転生少女は諦めない
遅くなって申し訳ない
貴族の女の子は魔法使わないものなんだよ???
貴族の女の子は魔法使わないものなんだよ?????
貴族の女の子は魔法使わないものなんだよ???????
んん?????? えっ、ちょっと待って待って待って・・・な、何を言ってるんだお父様????
魔法が使える世界なのに??? 魔法使わない??? え?? 何言ってるの馬鹿なの死ぬの!?!??
「へ? 貴族の子、魔法、使わない???」
あまりのショックでカタコト気味になりながら訊ねる。
そんな私を宥めるように、お父様はそれはそれは丁寧に教えてくれた。順を追って説明するとですね?
1.この世界において、魔法は生活に必要不可欠のものでありながら同時に”野蛮”と見做されている。
なぜならそれは”他者を傷つけるもの”であり”自然の摂理を曲げるもの”だったから。
2.魔法を使用するには魔力が必要である。
しかし魔力は同時に生命力でもあったから、魔法を使用するのは”生命の価値が低い者”・・・
・・・・・”奴隷”の役目だった。
故に、人の上に立つ貴族は魔法なんて使わないというのが古くからの習わしだったらしい。
3.時が流れ、魔力は睡眠と休養さえとれば別に命を削らずとも使えることが判明する。
すると平民身分の者たちも生活の為に魔法を活用し始めた。
さらに、国を守るために平民出身の者たちが中心になって魔法騎士団を結成した。
4.さらに時が流れ、大きな戦争が始まった。
そうなっては貴族たちとて魔法が野蛮だなんてことを言っていられなかった。
貴族はみんな自分を守るために必死になって魔術を勉強し始めた。
5.戦争が終わった後、魔法騎士団は宮廷騎士団に取り込まれ、本格的に戦力の一つになっていた。
その後も男性は家族たちを守るため、騎士になる過程などで魔法が必要になっていた。
もはや生活に魔法は欠かせなくなっていたのである。
6.しかし女性は屋敷で裁縫とか茶会とかして過ごすものだから、そもそも魔法は必要なかった。
故に戦争が終わると同時に『令嬢が魔法が使えない=家が魔法が必要ないほど強い』という流れなり、
いつからか『淑女たるもの野蛮な魔法は使うべからず』というのが禁忌になったのだった。
・・・・・ということらしい。
いやちょっと待ってほしい。なんだこのクソみたいな話は。
そんな理由で私、魔法が存在する世界に居ながら魔法を使うことが出来ないの!? そりゃないぜ!?
要するに『家を強く見せる為に魔法使うな』ってことじゃないか! ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!
かつてないほど世界に絶望し、私は膝から崩れ落ちてしまう。
そんな私を可哀想だと思ったのか、お父様は必死に私を励ましてくれた。しかしそんな言葉は今の私には何一つ届かないし響かない。もう完全に呆然自失状態である。燃え尽きちまったわけである。
やがて私は項垂れたまま弱々しく「今日は色々あって疲れたからもう休みますね・・・」と言い残し自室にフラフラと戻っていった。お父様は特に咎めたりはしなかった。
『魔法がつかえたらいいのに』なんて、誰もが一度は思うことだろう。
私だって空を飛んでみたい、すっごいご馳走を出してみたい・・・そんなことを思ったりもした。
・・・だが現実はそんなに甘くない。そんな妄想は子供時代のうちに強制終了させられてしまう。
そして突き付けられてしまった。現実は魔法なんて存在しない。そして酷く理不尽で厳しいものだ、と。
「結局前と何も変わんないじゃんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
部屋に戻るなり流れるようにベットダイブをキめ、なるべく声を漏らさぬように枕に顔をうずめて全力でシャウトした。いやだって叫びたくもなるでしょこんな話!!?
せっかく魔法が使える世界になったのに使えないんじゃ科学の世界と何も変わらない。
こんなんじゃ何のために生まれ直したんだか分からないよ!? なんで現実ってこんなに非情なんだ!?
「もっと頑張れよファンタジー! どうしてそこで諦めるんだそこで!!
全然駄目だよこんなんじゃ! もっと本気にならなきゃ! もっとやる気だせよ!! 熱くなれよ!!!」
顔をうずめたままボッスボッスとベッドを殴りつけながら喚いても何も変わらない。
それどころか、逆に虚しさだけが際立つように感じられた。
あぁ・・・どうしてこうなってしまったのか。せめて貴族なんかじゃなく、平民だったなら・・・。
というか、貴族令嬢なんて高度すぎるコミュ力が求められる上に礼儀作法とかも厳しいよな? あれ? 豪華な生活が出来そうって以外に何一つメリットがなくない?? 豪華な生活だって、私からすればそんなのむしろ尽くされ過ぎて申し訳なくなってくるようなものだぞ??? あれ?? あれれ?????
「そうだ、平民になろう」
私は死んだ目になった。
いやちょっと私天才すぎないか? 平民になれば全てにおいて面倒な生活から解放される。完璧じゃない?
うへへ、身分捨てるにはどうすればいいかな? 家と縁切るだけでいいのかな?
それとも何かやらかして追い出される体の方が良い? 家出ってのも冒険じみてて面白そう・・・・・
「・・・・いや、まだ駄目だ。私はこの世界について知らなすぎるし、体が幼すぎる」
そこまで考えて一気に冷静に戻る。
お忘れかもしれませんが、私は5歳。体がまだ全然出来ていないのです。
そんなときに地理や法律などについて何の情報を持たず、金や道具なんかの準備もせずに飛び出すなんて愚の骨頂。恐らく三日と経たずに野垂れ死んでしまうだろう。
ならばどうするか? そんなの決まってる、情報収集だ。
つまり昨日決めた今後の行動方針と何ら変わらないということだ。あぁ、それと資金調達が追加されたね。
目標は10歳・・・はちょっときついな、15歳だ。15になるまでに準備を完了させよう!
集める情報は生活に必須になるものが最優先だけど、たとえ使えなくとも魔法について少し勉強を-----
「・・・・・ん、あれ? お父様、さっき魔法は”使わないものなんだよ”って言ってた?」
そう、ここで私は気づいた。気付いてしまった。
お父様は”魔術を使うことは禁忌”と言っていたが、別に”使えない”と言ったわけではないということを。
ということは多分、私は魔術を使うこと自体は出来るんじゃないか?
ただ今の世間の風潮的に”お前が魔法を使うなんてありえない”って思われているだけで。
なるほどなるほどなるほど。
そうか、私は魔法を使えるのか。
・・・・・・・・ならばやることは一つ。躊躇う理由なんてありはしない!
「いやぁ、面白くなってきましたね!」
この日。
広い世界の片隅で、人知れず小さな少女が大きな野望に目覚めたのだった。
これでプロローグはお終いです。
幼女時代もこれでお終いです