどあるけど、
40分割にされたその小さな四角の中に、
全ての言葉がおさまる訳はない。
誰がこの色紙を渡すのだろう。
目立たない私には、そんな権利はないけど、
その生徒を羨ましく思う。
暫くして、体育館が静かになった頃、
先生はステージの上に居た。
何かを喋っている。
出来るだけ聞かないようにする。
泣き出してしまいそうになるから。
先生は、若くて優しくて、
女子生徒からも男子生徒からも人気があった。
話しかけに行く勇気が出た日も、
結局、先生は他の生徒と話していて、
私が入る隙間などなかった。
廊下で先生を見つけた時、
隣のクラスで授業をしている先生の声を聞いた時、
名前を呼ばれた時、
そんな些細なことが私には幸せだった。
今思うと、もっと話しておけば良かったと後悔の気持ちでいっぱいだ。
けど、別れの時が刻一刻と迫っているこの状態で、
私が先生と親しく話すことなど、もう一生ないのだ。
式が終わった後、先生はたくさんの生徒に囲まれていた。
邪魔だった。はやく帰れば良いのに。
私でない他の生徒に向けられる先生の笑顔が、
悔しくて仕方がなかった。
どうして、私はこんなところに居るのだろう。
言い訳ならいくらでも出来る。
現実はそう甘くはない。
「せんせー、ばいばい」
ようやく帰っていく生徒達を見て、少しホっとした。
生徒に手を振る後姿に、そっと近づいた。
「先生」
少し吃驚した様子でこちらを向く。
「おぉ。珍しいな、お前のほうから話しかけてくるなんて」
「あの、先生」
言葉が詰まる。
予想していたことだ。
「これ、あげます」
スクールバッグの中から、手紙を取り出す。
「ありがと」
子供のような笑顔。
初めて私だけに向けられた笑顔。
「いつか、また会えますか?」
「分からない。けど、会えるって信じてれば、会えるんじゃないかな?」
遠くへ行ってしまうの?先生。
大好き、大好きだよ、先生。
「先生、さようなら」
後ろは振り向かない。
またいつか会えることを信じて。
私は、涙を隠しながら、
家までの道を走り続けた。
初投稿なので、かなりの駄文に…。
一応実話です。
最後が凄い微妙になってしまいました。
もし良ければ、感想・意見など宜しくお願いします。