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いつか夢見た泡沫世界  作者: ユウキ
学園生活編
9/11

新しい始まり

ごめんなさい、今回長いうえに展開早いです。

「おはようございま、す・・・?」


 さぁ今日も頑張ろう! と元気な挨拶と共に食堂へ入ると・・・・・そこにはなぜかお通夜のような空気が漂っていた。お兄様は泣いてるし、お母様とお父様も寂しそう。周りの従者たちも一見平然としているようだがこっそり泣いてるのが見て取れた。

えぇー? なんなのこの空気、誰か死んだの? ウチはペットなんて飼ってないから、誰か親戚か有名な人でもお亡くなりになったのだろうか?

 首を傾げながら席に着くと、お兄様が寂しそうに私の名を呼んだ。


「うぅ・・・アイリス」

「はい兄さま。どうしたんですか、そんなに泣いて」

「だって、だって・・・・・!」


 それっきり兄さまはひっくひっくと泣くばかりだ。

駄目だ話にならん。困惑しているとお母様がゆっくりと教えてくれた。


「アイリス、実は明日からベリスとはしばらく会えなくなってしまうのよ」

「えっ?」


 しばらく会えなくなる? なにそれどういうこと!?

まさかどこかの家の養子になってしまわれるのか!?


「そ、そんな急に・・・・・どうしてですか!?」

「学校が始まるのよ」









 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。




えっ? はっ、学校?


「学校って・・・え? まさか学校が全寮制で会えなくなるとかそういう話ですか?」

「あら、よく分かったわね。その通りよ」


 まだ教えてなかったのに、よくわかったわねぇとお母様は驚いた様子。

くっ・・・・・くっそくっっっっっっっっだらねぇぇぇぇぇ!!!

それでこの空気かよ!! そんな程度の話で葬式ムード出してるんじゃねーですよビビったわ!!

 はぁぁぁぁぁ、と大きくため息を吐いてから、呆れた顔をみんなに向けた。


「なんだそんなことですか・・・はー、心配して損した」

「そんなこと!? そんな、アイリスは僕と離れて寂しくないの!?」

「寂しくないと言えば噓になりますが、別に何年も会えなくなるわけでもないでしょう?

手紙だって出せるでしょうし、別にそんな「いや、それが会えなくなるんだ」・・・・・・へ?」


 お父様がいつもより何倍も暗い声で呟いた。

顔を向けてみれば、お父様はいわゆるゲンドウポーズのまま固まっている。


「会えなくなるって、そんな。流石にある程度の長期休暇くらいあるでしょう?」

「ウチの国の学校にはそんなのないんだ・・・」

「無いぃぃッ!? そ、そんな馬鹿なことがあるんですか!?」

「まったくだよな・・・なんで他の国には普通にあるのに、ウチにはないんだろうな・・・・・」

「ついでに言ってしまえば、手紙もそう簡単に出せないのよ。親に甘えてしまうからって」

「さらに教育期間は11年間だ。11年間帰ってこれず、勉強漬け」

「鬼ですか!?」


 なんだそれ!? もはやただの地獄でしかなくない!?

そりゃ葬式ムードにもなるわ!! 前の世界だったらクーデターとか起こってるぞこんなの!!

というか、学校通うにしてもなんでそんなとこ選んだんだ!?


「な、なんでそんなところにお兄さまが行かなきゃならないんですか!?」

「法律で決まってる、貴族の義務だからしょうがないんだよ・・・・・」


 この世界に義務教育なんてあったんだ!?

説明してもらうと、どうやらこの国の貴族の『男性』は7歳になったら教育を受ける義務が発生するそうだ。生徒たちはそこで最初だけ前の世界と同じように様々な教科の勉強をし、後半は好きな専門分野を鍛えるとかなんとか。国語算数理科社会なんて前から知ってる基礎的なやつの他には剣術、魔法学、魔法製薬にかんする技術科目なんかが色々あるそうだぞ!

 ちなみに義務なのはあくまで『貴族』だけであり、平民は受けるかどうかは好きに選べるそうだ。

まぁ結構お金がかかるのでみんながホイホイ行ったりはしないんだろうな。


 なお、貴族の『女性』も義務教育があるのだが、それはなんと15歳からだという。

貴族令嬢は家でゆっくりしてるのが常識だから、みんなが必死に勉強しているのを尻目に一応最後の3年間だけちょろっとやればそれでいいんだと。その間に自分磨きなり他の令嬢と交流したりしろとのことで。

・・・・・やっぱりこの世界、貴族令嬢に対する差別がちょっと酷すぎやしないか? 反発団体とかいないんだろうか。勉強したくない子たちはそれでいいんだろうけどさぁ・・・。

 呆れとか驚きとかが混ざり合って呆然としていると、控えていた老執事が悲しそうに進言する。


「皆様、お気持ちは痛いほど分かりますが、そろそろ朝食を召し上がられませんと。間に合いませんよ」

「分かってる! 分かってるけど・・・!」

「ひっく、うぅっ・・・・・・!」

「べ、ベリス兄様・・・」


 ご愁傷様です。

その後も葬式ムードは終わることなく、重苦しい空気のまま泥のように感じる料理をなんとか流し込み、旅立つお兄様を見送ることになった。

 外に出ても泣き続けているお兄様に対して、お父様たちや従者たちが「元気でやるのですよ」とか「絶対に手紙送るからな」とか「ベリス様なら大丈夫でございます」とか言い続けていると、遠くからなぜかロータス様がやってきた。隣には見慣れない人がいるけど・・・?


「よぉ、サーシサス! 突然悪いな・・・・・って、え? 何だこの空気・・・」

「ロータス? お前何でここに?」

「あ、あぁ実はお前んとこの領地でちょっと問題が起こってな・・・・・」


 うわぁぁぁぁぁ、お父様すっごい嫌そうだぁぁぁぁぁぁ!!

でも話を聞かないわけにもいかず、渋々ロータス様と一緒に離れていった。

 その後も残された私とお母様たちでベリス兄様を激励し、兄様が乗った馬車が見えなくなるまで手を振り続けて見送った。頑張れお兄様! 心から無事をお祈りしています!




 ・・・・・さて、それじゃそろそろ屋敷に戻りますか。

寂しさを隠すようにそう思ったとき、ロータス様と一緒に来たお方が私を見ていることに気が付いた。

あら、この人は二人と一緒に話してるわけじゃなかったのか。というか私に用があるのか?

私は彼に近づいて尋ねることにした。


「あの、私に何か御用でしょうか?」

「っ! い、いえ何も。失礼いたしました」

「??? そうですか?」


 よく分からないが、そう言うと彼は慌ててお辞儀をして離れていった。なんだったんだろう?

首を傾げていると丁度話が終わったらしい二人が戻ってきた。たった今兄様が行ってしまわれたというと、お父様はショックで膝から崩れ落ちた。

 事情を聞いて察したロータス様は本当に申し訳なさそうに謝っていたが、お父様はずっと沈んだままだった。あー、これ完全にこの前の私と同じような状態じゃないか、どうしましょ。

その後いくら私や従者の人たちで話しても響かず、結局お母様が「仕方ないので少し放っておきましょう」と放置をきめてしまった。いいのかなぁと思っていると、突然ロータス様に肩を叩かれる。


「おぅ、この前はアイリスちゃんありがとな」

「え? 一体なんのことですか?」

「ハイドランジアのことだ。アイツ、アイリスちゃんと話してから妙に素直になったんだよ」

「あら・・・・・それはよかった」


 ロータス様はスッキリしたように笑っている。

どうやらお父様とはちゃんと仲直り出来たようだ。お兄さんとも良くなっていればいいんだけど・・・。

 とはいえ、そんな報告に少し嬉しくなって微笑んでいるさっきの付き人(?)さんがロータス様にこっそりと何事かを耳打ちをする。それを聞いたロータス様は一瞬驚いたように目を見開くと、すぐに厳しい顔つきになった。・・・・・どうやら、ちょっとヤバい話のようだ。


「サーシサス、凹んでるとこ悪いがもう一つ話が出来た。どこか話せる場所はあるか?」

「・・・・・・・・ん、分かった。俺の書斎でいいか?」

「あぁ。そうだ、今回はポロニアさんも一緒に頼む」

「あら? 私も入ってよろしいのですか?」

「マジか。そんなヤバい案件なのかよ・・・・・」


 項垂れていたお父様も、事のやばさを察したのか真面目な顔になって起き上がった。

っておいおい、お母様も話に入るのか。これ相当マズいんじゃ・・・。

 流石に子供の私が介入してよさそうな空気じゃないな。とっとと撤退しよう。


「なにやら大変なことが起きたようで? それなら私はお先に失礼させていただきますね」

「あぁ。アイリスちゃん悪いな」

「いえ、どうぞお気になさらず。何事かは分かりませんが、どうか無理はなさらないでくださいね」


 そう言ってペコリと一礼して部屋に戻る。

・・・・・うーん、どうしたんだろう? すごく気になるけど推察することはできないし、していいような話でもない気がする。というか、あまりにも事が酷そうなら従者たちも駆り出されるなり手伝わされるなりして屋敷中がバタバタするかもしれないよね。それに私も何か呼ばれるかもしれないし、ここは少し部屋で大人しくしておこうかな。














 2時間くらい経っただろうか。話が終わったと報告に来た二人から・・・・・

お父様とロータス『騎士団長様』から、私に対して外出禁止令が下されることになった。








 いくら理由を訊ねてもはぐらかされ、理由を一切説明されないまま騎士の人たちに定期的に検査される毎日がやってきた。家から一歩も出られなくなったので誰かにパーティに招待されることもなく、また友人がいないのにわざわざ開くこともなかった。


 ただただ部屋に籠って本を読み続ける日々が続く。幸いだったのは、別に寝たきりにされたわけではなかったので屋敷の中だけは制限なく自由に動き回れることだったが、この日を境に周囲の人たちは私を完全に『可哀想な子』として扱うようになった。驚くことに、あのハイドすら心配そうにお見舞いに来たんだぞ!? そんなに私やばいの!?




 いつの間にかハイドもお兄様と同じ学校へ行く時期になり、私に会いに来る人はいよいよ誰もいなくなった。もちろん両親や従者はいつも傍にいてくれたし、騎士さんたちは検診のために来てくれたけど。そういうのなしに会いに来てくれる人は、そもそもハイド以外には誰もいなかったんだよ・・・。

 訳が分からない病気のせいで世界について尋ねても、一日中本を読み続けても誰にも疑われなくなった。

おかげで情報や知識はこれでもかというほど集まったけど・・・・・そんな日々はひどく退屈で、悲しくて寂しくて、辛かった。もはや時々届くお兄様とハイドからの手紙だけが私の楽しみになっていたんだよ。



 それから更に時間が流れ・・・・・気が付けばあれから10年が経とうとしていた。

そう、私にも義務教育を受ける時が来たのである。皆はなんとかして私を学校へ送るまいと画策していたようだけど、私自身が行きたいと強く主張しまくった結果、とりあえず入学試験を受けさせてみるかという話になった。

 そもそも貴族身分の人間は”義務”教育なので入ること自体は確定している。

じゃあなんで入学試験なんかやるのかと言われれば、学力チェックのためだ。いくら腐っていようと貴族なので、家庭教師を雇って勉強することはあたりまえなんだそうだ。もっとも私にはそんなのなかったけどな!


 ただ私は色々と特殊なので、貴族でありながら普通に入学試験を受けることになった。つまり成績が悪ければ落とされるというわけだ。みんなは私が落ちるだろうと信じて疑わなかったが、結果はなんと学年主席という称号だった。つまり学年トップの成績というわけである!

 さらに言うと私は今年入学する令嬢どころか、何年も勉強してきた在校生まで軽く超えていたそうだ。

そんなわけで『彼女は学園創立以来の天才だ!』と学園側が大々的に発表し、それに感心した国の偉い人たちが、両親やロータス様に一切相談することなく私の入学を強引に決定してくれたのだ。

 これには当然みんな激おこだったが、私としては有難い限りである。

いい加減外に出れない生活にはうんざりだったからな! ここから離れられるなら、地獄のような学園はむしろこれ以上ないくらいの楽園だった。


 最終的に、ゴネまくる両親たちに対して「お兄様やハイドたちがいるから大丈夫だろう?」と私自身が説き伏せ、渋々ながら私の入学を許可してもらった。

・・・ちなみに、私を学校に送り出すときのムードはお兄様やハイドの比ではなく、もはや戦争の激戦区に大事な一人娘を送るようなものだったとだけ書いておこう。



 ・・・・・・私の”病気”ってそんなに酷いの?

よくわからない病気への不安に駆られつつも私は学園へと向かって旅立った。

とにかく、今から3年間は自由の身だ! 今のうちに楽しむぞ!!

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